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2章 希望を目指して

31話 増えていく師匠

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 ソニアさんという剣技の師匠ができて、マリオという新しい友達ができて、学園生活を新鮮に楽しめている。
 そんな日々に、また新たな変化が起きるような気がした。なんとなく、シャーナさんに注目されている気がしたからだ。

 ある日の放課後、俺の予感は当たる。シャーナさんから個人的にと呼び出しを受けた。

「リオン、話したいことがあるのじゃ。少し時間を取ってくれぬか?」

 いったいどんな話だろうか。気になるが、すぐに明かされるだろうからな。
 それよりも、シャーナさんはなぜ俺に注目しているのだろう。サクラではなく。
 原作主人公であるサクラに接している様子は見受けられない。原作ではお助けキャラだったはずのシャーナさんが。
 もしかして、俺の記憶が間違っているのか? だとすると、シャーナさんは一体何者だ?

「かまいませんけど。長くなりそうですか?」

「今回は、短い予定じゃ。じゃが、長い付き合いになってもらうぞ」

 なるほど。俺が注目されているという感覚は正しかったわけだ。
 だとすると、今後シャーナさんとどういう関わりになっていくかの説明か?

「分かりました。これからよろしくお願いしますね」

「気が早いのう。まあ、間違ってはいないのじゃが」

 ふむ。長い付き合いになるのだから、間違っていないのは当然だろう。
 それよりも、サクラのことは紹介したほうが良いのだろうか。いや、知っているとは思うのだが。
 シャーナさんのことだから、サクラが重要な人間だとわかっていると思う。
 それでも、わざわざ俺の方を優先する理由があるとなると、いったいなんだ?

「俺もシャーナさんのことは気になっていましたから。気がはやっていたのかもしれません」

「口説いておるのか? いや、違うことは分かっているが。お主は発言に気をつけた方が良い。うちも怖いのじゃ」

 シャーナさんは未来視の魔女だと思っているが、それなら恐れるものなど無さそうな気がするが。
 まあ、単なる似た外見をした人ならば、話はわかる。とはいえ、そんな偶然があるものなのか?

「怖いって、何がですか?」

「とても直接言葉にはできんよ。どこで聞かれているか、知れたものではない。まあ、うちの命にも関わることじゃ」

 シャーナさんを未来視の魔女だと仮定すると、死ぬようなことなど無いと思える。
 まあ、当人が言っているのだから、本当に危ないのだと思っておこう。その辺を雑にして死なれたら、大変な事態だ。寝覚めも悪い。

「なら、何に気をつけたらいいのか教えてくれませんか?」

「それくらいなら、いいかの。とにかく、軽率にうちに対する好意を口にしないでくれ。お主は簡単に人を好きになるが、それでも」

 人を簡単に好きになるって、外道であるディヴァリアを大切にしているから、あまり否定はできない。本性を知っていたら、嫌いになるのが普通だろうから。
 まあ、それはいい。なぜかは分からないが、俺がシャーナさんに好意的な態度を見せるとまずいようだ。

「念のために聞いておきますが、どの程度ですか?」

「愛している、とは絶対に言うな。見事な成果を出した相手に言うこともあるだろうが、だとしても我慢してくれ」

 ああ、サンキュー愛している、か。そういうセリフを俺が言うものだろうか。
 物語では、大活躍した相手に愛していると言うのはある意味定番だ。ただ、口にするのは気恥ずかしいと思うんだよな。
 それに、そこまでのセリフを勢いで言う気はしないが。

 いや、シャーナさんが未来視の魔女であるならば、俺が愛していると言ってシャーナさんが死んだ未来でも見たのか?
 だとすると、恐れている理由は理解できる。自分が死ぬ未来を見て、冷静でいるほうが難しいだろう。
 それなら、確かに気をつけたほうがいいな。未来視の魔女は重要人物だ。死なれたらまずい。

「分かりました。気をつけますね。俺がそんな事を言うの、あまりイメージできませんが」

「うちも想像しておらんかったよ。だからこそ、じゃろうな」

 なるほど。俺の想像通りの未来を見た可能性が高いな。それにしても、俺がそんな事を言うとは、シャーナさんはよほどの事をしたのだな。
 まあ、未来を見る力が本物のように思える以上、当たり前か。
 それにしても、本当に未来が見えるのだな。メタ的な発言かと思っていたが。

「なら、シャーナさんが俺に用があるというのは、なにか嫌な予感がしたからですか?」

「否定はせん。今詳しいことを話すわけにはいかん。だとしても、お主にかかわる理由はあるのじゃ」

 やはり、俺を助けること、あるいは俺にかかわること、そのあたりで未来が好転するのだろうな。
 サクラよりも俺が重要な理由はわからない。それでも、責任重大な予感がする。

 恐ろしいな。なにか失敗してしまえば、良くない未来が訪れるのだろう。
 当たり前のことだと言われればそうだ。だが、失敗すれば確実に悪い未来が訪れる。そう知っている人間は少ないはずだ。

「分かりました。では、詳しい話を聞かせてもらえますか?」

「うちはお主に魔法を教えようと思う。お主の魔法の運用は悪くない。それでも、もっと発展させられるからな」

 つまり、俺が強くならなければ悪い未来が訪れるのだろう。
 いったいなにが起こるのかはわからない。それでも、俺が全力を尽くす理由には十分だ。
 なにせ、俺の親しい人が傷つく未来なのかもしれないからな。そんな未来を避けるためならば、いかほどの苦労でも乗り越えてみせよう。

「ありがとうございます。それで、上級魔法を使えるようになればいいんですか?」

「いや、お主にそれほどの才はない。ただ、ディヴァリアを知っておるじゃろう。下級魔法でも、今よりもっと強くすることは可能。あとは分かるな?」

 当然分かる。下級魔法を強くすることができれば、運用の幅が広がる。
 つまり、俺の手札が大幅に増えると考えていい。だから、そのあたりを訓練していくのだろう。

「剣技や心奏具と組み合わせることで、さらなる効果を発揮できる」

「ああ。間違っておらん。お主の発想は悪くない。それでも、魔力の運用は下手と言っていいからな。そのあたりから鍛えていくか」

「今日からですか?」

「今から教えることはできん。ただ、1つだけやってほしい事がある。魔力を円のように回せ。それを複数重ねて、球のようにするのじゃ。1日や2日ではできんじゃろう」

 なるほど。理由は分からないが、とにかく今言われたことができれば、次の段階に進めるのだろう。
 それにしても、実際に魔法を使ってみる以外の訓練があったのだな。俺の家で教わらなかった以上、秘技に近いのではないか?
 まあいい。俺が更に強くなれるのならば、守れる範囲が増えるはずだ。だから、かならず達成してみせる。

「分かりました。では、やってみますね」

「ああ。お主が成功したのならば、次の訓練を指示する。その次が、うちが本格的に教える段階じゃな」

「そうだ。今の訓練をする理由を教えてもらっていいですか?」

「とにかく、魔力を正確に制御できるようになるためのもの。次の訓練も同様じゃ」

 ふむ。魔力を正確に制御できると、なにか魔法に良いことがあるのだろうな。
 俺としても、まったく思いつかない発想ではなかった。とはいえ、素人考えで変なことをするのは避けたかったからな。

 おそらく上級者であろう人間のお墨付きの訓練ならば、いい効果があるのだろう。
 だから、指示されたことをしっかり守って、要らない工夫は避けるべきだろうな。

「分かりました。しっかり訓練しておきますね」

「それでよい。お主ならば、しっかりと身につけられるだろうさ」

 そう言ってシャーナさんは去っていく。
 今日から、日課に新しい訓練が加わることになるな。大変ではあるが、充実している。
 ソニアさんとシャーナさん。新たな師匠が増えたことで、俺はもっと強くなれるはずだ。
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