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1章 勇者リオンの始まり

5話 つかの間の憩い

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 俺はもっと強くなるために、授業以外でもサクラと訓練していた。
 サクラとは気軽に話ができるので、訓練にも身が入る。
 なんというか、いい意味で遠慮がないんだよな。言うべきだと思ったことをしっかり言ってくれる。
 だから、切磋琢磨する上では素晴らしい相手だと言える。なぜなら、俺の欠点をしっかりと理解できるから。

「ところで、サクラの心奏具はどんなものなんだ?」

「使える前提なのね。まあ実際使えるんだけど。見せてあげるわ」

 そう言ったサクラは右手を前に出す。
 おそらく、右手に握るなりする心奏具なのだろう。サクラが超火力アタッカーだったことは覚えているから、きっと強いはずだ。

関係かかわれ――ソローオブメモリー」

 サクラの右手に鉄製の手袋のようなものが現れる。ソローオブメモリーといったか。殴りつける心奏具なのだろうか。
 まあ何でも良い。すぐに分かることだ。

「あたしのソローオブメモリーは、殴ることもできるけれど。本質はそこじゃないわ。上級魔法だって好きに発動できる心奏具なのよ」

 それは恐ろしく強いな。
 上級魔法。俺が思いつくものでいうと、大爆発を起こすものとか、マグマを降らせるものとか。適当に使っているだけでも、相当な強さを発揮しそうだ。
 ただ、制御も相当難しそうだな。味方を巻き込まないだけでも一苦労だろう。

「俺のエンドオブティアーズは、剣と盾の一組。長さや大きさを操れるんだ」

「なかなか便利そうじゃない。あたしのソローオブメモリーほどじゃないにしろね」

 サクラの言う通り、実際俺のエンドオブティアーズはサクラのソローオブメモリーほど便利ではないだろう。
 とはいえ、俺の心奏具がエンドオブティアーズである以上、持っている手札でどうにかするしかない。

「とりあえず、お互いどの程度のものか見せ合おうじゃないか。訓練ならば、お互いの実力を知りたいだろう?」

「そうね。心奏具を出しなさい。相手をしてあげるわ」

「なら、遠慮なく。守護まもれ――エンドオブティアーズ!」

 俺も心奏具を展開してサクラと向かいあう。
 サクラは早速魔法を撃ってきた。レーザーのようなものだ。流石に当たっただけで大怪我はしないだろうが、必死に避けた。
 なんというか、出が早くて反射的にどうにかしないといけない。
 ただ、右手の動きでどこを狙っているのかは分かる。なので、一度どういうものか見てしまえば、かわすのは簡単だった。

「このっ、よく避けるわね! 当たりなさいよ!」

「負けてやるわけがないだろう! これならどうだ!」

 今のままでは近づける気がしないので、エンドオブティアーズの剣をサクラに向けて勢いよく伸ばす。
 すると、サクラは避けるために体勢を崩す。今のうちだ! 全力でサクラに向けて駆け寄っていく。
 ただ、剣を振り下ろす前にサクラは姿勢を元通りにしていた。なので、剣をソローオブメモリーで受けられてしまう。

「ちょっと驚いたけど、もう通じないわよ!」

 サクラはそう言うが、近づいてしまえば魔法は撃ちづらいだろう。
 ならば、全力で攻撃し続けるだけだ。
 剣を振り、かわされれば剣の形を変える。サクラは見た目に合わせて剣を避けようとするので、剣の形が変わると戸惑うようだ。

「攻守逆転だな! このまま押し切ってやるぞ!」

「そんな簡単に負けるわけ無いでしょ!」

 サクラは俺に向けて火を放つ。おそらく下級魔法だ。それでも、当たれば手痛い。なので、盾で防ぐ。
 そのまま空いている右手の剣で攻撃するが、サクラには避けられてしまう。
 ただ、これまで剣の形を変えてきた成果として、サクラの避ける動きは大きい。
 これならば、魔法を放つだけの余裕を持つことは難しいだろう。

「サクラ、追い詰めたぞ!」

「確かにね。でも、ここで終わりじゃないのよ!」

 サクラは拳を振り上げて、俺の剣に殴りかかる。
 俺の心奏具とサクラの心奏具がぶつかり合う瞬間、電気が発生した。なるほど。俺を感電させるつもりだったのか。
 だが、エンドオブティアーズは鉄ではない。よって、電気を通すこともないんだ。

「残念だったな、サクラ!」

 そのまま剣を振り下ろし、サクラに直撃する直前で止める。
 サクラは嘆息し、両手を挙げていった。

「なるほどね。心奏具はただの武器じゃない。そこらの剣や盾と同じ様な対策ではダメってわけね」

「そうだな。俺が持っていたのがただの剣なら負けていただろうが。今回は俺の勝ちだ」

「はぁ、悔しいわね。でも、いい勝負ができたわ。これからもよろしくね、リオン」

「ああ、もちろんだ。サクラとならば、いい切磋琢磨ができるだろう」

 それだけではない。サクラとならば、おそらくこの世界における最高の技が使える。
 心奏共鳴しんそうきょうめい。心奏具が使える2人が絆を紡ぐことで使える技。
 今すぐに使えるわけではないだろうが、大きな手札となってくれるはず。
 ただ、原作でディヴァリアは心奏共鳴を使わずに最強だったんだよな。
 だから、絆が重要な原作で、絆の否定者がコンセプトなのだろうと言われていた。

「いい時間だったわ。またね、リオン」

「ああ、またな」

 そのままサクラは去っていく。
 暇を持て余した俺は、ディヴァリアを探して話をすることに。すぐにディヴァリアは見つかって、世間話に興じていた。

「有翼連合の件は大変だったな。ディヴァリアはまた名声を上げたんじゃないか?」

「そうかもしれないね。名声を求めているわけでもないけど」

 まあ、名声の利用価値は考えているのだろうが。
 ディヴァリアならば、うまく名声を扱えるような気がする。おそらく、民衆を扇動することが最も得意なのだろうが。

「聖女様、だもんな。もはやこれ以上だと重荷なくらいじゃないか?」

「ありえるね。だけど、私なら大丈夫。うまくやってみせるから」

 実際にディヴァリアならばできるのだろう。天才だとしか思えないからな。
 それに、いざとなれば圧倒的な力でどうとでもできる。取れる手段の幅広さが、そのままディヴァリアの強さになっているんだ。

「なにか手伝えることがあったら、言ってくれよ」

「ありがとう。でも、大丈夫。リオンは自分の訓練に集中してね」

 確かに、俺はできるだけ力をつけたい。
 ただ、ディヴァリアの近くにいないと不安になる。何か悪事を見逃しているのではないか。そんな気がして。

「できることなら、いずれディヴァリアから一本くらい取りたいものだが」

「それは難しいかもね。私、強いから」

 実際、ディヴァリアは強いどころではない。その気になったならば、国すらも滅ぼせるのではないかと思えるほどに。
 単なる弱い人間でしかない俺としては、嫉妬してしまいそうだが。
 ディヴァリアならば、どんな敵でも負けないのだろうな。俺と違って。

「いつか、ディヴァリアと並び立てるくらいに強くなりたいな」

「リオンが隣に立ってくれるなら嬉しい。期待してるね」

 ディヴァリアがそう言うと、本当に頑張りたくなってしまう。
 いや、今でも努力しているはずなのだが。とはいえ、もっと。
 柔らかく惹きつけられそうな笑顔に、つい浮かれてしまいそうになる。俺といるときには冷たい表情が多いから、余計に。周りに人がいるときの笑顔とも、また別種だということもある。

「お前の期待には、応えたいものだな」

「リオンは何度も私の期待に答えてくれた。だから、きっと大丈夫」

 いったいどんな期待に応えていたのだろう。
 分からないが、ディヴァリアを喜ばせられているのなら、嬉しいと思ってしまう。

 ディヴァリアの顔を見ていると、突然よそ行きの顔になった。つまり、誰かが来たということ。
 周囲を見回すと、よく分からない男子生徒がいた。

「リオン・ブラッド・アインソフ! 君に聖女のそばはふさわしくない! 君に決闘を申し込む!」
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