307 / 392
9章 価値ある戦い
306話 本当と嘘
しおりを挟むミーアが用意してくれた、親しい人とのお茶会。その準備を終えたとのことで、今はその会場に転移するところだ。
久しぶりに会うので、少し緊張する。みんなは、前と変わっていたりするのだろうか。悪い方向でなければ、変化も楽しみたいところではあるが。ちょっとやそっと変わったくらいでは、友達でなくなったりはしないだろうからな。
ということで会場にたどり着くと、そこには3人が待っていた。黒髪のミュスカは、穏やかな笑顔を向けてくる。緑髪をまとめたハンナは、真面目な顔で手を振ってくる。白い髪のルースは、どこか不敵な顔だ。
それぞれの態度を見て、懐かしさが湧き上がってきた。ミュスカは表向き穏やかだが、腹黒い一面もある。ハンナは印象通りの真面目な人だ。ルースは強気なお嬢様といった風情だったな。今でも、昔の会話を思い出せそうだ。
「久しぶりだな、みんな。顔を見られて、嬉しいよ」
「呑気なことですわね。まあ、レックスさんらしくてよ。あたくしも、まあ悪くない状況よ」
ルースは相変わらず挑発的だ。まあ、そういうところもらしいと思う。誰よりも真剣に努力していて、それが表にも出ているというのが正確なところだな。これからも、お互いに高め合っていけたら良いよな。
「わたくしめは、近衛騎士に任じられました。それは、良い報告と言えるでしょうね」
ハンナはまっすぐにこちらを見ている。ただ、ほんの少し影があるような気がする。もしかしたら、気をつけた方が良いのかもしれないな。こちらはこちらで余裕がないから、様子を見ながらになるだろうが。
「私は元気だよ。レックス君、贈ったチョーカーをつけてくれているんだね。嬉しいな」
ミュスカは、いつも通りの優しげな表情をしている。本当に再会を喜んでくれているんだと信じよう。いくら裏に感情を隠していたって、それで悪人になるわけじゃないんだから。言葉を素直に受け取るのが、大事なことだよな。
「ハンナ、目標を達成したんだな。ふたりも元気みたいで、良かったよ」
「ありがとうございます、レックス殿。貴殿に褒めていただくことだけは、嬉しいですね」
だけはというと、他のことは嬉しくないかのような。何かあるのだろうか。今ここで、聞き出した方が良いだろうか。いや、せっかくのお茶会だ。あまり楽しくない話は、通話で聞くという手もある。
いずれにせよ、ハンナが言いたいかどうかも大事なところだからな。なにか悩みがあるのなら、聞きたいところではあるが。解決する手段もあるかもしれないし。
まあ、今すぐは難しいよな。きっと、弱みを見せるにしても、そういう雰囲気が必要な人だ。
「……? 喜んでもらえたのなら、何よりだ。俺は、まあ知っての通りだな」
「有象無象に好かれることを捨てるからですわよ。あなたは、親しい人を優先しすぎるのよ」
「そこが、レックス君の素敵なところでもあるんだけどね。私は、だからレックス君が好きなんだし」
実際、親しい人以外からの評判は悪いからな。アストラ学園でも、割と避けられていたし。とはいえ、向こうから嫌ってくるのだから、どうしようもない。
悪いことを一切していないなんて言うつもりはないが、それ以前の問題に思えるからな。努力どうこうで済む話なのだろうか。
とはいえ、人に好かれることを意識するのは必要なことだろう。悪しざまに言えば、人気取りに走るような。
「まあ、貴族としては、評判は大事なんだろうな。ただの個人だった時の感覚は、なかなか抜けないな」
「レックスさんは、どうにも小市民らしさがありますもの。優雅ではなくってよ」
「優雅なレックス殿は、似合わなそうでありますね……」
まあ、貴族貴族した俺はあまりイメージできない。小市民らしさというのは、まあ正解だよな。前世では、いわば平民だったわけで。貴族も何も無い国の生まれだとはいえ。
「俺だって想像できないな。それに、ルースは今の俺の友達で居てくれるだろ?」
「仕方ないから、そうしてあげましてよ。レックスさんは、あたくしが大好きですわよね」
「私のことも、大好きだと思うよ。ずっと好きで居てくれる人は、素敵だと思うな」
そう言葉にされると、気恥ずかしいものがある。ルースはからかうような物言いだからまだしも、ミュスカは真剣に言っているように見えるからな。まあ、大好きなのは否定するつもりはないが。大切な友達だというのは、間違いないことだ。
わざわざ好きという感情を否定しても、お互いに良いことは何も無いよな。とはいえ、素直に肯定するのもむずがゆくはあるが。
まあ、普通に返答すればそれで十分だよな。その方向性でいこう。
「だからこそ、もっと気軽に会いたいものだが。ブラック家と周囲の関係の改善は、そういう意味でも大事だろうな」
「堂々とレックス殿の味方ができれば、わたくしめも嬉しいですね」
「あたくしも、コソコソとした友人関係は望むところではないわ」
「そうだね。大好きな人と会う幸せを、邪魔されたくないよね」
本当に、3人の言う通りだよな。誰にはばかることなく仲良くできるのなら、それが一番に決まっている。まあ、アストラ学園ではそうできていたのだが。
今となっては、お互いの家の存在が足を引っ張る部分はある。みんなにも、みんなの事情があるだろう。それを妨害しないように気を付けないといけない。どうにも、面倒なものだ。
黒幕が誰なのか次第で、俺達の関係には大きな影響が出るだろうからな。できれば、何もない事を祈るばかりだ。
「まずは、誰が黒幕なのかを探り当てたいところだな。そうすれば、不安を抱えずに会えるはずだからな」
「あたくしも、できる範囲で力を貸しますわよ。あたくしが超える前に死なれては、張り合いがなくってよ」
「わたくしめも、ミーア様やリーナ様の手伝いをする所存でございます」
「私は、そのチョーカーがレックス君を守ってくれるように祈るよ。きっと、そこに込めた力が役に立つ瞬間もあるからね」
みんな、俺を心配してくれている。大切に想ってくれている。それを返すためにも、まずは勝たないとな。その後で、もしみんなが困っているのなら、それを解決する手伝いをするだけだ。
お互いに迷惑をかけながらも、大事なところでは助けあう。それが友達というものだろうからな。そんな決意を込めて、言葉にしていく。
「ありがとう。みんなの気持ちがあるだけでも、頑張る力が湧いてくるよ。今日会えて良かった」
「わたくしめも、貴殿に想われているという事実が力をくれますから。お互い様です」
「そうだね。大好きで居てくれる人の存在は、とっても大切だよ」
「ええ。あたくしも、否定しませんわ。だからこそ、負けるんじゃなくってよ」
みんなは笑顔のはずなのに、どこか何かを隠しているように見えた。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
告白をしていないのにふられた俺はイケメン女子とハーレムを目指す
山田空
恋愛
部長に恋をした俺は部長に恋愛相談をされる。
全てがいやになった俺は男友達に部長のことが好きだったことと部長に恋愛相談をされたことの2つを口にする。
そしたら「それなら僕と付き合ってみないかい?」
そんなことをいってくるのでもちろん俺は断ろうとするのだが
「俺たちは男だ……別にその気持ちを否定するつもりはないがその」
「……うんああ僕は女だよ」
「は?」
「それじゃあ付き合えるよね」
「いやまあそうだけどうん……でもえ?」
まさかの男友達(女)と付き合うことになった。
でも実は俺のことを好きな人は男友達(女)だけではなかったみたいで
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる