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3章 歪みゆくリオン

76話 かつての友達

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 フェミルの手によって、俺はマリオがいる玉座の間の手前まで来た。
 後は、直接マリオと戦うだけだ。ここまで楽に連れてきてくれたフェミルには、とても感謝している。
 ミナとルミリエの協力あってのものではあるが、すごく役に立ってくれた。

「じゃあ、私はここで帰るわね。また迎えに来られる準備はしておくわ。女神アルフィラよ、リオンに加護を……!」

「ああ、今までありがとう。お前も見つからないように気をつけろよ。ここは敵地なんだからな」

「ええ。分かっているわ。でも、あなたのほうが危険なんだからね。必ず、無事に帰ってきて……!」

「もちろんだ。またお前達と一緒に過ごす時間のために、必ず勝つ」

 マリオを断頭台に送ってでも、みんなとの平和を手に入れてみせる。俺はそう決めた。
 ハッキリ言って、俺はろくでもない人間なのだろうな。だが、それでいい。みんなが求めてくれる限りは。
 マリオはエゴを貫き通そうとした。だから、俺のエゴをぶつける。そういうものだろう、マリオ?

 フェミルが去ったのを確認し、俺は玉座の間へと向かう。
 さあ、いよいよマリオとの戦いだ。悲しくなるな。これが最後の対面だと思うと。

「リオンちゃん、私も手伝うよ。一緒に勝とうね」

「ああ。またみんなで遊ぶために、しっかりと勝つよ」

「じゃあ、準備はいい? 全力でサポートするからね」

 ルミリエはここにいない。ミナと共に、安全な場所で待ってくれている。
 ミナがサッドネスオブロンリネスでこちらを確認して、それに合わせてルミリエはハピネスオブフレンドシップの力で声を送ってくれているだけ。
 だから、安心して力を借りられるんだ。ミナもルミリエも傷つくことはないから。

 さて、行くぞ。ここでマリオを倒して、後は帰るだけだ。油断はできないが、楽しいことを考えていよう。
 もうマリオとは会えないのだから、会話でもしておくか? いや、しっかり戦おう。みんなのためだ。

 そして俺は玉座の間へと侵入した。マリオは玉座に座っており、こちらを見る。ため息をついた後、ゆっくりと話し始めた。

「リオン、お前はミナの側についたんだな。俺を友達だと言ってくれていたのは嘘だったのか?」

「そんなことはない。お前は本当に友達だと思っていたよ、マリオ」

「なら、どうして俺の敵になった! 俺を手伝ってくれなかった!」

 答えなど決まっている。マリオが間違った手段を取ったからだ。俺だって、本音ではマリオと戦いたくはない。それでも、今ここでマリオを止めなければ、良くない未来が待っているから。それだけだ。

「なぜって、お前が民衆を苦しめているからだよ。暴力に頼って、人々を犠牲にして。そんな王を、認められるわけがないだろう?」

「だったら、俺はどうすれば良かったんだ! 王になれたんだ! 綺麗事ばかり言うな!」

「今の言葉を綺麗事という時点で、お前に王の資格はないよ。よく分かった。お前はここで倒れるべきだとな」

 俺はマリオならばもっといい道を進めると思えたのだが。勘違いだったのだろうか。
 いや、原作ではいい王になっていたはず。細かいことは覚えていないが、ハッピーエンドなのは間違いなかった。
 つまり、俺がなにか失敗したのだろうな。やはり、サクラの存在か。

 俺が行動しなければ、もっといい未来もあったんじゃないか? 俺がいないほうが良かったのか?
 そんな思いが浮かびそうになるが、必死に否定する。俺がいたから、ミナもシルクもルミリエも、ノエルだって救えたんだ。
 だから、それでいいはず。みんなが不幸になる未来を許容するくらいなら、マリオを捨てる!

「リオン、お前には死んでもらう! 俺は必ず王になるんだ!」

 俺を殺せたところで、マリオには未来などない。ミナとディヴァリアを敵にして、生き残れるはずがないのだから。
 分かっているから、俺は気楽なものだ。何があったとしても、平和は守られるのだから。

「さあ、最後の遊びだ。かかってこい、マリオ」

「遊びだなどと、舐めるな! 恐怖おそれろ――スクリームオブロンリネス!」

「ルミリエ!」

 マリオが動くより先に、ルミリエが先制攻撃を仕掛ける。だが、マリオは避けた。
 なぜかは知らないが、危険を察することができたみたいだ。それでも、始まったばかり。やってやる!

 マリオは槍を出現させて、こちらに向ける。同時に、俺の体が重くなる。
 これで、人を潰せる技なら俺はもう終わっていた。だが、そうではない。
 なら、ここからでも十分に戦える! 絶対に勝つんだ!

 まずはエンドオブティアーズの剣を伸ばして突く。かわされる。もう一度突く。またかわされる。
 剣を伸ばす速度は普段と変わらないのに、マリオは余裕をもって避けている。つまり、重力で自分を軽くしているのだろう。
 なら、俺1人では難しいかもな。ルミリエと協力していくか。

「もう一回頼む、ルミリエ!」

「それは見えているぞ! 重力を検知できる俺が気づかないとでも思ったか!」

 今度もルミリエの音波攻撃は避けられる。だが、当たれば死ぬ攻撃と分かっているのか、大げさに避けている。
 なら、打てる手はあるよな。俺とルミリエの共同作業だ。ルミリエが生み出したスキを、俺が突く。

 ただ、マリオは俺に攻撃させたくないようで、全力で攻撃を仕掛けてくる。
 重力を活かして速度差を生み出し、俺に連撃を叩きつける。それでも、俺はエンドオブティアーズの拡大縮小を使って攻撃をしのいでいた。

「簡単には倒されやしない! 俺はこの先の未来を見たいんだからな!」

「なぜお前の未来に俺はいない! 俺は王となる人間だぞ!」

「王という立場ばかりを見ているからだ! お前が王になっても、誰も幸せになれないからだ!」

「ふざけるな! リオン、俺を友達だと言いながら、俺の治世では幸せになれないというのか!?」

 マリオはさらに攻撃を激しくしてくる。狙ってはいなかったが、挑発の効果があったようだ。
 なら、全力で利用するだけだ。俺がマリオの気を引いて、ルミリエに決めてもらう。
 ミナとルミリエなら、俺が何も言わなくても最高のタイミングを理解してくれる。後は任せるだけだ。

「当たり前だ! 自分の欲望を優先して、他者をかえりみない人間が王になるなど、結果は見えている!」

「バカにするな! 俺が王に向いていないわけがない! 今こうして玉座に立っているのだから!」

「お前の独りよがりに、どれだけの人間が反対したか教えてやろうか!? ディヴァリアも、ミナも、ルミリエも、そいつらを支持する奴らも、みんなだ!」

「おのれ、リオン! もはやお前とは友達でも何でもない! ミナについたこと、後悔しながら死ね!」

 そしてマリオは俺に全力の重力をかけ、槍で突き続けてくる。
 俺は本音混じりの必死な顔で対処を続ける。ルミリエにチャンスを与えるために。
 しばらく防ぎ続けて、盾がマリオに弾かれ、破れかぶれのふりをして剣で攻撃する。

「これでどうだ!」

「愚かな! 死んで詫びろ! リオン!」

 そのままマリオは俺に槍を突き刺そうとして、急に動かなくなって、倒れた。
 マリオは意識を失っている様子で、だが息はある。ルミリエがうまくやってくれたみたいだ。

 俺はマリオの手足を折り、拘束していく。
 後は、マリオをフェミルに引き渡すだけ。マリオは転移で運ばれて、処刑されるだけだ。

「やったな、ルミリエ。よく合わせてくれた」

「当たり前だよ。リオンちゃんのことなら、ちゃんと分かるから。これで、クーデターはおしまい。後はこっちで対処するよ」

「分かった。頼む」

 これでひとまず一段落だ。結局、マリオとは決別してしまったな。もっと早く、俺に相談してくれていれば。今でもそう考えてしまう。
 他の道はなかったのだろうか。戦いに勝った今残るのは、むなしさだけだった。
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