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7章 戦いの道

236話 同じ未来を夢見て

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 ペール家も打ち破られて、ヴァイオレット家の支配下におかれた。これで、敵対する三つの家のうち、2つを打ち破ったわけだ。順調といえば、順調だな。戦いを避ける道がなかったのかとは、思ってしまうが。

 まあ、後悔したところで遅いからな。俺達にできることは、よりよい未来を作るための努力だけだ。今回も、ペール家の運営のために、しばらく滞在することになった。

 前回よりも素早く進み、すぐに帰ってこられた。今後、異変が起こる可能性は否定できない。それでも、一定の成果を残せたはずだ。

 今は、フェリシアと軽く話をしているところだな。ヴァイオレット家に戻ってきたので、プライベートとしての会話を落ち着いてできる。

「フェリシア、統治はうまく行っている様子だな。2つの家を支配して、影響は大きかっただろうに」
「わたくしには、大きな後ろ盾がありますもの。そして、わたくし自身の力も」

 うっすらと微笑みながら語る。確かに、フェリシアの力は絶大だと広まっている様子だな。もちろん工作もあるだろうが、特に戦場で生き残ったものが伝えている部分が大きいのだろう。

 実際、フェリシアの実力は破格だからな。それを考えたら、伝えたくなるのは分かる気がする。なにせ、属性の数の壁は、越えられないというのが常識だからな。

 だから、恐れている部分もあるのだろう。理解できない、異常な存在だと。俺も、似たような目を向けられたことがあるからな。

「そうか。反乱には、気をつけろよ」
「計画する人は、居るでしょうね。ですが、民というのは今の生活を守りたいのです。うかつに変えようとすれば、滅ぶのは誰でしょうね?」
「だから、民の生活を良くする方向性を選んだのか?」
「ええ、レックスさんに学んだことですわ。多くの民は、今が幸せでさえあれば良い。幸せでなくても、信じられれば良い。単純なことですもの」

 フェリシアは、どこか嘲笑っているように見える。民のことを、見下しているのかもしれない。少なくとも、外では出さない態度ではあるのだが。領を巡回する時も、ずっと微笑んでいたくらいだから。

 まあ、気持ちは分かる部分はある。いつだって勝手なことばかり言う民というのは、前世でも見てきたからな。統治者としてのフェリシアなら、前世の俺より深く感じているはずだ。

「つまり、希望だけ見せて実現しない可能性もあると?」
「わたくしを悪女みたいに言いますわね。まあ、間違っておりませんが」

 冷たい目で、そう語る。まあ、仕方ないところもある。すべての民の幸福は、まず不可能だ。だから、選別する必要はある。その人達の希望は、実現しないだろうな。

 ただ、フェリシアだって心底の悪人ではない。人を傷つけて喜ぶ人間ではないはずだ。いや、暴力を流儀としている部分はあるにしろ。

「まあ、いたずらに民を虐げるマネはしないと信じているよ」
「それは、どう考えても無駄ですもの。利用価値を見出すべきでしょうに」

 頬がつり上がっている。ジャンと気が合いそうだな。まあ、妥当なところだ。無駄に民を死なせても、労働力が減るだけだからな。使い潰すのなら、まだ理解できるが。

 実際のところ、過酷な環境に民をおいても、作業効率は上がらない。むしろ、下がると言って良い。そこが理解できていれば、自然と、人道に配慮することが効率が良いと気づけるんだ。

 たとえ効率のためだとしても、民に優しくする姿勢は大事だろう。それを、フェリシアは理解できているはずだ。

「まったくだ。同じ悪だとしても、その方向性で居たいものだ」
「レックスさんは、自分を悪だと考えていますのね。面白いこと」

 本当に楽しそうな顔をしている。愉快なものを見たかのような。実際、俺が善性だとは口が避けても言えないと思うが。確かに、良い人でいようとは思っている。だが、十分な成果が伴っていないだろう。

「否定できるものではないからな。俺は、手を汚しすぎた」
「そんなあなたに、わたくしは確かに救われたのです。それも、事実でしてよ」

 穏やかな目で見つめられる。フェリシアが救われたと思っているのなら、俺の行動にも価値がある。初めは、原作でのキャラとして見ていただけだった。だが、今は違うんだ。フェリシアの言うように、大切なパートナーだと思っている。

 お互いが支え合う、理想的な関係に近づけているはずだ。つい、笑みを浮かべてしまいそうになるな。いや、我慢しなくてもいいのか。

「ああ。俺の誇りだ。みんなを大切にできることは」
「本当に、ブラック家らしくありませんこと。可愛らしいものですわ」

 ちょっと見下す感じで言われる。まあ、本気で見下しては居ないだろう。そんな相手をパートナーと呼ぶほど、フェリシアは浅くない。

 良くも悪くも、自分の感情に素直に見えるからな。だからこそ、信頼が伝わるんだ。仲間で居てくれると、信じられるんだ。

 ただ、少し恥ずかしさはあるな。

「男に可愛いっていうのは、勘弁してくれよ……」
「あら、チワワのようなものでしょうに。レックスさんは、愛玩動物ですわよ」
「まあ、俺をからかうあたりは、そうなんだろうな」
「あら、諦めてしまわれました? 抵抗されないと、つまらないですわね」

 半笑いで言われる。フェリシアを楽しませたいのは、確かにある。だが、からかわれてというのは、ちょっとな。でも、受け入れるのも違うか。

 フェリシアが抵抗を望んでいるのもあるし、何より俺も掛け合いが楽しいと思っているからな。

「俺を女たらしと言うのには、断固として抗議したいが」
「 それこそ、諦めるべきことでしょうに。守り方が、ズレていますわよ」
「可愛いって方は、抵抗できるというのか?」
「それこそ、わたくしに力を示せばよいのです。お前など、抵抗できないと」

 いたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。まあ、俺が実行しないと分かって言っているのだろうな。実際、フェリシアを傷つけることには抵抗がある。

 まあ、本当に力を示したら、案外受け入れられるのかもしれないが。それでも、俺が嫌だからな。実行は、しないだろう。

「いや、お前に力づくは、ちょっとな……」
「だからこそ、ワンちゃんなのですわよ。吠えることすらできない、ね」

 軽くふんぞりながら言う。まさに、偉そうなお嬢様って感じだ。他人に言われていたら、腹を立てていただろうな。だが、フェリシアが言う分には、とても可愛いと思う。その姿も、魅力の一部だよな。

「反論したいのに、できないんだが。なんてことを言うんだ」
「本当に、可愛らしいこと。そんなあなたが、圧倒的な力を持っている。面白い事実ですわね」
「まあ、この力がなければ、今までみんなを守ってこられなかっただろうな」
「ええ、感謝しておりますわよ。今回の件は、あなたの力あってこそ、ですもの」
「フェリシアは、俺にとっては必要な存在だからな。当然だ」

 そう言うと、フェリシアはゆっくりとうなづいてくれる。これから先もずっと仲良くしていきたい。それは、俺の間違いのない本心だった。
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