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9章 価値ある戦い

306話 本当と嘘

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 ミーアが用意してくれた、親しい人とのお茶会。その準備を終えたとのことで、今はその会場に転移するところだ。

 久しぶりに会うので、少し緊張する。みんなは、前と変わっていたりするのだろうか。悪い方向でなければ、変化も楽しみたいところではあるが。ちょっとやそっと変わったくらいでは、友達でなくなったりはしないだろうからな。

 ということで会場にたどり着くと、そこには3人が待っていた。黒髪のミュスカは、穏やかな笑顔を向けてくる。緑髪をまとめたハンナは、真面目な顔で手を振ってくる。白い髪のルースは、どこか不敵な顔だ。

 それぞれの態度を見て、懐かしさが湧き上がってきた。ミュスカは表向き穏やかだが、腹黒い一面もある。ハンナは印象通りの真面目な人だ。ルースは強気なお嬢様といった風情だったな。今でも、昔の会話を思い出せそうだ。

「久しぶりだな、みんな。顔を見られて、嬉しいよ」
「呑気なことですわね。まあ、レックスさんらしくてよ。あたくしも、まあ悪くない状況よ」

 ルースは相変わらず挑発的だ。まあ、そういうところもらしいと思う。誰よりも真剣に努力していて、それが表にも出ているというのが正確なところだな。これからも、お互いに高め合っていけたら良いよな。

「わたくしめは、近衛騎士に任じられました。それは、良い報告と言えるでしょうね」

 ハンナはまっすぐにこちらを見ている。ただ、ほんの少し影があるような気がする。もしかしたら、気をつけた方が良いのかもしれないな。こちらはこちらで余裕がないから、様子を見ながらになるだろうが。

「私は元気だよ。レックス君、贈ったチョーカーをつけてくれているんだね。嬉しいな」

 ミュスカは、いつも通りの優しげな表情をしている。本当に再会を喜んでくれているんだと信じよう。いくら裏に感情を隠していたって、それで悪人になるわけじゃないんだから。言葉を素直に受け取るのが、大事なことだよな。

「ハンナ、目標を達成したんだな。ふたりも元気みたいで、良かったよ」
「ありがとうございます、レックス殿。貴殿に褒めていただくことだけは、嬉しいですね」

 だけはというと、他のことは嬉しくないかのような。何かあるのだろうか。今ここで、聞き出した方が良いだろうか。いや、せっかくのお茶会だ。あまり楽しくない話は、通話で聞くという手もある。

 いずれにせよ、ハンナが言いたいかどうかも大事なところだからな。なにか悩みがあるのなら、聞きたいところではあるが。解決する手段もあるかもしれないし。

 まあ、今すぐは難しいよな。きっと、弱みを見せるにしても、そういう雰囲気が必要な人だ。

「……? 喜んでもらえたのなら、何よりだ。俺は、まあ知っての通りだな」
「有象無象に好かれることを捨てるからですわよ。あなたは、親しい人を優先しすぎるのよ」
「そこが、レックス君の素敵なところでもあるんだけどね。私は、だからレックス君が好きなんだし」

 実際、親しい人以外からの評判は悪いからな。アストラ学園でも、割と避けられていたし。とはいえ、向こうから嫌ってくるのだから、どうしようもない。

 悪いことを一切していないなんて言うつもりはないが、それ以前の問題に思えるからな。努力どうこうで済む話なのだろうか。

 とはいえ、人に好かれることを意識するのは必要なことだろう。悪しざまに言えば、人気取りに走るような。

「まあ、貴族としては、評判は大事なんだろうな。ただの個人だった時の感覚は、なかなか抜けないな」
「レックスさんは、どうにも小市民らしさがありますもの。優雅ではなくってよ」
「優雅なレックス殿は、似合わなそうでありますね……」

 まあ、貴族貴族した俺はあまりイメージできない。小市民らしさというのは、まあ正解だよな。前世では、いわば平民だったわけで。貴族も何も無い国の生まれだとはいえ。

「俺だって想像できないな。それに、ルースは今の俺の友達で居てくれるだろ?」
「仕方ないから、そうしてあげましてよ。レックスさんは、あたくしが大好きですわよね」
「私のことも、大好きだと思うよ。ずっと好きで居てくれる人は、素敵だと思うな」

 そう言葉にされると、気恥ずかしいものがある。ルースはからかうような物言いだからまだしも、ミュスカは真剣に言っているように見えるからな。まあ、大好きなのは否定するつもりはないが。大切な友達だというのは、間違いないことだ。

 わざわざ好きという感情を否定しても、お互いに良いことは何も無いよな。とはいえ、素直に肯定するのもむずがゆくはあるが。

 まあ、普通に返答すればそれで十分だよな。その方向性でいこう。

「だからこそ、もっと気軽に会いたいものだが。ブラック家と周囲の関係の改善は、そういう意味でも大事だろうな」
「堂々とレックス殿の味方ができれば、わたくしめも嬉しいですね」
「あたくしも、コソコソとした友人関係は望むところではないわ」
「そうだね。大好きな人と会う幸せを、邪魔されたくないよね」

 本当に、3人の言う通りだよな。誰にはばかることなく仲良くできるのなら、それが一番に決まっている。まあ、アストラ学園ではそうできていたのだが。

 今となっては、お互いの家の存在が足を引っ張る部分はある。みんなにも、みんなの事情があるだろう。それを妨害しないように気を付けないといけない。どうにも、面倒なものだ。

 黒幕が誰なのか次第で、俺達の関係には大きな影響が出るだろうからな。できれば、何もない事を祈るばかりだ。

「まずは、誰が黒幕なのかを探り当てたいところだな。そうすれば、不安を抱えずに会えるはずだからな」
「あたくしも、できる範囲で力を貸しますわよ。あたくしが超える前に死なれては、張り合いがなくってよ」
「わたくしめも、ミーア様やリーナ様の手伝いをする所存でございます」
「私は、そのチョーカーがレックス君を守ってくれるように祈るよ。きっと、そこに込めた力が役に立つ瞬間もあるからね」

 みんな、俺を心配してくれている。大切に想ってくれている。それを返すためにも、まずは勝たないとな。その後で、もしみんなが困っているのなら、それを解決する手伝いをするだけだ。

 お互いに迷惑をかけながらも、大事なところでは助けあう。それが友達というものだろうからな。そんな決意を込めて、言葉にしていく。

「ありがとう。みんなの気持ちがあるだけでも、頑張る力が湧いてくるよ。今日会えて良かった」
「わたくしめも、貴殿に想われているという事実が力をくれますから。お互い様です」
「そうだね。大好きで居てくれる人の存在は、とっても大切だよ」
「ええ。あたくしも、否定しませんわ。だからこそ、負けるんじゃなくってよ」

 みんなは笑顔のはずなのに、どこか何かを隠しているように見えた。
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