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7章 戦いの道

221話 メアリ・エリミナ・ブラックの欲望

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 メアリは、フェリシアちゃんのお手伝いに行くことになったの。それには、特に不満はないけれど。でも、お兄様を奪おうとすることだけは許せないの。

 ただ、それでもフェリシアちゃんのことは嫌いになれない。メアリは持っていないものを持っているって、分かるから。

 嫌いになれたら、簡単なのに。ただ、やっつけちゃえば良いんだから。でも、そうじゃないの。

「フェリシアちゃんも、お姉様も、すごい人だよね。メアリとは、全然違うの」

 メアリは最初から三属性トリキロだったの。だから、強くなるのが当たり前。もちろん、お兄様ほどじゃないけれど。しかも、お兄様に魔力をもらって、五属性ペンタギガにしてもらったんだから。メアリは、すっごいの。

 でも、お姉様やフェリシアちゃんはただの一属性モノデカ。なのに、メアリも負けちゃうかもって思うくらいには、強いんだ。それって、とってもすごいことなの。きっと、頑張ったんだよね。

 だから、お姉様やフェリシアちゃんのことは、尊敬しているの。きっと、メアリが一属性モノデカだったら、あまり頑張れなかったはずだから。

 メアリは、どこまでも強くなりたい。最強の魔法使いになりたいの。でも、そう思えるのは才能があったから。お兄様が居たから。魔法を使えば使うほど、強くなれるから。魔法がうまくなるのが、楽しいから。

 でも、一属性モノデカだったら、そのほとんどは無くなってしまうの。そんなの、つまんない。だから、お姉様もフェリシアちゃんも、素敵なんだ。お兄様のこと以外は。

「かっこいいよね。堂々としていて、自信いっぱいで」

 ちょっと真面目な顔をしてみるけれど、お姉様にもフェリシアちゃんにも似ていないと思うの。メアリの顔には、迫力がないから。お兄様は、可愛いって言ってくれるけれど。でも、かっこよくもなりたいのは本当のことだから。

 メアリだって、お兄様に尊敬してもらいたいって思うんだ。お姉様みたいに。フェリシアちゃんみたいに。今はまだ、遠いけれど。鏡を見ても、お人形さんみたいだなって思うから。

「それでも、お兄様は譲れない。譲りたくないの」

 つい、服の裾を握りしめちゃったの。はしたないから、怒られちゃうかも。お兄様なら、許してくれるかな? でも、メアリだってもっと素敵になりたい。オトナのレディになって、お兄様の隣を歩きたいんだ。

 きっと、その瞬間はとっても幸せなんだって思うの。お兄様と触れ合って、優しくしてもらって。そして、メアリだって頼ってもらう。ふたりで、ひとつ。そんな夢を見ていたの。

「本当のメアリを大好きで居てくれるのは、お兄様だけなんだから」

 メアリはね、泣き虫で寂しがり屋であまえんぼ。でも、そんなの許されなかったから。昔を思い出すと、胸が苦しくなっちゃうの。だれも、甘えさせてくれなかったから。

 でも、お兄様は違ったの。メアリをなでてくれて、抱きしめてくれて、好きって言ってくれたの。それだけじゃなくて、願い事はなんでも叶えてくれた。こっそり無理かなって思っていたことだって。

 だから、お兄様だけは何があったとしても信じるの。お兄様の敵は、絶対にやっつけるの。

「メアリが情けなくても、お兄様だけ居てくれれば良いの」

 お兄様の顔を思い浮かべると、胸がポカポカするんだ。きっと、大好きだってこと。幸せだってこと。でも、まだ足りないって思ってしまうの。メアリは、わがままだから。

 全身に、触れてほしい。お兄様の体でも、魔力でも。いつでもどこでも、お兄様を感じていられるくらい。それを想像しただけで、ニコニコできちゃうんだ。

「お兄様に、メアリの全部を染め上げてもらうんだ。もっともっと、どこまでも」

 お兄様とメアリが、ひとつだと思えるくらいに。ぜんぶぜんぶ、混ざり合っちゃうくらいに。想像しただけで、震えちゃう。よだれが出そうになっちゃう。はしたなくて、困っちゃうの。

 メアリ、もっともっと悪い子になっちゃったかも。お兄様は、良い子だって言ってくれるけれど。何もかも、足りないの。生きている時間のすべてで、お兄様がメアリの傍に居てほしいって、魔力を注ぎ込んでほしいって思っちゃうんだ。

 きっと、欲張りなんてものじゃないよね。お兄様にも、お兄様の人生があるんだから。でも、感情は抑えられないの。お腹の奥がきゅーってして、お兄様で頭がいっぱいになっちゃうから。

 だから、お兄様がほしいって気持ちは、もうメアリにも止められないの。ごめんね、お兄様。

「それに、お兄様もメアリを大好きになってほしいな。今よりも、ずっと」

 もちろん、今でも大好きで居てくれることは、分かっているの。でも、他の女の子のことも考えているみたいだから。それを思うと、唇を噛みたくなっちゃうの。良くないことだから、我慢するけれど。

 できれば、メアリで頭がいっぱいになっていてほしい。いつでもどこでも、メアリのことを考えていてほしいの。欲張りだって、分かっているの。でも、つい想像しちゃうんだ。そうなったら、どれだけ素敵だろうって。

「お兄様は、ホントはみんなが大好きなんだと思うけど……」

 メアリも大好きだけど、お姉様やフェリシアちゃん、ジュリアちゃん達も、メイドさん達も大好きなんだと思う。それは、きっと良いことなんだよね。でも、メアリにとっては違うの。

 爪を噛みたくなるような感情が、胸の中で湧き上がるの。お兄様は、メアリ以外も好きなんだって思うと。悪い子だよね、メアリ。

「でも、ごめんね。メアリは、もっと欲しくなっちゃったの」

 そうだよ。これがメアリなんだ。お兄様をつかまえて、ずっと一緒にいたいの。そう考えると、飛び跳ねたくなっちゃうの。

 でも、まだまだ遠いから。お兄様は、メアリだけのお兄様になってくれないから。なら、変えないと。メアリを。お兄様を。

「そうだよね。もっと頑張らないと。強くなって、もっと見てもらうために」

 目を閉じて、深呼吸するの。もっともっと強くなったメアリを想像しながら。邪魔する人をぜんぶ吹き飛ばすような力を考えながら。魔力を全部集めて、力の高まりを感じながら。

 この先にある素敵な未来を考えるだけで、力が増える気がするんだ。だから、きっと本当になるの。

「フェリシアちゃんの敵は、みんなメアリがやっつけちゃうんだから!」

 お兄様にもらった魔法で、ぜんぶぜんぶ吹き飛ばすの。そして、お兄様にうんと褒めてもらうんだ。かっこいいって思ってもらうんだ。抱きしめてもらって、なでてもらって、魔力を注いでもらうんだ。

 想像しただけで、全身が熱くなっちゃう。汗がいっぱい出ちゃいそうなくらい。やっぱり、お兄様はメアリのなんだ。

「お姉様にも、フェリシアちゃんにも、負けないもん!」

 お姉様よりも、フェリシアちゃんよりも、いっぱい敵をやっつけるんだから。この胸にあるときめきを力に変えて。世界だって変えちゃって。

「メアリは、お兄様に力をもらったんだから! 愛されているんだから!」

 頭をなでてもらう感覚を思い出すの。抱きしめてもらう感覚も。魔力の温かさも。そのドキドキが、メアリにもっと力をくれるから。

「だから、この力でお兄様に褒めてもらうんだ! うんと、いっぱい!」

 その瞬間を想像するだけで、頭がビリビリするんだ。しあわせーって感じるんだ。だから、絶対に現実にするの。

「待っていてね、お兄様。メアリは強いんだって、教えてあげるの!」

 お兄様が頼れる子だって、知ってもらうの。誰よりもすごいんだって、覚えてもらうの。

「だから、いっぱい敵がいるといいな。そうすれば、いっぱい倒せるから!」

 待っていてね、お兄様。メアリ、がんばっちゃうんだから!
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