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2章 希望を目指して

47話 リオンの望み

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 さて、領主モナークとやらに捕らえられているらしい人質の救出を目指すわけだ。
 まずはミナが調べてくれている情報を待っている。俺1人で侵入しても、厳しいだろうしな。
 サクラ達と協力して突っ込むという手段も考えたが、発見されたら人質が危険だ。少人数が無難だろうな。

 だが、そもそも敵の戦力を上回るだけの戦力は必要だ。悩ましいところだな。
 ミナの調査結果次第では、諦める必要すらあるかもしれない。

「リオンちゃん、ミナちゃんが作戦も考えてくれたよ」

 ミナの作戦なら、きっとうまくいくのだろうな。彼女の知性は俺より上であることを強く感じるからな。
 とはいえ、しっかり確認しておかないと。俺が失敗して作戦を台無しにする可能性だってある。

 他にも、もっといい作戦がないかしっかり考えることだって大事だ。いつでもミナのサポートを得られるわけではない。俺1人でも使える、ある程度の技能は持っておいて損はない。

「どんなものか聞かせてくれ。何人で潜入するんだ? メンバーは誰だ?」

「なんとー! リオンちゃん1人ですっ! ミナちゃんの考えだと、一番効率がいいらしいよ」

 どういうことだ? 領主の館というのに、警備が少ないとでもいうのだろうか。
 あるいは、ワイロでも使えばいいのだろうか。いや、ワイロならばもっと大勢でも良いか。
 他に考えられる可能性か。すでに人質は死んでいる。なら全力で攻めた方が良い。違うな。

 逆に考えよう。大勢になるとダメな理由は何だ? 侵入しにくい理由があるはず。
 道が狭いとか、屋敷が小さいとかか? なら、意図としては十分わかる。

「理由は何だ? 侵入経路が狭いのか?」

「だいせいかーい! なんとリオンちゃんには、屋根裏から侵入してもらいまーす!」

 なるほどな。そうなると、大勢だと足音の問題があるか。理由としては分かりやすい。
 だとすると、人質は生きている可能性のほうが高そうだな。聞いてみないことには分からないが。

「分かった。足音を殺して、コッソリと暗殺していくのか?」

「そうだね。私が案内するから、ヒソヒソと進んでいってね」

 ふむ。ルミリエの声は届けたい相手にだけ届けられる。つまり、俺だけが声を出さないだけで、誰も声を出していないのと同じになるんだ。
 まさに暗殺任務にはうってつけの能力だ。ルミリエに直接伝えるのは問題だろうが。

「ありがとう、助かるよ。ルミリエとミナがサポートしてくれるなら、百人力だ」

「もし怪我をしても、シルクちゃんがいるから安心だね」

 ミナにシルク、ルミリエ。長い付き合いだが、本当に頼りになる友達だ。俺は助けられてばかりのように思える。
 だが、みんな俺に世話になったと言うんだよな。そこまでのことをした記憶はないのだが。

「本当にな。シルクがいれば、死んでさえいなければ大丈夫だろう」

「うんうん。シルクちゃんの回復魔法、ホントにすごいよね」

「ああ。あいつと友達になれたこと、ミナやルミリエと友達になれたこと、得難い財産だ」

「ありがとう。私達のことを大切に思ってくれて。だから、リオンちゃんのことを支えたいんだ」

 それはお互い様だと思う。俺だって、大切にしてくれるルミリエ達を支えたいんだからな。
 というか、話が少し横道にそれてしまった。もっと続けていたいのが本音だが、状況が許してくれない。

「それで、どういう経路で侵入するんだ?」

「うん、そこは私がリオンちゃんにその場で説明しようと思う。ただ、人が少ない道を選ぶつもりだよ」

 当たり前といえば当たり前だ。俺はたった1人なのだから、囲まれたら正直厳しいだろう。
 できるだけ見つからないように、ひそかに殺していく。そうするべきだ。俺は弱いということをしっかり考えなくてはな。

「そうなるよな。裏口のようなところはあるのか?」

「うん。じゃなかったら、リオンちゃんには諦めてもらってたかも」

 理解はできる。人質を助けることは本来とても難しいはず。とはいえ、無理だと言われて納得できたかどうか。
 今は成功できる計画があるのだから、もしもなど考える必要はないな。目の前だけ見ていればいい。

「なら、十分な勝算があるわけだ。ありがたいな」

「そうだね。ミナちゃんの計画なら、私も大丈夫だと思うよ」

「だったら安心だな。とは言っても、油断はできないが」

「うんうん。リオンちゃんには無事で帰ってきてもらいたいからね。しっかりお願い」

 俺には無事を案じてくれる友達がいる。幸せなことだ。
 きっとフェミルにとってのエリスも似たような幸せの象徴なのだろう。関係は聞いていないが、おそらく妹か何か。
 しっかりと助けてやらないとな。俺にはフェミルの気持ちがよく分かるつもりだから。

「ああ、任せておけ。かならず無事に帰ってきてみせるさ。またお前達と会いたいからな」

「うん。心がウズウズしちゃうね。また話をするの、私も楽しみだよ。きっとみんなもね」

 ああ。俺と同じ気持ちを共有してくれる相手がいるのは嬉しい限りだ。
 フェミルもきっと同じ喜びを知っていた時期がある。だから、エリスが大切なのだろう。
 しっかりと再会の喜びを味わってもらうために、気張っていこう。
 それにしても、よく話がズレてしまう。俺の気を落ち着かせてくれているのだろうか。

「ありがたい限りだ。それで、人質は無事なのか?」

「少なくともエリスちゃんはね。だから、安心していていいよ」

 助かるな。フェミルが喜んでくれる顔を想像することが、力になってくれる。
 かならずエリスを助けたいところだ。俺を希望と言ってくれた人に報いるためにも。
 よく分かる。誰かの笑顔を増やすことが、俺の目指す希望なんだということが。

「なら、頑張って助けないとな。フェミルの頼みを果たすためにも」

「頑張ってね。でも、無理はしないでね。リオンちゃんのほうが、フェミルちゃんよりも大事だから」

 分かっている。俺だってルミリエ達を悲しませたくない。だから、命を捨ててまで戦うつもりはない。
 それでも、フェミルの笑顔を見るためにも、できる限りのことをするつもりだ。
 俺はあんな悲しそうな顔を何度も見たいとは思わない。せっかく希望が残っているのだから、全力を尽くす。

「ああ。俺だってお前達が大事だから。泣かせないためにも、かならず生きて帰ってくるよ」

「うん、お願いね。リオンちゃんが苦しんでいる姿は、見たくない。死ぬのは嫌なんてものじゃない。だから、ね?」

 ルミリエの言葉には強い魅力がある。あるいはこの作戦を諦めても良いのではないかと思えるような。
 それでも、俺はフェミルのためにエリスを助けたい。できれば他の人たちも。
 ようやく分かったんだ。俺の目指すべき道が。目の前の誰かが悲しんでいるのならば、笑顔に変えてやること。流れる涙を止めること。それが俺のやりたいことだ。

「ああ。俺は誰かを泣かせたくなんてない。たとえ死んだ後だとしてもな。だから、大丈夫だ」

「信じてるよ、リオンちゃん。私達を笑顔にしてくれるって」

「任せておけ。お前達の笑顔が見られるのなら、どんな苦難だって乗り越えてみせる」

「なら、安心だね。じゃあ、作戦を始めようか。まずは、領主モナークの屋敷に移動するところからだね」

 さあ、いよいよ始まりだ。俺の望みがハッキリと分かった以上、ここで立ち止まるつもりはない。
 何が何でもエリス達を助け出して、みんなの笑顔をみせてもらうんだ。
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