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1章 勇者リオンの始まり

15話 孤児院にて

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 今日はディヴァリア、シルクの2人とディヴァリアが作った孤児院へ向かっている。
 たまに俺達で子どもたちに会いに来ているんだ。ミナやルミリエも一緒になるときもあるが、今日は違う。

「サクラのことも誘えればよかったんだけどね。サクラが忙しくて残念だったね」

「同感ですね。サクラさんはここを気に入ると思うのですが」

「サクラなら、子供達もなついただろうにな。まあ、来られないものは仕方ない」

「うん。今回をしっかり楽しもうね」

 こうしていると、ディヴァリアは本当に聖女に見える。穏やかな顔、優しい声色。そして、善性のように聞こえる言葉。
 ただ、そんな表面からはうかがいしれない内面を抱えている。
 ディヴァリアが外道だからといって、孤児院の功績が失われるわけではない。
 それでも、人を殺した直後だとしても同じ顔をできるディヴァリアが恐ろしい。

 しばらく移動して、孤児院へとたどり着いた。ここへ通って初めて気がついたのだが、どこにでも転移できるわけでは無いんだよな。
 この孤児院は結構新しくて、きれいな建物と言って良い。

 中に入ると、すぐに女の子に飛びつかれた。

「リオンお兄ちゃん、ひさしぶり! 聖女様も、シルクお姉ちゃんもようこそ!」

「ノエル、ひさしぶりだな。元気にしていたか?」

 ノエルはこの孤児院に初めて入った女の子。とは言っても、俺より2、3歳年下くらいなのだが。
 茶髪と茶色い目、そしてとても愛嬌のある顔と言動が特徴の子。身長はこの年頃の子の平均くらいか。
 俺にもディヴァリアにも他のみんなにもなついていて、みんな可愛がっている。

「もちろん! また会いたくて待ってたんだよ。まだかな、まだかなってね」

可憐かれんですね。相変わらず、ノエルは私達を慕ってくれているようで」

「だってみんな優しいから! それに、ノエルが今生きていられるのも、聖女様とリオンお兄ちゃんのおかげだからね。ありがとう!」

 俺達が飢えているノエルを見つけて、この孤児院の初めての住人にしたんだよな。
 ノエルはとても才能のある子だから、このまま成長すればこの孤児院を代表する存在になるだろう。
 俺達にとって、ノエルが初めてだったことは幸運だと言えるはずだ。

「ノエルのおかげで、私達もうまく孤児院を運営するためのコツがわかりましたから。だから、こちらからもありがとうと言いたいです」

 ディヴァリアはよそ行きの態度だ。ノエルと、後もう1人だけがいる状況ならば、身内相手の姿勢になるのだが。
 まあ、ノエルは賢いから、その辺を顔に出さないのもディヴァリアが身内扱いする理由なのだろう。
 猫をかぶっているという評判は、ディヴァリアには好ましくないはずだから。

「何が聖女だ! いい人ぶるだけの人間を、いちいち歓迎なんかしてられるか!」

 そう言って男の子が去っていく。他に何人かもこちらに舌を出したりしながらついていった。
 ディヴァリアの本性を知っていたならば、とてもできない言動だ。だから、軽い気持ちで反発しているだけなのだろう。
 とはいえ、地雷原に平気で踏み込む人間を見ている気分になるな。

「聖女様に突っかかるなんて、バカみたいだよね。誰のおかげで生きていけると思っているのかな。そんなに死にたいのなら、勝手に死ねばいいじゃん」

「そんな事を言うものではありませんよ、ノエル。私たちは共に生きる仲間なのだから」

 ノエルをたしなめているのは、マザーエルザ。この孤児院で母親役をつとめる、元シスター。うす緑の髪と目をしていて、まるで宝石かのように見える輝く人。
 いつでもどこでも穏やかな表情をしていて、孤児院を預けるのにこれ以上の人はいないと思える。
 たしか、俺達より10くらい歳上なんだよな。

 彼女は教会で祈りを捧げるだけの日々を過ごしていた時、ディヴァリアに誘われたんだ。それで、今はこの孤児院で働いている。
 祈りを捧げるだけでは誰も救えなかったと、今の生活に満足しているらしい。外見の印象からまったく外れない、とにかく優しい人だ。

「ノエルが私を慕ってくれるのは嬉しいです。だけど、言葉は自分に返ってくるものですから、気をつけてくださいね。私はノエルが傷ついたら悲しいですよ」

「はーい、聖女様! こんなに素敵な聖女様でも、嫌いになる人がいるんだよね。信じられないな」

「そうですね。ですが、人間とは理由もなく人を嫌える生き物ですから」

 エルザさんも同じ意見のようだ。ディヴァリアの本性を知っている身としては、安易に同意はできないが。
 とはいえ、あのディヴァリアの外面で嫌うやつに、あまり好感は持てないな。この孤児院でのディヴァリアの態度は、とても真摯しんしに見えるから。

「聖女様の偉業を、子供が理解することは難しいと思いますよ。ただ、しっかりと知ってほしいとは思うのですが」

 エルザさんはディヴァリアの活動に感銘かんめいを受けたらしい。直接自分から弱者に手を差し出す。それがとても難しいと考えていたから。
 そんなエルザさんだから、ディヴァリアが嫌われていることには、思うところもあるのだろうな。

「さて、ノエル。聖女様やリオンさん、シルクさんを歓迎しましょう」

「分かった、エルザさん! みんな、こっちだよ!」

 そのままノエルは俺の手を引っ張っていく。本当にノエルにはなつかれたものだ。
 出会った時にはよどんだ目をしていたノエルがここまで明るくなってくれた事がとても嬉しい。
 これもディヴァリアが孤児院を作ろうとしたおかげだ。
 ディヴァリアは間違いなく外道だ。それでも、ノエルの笑顔を生み出してくれた。だから、ただの悪だと思いきれない。俺は間違っているのだろうか。

「「「聖女様、リオンさん、シルクさん、いらっしゃい!」」」

 練習でもしたのか、きれいにそろって歓迎の声をかけられた。年の頃も様々なこの孤児院の子供達だが、うまくやっているように見える。
 まあ、先ほど去っていった男の子たちのようなやつも居るのだが。

「皆さん、ありがとうございます。皆さんに歓迎してもらえて、嬉しいですよ」

「共感します。この孤児院はいい場所ですね。ディヴァリアさん、あなたの成果です」

「ああ、ノエルやエルザさん達と出会えたのも、ディヴァリアのおかげだ」

「聖女様とリオンお兄ちゃんが見つけてくれたおかげだよ! みんな、そこから始まったんだもん」

「私は聖女様の活動に敬意を評します。温かい光景が生まれたのも、聖女様のご活躍あってのこと」

 先ほど去っていった男の子達以外、すべての人が集まっている。嬉しい限りだ。これだけの笑顔を見ることができるのだから。
 ディヴァリアが孤児院を作ったからだ。何の思惑おもわくがあったのか今でも知らない。
 だけど、この子達が不幸にならなければいい。そうであれば、俺はディヴァリアを恨まずに済むんだ。

「ねえねえ聖女様、リオンさん、シルクさん、これあげるね!」

 子供達の1人が食べ物を差し出してくれる。
 良いことだ。人に分けあたえてもいいと思えるくらい、飢えずに済んでいるのだろう。
 もらった食べ物はありがたくいただく。普段食べているものより明らかに質素だが、思いが感じられて嬉しい。

「ありがとうございます。おいしいですよ」

「同意します。歓迎の気持ちが伝わってきますね」

「ああ。本当においしいな。ありがとう、みんな」

「聖女様とリオンお兄ちゃん、シルクお姉ちゃんが嬉しそうで、ノエルも嬉しいな」

「ノエルは本当に聖女様たちが大好きですね。私も、皆さんには感謝していますが」

 そんないこいの時間を過ごしていると、とつぜん爆発音が聞こえてきた。
 一体何が起こったんだ!? ノエル達を守らないと!
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