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1章 勇者リオンの始まり

20話 ノエルという妹

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 俺は今日、家にディヴァリアとノエル、エルザさんを誘った。ディヴァリアの発案がもとで、この4人で過ごしたいらしい。
 空いている孤児院は、ディヴァリアの家の人間に任せるのだとか。
 ノエルとエルザさんだけなら、ディヴァリアは素をさらせる。だから、きっと親しい人たちでの時間を楽しみにしているのだろう。

「聖女様、リオンお兄ちゃん、誘ってくれてありがとう!」

「ディヴァリアでいいよ。ここには他に人は居ないからね」

「ノエルもディヴァリアお姉ちゃんって呼びたいけど。でも、他のところで呼んじゃったら迷惑でしょ?」

「そんな事、気にしなくてもいいよ。ノエルは私達の妹なんだからね」

 ディヴァリアもノエルを大切に感じてくれている。俺にはディヴァリアの言葉から伝わったような気がした。
 ノエルは本当にずっと面倒を見てきた子だから、思い入れはとてもたくさんある。

「なら、ディヴァリアお姉ちゃんって呼ぶね。いつか、本当の家族になりたいなぁ」

「聖女様の家族ですか。エインフェルト家の養子になることは難しいでしょうね」

 エルザさんの言う通りだろう。ディヴァリアの家であるエインフェルト家は公爵家だから。
 単なる平民をわざわざ養子にするとは思えない。ノエルは才能にあふれてはいるが、それでも。

「リオンお兄ちゃんの側室とか、妾とか、メイドでもいいよ。2人と一緒にいられるのなら、なんでもいいから」

「ノエル、正妻は誰のつもりなのかな?」

「もちろん、ディヴァリアお姉ちゃん! 2人の結婚式をノエルがお祝いするの、夢なんだ」

「ふふ、ノエルにどんな役割を任せようかな。お祝いの言葉は言ってほしいね」

 俺と結婚、か。ディヴァリアはどう考えているのだろうな。実際に結婚したところで、関係が崩壊することはないだろうが。
 それにしても、ノエルはませているというか。側室や妾って、そんな雑な扱いにはしたくないぞ。

「歌ならルミリエお姉ちゃんがいるからね。他になにか考えないと」

「踊りでも、ルミリエさんがいらっしゃいますからね。余興の選択は限られますね」

 そうなんだよな。エルザさんの言うように、歌や踊りではルミリエの前にかすむだけだ。
 とはいえ、それ以外の余興となると、1人では難しいんじゃないか?
 まあ、孤児院のメンバーで祝うのならば、その問題は解決するのだが。

「ノエルが祝ってくれるのなら、何でも嬉しいかな。エルザさんもね」

「だから、いっぱい頑張るんだよ! ディヴァリアお姉ちゃんにも、リオンお兄ちゃんにも、いっぱい喜んでほしいから!」

 ノエルの気持ちは本当に嬉しい。俺がディヴァリアと結婚するかはともかく。
 ノエルが俺達のことを大切に思ってくれている事がよく分かるからな。
 俺達にとっても、ノエルは大切な存在だ。もっと、その想いを伝えるべきかもな。

「聖女様の結婚式ともなれば、誰からも祝福されるでしょうね」

「だったら嬉しいかな。でも、まだまだ先は長いよ」

 だろうな。俺達もまだ若いということもある。
 それに、聖女という立ち位置に釣り合う相手など、そうは居ないだろうから。
 他にも、ディヴァリアが結婚を許す相手がイメージできない。きっと、他人など単なる道具としか思っていないのだから。
 政略結婚ですら、嫌がりそうなくらいだ。愛情をそそぐための努力など、望まないだろうからな。

「楽しみはゆっくり待たないとね! でもリオンお兄ちゃん、待たせすぎちゃダメだよ?」

「そうですね。聖女様とて、女の子なのですからね」

 まるでディヴァリアが俺との結婚を望んでいるかのような。本当だとするのなら、嬉しいと思ってしまうのだが。
 ただ、俺とディヴァリアではきっと釣り合わない。実力も、名声も、何もかも。

「そういうものか。ディヴァリアのウエディングドレス、きっときれいなのだろうな」

「そうだね。ディヴァリアお姉ちゃんは美人さんだから。見るの、楽しみだなぁ」

「ノエルだってとっても可愛いと思うよ。おしゃれな格好、させてみたいかも」

「でも、ノエルはあんまり贅沢ぜいたくできないからね。難しいんじゃないかな」

 まあ、孤児院に住んでいるくらいだからな。とはいえ、ノエルがおしゃれしたら、俺は見とれてしまうかもな。
 それくらいには、可愛らしいと感じているんだ。もしかしたら、身内びいきのたぐいかもしれないが。

「私が用意できればいいんだけどね。さすがに、両親が反対するだろうから」

「仕方ないな。エインフェルト家は名門だ。簡単に身内扱いすれば、お互いに良くない」

「以前にも、聖女様への恨みで孤児院に攻撃されたわけですから。私達に自衛する手段がない以上、難しいですよね」

「ディヴァリアお姉ちゃんを恨むなんて、最低! ノエル、許さないんだから」

「ありがとう、ノエル。ノエルのことは、私が守ってみせるね」

 ディヴァリアは微笑ほほえみながら言う。やはり、ノエルは大切な相手と考えてくれている。そう信じることができて、ありがたい。
 俺にとって、ノエルはもう失いたくない相手だから。

「ありがとう、ディヴァリアお姉ちゃん! ディヴァリアお姉ちゃんが守ってくれるなら、安心だね」

「そうですね。聖女様のことならば、信じられますから」

 実際、ディヴァリアの能力はとても高い。俺が守ろうとするより、よほど効率的に守ってくれるはずだ。

「そうだな、ディヴァリアなら、きっと安心だ」

「そうだよ、リオン。ノエルもエルザさんも、私が守ってあげるから」

「ありがたいな。俺も守るつもりではあるが、力不足も感じるからな」

「リオンお兄ちゃんだって、とっても頼りになるよ! ノエル、信じてるから」

「そうですよ。リオンさんだって、私達を何度も守ってくれましたからね」

 ノエルとエルザさんの言葉に、俺は少し救われた気がした。
 俺はどうしてもディヴァリアのようにはなれない。そんな俺でも、頼りにしてくれている相手がいる。
 たったそれだけで、力がわいてくると思えるんだ。

「ありがとう、ノエル、エルザさん。2人と出会えてよかったよ」

「リオン、私は?」

「そうだよ。ディヴァリアお姉ちゃんのこと、忘れちゃダメ!!」

「ええ。聖女様を大切にして差し上げないと」

「い、いや、ディヴァリアとだって出会えてよかったよ」

 俺がうろたえていると、3人とも笑いだした。つまり、からかっていただけなのだろう。
 まったく。完全に引っかかってしまった。少しどころではなく焦ったんだよな。

「ふふ、リオンったら、可愛いね」

「いつもは頼りになるのにね。リオンお兄ちゃん、かわいい~!」

「ふふ、だまされてしまいましたね。女は怖いんですよ?」

 たぶん、今俺は真っ赤になっているだろうな。
 可愛いだなんて、ほめられているとは思えないんだよ。まあ、親愛表現なのだろうが。

「あんまりからかうんじゃない。まったくもう」

「リオン、すねないで。ふふ、謝るから」

「笑っているじゃないか! まあ、許すよ」

「リオンお兄ちゃんってば甘いんだ~! またからかっちゃうからね!」

「聖女様もノエルも、やりすぎてはいけませんよ。こういう事は加減が大事なんです」

 たしなめているエルザさんも、からかってきた側なんだよな。まあ、間違いなく俺も楽しんでいるのだが。

「まあ、2人ならやりすぎるという事は無いだろうさ。そのあたりは信用しているぞ」

「リオンお兄ちゃん、優しいね。あーあ! もっとずっと一緒にいられたらなぁ」

「そうだね。なにか手段があればいいけど。ちょっと考えてみるね」

「その気持ちだけで嬉しいよ! ディヴァリアお姉ちゃん、大好き!」

「私も大好きだよ。これからもずっと、仲良くしようね」

 ディヴァリアの顔はとても優しい。だから、ノエルとはいずれもっとともに時間を過ごせるかもな。

 それからは、ノエルたちが帰るまで、ずっと楽しい時間だった。本当に、ディヴァリアが孤児院を造ってくれてよかったな。
 ノエルが居ない生活なんて、もう考えられないのだから。


――――――


 私のディヴァリアという名前。呼ばれて嬉しい相手と、そうでない相手がいる。嬉しいのは、もちろん親しい相手かな。
 そして、嬉しくないのはそれ以外の人たち。聖女様って呼ばれるのも、実は同じ。

 だから、孤児院から邪魔な人間を減らしたかった。そのために、有翼連合をまた利用することに決めて。
 有翼連合の内部に送り込んだ人を使って、孤児院の襲撃計画を細かく誘導して。

 予定通り、邪魔な子供達を殺すことに成功した。私が死なせたくない、ノエルとエルザはちゃんと守って。
 もし他の子供が死んだら、かかった時間とお金がもったいないけれど。でも、代わりはいくらでもいるからね。

――とりあえず、何も利用できなくなった時まで殺さなくていいんじゃないかな。

 リオンはそう言っていたよね。私にとっては、死んだ子供達は何も利用できない人だったよ。
 ついでに、有翼連合はもう処分することにした。今の有翼連合は、私にとっては利用価値のない存在だから。
 ただ、一応戦力はまだ残っている。だから、最後にリオンとサクラの実戦経験に使うと決めた。

――やっぱり、同じ苦労をした相手とは、絆が深まりやすいよね。

 リオンの言葉通りに、リオンとサクラの絆を深めたかった。きっと、2人ならばリオン1人より活躍できるからね。
 いくら2人が仲良くなったところで、私とリオンの絆には勝てないし。

 それから、2人はうまく有翼連合の残党を倒せたみたい。とはいえ、あまり苦戦しなかったんだよね。
 まあ、成果を出せているのなら、私の目標には近づいている。リオンの名声を高めるという狙いには。

――結局、人からの報告では、主観が混ざるから。1人だけなら、自分が一番いいよ。

 ただ、ノエルは少し怖がっていたかもしれない。だから、私の目で直接確かめたかった。
 その時にノエルが言ってくれたこと、とても嬉しかったよ。私とリオンの結婚式を祝ってくれるって。でも、リオンの側室も、妾もダメだからね。

 ただ、私もノエルとはもっと一緒にいたいから。だから、その手段を考えないとね。
 ねえ、ノエル。私達の妹。私もあなたと本当の家族になりたい。それに、ノエルに結婚式をお祝いしてもらうこと、楽しみにしているから。

 だから、リオン。あなたには、また試練を用意してあげるね。嬉しいでしょ? ノエルと一緒にいられるのは。
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