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7章 戦いの道

254話 フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットの未来

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 わたくしは、進めてきた計画通りに、周囲の貴族たちに睨まれる動きを続けました。その結果として、兵たちを動かす準備を進めているという情報が入りました。

 ということで、間に合わなくなる前に、レックスさんを誘いに向かいましたわ。わたくしが、周囲の家に狙われていると伝えるために。

 レックスさんは、当然のようにわたくしを心配していました。やはり、大切にされていると実感できますわね。胸にじんわりと届く暖かさを、確かに感じていましたわ。

「さて、レックスさんは手伝ってくれましたわね」

 ヴァイオレット家に、客人としてやって来ました。とはいえ、あまり彼に干渉はしていないのですが。レックスさんは、どこか人見知りのような側面がありますから。

 基本的に、自分から人に話しかけることは稀なんですわよね。相手からの言葉があって、初めて返答するというか。

 ですから、アリアさんとウェスさんを連れてきてもらったことは、ちょうどよかったと思います。もちろん、カミラさんやメアリさんの存在も。

 レックスさんは、いつも通りの日常に近い生活を望んでいる。それは分かりやすいですからね。まあ、非日常の象徴でもある、戦闘に巻き込むのがわたくしなのですが。

「まずは、ネイビー家ですわね。わたくしの力を示して、まずは一歩目を」

 エトランゼを釣るためには、まずは勝たなくては話になりませんから。わたくしが苦戦する姿を見せれば、きっと心配してくださりますし。それに何より、わたくしの力を証明する必要がありますもの。

 いくらレックスさんに届かないとしても、最低限満たしておくべき強さというものはありますから。何の役にも立てない存在でなど、あって良いはずがありませんもの。

 ですから、気合いが入りましたわね。とはいえ、そう苦戦することはありませんでしたけれど。

「存外、容易でしたわね。もはや、ただの三属性トリキロでは足りませんわ」

 とはいえ、カミラさんやメアリさんに勝てるとは言い切れません。ミーア殿下やリーナ殿下にも。当然、フィリス・アクエリアスにも。むしろ、負ける可能性の方が高い。いえ、勝てる可能性など、ほとんどゼロに近いのでしょう。

 ですが、わたくしは確かに強くなった。レックスさんが信じた通りに。かつて、三属性トリキロにも勝てると言っていたはずですもの。

 それでも、まだ足りませんわよね。ただ期待に応えるだけなら。わたくしは、それ以上を目指しますわよ。だからこそ、目の前の課題から、しっかりとこなしていく必要がありますわ。レックスさんと同じように、ね。

「続いては、ペール家。わたくしを助けたいと、思ってもらいましょう」

 集団で魔法を使う部隊は、確かに厄介です。ですが、どうにか倒すための手段は用意していました。それでも、レックスさんがどう動くか、とても興味があったのです。

 レックスさんは、なにか策を思い浮かべた様子でした。それがどんなものであれ、受け入れるつもりでしたわ。彼が、わたくしを想って紡いでくれた策ですもの。それに、わたくしには手段がありましたから。レックスさんが失敗しても、どうにでもできる自信は、ありましたから。

 結果としては、うまく行ったのですが。わたくしを危険にさらさないように、細心の注意を払ってくださった。それが分かって、満足できましたわ。

「なるほど。アリアさんに頼りましたか。まあ、悪くはありませんわね」

 アリアさんも、レックスさんが扱える戦力であること。そして、わたくしを助けるつもりがあるということ。これから役立つ情報が、手に入りましたもの。

 わたくしも、アリアさんやウェスさんと共謀する。それも、ひとつの手段だと理解できましたわ。メイドとしての彼女たちの望みは、レックスさんの幸福でしょうから。それなら、手を取り合うことはできるでしょう。

 当然、わたくしだって、レックスさんが幸せであることは大事だと考えていますもの。なにせ、パートナーなんですから。

 着々と、わたくしの目標に近づいている実感はありましたわ。レックスさんとわたくしが、名実ともにパートナーとなることに。あと数歩のところにまで、迫っていたのです。

「さて、最後はエトランゼさん。わたくしの真価を試す時ですわよ」

 わたくしが、どこまで強くなったのか。いずれ、どこまでたどり着けるのか。その試金石として、エトランゼさんはちょうど良い存在でした。

 ただ、レックスさんがエトランゼさんを気に入ってしまったことには、納得と同時に悔しさもありましたわ。わたくしの敵と知っていて、それでも敵意だけではないのだと思うと。

 歯を食いしばりそうになっているわたくしが、確かに居たのです。それでも、表には出していないはずですが。優雅ではありませんもの。

 エトランゼさんとの戦いは、一筋縄ではいきませんでしたわね。わたくしの今の実力は、本物の強者には勝てない程度。そう、理解することになりましたもの。

「レックスさんが居なければ、勝てませんでしたわね。やはり、限界が見えてきましたわ」

 レックスさんに貰った、杖とネックレス。それがなければ、勝ち筋はなかった。結局のところ、ただのわたくしでは勝てなかった。その事実は、拳を強く握るに足りるものでした。

 ただ、今の段階で理解できたことにも、確かに意味はあるのです。単なる力だけでは足りないと、魂で知ることができたのですから。

「だからこそ、この先の計画が役に立つのです。ずっと温めてきたんですもの」

 わたくしとレックスさんの関係を、大勢の前で知らしめる。それこそが、最大の目標でした。だって、本当の意味で、わたくしとレックスさんがパートナーになれるのですから。

「レックスさんは、わたくしとの同盟を喜んでくれますわよね?」

 わずかに不安もありました。ひとりで考えている時に、自分を抱きしめてしまう程度には。ですが、レックスさんは快諾してくださった。ですから、もう結果は決まっていたのです。

「さて、後は本番だけですわね。ふふっ、きっと驚いた顔を見られますわ」

 わたくしが何を企んでいるか、それは誰にも教えていませんもの。そして、きっと誰にも悟られていない。ですから、とても楽しみだったのです。

 そして本番。わたくしは、民衆の前で、レックスさんの頬にキスをしました。それが意味することなど、誰にだって分かるでしょう。

「ねえ、レックスさん。わたくしの気持ち、確かに受け取っていただけましたわよね?」

 わたくしは、あなたと結ばれたいのです。未来を過ごしたいのです。あらゆる意味で、隣に立っていたいのです。その想いは、誰にも邪魔させない。

「あなたの答えがどうあれ、未来の可能性は定まりましたわ。計画通りに、ね」

 わたくしと結ばれなければ、レックスさんは大きな損失を受けることになるでしょうね。わたくしの想いを裏切ったのだと。きっと、民衆は敵意を抱くでしょうね。それは、いずれレックスさんにも理解できるはず。

「これが、外堀を埋めるということですわよ。先んじて手を打つ重要性は、言うまでもありませんわ」

 ミーア殿下にも、ラナさんにも、ジュリアさんにも、他の誰かにも、決して渡しはしない。いえ、側室を持つ程度なら、構いません。

 ですが、レックスさんの一番はわたくし。それだけは、絶対に譲らない。ずっと、決めていたことですもの。

「わたくし達が結ばれる未来を、多くの民が望んでいるのです」

 その声は、きっとレックスさんにも届くでしょうね。他の女にも、届くでしょうね。わたくしの策に敗れた皆さんにだって、まだ道はありますわよ。わたくしの二番手に甘んじるという、ね。

「ねえ、レックスさん。どこまで、あなたは抵抗できますか?」

 きっと、目に見えない圧力がかかり続けるでしょう。その先の未来では、きっと祝福されるでしょう。ですから、レックスさんの背中は、常に押されることになるのです。

 レックスさん。これが、わたくしの愛ですわよ。
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