上 下
225 / 330
7章 戦いの道

224話 前を向くために

しおりを挟む
 とりあえず、フェリシアの家での生活には、大きな問題はないと思う。少なくとも、居心地が悪いとは思っていない。

 なので、日々の生活については、あまり心配しなくていいだろう。そこはありがたいな。

 とはいえ、本題があるからな。フェリシアの家が、別の家に狙われているという。それを解決しないことには、何の意味もない。

 どうやって話を進めるか考えていると、フェリシアに呼び出された。その部屋に向かうと、カミラとメアリもいる。まあ、メンバーからして、話の内容は想像がつく。俺がヴァイオレット家に呼び出された原因そのものだろう。

 フェリシアは、集まった俺達を見回した後、軽く一礼する。そして、ゆっくりと話し始めた。

「さて、みなさん。今日は、想定される敵について話をしますわ」
「だから、あたしとバカ弟とメアリなのね。ま、そこまで強くないでしょ。それなら、有名になっているはずよ」

 余裕綽々という感じの言葉だが、言葉ほど軽い雰囲気ではない。カミラからは、強めの闘志を感じるからな。やはり、実戦を経験した人は違うな。それも、死にかけることまであったのだから。なら、油断などできないか。

 カミラをピンチに陥らせたのは、ただ電気に対策しただけの雑兵だったからな。それなら、弱い相手にも殺される可能性は、理解できて当然か。

 むしろ、俺の方が気をつけないとな。闇魔法は、大抵の敵を簡単に倒せる。それでも、弱点くらいはあるのだから。実際、原作の敵キャラは多くが闇属性だった。そして、主人公パーティに倒された。つまり、無敵ではないのだから。

「基本的には、同感ですわね。ただ、3属性使い以上がほとんどですわ。あまり、気を抜けませんわね」
「昔のメアリと、同じくらいなんだね。なら、ちょっと怖いかな?」

 そう言いながらも、目が輝いている。活躍する場面を、想像しているのかもしれない。少なくとも、戦いが怖い訳ではないのだろう。人を殺すのをためらっている訳ではないのだろう。悲しくはあるが、トラウマを抱えるよりはマシだと思いたい。

 とりあえず、メアリの様子には注意しないとな。浮かれすぎるのなら、気を引き締めてやらないと。一応、学校もどきを襲った盗賊との戦いは経験しているとはいえ。

「まあ、俺が居るのなら、最悪の事態は避けられると思うが。油断は禁物とはいえ」
「癪に障るけど、事実よね。バカ弟に勝てる人間なんて、どれだけ多く見積もっても片手で足りるでしょ」
「お兄様は、きっと最強だもん。だから、メアリも活躍したいな。お兄様に負けないくらい!」

 ふたりとも、本気だ。とはいえ、これで舞い上がるのはダメだ。カミラやメアリだって、十分強い。それでも、俺が最後の砦なのだから。俺が本気を出す必要があるのなら、みんなの命が危険な状況なのだから。

「ま、気晴らしくらいにはなるでしょ。まとめて片付けてやるわ」

 気晴らしになってくれるのなら、まだマシだよな。倫理観的には良くない考えだとはいえ。PTSDみたいになられたら、大変だ。大怪我なんて、困ったどころの騒ぎじゃない。それ以上は、考えたくないな。

 それでも、俺は考えないといけない。最悪の状況を想像し続けて、対策しないといけない。みんなの実力は、信じている。だから、頼りにしている。だが、備えは必要だからな。

 多くの場合には、無駄になるのだろう。それでも保険を用意しておくのが大事なはずだ。

「では、細かい戦力の話をしましょう。敵となるのは、3つの家ですわ」

 まさに貴族令嬢という微笑みを見せながら言うセリフじゃないんだよな。いや、ある意味では正しいのか。権力を奪い合う行為は、貴族の本懐と言えるかもしれない。俺にも、いずれ必要になるのかもな。

 それでも、良心にウソをつかない範囲で居たいと思ってしまう。甘いのだろうか。

「同時に攻めてこられたら、厄介だよな。3方向とかなら、俺も守りきれないかもしれない」
「その心配はありませんわ。わたくしの方でも手を打って、分断しておりますもの」
「余計なことを。そんなことしなくても、殺すだけだったのに」
「メアリ、お兄様と一緒に戦いたいの! だから、嬉しいな」

 みんな笑顔だ。それぞれに違った雰囲気ではあるが。フェリシアはたおやかに、カミラは獰猛に、メアリは爛漫に笑っている。とてもじゃないが、戦いの話をしているとは思えない。やはり、原作で悪役だったと感じてしまうな。

 まあ、今回ばかりは助かるのだが。重苦しい雰囲気になるより、よほどいい。人を殺すことをためらって、傷ついてほしくないからな。

「まったく、困ったものだ。気を抜かないでくれよ。ケガでもしたら、大変だ」
「大丈夫! お兄様に心配かけないように、ちゃんとやるの!」
「そうね。また助けられるなんてザマにはなったりしないわ」
「わたくしも、レックスさんのパートナーとして、足を引っ張ることはできませんもの」

 みんな、真面目な顔をしている。真剣に受け取ってくれているみたいだし、大丈夫だよな。もちろん、戦場だから不測の事態に備える必要はある。それでも、ピクニックに行くくらいのノリになることはありえないだろう。

 やはり、心配してしまう部分はある。それでも、過保護すぎても問題だ。俺が居ない状況で戦うことになったとして、乗り越えるだけの力は必要だろうから。

「ありがとう。それで、3つの家はどんな相手なんだ?」
「ネイビー家、ペール家、シアン家ですわね。どれも、血縁関係のある家ですわ」

 ふむ。原作では登場しなかった家だな。だからといって、軽く見るのは論外だが。というか、もはや原作知識は当てにならないだろう。参考になる部分はあっても、根本的に問題を解決できるものではなくなった。

 さて、どうするか。俺に思いつく程度のこと、すでに検討されていそうだが。それでも、言うだけ言うのは大事なことか。フェリシアなら、間違った意見は蹴るだろうからな。

「それで、どこかと組んで、どこかを追い落とすことはできないのか? 例えば、ネイビー家と組んでペール家を共に叩くみたいな」
「難しいですわね。失敗すれば、敵が連携してきかねませんもの」
「なら、各個撃破の方が都合が良いわよね。いっそ、誘い込んでやりましょうよ」
「そうですわね。どうせ、戦いは避けられませんもの。レックスさんも、手伝ってくださいな」

 手を差し出してくるあたり、パートナーとして意識されているのだろう。この調子で、手を繋いでいたいものだな。未来でも、お互いが協力しあえるように。

「避けるための努力はしてほしいんだがな。まあ、やってないはずがないか。悪いな」
「いえ。レックスさんが争いを嫌っているのは、知っていますもの」
「ヘタレなやつよね。ま、別に良いんじゃない?」
「お兄様が嫌なら、メアリが頑張るよ!」

 みんな、俺に気を使ってくれている。だからこそ、みんなを守りたい。俺を大切にしてくれる相手を、それ以上に大切にする。当たり前のことだよな。

「いや、お前達に傷ついてほしくないだけだ。だから、代わろうとはしなくて良い」

 そうだ。俺はかつて誓ったはずだ。誰かを殺してでも、みんなを守ると。だから、迷ったりしない。みんなで生きる未来を、手に入れるために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

処理中です...