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5章 選ぶべき道
159話 確かな本心は
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ようやく、父を殺す覚悟が定まったのだと思う。正確には、これしかないと理解できただけだが。それでも、突き進むと決めた。もう、引き返そうとは思わない。
今でも、父を殺すことを考えれば、心が苦しくはある。ただ、俺が立ち止まれば、他の誰かが苦しむだけなんだ。最悪の場合、カミラやメアリ、ジャンだって死んでしまうかもしれない。なにせ、3人はブラック家の人間なのだから。父の仲間だとみなされても、おかしくはない。
それくらいなら、俺がやるべきなんだ。たとえ苦しくても、つらくても。俺が逃げることで、大切な誰かが犠牲になるのは、絶対に嫌だから。
間違いなく、実行すれば悲しい思いをするだろう。それでも、もう決めた。
だから、ミーアに答えを伝えに行く。探すと、すぐに見つかった。校庭で、どこか儚げな姿をして。やはり、彼女も心苦しいのだろう。優しい人なんだから。俺に嫌なことをさせて、喜べる人ではないだろう。
みんなで手を取り合うという、どこか夢想にも思える目標を掲げている人。それがミーアなんだからな。
「ミーア、ここに居たか。話がある」
「それって……。じゃあ、私の部屋に来てくれるかしら?」
簡単なことのように、言葉にされる。未婚の女の部屋に、男が入るのは問題じゃなかろうか。特に、ミーアは王女なのだから。
とはいえ、他に内緒話ができそうな場所は、俺には思いつかないが。そのあたりは、ミーアも考えているはずだ。
なら、他に選択肢はないのだろうか。できることなら、避けた方が良いと思うのだが。
「王女ともあろうものが、軽率なものだな」
「レックス君が相手なら、軽率なんかじゃないわ! だから、安心して?」
俺のことを、信頼してくれているからこその言葉なのだろう。それは分かる。だが、少し重い気もするな。
王女が、悪評のリスクを背負うほどの信頼。それは、俺が道を間違えれば、ミーアまで苦しむことを想像させるから。
やはり、大切な友達だよな。答えを決めた今だから思うが、ミーアに、俺が父の味方をするだなんて、伝えられない。どう考えても、ミーアは苦しい思いをするのだから。そんな未来を迎えさせない選択は、ひとつしかない。
なんだ。最初から、正解は決まりきっていたじゃないか。いや、ずっと分かっていたんだ。何が正しいかなんて。
「まったく、メチャクチャなやつだ。まあ良い。案内しろ」
「もちろんよ! レックス君の答え、楽しみにしているわね!」
花開くような笑顔を見せるミーアは、俺がなんと答えるか、疑っていないのだろう。やはり、明るい人だ。王女としてなら、素晴らしい才能なのだろう。この人を笑顔にしたいと、素直に思えるのだから。
そして案内されたミーアの部屋は、可愛らしい飾りにあふれた空間と、書類のようなものがまとまった空間に分かれていた。
おそらくは、プライベートと仕事を分けるというか、王女としてのミーアと、ただの少女としてのミーアの2つの面が表に出ているのだろう。
それにしても、人によって部屋はずいぶん違うのだな。当たり前のことではあるのだが。
お互いが部屋にある椅子に座ると、ミーアはこちらに向けて微笑んだ。
「さあ、レックス君の決断を、聞かせて?」
「その前に、お前に確かめたいことがある」
「もちろん、何でも聞いて良いわ! レックス君にとっては、大事なことだものね」
何でも受け止めてくれそうな、優しい顔をしている。この調子なら、大丈夫かもしれない。そんな期待が浮かび上がってくる。
カミラやメアリ、ジャンの居ない未来になんて、何の意味もない。そう思うからこそ、今からの質問はとても大切なんだ。
もしダメだったら、別の道を探すことになるだろう。だからこそ、祈りながら問いかける。
「ブラック家の人間は、父だけ殺せば良いのか? カミラやメアリ、ジャンは殺さなくて良いのか?」
「それは、もちろんよ! カミラちゃんやメアリちゃんが良い子なのは、知っているもの!」
ミーアの目を見て、まっすぐな感情が伝わってきて。だから、安心できた。少なくとも、彼女は本心から言っている。あるいは、最初からカミラ達は助けてくれるつもりだったのかもしれない。そう思えた。
とはいえ、心配することは、まだあるんだよな。
「なら、良いが。ジャンのことは知らないだろうに、気にしなくて良いのか?」
「レックス君が信じているのなら、きっと良い子だもの! 私も、仲良くしたいわ」
やっぱり、ミーアの信頼は本物だよな。そう感じる。だからこそ、裏切りたくない。いま見せてくれる笑顔を、曇らせたくない。
完全に覚悟が決まった訳じゃない。それでも、俺が選んだ道は正しいと思える。少なくとも、ミーアは裏切らなくて良いのだから。リーナも、ルースも、ハンナも。おそらくは、カミラやメアリだって。
うん。俺の選ぶべき道は、この道だ。それで良い。悲しくはあるが、未来のためだ。
「そうか。好きにすれば良いさ。お前の関係だ。お前が決めれば良い」
「だったら、これから先に、会ってみたいわね! どんな子か、気になるもの!」
「俺達の関係が続くのならば、いずれ会う機会もあるだろうさ」
「なら、必ず出会うことになるわね! 楽しみだわ!」
ずっと俺達の関係が途切れないと、そう宣言してくれている。嬉しいな。ミーアは、きっとずっと味方でいてくれる。そう思える。
父との関係を失うとしても、ミーアやリーナがこれからも居てくれるのなら、最低でも客観的には、より多くのものを手に入れられるはずだ。そうだよな。
「まったく、能天気なやつだ。だが、お前らしいのかもな」
「ふふっ、レックス君を信じているだけよ。だから、心配しなくて良いわ」
「そうか。なら、答えを聞かせてやる。俺は、父を殺す。それだけだ」
殺すと口にする時には、胃の中に石が詰め込まれたような感覚があった。それでも、この答えしかない。正しいはずなんだ。
「嬉しいわ。私達の味方になってくれて! これからも、安心してずっと仲良くできるわね!」
ミーアの笑顔は、どこまでも明るい、まさに太陽をイメージさせるものだった。
たとえ俺が傷ついてでも、今みたいな笑顔を守り続ける。それだけで、俺の人生には価値があるはずなんだ。
しかも、他にも大切な人はいる。俺は恵まれているのだから、少しくらいの困難なら、お釣りが来るはずなんだ。そうだよな。
「まったく、騒がしいやつだ。まあ、嫌いじゃないが」
「レックス君の嫌いじゃないは、大好きの意味よね! もちろん、私も大好きよ!」
「そうか。好きに考えていれば良いさ」
「ふふっ、私の勝手な想像じゃないって、分かるもの。だから、レックス君は大切な友達なのよ」
まあ、ミーアのことは大事な友達だと思っているし、好ましいとも感じている。だから、間違いじゃない。
それにしても、ミーアを大切にする人間なんて、王族なのだから、大勢いるだろうに。
ただ、その中でも特別だと感じてくれていることは分かる。だから、その想いを裏切りたくない。単純だけど、大事な気持ちだ。
「なるほどな。まあ、前向きさは、お前の個性だからな」
「カミラちゃんやメアリちゃんとも、できるだけ仲良くしたいわね。そのためには、必要なことがあるわ」
「俺が、父の計画を止めることだな」
「そうね。レックス君には、つらい思いをさせるけれど。でも、それ以上の幸せで返すわ。約束する」
強い意志を秘めた、まっすぐな目を向けられる。きっと、ミーアは今の言葉を本当にしてくれるだろう。そう思えた。どこか、吐き気のようなものを感じながらも。
「お前なら、約束は守るのだろうな。意地っ張りと言って良いやつなんだから」
「もちろんよ。レックス君とは、お互い幸せになりたいもの。リーナちゃんも、みんなも一緒にね」
「そうか。お前は突っ走るのだろうな。まったく、退屈しないことだ」
いつか、みんなで笑い合える未来が訪れたのなら。それだけは、今でも変わらない気持ちだ。
だから、父とはお別れだ。俺の望む未来は、その先にしか無いはずなのだから。
今でも、父を殺すことを考えれば、心が苦しくはある。ただ、俺が立ち止まれば、他の誰かが苦しむだけなんだ。最悪の場合、カミラやメアリ、ジャンだって死んでしまうかもしれない。なにせ、3人はブラック家の人間なのだから。父の仲間だとみなされても、おかしくはない。
それくらいなら、俺がやるべきなんだ。たとえ苦しくても、つらくても。俺が逃げることで、大切な誰かが犠牲になるのは、絶対に嫌だから。
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だから、ミーアに答えを伝えに行く。探すと、すぐに見つかった。校庭で、どこか儚げな姿をして。やはり、彼女も心苦しいのだろう。優しい人なんだから。俺に嫌なことをさせて、喜べる人ではないだろう。
みんなで手を取り合うという、どこか夢想にも思える目標を掲げている人。それがミーアなんだからな。
「ミーア、ここに居たか。話がある」
「それって……。じゃあ、私の部屋に来てくれるかしら?」
簡単なことのように、言葉にされる。未婚の女の部屋に、男が入るのは問題じゃなかろうか。特に、ミーアは王女なのだから。
とはいえ、他に内緒話ができそうな場所は、俺には思いつかないが。そのあたりは、ミーアも考えているはずだ。
なら、他に選択肢はないのだろうか。できることなら、避けた方が良いと思うのだが。
「王女ともあろうものが、軽率なものだな」
「レックス君が相手なら、軽率なんかじゃないわ! だから、安心して?」
俺のことを、信頼してくれているからこその言葉なのだろう。それは分かる。だが、少し重い気もするな。
王女が、悪評のリスクを背負うほどの信頼。それは、俺が道を間違えれば、ミーアまで苦しむことを想像させるから。
やはり、大切な友達だよな。答えを決めた今だから思うが、ミーアに、俺が父の味方をするだなんて、伝えられない。どう考えても、ミーアは苦しい思いをするのだから。そんな未来を迎えさせない選択は、ひとつしかない。
なんだ。最初から、正解は決まりきっていたじゃないか。いや、ずっと分かっていたんだ。何が正しいかなんて。
「まったく、メチャクチャなやつだ。まあ良い。案内しろ」
「もちろんよ! レックス君の答え、楽しみにしているわね!」
花開くような笑顔を見せるミーアは、俺がなんと答えるか、疑っていないのだろう。やはり、明るい人だ。王女としてなら、素晴らしい才能なのだろう。この人を笑顔にしたいと、素直に思えるのだから。
そして案内されたミーアの部屋は、可愛らしい飾りにあふれた空間と、書類のようなものがまとまった空間に分かれていた。
おそらくは、プライベートと仕事を分けるというか、王女としてのミーアと、ただの少女としてのミーアの2つの面が表に出ているのだろう。
それにしても、人によって部屋はずいぶん違うのだな。当たり前のことではあるのだが。
お互いが部屋にある椅子に座ると、ミーアはこちらに向けて微笑んだ。
「さあ、レックス君の決断を、聞かせて?」
「その前に、お前に確かめたいことがある」
「もちろん、何でも聞いて良いわ! レックス君にとっては、大事なことだものね」
何でも受け止めてくれそうな、優しい顔をしている。この調子なら、大丈夫かもしれない。そんな期待が浮かび上がってくる。
カミラやメアリ、ジャンの居ない未来になんて、何の意味もない。そう思うからこそ、今からの質問はとても大切なんだ。
もしダメだったら、別の道を探すことになるだろう。だからこそ、祈りながら問いかける。
「ブラック家の人間は、父だけ殺せば良いのか? カミラやメアリ、ジャンは殺さなくて良いのか?」
「それは、もちろんよ! カミラちゃんやメアリちゃんが良い子なのは、知っているもの!」
ミーアの目を見て、まっすぐな感情が伝わってきて。だから、安心できた。少なくとも、彼女は本心から言っている。あるいは、最初からカミラ達は助けてくれるつもりだったのかもしれない。そう思えた。
とはいえ、心配することは、まだあるんだよな。
「なら、良いが。ジャンのことは知らないだろうに、気にしなくて良いのか?」
「レックス君が信じているのなら、きっと良い子だもの! 私も、仲良くしたいわ」
やっぱり、ミーアの信頼は本物だよな。そう感じる。だからこそ、裏切りたくない。いま見せてくれる笑顔を、曇らせたくない。
完全に覚悟が決まった訳じゃない。それでも、俺が選んだ道は正しいと思える。少なくとも、ミーアは裏切らなくて良いのだから。リーナも、ルースも、ハンナも。おそらくは、カミラやメアリだって。
うん。俺の選ぶべき道は、この道だ。それで良い。悲しくはあるが、未来のためだ。
「そうか。好きにすれば良いさ。お前の関係だ。お前が決めれば良い」
「だったら、これから先に、会ってみたいわね! どんな子か、気になるもの!」
「俺達の関係が続くのならば、いずれ会う機会もあるだろうさ」
「なら、必ず出会うことになるわね! 楽しみだわ!」
ずっと俺達の関係が途切れないと、そう宣言してくれている。嬉しいな。ミーアは、きっとずっと味方でいてくれる。そう思える。
父との関係を失うとしても、ミーアやリーナがこれからも居てくれるのなら、最低でも客観的には、より多くのものを手に入れられるはずだ。そうだよな。
「まったく、能天気なやつだ。だが、お前らしいのかもな」
「ふふっ、レックス君を信じているだけよ。だから、心配しなくて良いわ」
「そうか。なら、答えを聞かせてやる。俺は、父を殺す。それだけだ」
殺すと口にする時には、胃の中に石が詰め込まれたような感覚があった。それでも、この答えしかない。正しいはずなんだ。
「嬉しいわ。私達の味方になってくれて! これからも、安心してずっと仲良くできるわね!」
ミーアの笑顔は、どこまでも明るい、まさに太陽をイメージさせるものだった。
たとえ俺が傷ついてでも、今みたいな笑顔を守り続ける。それだけで、俺の人生には価値があるはずなんだ。
しかも、他にも大切な人はいる。俺は恵まれているのだから、少しくらいの困難なら、お釣りが来るはずなんだ。そうだよな。
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「レックス君の嫌いじゃないは、大好きの意味よね! もちろん、私も大好きよ!」
「そうか。好きに考えていれば良いさ」
「ふふっ、私の勝手な想像じゃないって、分かるもの。だから、レックス君は大切な友達なのよ」
まあ、ミーアのことは大事な友達だと思っているし、好ましいとも感じている。だから、間違いじゃない。
それにしても、ミーアを大切にする人間なんて、王族なのだから、大勢いるだろうに。
ただ、その中でも特別だと感じてくれていることは分かる。だから、その想いを裏切りたくない。単純だけど、大事な気持ちだ。
「なるほどな。まあ、前向きさは、お前の個性だからな」
「カミラちゃんやメアリちゃんとも、できるだけ仲良くしたいわね。そのためには、必要なことがあるわ」
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強い意志を秘めた、まっすぐな目を向けられる。きっと、ミーアは今の言葉を本当にしてくれるだろう。そう思えた。どこか、吐き気のようなものを感じながらも。
「お前なら、約束は守るのだろうな。意地っ張りと言って良いやつなんだから」
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「そうか。お前は突っ走るのだろうな。まったく、退屈しないことだ」
いつか、みんなで笑い合える未来が訪れたのなら。それだけは、今でも変わらない気持ちだ。
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