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1章 勇者リオンの始まり

22話 リオンの決意

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 俺の前に現れた敵。全身を黒い鎧で包んでいて、性別もわからない。また、右手に大きな剣を構えている。
 間違いない。俺達を狙っているはず。

「ユリア! 少し離れていろ!」

「わかりましたっ、ご無事でっ!」

 言ったとおりにユリアは離れてくれる。ただ、この敵がいつ現れたのか分からなかった。
 同様の手段で他の敵がやってきたならば、ユリアが危険だ。ただ、そんな事を考えている余裕はなさそうだ。
 明らかに、今まで出会ってきたどんな敵よりも強い。心奏具を構えているわけでは無さそうなのに、そう感じた。

「あの村はいいのか? さすがにまだ全部終わってはいないだろう?」

「もう終わったよ。あとはそこにいる女だけだ」

 くぐもって性別すらもわからない声で敵は言う。
 こいつはユリアを狙っている。だから、戦わないといけない。とはいえ、俺は勝てるのか?
 思わずユリアの方を見ると、胸の前で両手を握っている。不安そうなこの子を見て、俺の意思は固まった。

「ユリアを傷つけさせはしない!」

「意気や良し。さて、貴公の力、見せてもらおう」

 そのまま敵は俺に向けて剣を振り下ろしてくる。エンドオブティアーズの盾で受けるが、体勢を崩しかける。
 重い。かつて戦ったゼファーの最大の一撃より、はるかに。
 たった一撃で俺と敵との格の差が理解できた。おそらく、真正面から戦っても絶対に勝てない。

 だが、ここでユリアを見捨てるつもりはない! なにか、なにか手段を考えるんだ。

「うおおおっ!」

 必死で気合を入れる。余計なことを考えていては絶対に勝てない。だから、目の前の相手だけを見るんだ。

 敵は続けて剣を振り下ろしてくる。今度は避けてみると、勢いそのままに追撃が来た。
 次はかわせないので、盾で受ける。またとんでもない威力で、必死に耐えていた。

「その程度か? ならば、こちらを」

 敵はユリアに向けて駆け出そうとする。俺は必死の思いで敵の前に回り、攻撃を仕掛けた。
 そのまま敵の剣で弾かれ、また攻撃される。なんとか盾で受けたが、腕がしびれそうだとすら感じた。

 こいつを相手に出し惜しみしていては絶対に何もできない。そう判断して、エンドオブティアーズの能力を全力で使う。

「これでどうだ!」

 エンドオブティアーズの切っ先を向け、即座に伸ばす。だが、かわされる。
 明らかに重たいどころではない鎧を着ているのに、なんて動きだ。
 分かりきっていた事ではあるが、あまりにも強い。
 このままでは勝てない。せめて策を考えるだけの時間を稼ぎたい。

 どうすればいい。どうすれば。俺にディヴァリアのような力があれば。ならば、ユリアを守ることも問題ないのに。
 どうして俺はここまでディヴァリアと違う。
 
 いや、そんな事を考えている場合ではない。とにかく目の前の敵に集中するべきなんだ。

「その程度では、我に対して何もできぬぞ」

 そんな事、とっくに知っているんだ。だとしても、ここでユリアを守ってみせる。
 頼む、エンドオブティアーズ。俺にこいつを打ち破る手段をくれ。何がある。剣や盾をどう変化させれば、こいつに通じる。

「だからといって、諦めるわけがないだろう!」

 俺はエンドオブティアーズで斬りかかる。まるで剣が届かない段階で、剣の横幅を大幅に上げる。
 これで、俺の振る剣の速度に見合わない速さで攻撃できるんだ。
 ただ、敵には普通に剣で受けられた。これも通じないのか。だが、まだまだ!

 次は剣を振り下ろす。避けられたら、剣を横に向けて太さを変える。
 敵に対して剣がぶつかろうとするが、またかわされた。ただ、敵からは反撃が来ない。
 少なくとも、時間稼ぎはできている。ならば、今のうちに他の手段を考えないと。

「それで全力か? 我は心奏具を使っていないのだがな」

 おそらく、事実だ。心奏具にある異能の気配を感じないからな。
 ただ、この敵は心奏具を使える可能性もある。
 どこまでも絶望的だな。だが、まだここで終わりはしない!

 今度は剣を伸ばすことと剣の太さを変えることを組み合わせる。
 敵に剣を向けて伸ばし、避けられたら太さを変えて追撃。
 相当早く動けないとかわせない。そう考えていたが、剣で受けられてしまう。
 エンドオブティアーズの切れ味ではこの剣を超えられない。である以上、どうにか鎧の隙間などに当てたいのだが。
 それを許してくれる相手ではないんだよな。

 そのまま必死で攻撃するが、そろそろ敵は慣れてきたようだ。証拠に、これまであまり攻撃をされなかったのに、今はされている。
 俺はこれまでのように攻撃することすらできなくなっていった。

「弱いな、貴公。そこの娘を見捨てるならば、見逃してやってもいいぞ」

 敵は攻撃を止めてそんな事を言う。思わずユリアの方を見てしまう。
 ユリアはこちらを心配そうな顔で見ている。この子を見捨てるなんて、冗談じゃない。
 だが、ここで戦って2人死ぬよりマシじゃないか? そんな誘惑が頭に浮かんだ。

「リオンさん、わたしの事はいいですからっ。あなたのおかげで、ただ一度だけでも幸せを知ることができた。それで十分なんです」

 ユリアははかない笑顔を浮かべながらそんな事を言う。
 もしかして、ユリアは生きることを諦めてしまったのか? 俺が弱いせいで。ユリアに信じさせてあげられないせいで。
 俺がディヴァリアくらい強かったならば、こんな顔をさせないで済んだ。本当に情けない限りだ。
 だが、俺はもう迷わない。ここで死ぬのだとしても、ユリアのために戦ってやる!

「俺が十分じゃないんだ。ユリアにもっと楽しいことを教えないまま死なれたら、この先の未来で俺は心から笑えない!」

 そうだ。理由なんてそれだけで十分だ。ここでユリアを見捨てたら、ずっと俺の中には後悔が残る。
 そんな未来は絶対にごめんだ。最後まで、全力であがくだけだ。
 幸運なことに、ユリアの顔を見て、ある策が思い浮かんだ。赤い瞳からは涙がこぼれそうになっていたから。
 大丈夫だ、ユリア。お前をこれ以上泣かせたりはしないから。

「決意だけでは何も変わらぬぞ、貴公。そのまま娘と共に果てるがいい」

 敵の言葉にはもう惑わされるつもりはない。俺は何が待っていようと、最後まで戦うだけだ。
 あらためて、エンドオブティアーズを構える。瞬間、敵はこちらへと突っ込んできた。

 策が通じるチャンスは一回きり。だから、俺はこれまでと同じだと敵に思わせるべきだ。
 敵の攻撃を盾で受け、剣で切りかかったり突いたり。簡単に対処されていくが、それでいい。

「このっ、いい加減通じろ!」

 できることならば、油断していてくれ。そして、俺の策に引っかかってくれよな。そう祈りながら、必死に敵の攻撃をしのぐ。

「この程度か。そろそろ終わらせよう」

 敵はこちらに向けて全力らしき様子で剣を振り下ろす。この瞬間を待っていた!

「ウォーター!」

 ただ水を出すだけの単純な下級魔法だ。それでも、使い方には幅がある。
 今回俺は盾に水をかぶせる使い方をした。そして、盾を敵の剣に対して傾かせる。
 結果として、盾から剣を滑らせ、敵は体勢を崩してくれた。

 そこに向けて、俺は剣を振り抜いていく。ただ、あいている左手で防ごうとされる。
 全力で振り切ろうとするが、剣をつかまれた。だから俺は全力で剣の幅を太くしていく。
 結果として、左手の鎧を砕くだけで終わった。指を切り落とすことすらできていない。

「なるほど。貴公、素晴らしいよ。ただ破れかぶれになったわけではなく、しっかりと策をたずさえていた。もう一度問おう。そこの娘を見捨てないか?」

「お断りだ! せめて最後まであがかせてもらう!」

「残念だよ。貴公ほどの人間を死なせるのは、だが、終わりと行こう」

 そのまま敵は剣を構える。
 俺は死を覚悟しながらも、最後まで抵抗する決意をして。そんな俺に、ユリアの声が聞こえてきた。

「リオンさんは死なせない! 因縁れ――ホープオブブレイブ!」

 ユリアの右手に現れたのは、エンドオブティアーズの剣とまったく同じ姿の剣だった。
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