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1章 勇者リオンの始まり

17話 最高の歌

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 今日はサクラとルミリエと孤児院に来ている。孤児院が有翼連合の人間に襲われたので、その傷を癒やすためだ。
 ディヴァリアは用事があるらしい。なので、ルミリエの歌を聞かせることがメイン。そのついでに、サクラも紹介できればいいみたいだ。

「ディヴァリアが運営している孤児院なのよね? きっといい場所なんでしょうね」

「うんうん。とってもキラキラした場所だよ! 何人か死んじゃったみたいだけど、きっとあの子達なら立ち直ってくれるよ」

 あるいはあの子達は悲しんですらいないのでは。そう感じた時もあったが。さすがにな。
 いくらディヴァリアをしたっているからといっても。まったく人の死をなんとも思わない子だけなはずが無い。
 だから、ルミリエの歌はきっと癒やしになってくれるはず。

「ほら、サクラ、ここだ。エルザさん、居るか?」

 俺が声をかけると、ノエルが出てきて、また飛びついてきた。茶色い髪が頬をかすめてくすぐったいな。
 ただ、ノエルが元気でいてくれて嬉しい。あんなことがあったばかりだからな。ノエルが傷ついていたら、俺はどれほど苦しんでいただろうか。

「リオンお兄ちゃん、また来てくれたんだね! ルミリエお姉ちゃんも! そこのピンクの髪の人は、はじめましてだね」

「あたしはサクラ。リオン達の友達よ。よろしくね」

「ノエルはノエル! 聖女様とリオンお兄ちゃんにここに連れてきてもらったんだ!」

「そうなのね。やっぱりリオン達は優しいのね」

「そうだね! 2人のおかげで、今幸せなんだ!」

 ノエルは輝くような笑顔だから、本当に幸せなのだろうと思える。
 俺達にとってとくに思い入れが強いノエルだから、笑顔が見られて嬉しいんだ。

 ノエルをかまっていると、エルザさんがこちらにやってきた。相変わらずの穏やかな顔で、とても癒やされる。

「リオンさん、ルミリエさん、よくぞいらっしゃいました。そちらの方は、はじめましてですね。私はエルザと申します。この孤児院の母親役のようなものですね」

「はじめまして、エルザさん。あたしはサクラ。リオン達の友達よ。ノエルにも言ったけどね」

「まあ、これは失礼しました。ただ、歓迎しますよ、サクラさん」

「ノエルちゃん、エルザちゃん、サクラちゃんはとっても素敵な子なんだ。みんなともきっとニコニコできるよ」

 ルミリエの言葉は共感できる。
 サクラのおかげで俺は何度も頑張ることができた。そんなサクラは、きっとみんなの希望になることができる。

 それから孤児院の中に入っていくと、俺達はみんなに囲まれた。
 サクラにもなついていて、サクラの優しさが伝わったのだと感じられる。
 嬉しいな。俺達の友達、その魅力がきちんと伝わるのは。

「この子達、本当に幸せそう。ディヴァリアが作り出した光景なのよね。あたしも誇らしいわ」

 サクラの言うことは分かる。ノエル達の笑顔を見られたこと、それはディヴァリアの大きな成果だ。
 ディヴァリアは外道ではあるが、幸せを生み出してもいるんだ。だからこそ、ディヴァリアを単に悪と見ることができない。
 あるいはさらなる悪事の取っ掛かりでしか無いのかもしれないのに。

「聖女様とリオンお兄ちゃんのおかげなんだ! エルザさんも大事だけど」

「間違ってはいませんよ。聖女様がいなければ、私は今ここにいませんから」

 エルザさんはディヴァリアの思想に感銘かんめいを受けていたからな。
 ディヴァリアがエルザさんをこの孤児院に連れてきたのは大きい。エルザさんの存在は、間違いなくここの子供達にとって重要なものだから。

「みんなも落ち着いてきたし、私がドキドキできる歌をうたうよー! 喜悦よろこべ――ハピネスオブフレンドシップ!」

 ルミリエがマイクらしき心奏具を構えると、みんなが盛り上がった。
 まだ歌ってすらいないのに大層なことだが、歌い始めるとみんな黙るからな。

「伝えきれない心、迷いなどない所――」

 ルミリエの歌声はとても澄んでいて、それでいて心を感じる。長い手足を生かした踊りも、きらめくような笑顔も歌の魅力を引き上げていて。
 後ろでくくった赤い髪が揺れているのも、ルミリエの輝きを増しているように思える。

「あなたに届かない感情! どうしてもできない感動!」

 ルミリエがサビを力強く歌っている。
 始まりの頃の静かさなど無いかのようで、また心を惹きつけられるんだ。ついルミリエだけしか目に入らなくなってしまうほどに。

「この想いなんて忘れられたら~」

 最後の歌詞を終え、ルミリエは停止する。歌の余韻よいんがまだ残っていて、体が熱くすら感じた。

 ルミリエがそっと礼をすると、爆発的な歓声に包まれた。
 やはりルミリエの歌は何度聞いても最高だ。サクラもとても感動している様子。
 前回は踊りまで含めたパフォーマンスではなかったからな。それはそれは強い感激をするだろうさ。

「みんな、ワクワクしてくれたかな?」

「「「ルミリエさーん! 最高だった!」」」

 みんなが言う通り、本当に最高だった。
 ルミリエ以上の歌を歌えるやつなど、どこにも居ないだろうな。そんなルミリエの歌をほとんど好きな時に聴ける俺は幸運だ。
 ルミリエと出会えたこと、運命に感謝したいな。

「踊りがつくだけでここまで変わるなんて。分からないものね。でも、素敵だったわ」

「ルミリエお姉ちゃんの歌、相変わらず良かった!」

「そうですね。ルミリエさんには何度も感動させられています」

「みんなありがとう! またワクワクさせる機会はあるからね!」

 ルミリエは歌姫と呼ばれているが、大勢の前よりこういう場所のほうが楽しそうだ。まあ、親しい相手かどうかが大切だということは分かる。
 俺だって、歌えるのならばディヴァリアたちの前の方が力が入るだろうから。

 それから、またノエル達と交流をしていた。ここではみんな落ち着いているようで、ありがたい。
 先日の事件は痛ましかったから、傷ついていないか心配だったんだ。この様子なら、みんな前向きに生きていけるだろう。

「サクラお姉ちゃんはメルキオール学園にいるんだよね。ノエルもリオンお兄ちゃんたちと通いたいなあ」

「リオン達以外はろくなやつじゃないわ。だから、無理に通わなくてもいいわ。あたしが教えられることなら、教えてあげるから」

 サクラはそんな風に認識しているのか。ということは、攻略対象たちとはまだ会っていないのか? サクラが攻略対象に嫌悪感を抱くということは無いだろうし。
 まあ、攻略対象がどんなやつだったか、もうハッキリとは思い出せないが。

「そうなの? リオンお兄ちゃん達が居ないなら、別にどうでもいいけどね。聖女様とリオンお兄ちゃん達にもっと会いたいだけだからね」

「なら、本当に通わなくていいわ。リオンが居なかったら、あたしはどうなってたことか」

 サクラは本当にうんざりした顔をしている。よほどひどい事があったのだろうか。口ぶりからすると、今は大丈夫なようだが。

「だったらいいかな。リオンお兄ちゃんと聖女様なら、会いたいって言えば来てくれるし」

「そうですね。聖女様もリオンさんもここを大切にしてくれていますから」

「私だってガンガン大切にしちゃうよ! ノエルちゃんはみんなの妹だからね!」

 みんながここを大切にしてくれている事が、本当に嬉しい。俺達が作り上げたいこいの場所だから。
 ノエルとの出会いから、ここが始まったんだよな。改めて、最高の出会いだった。

「あたしもまたここに来たいわね。それにしても、あたしが子供の頃にここがあったらって思ってしまうわ」

 サクラは孤児だったのだろうか。俺はサクラの事を、全然知らないのかもしれない。
 ただ、俺から聞いていい事でもないだろう。サクラが話したくなったら聞く。それでいい。

「俺達より年下のサクラか。ずいぶん可愛らしそうだ」

「リオンお兄ちゃんの妹は、サクラお姉ちゃんには渡さないから!」

「奪うつもりはないわよ。あたしはリオン達の友達。それだけで十分だから」

「ならいいよ。ノエルはリオンお兄ちゃんと聖女様、2人の妹。これだけはゆずれないから」

 ノエルは本当に俺達になついてくれている。
 俺にとっても、ディヴァリアにとっても、確かに可愛い妹だと言えるな。
 とはいえ、さっきルミリエがみんなの妹と言ったばかりだろうに。
 まあ、ノエルはルミリエたちも大切に考えているのは間違いない。ただ、俺たち2人がもっと特別だというだけだろう。

「ふふ、微笑ほほえましいですね。リオンさんと聖女様が作り出した光景を、私も大切にしますから」

 エルザさんはこちらを立ててくれるが。この孤児院がいい場所なのはエルザさんの功績が大きいだろう。
 エルザさんの穏やかな緑の目が見守っている。それだけで、ずいぶんと落ち着いた気持ちになれる人だから。そんなエルザさんの優しさあってのこの場所だ。

「エルザさんの協力あってのものですから。俺達の力だけではダメでしたよ」

「だとしても、始まりはお2人あっての事。その感謝を忘れるつもりはありません」

「リオンちゃんとディヴァリアちゃんには、私も感謝してるんだよ」

「あたしもね。2人が居てくれて良かったわ」

「聖女様とリオンお兄ちゃんは最高だからね」

 みんなに持ち上げられて、恥ずかしいな。ただ、とても嬉しい。俺達2人がみんなの支えになれているという事実が。
 間違いなく、ディヴァリアが居なくてはできなかった事だ。

「ありがとう、みんな。さて、そろそろ帰るとするよ」

「またね、リオンお兄ちゃんたち!」

「また会いましょう、みなさん」

 ノエルとエルザさんが俺達を送り出してくれた。ここの子達に勇気を与えるつもりだったが、俺が力をもらってしまったな。

 それから俺達はいつもどおりの生活に戻ると思っていたが。ミナの言葉で、また新しい動きが始まった。

「リオン。ディヴァリアの孤児院を襲った有翼連合ですが、私が拠点を探り当てました」
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