上 下
336 / 374
10章 一歩のその先

335話 先手を取って

しおりを挟む
 今のところは、ホワイト家で取るべき方針がハッキリしたというところだろう。カールを始めとした内部の反対勢力、アイボリー家のような外部の敵対勢力。それらに対して、策を練っていくことになる。

 とはいえ、俺はルースの指示通りに力を使うだけだ。そうすることが、結果的にはブラック家にもホワイト家にも良い方向に進むきっかけになるだろう。良くも悪くも、ルースは戦略家だからな。

 結構悪い計画も練っているようだが、乗るべきだろうな。少なくとも、俺をハメるような意図はないのは分かりきっている。ルースだって、俺との関係を大事にしてくれているんだからな。

 ということで、いつも通りにルースの策を聞いているところだ。ニヤリとした笑みを浮かべて、ルースはこちらに話しかけてくる。さて、どんな策があるんだろうな。

「さて、レックスさん。あなたには、付き合ってもらいたいことがあってよ」

 早速来たな。とりあえずは、付き合う予定ではあるが。ルースのことだから、それなりに大変なことをさせて来ようとするんじゃないだろうか。俺を使い倒すみたいなことを言っていた気もするし。何より、本人が努力家だからな。その基準で判断しそうではある。

 まあ、俺だって相応に強いからな。大抵のことでは、難しいとは思わない。知恵比べなら、話は別だが。とはいえ、策を練るのはルースだからな。必要とされるのは、俺の魔法だろう。だから、気楽なものだ。

「よほどの無理難題でなければ、構わないが。どうせ乗りかかった船だからな」
「話が早いのは、良いことでしてよ。あたくし達で、アイボリー家に会いに行くのよ」

 ふむ。敵情視察か何かだろうか。まさか初手でカチコミに行くことはないよな? いくらなんでも、大義名分くらいは用意してほしいところだ。いや、釈迦に説法だとは思うが。

 とにかく、何を計画しているのかを知りたいところだな。全部は説明されないとしても。

「ああ、敵対している家だったか? 会いに行くってことは、今は戦わないんだよな?」
「そうね。面会はあくまで擬態よ。レックスさんの魔力を、侵食させたいのよ」

 なるほど。確かに有効な手段だ。それさえあれば、いつでもアイボリー家に転移できる。こちらが相手の首をつかんでいるようなものになるな。

 そして、アイボリー家が魔力の侵食に気づくとは限らない。というか、魔力探知は相応に難しい技能だからな。特に、すでに侵食した魔力に対しては。

 どうしても、自分から魔力を通して探ろうとしなければ、侵食した魔力を探知することはできない。疑わないことには、きっかけすらつかめないんだよな。

「ああ、そういうことか。いつでも転移で攻め込めるようにする訳だな?」
「他にも、アイボリー家に罠を仕掛けておきたいわね。いざという時は、暗殺でもできるように」

 えげつないな。その気になれば、ホワイト家に居ながらにして敵を殺せる。何がどうなったのかも分からないまま、相手は死ぬことになるだろう。

 とはいえ、そう何度も使える手ではないな。俺が訪問した家の相手が殺されているという情報にたどり着かれたら、当然警戒される。闇の魔力に関してだけなら、遠隔操作して痕跡を消してしまえば良いのだが。

「悪辣だな。まあ、敵に対するものだと思えば当然か」
「レックスさんは、甘いわね。始まった時には終わっている。それが理想なのよ」

 戦いというのは、事前の準備でほとんどが決まる。前世でも聞いたことがあるな。だから、セオリー通りと言えばそうなのだろう。敵に回したくないことだ。俺だって、ルースが相手なら追い詰められかねないのだから。

 単純に戦うだけなら、俺が勝つと思う。だが、からめ手が強すぎるからな。相当な被害を想定しないといけないだろう。

「同意するところではあるが。どうせなら、戦いそのものを無くしたいところだな」
「相手次第で変わることなんかに、期待はできなくってよ」
「なら、俺との関係にも期待していないのか? なんて、そんな訳無いよな」
「レックスさん、ずいぶんと悪いことを言うようになったわね。誰の影響でして?」

 ルースの方も、からかうような態度で返してくる。ルースの方が、よほど悪いことを言っていると思うが。まあ、ルースが悪いことを言ったから、俺が許されるわけでもない。気をつけるべきことだな。

「ルースとかスミアとかじゃないか? 俺も勉強しているんだよ、お前達の策を」
「まったくもう。褒めるのかそうじゃないのか、ハッキリさせなさいな。困った人ね」
「基本的には、褒めているぞ。俺には無いものを持っているんだからな」
「圧倒的な力を持っておいて、よくもまあ。でも、そんなレックスさんだから、あたくしは友人だと思っているのよ」

 まあ、捉え方によっては、バカにしていると思われてもおかしくはないか。真正面から戦えば、大抵の場合は俺が勝つだろうからな。まあ、ルースなら分かってくれると思って言っているのだが。

 実際、俺が勝っているのは単純な力くらいのものだろう。それは事実だ。

「お互い様だな。ルースの努力を見ているからこそ、俺もルースが好きになれたんだし」
「ずいぶんと軽く好きというものね。やはり、レックスさんはレックスさんね」
「いくらなんでも、今のが嫌味なのは分かるぞ。まあ、構わないが」
「本音なのが、厄介なところよね。あたくしを好きで居るのは、助かるけれど」

 どの言葉が本音なのが、厄介なのだろうな。まあ、ルースは機嫌を損ねたような顔はしていない。だから、そこまで困っている訳ではないのだろうが。いくら表情を隠せる人だとはいえ、友人関係でまで完全に本心を消すとは思えないのだし。

 ルースが尊敬できる人であることは、間違いないからな。だから、その気持ちはしっかりと伝えたいところだ。

「お前が好きじゃなかったら、ここまで手伝ったりしないさ」
「スミアが困惑するのも、よく分かってよ。あたくしは、もう慣れたけれど」

 笑いながら言っているあたり、嫌ではないのだろう。まあ、困惑させるのは大変なことなのだが。スミアとも、これから仲良くしていきたいものだよな。ルースを支えてくれる限りは、俺にとって大事な相手なのだから。

「そこまでおかしい事を言っているのか? 大切な友人に、大好きだと伝えているだけだぞ」
「あたくしが異性だということを、忘れているんじゃなくって? 困った人ね、もう」

 ルースの方から、俺を友人と言っていた気がするのだが。まあ、関係を考えなければセクハラになってもおかしくはないのか。親しき仲にも礼儀ありだし、気をつけるのは悪くない。

 だが、俺達はいつ会えなくなるか分かったものじゃない。だからこそ、大切な感情は伝えておきたいんだ。ルースが大好きであることは、間違いなく本音なのだから。それが異性としてかどうかは、また別の話として。

「それは悪かったよ。でも、言いたいことは言えるうちに言っておきたいからな。そうじゃないと、言えない可能性もある」

 実際、父を殺すことになるなんて、俺は想定していなかった。正確には、思っていたより早く殺すことになった。いや、最初は敵だと思っていたんだが。その感情が変わったことも、結局は伝えられなかったからな。

「分かっていてよ。さあ、レックスさん。言いたいことを言える関係のために、あたくしの敵を共に倒しましょう?」

 不敵に笑うルースとなら、どんな敵にでも勝てるような気がした。カールだろうがアイボリー家だろうが、ルースの敵になるのなら潰すまでだ。そう誓って、まっすぐにルースに頷いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...