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10章 一歩のその先

361話 友情の誓い

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 ルースが俺達の関係を堂々と宣言すると言っていたが、実質的には同盟の宣言だよな。ということで、そのような準備が進んでいるようだ。俺も慣れたもので、いつも通りに対応できている。

 今は、ルースやスミアと開催を待っている段階だな。ルースは前をまっすぐ見ながら立っていて、スミアはワクワクを隠しきれないといった様子だ。

 俺としては、少し緊張しているな。小市民的な感情が抜けないのか、大勢を前に演説のようなことをするのは毎回ドキドキする。

 ただ、ルースは落ち着いた様子だからな。それを見ると、安心できる。流石に、俺だって大きな失敗はしないだろうからな。

「さて、ルース。いよいよだな。お礼の内容は、教えてくれないのか?」
「楽しみに待っていることね。相応に価値あるものよ」

 この会合で何かお礼をされるということなのだが、内容を聞いていない。そうなると、どうしても怖さがあるな。フェリシアには頬にキスをされたし、ラナには忠誠の誓いをされた。そんなメチャクチャなサプライズが待っていないかと思ってしまう。

 どちらも、同盟の宣言としての場で行われたことだ。つまり、とんでもない形で外堀を埋められたことになる。今回ばかりは、普通の宣言で済んでほしいところだ。

「きっと、レックス様とルース様はもっといい関係になれちゃいます!」

 スミアはキラキラした笑顔で元気よく語っている。まあ、いい関係になるのは俺の望みでもあるのだが。ただ、いい関係という言葉の解釈次第では大変なことになる。極論、結婚でもいい関係と言えるからな。

 ルースならあり得ないにしろ、価値観が歪んでいたら奴隷と主ですらいい関係と言いかねない。とはいえ、フェリシアやラナだって、せいぜい外堀を埋める程度だった。だから、まあ大丈夫だとは思うのだが。

「なら、期待しておくか。本当に、妙な企みは勘弁してくれよ」
「あら、あたくしのことを信頼していないの? 悲しくってよ、レックスさん」

 ルースは流れてもいない涙を拭っていた。半笑いのようなトーンで言われても、何も信じられないんだよな。まあ、ルースを信頼していないかと言われたら、信じているつもりではあるが。

 ただ、それが俺に都合が良い行動をすることを意味するわけではないからな。価値観が違うのだから、当然ではある。なんというか、最終的に俺の利益になる前提でハメてきそうというか。

 総じて、敵になるかと言われたら即座に否定を返すが、俺をハメないかと言われたら肯定を返すあたりだろうか。まあ、普通の信頼関係だよな。

「俺を苦しめようとはしないだろうが、驚かせようとはする気がするんだよな」
「ふふっ、素敵な関係ですね! 憧れちゃいます!」

 スミアは、俺とルースのような友人関係を持ったことがないのだろうな。憧れるというのだから。とはいえ、スミアの言う素敵な関係になることは、きっとできるはずだ。

 これから先、スミアと仲良くできるのは間違いない。だから、スミアにも未来に希望を持ってほしいな。

「スミアだって、俺達の大切な仲間なんだからな。だから、一緒に行くんだろ?」
「ええ。あたくしの右腕だと、口にせずとも伝わるでしょうね」
「ルース様……! ずっと、着いていっちゃいますよ! どんな敵も、始末してみせます!」

 スミアは感動したかのように瞳をうるませていた。過去に苦労したのだろうと察せるところだ。まあ、ルースだって同じなのだろう。というか、この世界に生まれた時点でだな。

 だからこそ、俺は仲間だけでも幸せにしたい。誰かの幸福を踏みにじるのだとしても。理想を言えば、みんなが幸せな世界ではある。だが、優先すべきは仲間だ。それだけは、揺らいではならない。

 なにせ、この世界はどこまでも残酷なのだから。人の命が軽いのだから。迷っていては、大切なものを失うだけだ。

「まったく、物騒なことだ。さて、時間だな。準備は良いか?」
「あなたこそ。主役なのだから、堂々となさいな」
「分かっているさ。行こう、ふたりとも」
「ええ。あたくし達が対等だと、示してみせるわ」

 その言葉に合わせて、俺達は会場へと向かう。そこには、多くの民衆が列をなして待っていた。さあ、大舞台の始まりだ。しっかりしていかないとな。

 まずはスミアが、司会としての役割を果たしていく。

「みなみなさま! 我らが主であるルース様と、そのご友人であるレックス様がいらっしゃいましたよ!」
「誇りなさい。あたくしが築く時代をその目に焼き付けられることを。そして、新たなる英雄譚の始まりを語り尽くせることを」

 ルースはどこまでもまっすぐな目で宣言した。堂々とした姿には、俺も憧れてしまいそうだ。

「ルース様ばんざい! ホワイト家に栄光あれ! ブラック家に名誉あれ!」
「ルース様ばんざい! ホワイト家に栄光あれ! ブラック家に名誉あれ!」
「ルース様ばんざい! ホワイト家に栄光あれ! ブラック家に名誉あれ!」

 民衆も、ルースを歓迎していると言えば良いのか。ただ、少しだけ違和感があるのも事実だ。誰もが同じ言葉を発していて、画一的な動きをしている。まるで訓練したかのように。

 もしかして、この場にはルースの配下しかいなかったりするのだろうか。まさかな。視界一面に映るだけの数の人間を、完全に配下にするなんて。

 ということで、疑問を振り払って俺もルースの宣言に続いた。

「俺達の手で、未来をつかみ取ってみせる! 誰もが穏やかで平穏な日々を過ごせる未来を!」
「ええ。そして、あたくし達は手を取り合うわ。お互いの力を尽くして、未来を勝ち取るためにね」
「おふたりの紡ぐ未来に、期待しちゃいます! 私も、全力で支えますね!」

 その言葉に続いて、ルースはこちらに向き合った。胸を張って、じっと俺と目を合わせながら。

「誓うわ。他の誰でもないレックスさんに。あたくしは、あなたと対等になる。闇魔法という圧倒的な壁を乗り越える。特等席で見ていることね」

 そして、手を差し出す。握手の形に。当然、俺はルースの手をつかむ。

「ああ、もちろんだ。俺だって、負けるつもりはないけどな」

 俺の言葉に、ルースは微笑んだ。そして、更に言葉を続けていく。

「証を立てましょう。あなたの献身と誓いに報いるために。スミア、ナイフを」

 スミアはナイフと一緒に紙も持ってきていた。そして、ルースに渡す。よく見ると、ナイフは宝石や金で装飾されている様子だった。とても豪華に見える。

「さあ、血判状ですよ! ルース様の命ある限り、レックス様との友情は壊れない。その誓いです!」

 ルースは少しもためらわずに、指先にナイフを走らせた。そして、紙に指を押し付ける。血の証が、紙に染み付いていった。

 血判状となれば、俺も合わせる必要があるだろう。ということで、ルースからナイフと紙を受け取る。

「まったく。痛いのは嫌なんだが……。だが、お前の覚悟には応えるよ」

 そして、俺も血判を押した。ルースは紙を受け取り、大事そうに抱え込んだ。

「ええ。あたくしは、何度でもあなたを支えてみせる。そうなれるように、強くなるわ。だから、ずっとレックスさんのままでいて」
「ああ。お前が誇れる友であり続けるよ」
「これが、証よ。あなたとあたくしは、同じ魂を抱えるのよ」

 そうして、ルースは俺に、ルースが持っているナイフを手渡してきた。同じナイフを、ルースは懐から取り出す。なるほどな。友情の誓いにふさわしい贈り物かもしれない。

 手渡されたナイフに込められた誓いは、必ず果たしてみせる。そう決意して、ルースに笑顔を向けた。
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