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1章 勇者リオンの始まり

8話 友達として

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 ディヴァリアの開くパーティの日がやってきた。
 参加するサクラは学生寮に住んでいる。なので、いったん俺の家まで転移装置で移動してもらう。
 そして、準備を整えてからディヴァリアの家へと向かう予定だ。

 まずはサクラを迎えに行く。
 学生寮には学生ならば簡単に入ることができる。とはいえ、個人の部屋に入ることはできない。
 だが、事前に広間で待ち合わせをしていたので問題ない。

「サクラ、待たせたか?」

「いえ、別に。あたしが早めに用意していただけだから、気にしなくていいわ」

 そんな事を言うなんて、サクラも楽しみにしてくれていたのだろうか。だとしたら、とても嬉しいものだが。
 まあ、それはいい。待たせてしまったのだから、すぐに移動しよう。

「サクラ、まずは俺の家で着替えてもらう。それから、ディヴァリアの家へ行くつもりだ」

「それって、ドレスとかを着るってこと? あたし、そんなものを買うお金なんて無いわよ」

「問題ない。こちらで用意しておいたものだから、サクラは気にしなくていい」

「気にするなって、借りを作る訳にはいかないわ」

 サクラらしい言葉だ。
 だが、一応エインフェルト家は公爵家だからな。相応の格式ある格好を求められてしまうのだ。
 そんな衣装をサクラに用意させるのは酷だろう。

「サクラには訓練に付き合ってもらっているからな。それで十分だ」

「あんたがそう言うならいいけど、後で請求されても払えないからね」

「分かっている。心配しなくてもいいぞ。友達ができたと伝えたら、両親が張り切ってな」

「いいご両親なのね。うらやましいわ」

 サクラの両親について、なにか設定があっただろうか。昔からの知り合いは、出会った時に思い出せていたのだが。
 サクラは髪の色くらいしか覚えていなかった。運が良かったな。もし髪色が同じ人間がいれば、分からなかっただろうから。

「さて、そろそろ行こうか」

「ええ。よろしくね」

 それからサクラを転移装置で俺の家まで連れて行った。

 サクラと出会った俺の両親はとても張り切っているようだ。

「リオンが久しぶりに新しい友達を連れてきたんだ。今日はお祝いだな、母さん」

「サクラちゃんって言ったわね。いっぱいおめかししましょうね」

「サクラといいます。リオンとは仲良くさせてもらっています。よろしくお願いします」

「サクラちゃん、きれいな桃色の髪に、リオンちゃんの髪と同じ黒の目なのね。似合う服はあるかしら」

 母さんはどうにも、サクラを着飾りたいらしい。とはいえ、グイグイ来る母さんにサクラは戸惑っている様子。

「ちょ、ちょっとお母様、撫で回さないでください……」

「きゃー! お母様ですって! リオンちゃんのお嫁さんに来てくれてもいいのよ?」

「そ、そんなこと考えられませんよ。知り合ったばかりなのに……」

「母さん、リオンにはディヴァリアがいるじゃないか。リオンを罪な男にするつもりかい?」

 もうめちゃくちゃだ。
 俺を愛してくれていることは分かる。そして、サクラを歓迎してくれていることも分かる。
 とはいえ、ここまではやりすぎでは? という思いもあるんだ。
 まあ、サクラは戸惑いながらも嫌がってはいないし、いいか。

「父さん、母さん、時間もあるから……」

「そうだね、すまなかったな、リオン。お前の友達だから、つい歓迎してしまった」

「確かに急がないとね。サクラちゃん、着替えに行きましょうか」

「え、1人で着替えられますからっ」

「ダメよ。ちゃんと細かいところまで見てあげるからね」

 サクラは母さんに手を引っ張られていく。少しこちらに助けを求めていた気もするが、俺には何もできない。
 俺がサクラの着替えを手伝うわけにはいかないのだから。

 そのまましばらく待って。母さんがサクラを連れてこちらに帰ってきた。

「どう、リオンちゃん? サクラちゃん、かわいいでしょ?」

 サクラは白いドレスを着て、髪飾りもつけている。ピンクの髪がとても華やかに見えて、黒い瞳とドレスの対比も鮮やかで。
 思わずサクラに見とれてしまうほどだった。

「な、なんか言いなさいよね。恥ずかしいじゃない」

「よく似合っている。お前ならば、誰もが振り向くだろうさ」

「そ、そう。ま、あたしだから当然よね。でも、ありがとう」

「礼なんていいさ。お前がきれいなのは事実だからな」

「もう、リオンのバカ! ちょっとあっち向いてなさい!」

 キッとにらまれてしまったので、サクラの言う通りにする。
 それにしても、何が気に入らなかったのだろうか。ほめ方が下手だったとか? だとすると、どのあたりがダメだったのだろう。
 しばらく後ろを向いていると、サクラから声がかかった。

「もういいわ。さっきは悪かったわね。でも、リオン。あたし以外にあんなこと言っちゃダメだからね」

「ディヴァリア達にも言っているような気がするが、ダメだったか?」

「まあ、親しいみたいだから良いかもしれないけど。出会ったばかりの人に言わないこと」

「それなら分かった。出会ったばかりで言いたい相手など、サクラくらいだろうが」

「も、もう! ま、あんたがあたしをほめてくれるのは嬉しいわ。それは本当よ」

 まあ、サクラが嬉しいのなら良いか。実際に俺がほめたいと思う相手など、そうはいないからな。きっと問題ない。
 それにしても、今ニマニマしている母さんをどうしたものか。

「リオンちゃんったら、ディヴァリアちゃんだけでは満足できないのね~!」

「さすがは俺達のリオン! ハーレムを築き上げてしまうんだな!?」

 やっぱりめんどくさい事になった。というか、母さんたちはそれでいいのか?
 まるで自分の子供が浮気性であることを望んでいるようだが。俺としては、仲のいい夫婦に憧れているからな。

「さすがにそこまで不誠実ではないぞ……」

「リオンちゃんが誠実にみんなを愛してあげればいいのよ!」

「リオン、お母様の言うことを聞かないようにね。ちゃんと聖女様を大切にするのよ」

 サクラの言うこともおかしい気がするが。俺とディヴァリアが結ばれているかのような発言だ。
 たしかに大切な幼馴染ではあるが。それが恋愛感情につながっているとは思えない。
 俺はディヴァリアを恐れているし、ディヴァリアが俺を愛しているという事もないはずだ。

「ディヴァリアを大切にするのは当然だが、俺とディヴァリアは付き合っているわけでは無いぞ」

「あんたってやつは……まあ、大切にするのならいいわ」

 サクラはなぜかあきれ返っているように見える。そんなにおかしなことを言っただろうか。ただの事実を告げただけのはずだが。
 まあ、嫌われている感じではないから、問題ないか。

「リオンちゃん、時間までまだあるし、サクラちゃんと話しておいたら? 私たちは外すから」

「それがいいだろう。せっかくの友達なんだからな」

 そう言って両親は去っていく。まあ、正直2人には困っていたからありがたいが。
 サクラを歓迎してくれているのは分かるとはいえ、サクラも困っていたんじゃないか?

「ほんと、いいご両親ね、リオン。大切にしなさいよ」

「もちろんだ。俺を愛してくれた両親には感謝しているからな」

「素晴らしいことね。あたしには分からないけど」

 サクラの言葉からするに、サクラは両親から愛されなかった?
 原作ではどうだったのだろうか。思い出せない。もっと早く、俺が記憶を残しているときに出会えたのならな。
 まあ、今悔いても仕方ないのだが。

「うちを気に入ったのなら、また遊びに来てくれ」

「それはいいわね。リオンのご両親、ちょっと変だけど、優しい人だし」

「そうだな。また来ても歓迎してくれるはずだ」

「そうね。友達っていいものだわ」

 俺もそう思う。だから、サクラと友達になれてとても嬉しい。他にも、ミナたちとも。
 俺は出会いに恵まれているよな。まあ、ディヴァリアがもっと善性でいてくれればとは思うのだが。

「そうだな。ただ、お前のようなやつだからだ。仲良くなれて嬉しいのは」

「分かる気がするわ。ろくでもないやつもいるものね」

「ああ。だが、これから紹介するやつらはそうじゃない」

「期待してるわ」

 きっとサクラも気にいるはずだ。ディヴァリアは外面だけだが、他のやつらは本当に善人だからな。

「楽しみにしていてくれ」

「ええ。話は変わるけれど、前にリオンに喧嘩売ったやつがいるそうね?」

「ああ、そうだな」

「そいつ、大きな盗賊団に1人で突っ込んでいって死んじゃったらしいわよ」

 それは知らなかった。あれから、とくにあいつのことは気にしていなかったからな。
 まあ、知ったことではない。話を聞く限り、自業自得にしか思えないから、余計にな。

「というか、サクラも知っていたんだな」

「そうね。結構ウワサになってたから。あたしがその場にいたら、そいつをギッタンギッタンにしてやったのにね」

 サクラにしては過激なセリフかもな。
 まあ、悪い気はしない。俺を友達として大事に思ってくれているのだろうから。

「心奏具すら無くても勝てたから、サクラだったら余裕だっただろうな」

「そんなに弱かったの? 身の程知らずもいるものね。それで聖女様に近づけるつもりなんて」

「私がどうかした?」

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにはディヴァリアがいた。迎えの準備ができたのだろうか。楽しみだな。
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