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5章 選ぶべき道

171話 父の最期

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 いよいよ、父と戦うことになった。ハッキリ言って、実力的にはどうにでもなるだろう。問題は、闇の宝珠|《ダークネスクレスト》を使われて、力を得られる可能性か? 油断は禁物だと思うが、魔力を外部の力で強化したところで、根本的な魔力操作の技術が身についていないとな。

 原作での父は、単なる三属性トリキロだった。この世界では上位の実力者だが、原作での戦いには着いていけない程度。

 いわば、全国大会には出られるけど、プロにはなれないくらいか。あるいは、プロの3軍あたりをうろついている感じか。

 それくらいなら、原作で見ても最上位の実力を持つフィリスの足元にも及ばない。そして、彼女に勝った俺にも。

 さて、なぜ俺に挑もうとする? どんな切り札を隠している? あるいは、俺の実力を軽く見ているのか?

 いずれにせよ、妙なことをされないように、気をつけておかないとな。

「レックスよ、さあ、来るがいい。我が力を見せてやろう」
「フィリスにすら勝った俺に、勝てるものなのか?」
「ハッタリにしては、ずいぶんと雑なものだな」

 まったく信じていない様子だ。事実なのだがな。まあ、別にいい。相手が信じるかどうかで、俺の実力は変わったりしない。結局のところ、並大抵の手段では、俺との差を埋められない。それどころか、距離が縮んだと感じることすらないだろう。

「事実かどうか、お前自身の目で確かめてみるといい」
「ああ、存分に見せてもらおうじゃないか!」

 ということで、まずは闇の衣グラトニーウェアで防御を固めて、様子をうかがう。ジュリアが巻き込まれないか、あるいは何か他の手段を隠していないか、観察するために。

 父は何度か魔法を撃ってくるが、なにひとつとして通用しない。こちらを睨みつけてくるが、迫力も何もあったものじゃないな。いや、鬼の形相ではあるのだが。

「どうした、こんなものか? その程度の力で、俺に勝てるとでも?」
「まだ終わりじゃない! これが私の、三重反発陣トライマジックだ!」

 父が放ってくるのは、複数の属性の魔力を押し固めて、反発を利用して爆発を起こす技。フィリスの代名詞、五曜剣チェインブレイドの爆発だけを取り出して劣化させたようなもの。四重も五重も存在して、属性の数に応じて威力が上がる。

 とはいえ、俺は元になった五曜剣チェインブレイドにすら対応できる。念の為にジュリアを闇の衣グラトニーウェアで守ったが、何の問題もない程度だった。

「ただの基礎で、俺に通じるとでも? もはや、特別な技を使うまでもないな」
「その力を私が持っていたら、お前よりも有効活用できたというのに!」

 まあ、俺の闇魔法を求めていたのは、察しがつく。兄やカミラ、メアリにジャンと扱いが違うのは、俺が闇の魔力を持っていたからなのだろう。

 つまるところ、父は俺に自分が達成できなかった夢を見ていた。それで、俺に代わりに実現させようとしていた。そういうことだろう。

 父は何度も三重反発陣トライマジックを放ってくるが、威力がだんだんと落ちている。魔力が尽きそうになっているのだろう。もはや、決着はついたも同然だな。ただ、念の為に隠し玉には気をつける必要がある。

 あるいは、父自身の魔力で、闇の宝珠|《ダークネスクレスト》を起動しようとしている可能性もあるのだから。

「戯言は終わりか? もはや形勢は明らかだろう。諦めたらどうだ?」
「ふふ……ははは! 私の計画は、もはやどう転んでも成功するのだよ! 最後まで、付き合ってもらおうか!」

 父は楽しげに笑っている。やはり、何かを隠していたか。だが、動きらしい動きは見えない。いったい、何を考えている?

「どういうことだ……?」
「そうだな。今は機嫌がいい。説明してやろう。私の計画は、二段階なのだよ」
「一段階目は、俺が闇の宝珠|《ダークネスクレスト》で力を手に入れること。二段階目は、何だ……?」
「単純なことだ。俺を殺して王家から評価を得たお前が、リーナ姫とでも結婚することよ。闇魔法の力と実績があれば、不可能ではないはずだ」

 闇の宝珠|《ダークネスクレスト》の力で王家を脅せれば、ミーアと俺の結婚を。俺が王家の味方になれば、いずれリーナと俺の結婚に結びつくと考えているのか?

 確かに、かつてのリーナは雑に扱われていた。少なくとも、国王以外からは。外から見たら、国王自身も手を打っていなかった。なら、父はちょうどいい政略結婚の道具だと見ていたのか?

 貴族らしいと言えば、貴族らしいのかもしれない。だが、とてもではないが受け入れられない。ミーアもリーナも、つまらない計画に巻き込まれていい人間じゃないんだ。

「人の結婚をそんな風に扱うなんて! 許せないよ、レックス様!」
「ああ、そうだな。ミーアもリーナも道具としか思っていない。ふざけたやつだ」
「何を言う。ブラック家の人間以外は、すべてが我が家のための道具。当たり前のことだろう」

 その割には、兄を簡単に殺したようだが。見過ごせないラインを超えたのだろうか。まあ、なんとなく考えは分かる。兄は、大事な大事な闇魔法使いに生まれた俺を殺そうとした。だから、許せなかったのだろう。

 良く言えば、俺は愛されている。だが、悪く言えば、俺は闇魔法使いとしてしか見られていない。そんな相手に情を抱いた俺の、なんと愚かなことか。

「そうか。やはり、父さんとは相容れないな。それが分かっただけでも、十分だ」
「分からず屋め! ただ普通に生きていただけでは、栄達などつかめぬのだ!」
「栄達のためだけに、大勢を犠牲にするつもりはないよ。残念だよ、父さん」
「そうか。なら、殺せ! そして、お前がブラック家に栄光をもたらすのだ!」

 覚悟が決まったのだろう。いや、違うな。殺されることも、計画に含まれていた。だから、今の状況でも、計画通りなのだろう。

 ブラック家の栄達という視点に限れば、優れた策なのかもしれない。闇の宝珠|《ダークネスクレスト》で俺が力を手に入れれば、それで王家を脅す。逆に、王家の名で俺が父を殺せば、俺は功績を得ることになる。

 流石に、自分の死まで計画に組み込む人間を想定するのは難しいだろう。その点では、俺を疑いにくいと思う。

 ただ、そもそも元凶はブラック家なんだよな。そこを王家がどう評価するかに頼っている。他人の判断に命運を預けるあたり、完全に良い策とは言えないか。

 まあ、ブラック家の評判で成り上がるのは相当な難題だ。それを思えば、可能性を残せただけでも大きいのだろう。俺には、理解できないが。

「どこまでも権力に囚われて、哀れなことだ。さあ、言い残すことはあるか?」
「闇魔法の力さえあれば、お前は何にでもなれる。せいぜい、俺の屍を、踏み越えることだ」

 この人は、自分の持っていない闇魔法を、重く見すぎていたのだろうな。所詮は、扱う人次第の魔法でしかない。ミュスカは俺には勝てないし、かつての敵であるアイクは、俺に負けて死んだ。

「さて、な。闇魔法を持っていた教師は、ただ堕ちて死んだのだが」
「お前は違うだろう。この私の血を引いているのだ。いずれ、お前にも、私のすばらしさが分かる……」
「それで終わりか? じゃあ、さよならだな。これが、トドメだ」

 最後に父の顔を見ながら、魔力で刃を作り出して、父の胸を貫く。これで、もはや助からないだろう。もう、二度と顔を見ることもないはずだ。

「レックス、お前……泣いているのか? 私が死ぬから?」

 そう言われて、目元をぬぐう。すると、確かに濡れていた。やはり、心の整理が十分ではなかったのだな。こんなに悪人なのに、殺したくなかったんだ。バカバカしい。

「そんな訳ないだろう。走馬灯のたぐいだろうさ」
「私は、大事に思われていたのだな……。ちゃんと、お前のことを見ていれば……」

 そう言い残して、父は瞳を閉じて、やがて力が抜けていった。

 どうして、最後の最後に父親らしい一面を見せるんだよ。整理できない気持ちが湧き出してきて、俺は立ち尽くしていた。
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