上 下
43 / 182
2章 希望を目指して

43話 望まれる生

しおりを挟む
 さて、まだ移動に時間がかかるみたいだ。戦争というのは、案外暇な時間が多い。
 それとも、ミナのおかげなのだろうか。サッドオブロンリネスで効率のいい道を探ってくれているはずだ。
 どちらにせよ、ありがたいことだ。ずっと戦っていたら疲れてしまう。色々な意味で。

「リオンちゃん、今のうちに気力を復活させるといいよ。またバリバリ活躍するためにもね」

 ルミリエの言葉は大切なことだろう。しっかりと戦える調子になっておかないと、俺以外の人まで危なくなってしまう。
 当然、サクラやユリア、シルクもだ。マリオ達もな。だから、休むことは大切なはず。
 とはいえ、どうやって休めば良いものか。移動もあるし、敵から襲われることへの警戒もいる。なかなか難しいな。

「どうやって気力を復活させると良いものだろうな。完全に気を休めるのも難しいぞ」

「なら、ユリアちゃんとシルクちゃんと話しておいたらどうかな? 特にユリアちゃんは初陣なんでしょ? ドキドキしてるはずだよ」

 俺というよりユリアの気力を回復させる動きのような気がするが、まあいいか。
 ユリアとシルクと話していれば、きっと楽しいだろうからな。それで十分なはずだ。

「いまユリアちゃんとシルクちゃんを呼んだから、しっかり楽しんでいってね」

 相変わらずミナとルミリエの心奏具を組み合わせるととんでもないな。
 俺が全く気づかないうちに呼び出していたとは。他にも、先ほどサクラと話していたことは知られているようだな。
 まあ、この2人を敵に回したら大人数であればあるほど手のひらの上になる。味方でいて頼もしい限りだ。

 しばらく待っていると、ユリアとシルクがこちらへやってきた。

「リオンさんっ、お暇でしたら付き合ってくださいっ」

「同意します。それに、リオン君には休みが必要ですよ」

 シルクの言葉は、自分との会話が休みになると確信しているセリフに聞こえるな。間違ってはいないが。
 実際、俺は親しい人との会話が一番好きだ。落ち着くし、楽しいし。

「ああ、もちろんだ。ミナ達に警戒させておいて、休むのも少し悪い気がするが」

「気にしなくていいよ~。リオンちゃんは少し無理しすぎ。ユルユルしていてもいいんだよ」

 そんな風に言われるほど無理をした記憶はないが。せいぜい学園が襲われた時に危なかったくらいじゃないか?
 まあ、ルミリエがわざわざ口にしたのだから、気にかけておくか。

「同感ですね。簡単に命を懸ける人ですから。だからこそ救われた身としては、安易に否定もできないのですが」

 シルクのために命を懸けた事なんてあったっけか。まあ、感謝に水をさすこともないか。
 それよりも、2人が同じ意見だとなると、気をつけたほうが良いことなのだろうな。俺以外にとっては危なっかしく見えるのだろう。
 まあ、いまだに自覚はできていないのだが。どの辺なのだろうか。ユリアの時は間違いなく命を懸けていたが。

「リオンさんが命を懸けてくれたおかげで、わたしは今生きていますからっ。でも、リオンさんが無理をすると悲しいですよっ」

 まあ、俺としても大切な人を悲しませたいわけじゃない。だから、無理をする機会は減らす。
 あまり大切な人を増やしすぎても、守れなくなるだけだからな。考えておくべきことだ。

「分かった。できるだけ無理はしない。お前たちを悲しませたいわけじゃないんだから」

「疑問です。リオン君は本当に無理をしないのか。でも、お願いします」

 完全にシルクから信用されていない。少しどころではなく悲しい。とはいえ、俺を心配してくれている証でもある。
 だからこそ、しっかりとシルクやユリア、他の人たちも心配をかけずに済ませたい。
 俺は心からみんなを大切に思っている。それは本当だから。みんなを裏切りたいわけじゃないから。

「ああ。シルクをもう一度泣かせたくはないからな。ちゃんと気をつけるさ」

「わたしだって、リオンさんが傷つけば泣くんですからねっ」

 ありがたいことだ。俺を大切に感じてくれている人が何人もいる。それだけで、ずいぶん幸せだと思えるほどに。
 だからこそ、本当に泣かせなくて済むようにしないとな。

「ありがとう。俺は幸せものだな。生きるための理由があるというのは嬉しいよ」

「共感します。私の生きる理由は、すぐそばにある。それがどれほど幸せなことか」

「わたしの生きる理由はリオンさんなんですよっ。だから、ずっと幸せなんですっ」

 2人とも本当に暖かそうな顔だ。だから、幸せを感じているのは本当のはず。
 今の2人の幸福を守るためにも、俺が犠牲になるわけにはいかない。やはり、大切な誰かのためというのが一番力を発揮できる気がするな。

「俺の生きる理由も、お前たちだよ。だから、何が何でも生き延びてみせる。またお前たちの顔を見るためにな」

「肯定します。あなたが生きていてくれれば、かならず治してみせますから。だから、絶対に生きていてください」

「わたしだって、ずっとリオンさんの顔を見ていたいんですっ。約束ですよっ」

 お互いに大切に思える相手がいる。生きる上でこれ以上無いと思えるほどの喜びだな。
 だから、死にたくないのは本音だ。これからずっと、こいつらと話していたいし、遊んでいたい。
 それでも、こいつらが命の危機におちいるのだとすれば、何を賭けてでも守ってみせる。

「ああ、もちろんだ。俺は生きていたいんだから。いま幸せなんだからな」

「同感ですね。私も今が幸せなんです。リオン君が死ねば、私の幸せは失われる。分かってください」

「わたしだって同じですっ。リオンさんがいてくれるから、わたしは幸せなんですよっ」

 よほど俺のことは危なっかしく見えるらしい。何度も注意されているようなものだからな。
 まあ、ユリアの件を2人とも知っているわけだから、当たり前といえば当たり前か。
 俺はこいつらを悲しませたいわけではない。死んだ後ならどうでもいいと言うつもりもない。
 だから、ちゃんと気をつけるつもりはあるんだがな。伝わっていないのだろうか。

「お前たちの幸せは俺にとっても大切なことだからな。分かっているよ」

「納得します。ですから、私達を悲しませないでくださいね」

「そうですよっ。助けられておいて言うことではないですけど、他人なんて気にしないでくださいっ」

 もちろん努力はする。でも、どうしても目の前で傷ついている人を無視できない。
 本音のところでは、敵兵だって殺したくなかったのが俺だから。だが、変えられるのなら変えたほうが良いのだろうな。
 見知らぬ人を優先して、大切な人を傷つけるなど愚かなことだ。分かっているんだ。

「ああ。気をつけるよ。それにしても、俺はそんなに無茶をするように見えるか?」

「肯定します。あなたが傷ついて帰ってくるたびに、私がどれほど苦しんでいたか」

「そもそも、わたしなんて本来どうでもいい他人のはずですからっ。命がけで助けるなんて、おかしいんですっ。だからこそわたしは救われたとはいえ」

 まるで俺が異常者みたいに言う。まあ、ディヴァリアの悪事を見逃している俺はおかしいか。
 でも、シルクの悲しみを軽減するためにも、本当に気をつけなければいけない。俺は誰かの希望になりたい。
 だから、志半ばで果てる例になるワケにはいかないんだ。

「そうか。なら、仕方ないな。お前たちを悲しませないために、しっかりやるさ」

「賛成します。だから、これからもあなたのそばにいます。私の命を危険にさらさないために、しっかり安全を意識してくださいね」

「いいですねそれっ。私もリオンさんのそばにいますからねっ。だから、ずっと一緒ですよっ」

 ああ、これで本当に無茶はできなくなった。だが、仕方ない。俺のこれまでの行動のせいなのだからな。
 それにしても、ゆっくり休むというより、いさめられる時間になったな。まあいい。これから生き延びるための決意ができた。それで十分だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...