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9章 価値ある戦い

297話 求める強さ

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 俺がとある街の近くにいると、みんなが噂を流してくれたらしい。人の動きも、ある程度は確認できているんだとか。

 ということで、計画に向けて動いていくつもりだ。事前に現地に魔力を侵食させておいて、いつでも移動できるようにしている。その気になれば、現地に入った人間を遠隔でも殺せるだろうな。敵を見分ける手段がないから、虐殺になりかねないが。

 結局のところ、直接会って殺す以外の手段はないだろうな。まあ、力の差を見せつけて心を折るという選択もある。ただ、後で徒党を組まれても困るし、情報を集められても困る。

 俺はとても強いとはいえ、弱点だってあるはずだ。それを分析させないためにも、目撃者は生かしておかない方が都合が良い気がするんだよな。

 今となっては、完全に人殺しの思考だよな。笑えてきそうだ。だが、そこで手を抜いて親しい人が傷つくくらいなら、俺は何度でも殺すだろう。そうあるべきだ。

 さて、これからが本番だ。一応、最後の確認をしておくか。

「姉さん、メアリ、準備は良いか? 転移して、人目につきながらうろつく予定だが」

 そうすることで、俺の姿を見た人から情報が流れたり、あるいは俺を狙っている人に見つかったりすることが狙いだ。

 街中で襲われたら面倒ではあるのだが、流石に一対一を選ぶようなやつは少ないだろう。俺が闇魔法使いだというのは、当然敵も知っているだろうからな。

 基本的には、徒党を組んで襲われるはずだ。そのためにも、人気のない場所に向かうつもりだ。そこで攻撃してもらうために。

「今更よね。さっさと片付けて、もっと訓練したいものだわ」
「メアリも、もっと魔法がうまくなりたいなあ」

 ふたりとも、退屈そうにぼやいている。まあ、あまり楽しい時間にはならないだろうな。そう考えると、仕方のない部分もある。

 とはいえ、やる気を出してほしくはある。鉄火場で集中が切れたりしたら、大変だからな。一応、声をかけておくか。

「あんまり良くないかもしれないが、今回も練習だと思うのはどうだ?」
「どうかしらね。ただのザコなら、何人居ても同じでしょ」
「思いっきり魔法を撃てるのなら、楽しそう!」

 少なくともメアリは、気合いが入ったみたいだ。なら、言っただけの価値はあるな。しかし、カミラはつまらなさそうだな。弱い敵を殺すのは、そんなに嫌なのだろうか。

 まあ、分かる部分はある。カミラの向上心は、相当なものだ。だから、自分の成長に繋がらないのは嫌なのだろう。それでも、万が一だけは避けてほしいものだが。

「そうか。まあ、油断はしないでくれよ。さあ、行くぞ」

 ということで、開けた場所に向かう。すると、剣や杖などの武器を持った人間がぞろぞろとやってきた。

 俺も魔法を敵にぶつけられるように、意識を切り替えていく。

「居たぞ、あいつがレックスだ! やっちまえ!」

 そういえば、誰が殺したかで懸賞金の受け取りの時に揉めないだろうか。いや、どうでも良いと言えばどうでも良いのだが。少し、気になった。

 いざという時には、仲間割れを誘発できるかもしれない。それなら、頭の片隅くらいには置いておいても良いかもな。

 まあ、まずは敵を倒すことだよな。戦意をくじくところから始めようか。

「その程度の魔力で、俺が……」
「遅いのよ、バカ弟。あたしが、さっさと終わらせてあげるわ」

 俺が舌戦を仕掛けようとしたら、その前にカミラが動き出していた。目にも止まらぬ速さでまずは一人切り裂き、また何人も切り裂いていく。

 そして人が倒れだした頃、ようやく生き残った敵が反応しだす。

「なんだあれ、見えねえ……ぐわあ!」
「た、助けて……いぎい!」

 背を向けて逃げ出そうとする敵も居たが、優先的にカミラが切り捨てていく。完全に、誰も逃さないつもりなのだろう。ありがたいが、覚悟が決まり過ぎじゃないか?

 まあ、本来俺がやるべきことだった。それを代わらせてしまったんだから、素直に受け入れるのが道理だろうが。

 カミラは、冷たい目をし続けたままだ。そのまま、動かなくなった敵を見ている。

「もう逃げ出すのね。その程度の力しかないのなら、身の程知らずにもほどがあるわよ」
「待て! レックス・ダリア・ブラック! 俺はトーマ! お前に、一騎打ちを申し込む!」

 死体の影から、敵が出てきた。うまいこと、生き残ったらしい。カミラには勝てなくても、俺には勝てると判断したのだろうか。そうだとすると、間違っていると言う他ないのだが。

 どうするかを考えていると、その間にカミラが前に出ていた。

「ふーん、気概のあるやつも、居るみたいね。それとも、ただの馬鹿かしら。ま、話くらいは聞いてあげてもいいわよ」
「女、お前に用はない! レックスを討って、俺は名を上げる! そして、帝国の皇帝になってやるんだ!」

 そういえば、帝国は実力で成り上がれる国だったな。俺に挑むよりも、帝国に向かった方が良いと思うが。まあ、相手の行動なんてどうでも良い。どうせ死ぬ存在でしかないのだから。

「それほどできるようには見えないけどね。バカ弟、見てなさい。あたしが、確かめてあげるわ」
「ふざけるな! レックスを出せ……! くっ!」

 カミラが斬りかかると、トーマとやらは剣で受け止める。とはいえ、それだけで大きく後ずさっているのだが。完全に、格付けは済んだように見える。

 さて、相手はどう出てくるかな。一応、横入りできるようにはしておくか。

「……へえ。一応、今の一撃では死なないのね。思っていたよりは、見どころがあるわ。……でも、無意味よね」
「何をバカな……。この技に、対処できるか!? 三重反発剣トライマジックソード!」

 基本的な魔法と剣を組み合わせた攻撃か。3つの属性を剣に込めて、その反発を敵に叩きつける。俺の無音の闇刃サイレントブレイドを大幅に劣化させたような技だが、一般人基準では見どころのある存在と言っていいだろう。

 だが、カミラは冷たい目を崩さない。まあ、どう考えても対処できるものな。そのまま、カミラは魔力を収束させて剣を振り下ろす。

迅雷剣ボルトスパーク。これで、終わりね」

 敵は、剣ごと叩き切られていった。あっけないものだったな。まあ、カミラが強いだけではあるのだろうが。もはや、三属性トリキロくらいなら勝負にすらならないか。

「そんな……。俺は、皇帝に……なる、ために……」

 そのまま、敵は事切れる。周囲の様子を探ると、もう敵は見当たらなかった。ということで、カミラをねぎらうとするか。

「姉さん。少しは、手応えがあったか?」
「いいえ、全然。小手調べすらも突破できないんだもの。退屈だわ」

 本当に、つまらなそうだ。声だって、やる気のないものだからな。まあ、一撃二撃で終わるような敵と戦って、退屈を感じるのは当然か。命がけの戦いなら、楽ができるのは良いことだとも思うが。

 少なくとも、カミラの成長には繋がらないのだろうな。それだけは分かる。

「お姉様、ずるい! メアリの分も、残してほしかったのに!」
「ありがとう、メアリ。姉さんを巻き込まないように、気を使ってくれたんだな」
「お兄様が褒めてくれるのなら、我慢するの」

 そう言いながら、メアリは抱きついてくる。本当に、可愛らしいものだ。まだまだ甘えんぼって感じだよな。そんな子に、戦わせている。罪悪感もあるが。

 とはいえ、戦いの術を知らないままでは、これから先の事件で苦しむだけだろう。だから、必要なことなのだと思うしかない。

「まったく、まだ敵がいるかもしれないって、ちゃんと分かっているのかしら」
「俺の探知には、引っかかっていないが」
「ふーん、完全に気を抜いたって訳じゃないのね。ま、褒めてあげてもいいわ」

 カミラは、穏やかな表情に戻った。なんだかんだで、俺のことを大事にしてくれている。今みたいなところからも伝わるよな。ありがたいことだ。

「そうだな。これ以上は、落ち着ける場所でにしようか」
「お兄様、いっぱい甘えさせて!」
「メアリったら、何もしてないじゃない」
「お姉様が敵を全部取っちゃうんだもん!」
「あまり喧嘩はしないでくれよ。きっと、これからも戦いは続くんだろうからな」

 命を捨ててでも金を手に入れようとする人間なんて、いくらでも居るだろうからな。ため息を吐きたかったが、目の前の二人のために我慢した。

 本当に、さっさと終わらせて、平和な日常に戻りたいものだ。心からそう思った。
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