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6章 ブラック家の未来

205話 疑わしい相手

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 ストリガが、誰かの手で殺されたようだ。面倒な状況になったというのが、素直な本音ではある。ただ、失われた命は、素直に悼まないとな。まずは、冥福を祈るばかりだ。

 とはいえ、いま俺がやるべきことは、これ以上の被害を防ぐこと。特に、親しい誰かに被害が出ないように気をつけること。まあ、よほどのことがない限りは、問題ないだろうが。俺の贈ったアクセサリーがある限り、並大抵の状況なら大丈夫だからな。

 それでも、警戒は必要だ。万が一親しい人が巻き込まれたら、後悔では済まないからな。そこだけは、絶対に守るべきことだ。

 まあ、まずは状況を理解しないとな。誰が怪しいのか、あたりをつけるだけでも違う。

「ジャン、詳しく報告してくれ。今、どういう状況なんだ?」
「はい。ストリガが殺されたというのは、話したと思います。死因は、魔力を叩きつけられての挫傷ですね」

 なるほど。となると、魔力が使える誰かが犯人となる。だが、そう判断した根拠は確かめておかないとな。冤罪は避けるべきだし、間違った犯人を捕まえれば、真犯人はのうのうと生きることになる。

 ジャンを信用しない訳ではない。ないが、ここで違和感を言葉にしないのは、単なる怠慢だからな。ちゃんと、解決に向けて動くべきなんだ。

「魔力が叩きつけられたというのは、どうして分かった?」
「挫傷の広がり方ですね。体一面に衝撃が広がった様子がありましたから」

 ふむ。壁にぶつかった可能性も否定できない。だが、それにしたって、突き飛ばされただけで全身に衝撃が広がるのは考えづらい。そうなると、何らかの形で魔法を使ったと考えるのが妥当か。

「となると、魔力を使える人間になる訳か。なら、一度話を聞いてみるか」
「そうですね。僕が手配しておきます」

 ということで、最近ブラック家にやってきた人たちが集められた。明らかに雰囲気が悪いが、まあ当然だよな。

「どうせお前が殺したのだろう、レックス! だから、私の方が当主にふさわしいと言っているのだ!」

 息子が殺されたというのに、この物言い。いっそ尊敬できそうなレベルで人の心を持っていない。ハッキリ言って、シモンを信じる人間など居ないだろう。とはいえ、俺の首輪で魔力を制限しているからな。それをくぐり抜けていない限り、今回は犯人ではない。

「俺まで殺されたりは、しないでしょうか……」

 マリクの反応は、まあ普通ではある。自分の命を心配するのは、人としては当然だよな。とはいえ、演技の可能性もある。そこを否定できない限り、どこかに疑いは残る。

「どうでもいい事で呼び出すなよ。俺には訓練があるんだ」

 グレンはぶっきらぼうな態度を取っている。ストリガはグレンにとっては他人だろうから、おかしな反応ではない。ただ、自分が犯人だからごまかそうとしている可能性だってある。どうだろうな。

「僕は殺してなどいませんよ。神に誓っても構いません」

 ダルトンはにこやかにしている。今の状況では、悲痛そうな顔をした方が効果的だと思うのだがな。そのあたりが、信用できない最大の要因だ。さて、犯人なのかどうなのか。

「レックス様、当方にも状況をお伝え願えますか?」

 ジェルドはできれば信じたい。ミーアに紹介された相手だからな。とはいえ、信じたいから信じるのではダメだろう。ちゃんと捜査して、その上で信じるかどうかを決めなくては。それを言い出したら、家族も疑うべきなのだろうが。そこまでするかどうかは、少し様子を見たい。

「シモンの首輪は機能している。なら、犯人である可能性は低いか」
「当たり前だろう! こんなものがなければ、ストリガが殺されることもなかったのだ! この人殺しめ!」

 どういう思考回路をしているのだろうな。さっきの発言からして、何も悲しんでいないだろうに。ああ、自分以外を責められれば、なんでも良いのか。そこまで単純だと、生きていて楽なのかもな。

「そもそも、お前が暴れなければ必要もなかったんだと、理解できているのか?」
「うるさい! 大人しく当主を譲っておれば、こんな事にはならなかったというのに!」

 なるほどな。自分が当主になるためには、何でも利用すると。ある意味では潔いと言っても良いのか? まあ、シモンが当主になった時点で、ブラック家は終わりだろう。いずれは、排除するべきだろうな。もう、殺すことを真面目に検討するべきかもしれない。

「……さて、どう思う? わざわざ息子を殺すほどとは思えないが」
「私も同意いたします。レックス様の首輪も機能している以上、可能性は低いと判断いたします」

 そうだよな。なら、他の誰かが怪しいということになる。さて、どうやって判断したものか。属性が分かっているのなら、ジャンの方から報告が入るはずだ。つまり、魔力が使われたということしか分からない。困ったものだな。

「この私を疑っているのか!? お前ごときが!」
「うるさいやつだ。お前みたいなのが居るから、俺まで呼び出されるんだよ」

 グレンは肝が太いと言えば良いのか。まるで空気を読めていない。まあ、シモンが不愉快なのは事実ではあるが。さっさと去ろうとしているのが目に見えているのは、疑われたくないからか? ダメだな。誰もが疑わしく見えてしまう。

「平民ごときが、私に口出しするのか!?」
「誰が犯人なんだ……。俺に恨みがありそうな人は、それなりに居ますよ……」

 マリクの言葉を信じるとするのなら、他に犯人がいる。だが、ストリガを殺した上でしらばっくれている可能性も否定できない。というか、問答で犯人を探すのは難しそうだな。そうなると、物証を探していくべきか。

「まったく、やかましい人達です。僕とは大違いですね」

 ダルトンの言葉は、冷静であるアピールのつもりなのだろうか。そのような態度だから、信用できないんだよな。表情を作れるのは明らかである以上、かなり疑っている。

「兄さん、どうしますか? 全員まとめて処分しますか?」

 流石に、ジャンの提案は問題だらけだろう。何も罪を犯していない人を殺していい理由はない。いや、親しい人が危険に陥っている状況なら、検討するかもしれないが。できれば避けたいところだ。

「最低でも、犯人を絞れるくらいの証拠を集めてからにするぞ。冤罪は、なるべく避けるべきだ」
「かしこまりました。では、そのようにいたします」
「さて、忙しくなりそうですね。兄さんに手間を掛けずに済ませたいものです」
「僕に任せていただければ、簡単に終わらせてみせますよ」

 ダルトンに捜査を任せたら、絶対にろくなことにならない。そう考えると、断る以外の選択はないな。

「それよりも、自分が犯人でないと示した方が良いんじゃないか?」
「レックス様は、僕を疑っていると? 僕には、動機などありませんよ」
「強いて言うのなら、魔法を使える人間は疑っているよ」
「では、私は疑われていないと。ふふっ、気分が良いものですね」
「厳密には、僕も疑っていると。流石は兄さん。正しい姿勢ですよ」

 ジャンの姿勢は、本当にありがたい。理屈で納得させられれば、それを当然だと考えてくれる。だからこそ、信じたい相手だよな。とりあえず、ハッキリ言わずとも、信じているかは示しておくか。

「ジャン、お前の力を見せてみろ。そうすれば、きっと犯人は明らかになる」
「もちろんですよ、兄さん。では、動きますね」

 さて、これから先、どうなっていくだろうな。まったく、大変な事態になったものだ。
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