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5章 選ぶべき道
156話 アリアの狙い
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私は、レックス様に仕えるメイド。その役目は、彼が快適に生活できるようにすること。ですから、心のケアだって大事な役割だと思います。
今のレックス様は、少し追い詰められているように見えますからね。普段の彼なら、誰かに相談するという考えは、思い浮かばない気がしますから。
もちろん、状況を考えれば当然のことではあります。親を殺すのには覚悟がいる。いくら悪人だとしても。それだけのことでしょう。気持ちは、分かるような気がします。
とはいえ、彼のやるべきことは決まっているようなものです。合理でも、道義でも、情でも。ですから、あまり選択肢は多くありませんね。
それに、私個人としても、望んでいた状況が近づきそうですから。
「今の当主が殺されて、レックス様が主に立ったのなら。かつてのブラック家を取り戻せるかもしれません」
そう。初代様が居た頃のような。異種族にも優しく、領民思いだった、かつての主が居たような家に。
今のレックス様を見ていると、初代様を思い起こすことも多いのです。ずっと昔に、人とエルフが絆を結んだ。その過去を。
結局のところ、人もエルフも変わりません。個人のレベルでは仲良くすることはあっても、種族としてお互いが手を取り合ったことなど、無いのですから。
そんな世界でも、エルフを大事にした人間が居たのです。それは、初代様とレックス様に共通するところですね。
ですが、今のブラック家には、その名残なんてありません。エルフも獣人も、果ては同種の人間でさえも。すべてを下に見て、道具として扱う。そんな家になってしまったのです。
「少なくとも私は、今のブラック家を好きになれそうにはありませんから」
だから、どうにかしてブラック家を変えたかった。それは、私の本心だったのでしょう。諦観が支配していたのも、事実ではありますが。
その中で現れたのが、レックス様なんです。圧倒的な力を持っていても、人を傷つけることを好まない。そんな人。
レックス様なら、きっと何かを変えてくれる。そんな期待に応えてくれた人なんです。カミラ様やメアリ様は、間違いなくレックス様の影響で変化しましたから。私から見て、良い方向に。
ですから、もっと大きな変革を望んでいる私が居ることは、確かな事実なんです。
「そう考えると、今の状況は都合が良いですね。私が何もしなくても、結果は転がり込んでくるかもしれない」
そう。ブラック家の当主は死に、結果的にブラック家は大きく変わる。そんな未来は、目の前にあるのです。つい、頬を緩めそうになってしまいますね。
「どうにかして、レックス様を誘導できないでしょうか」
かつてのブラック家に、少しでも近づけるように。もちろん、昔のすべてが正しかったとは思いません。レックス様だからこその未来もあるでしょう。
それでも、根本的なところでは、私はブラック家に変わってほしいのです。ですから、現当主が死んでくれた方が、ありがたいんです。
「ただ、レックス様の心が折れては、何の意味もありませんから」
それは、実利を考えても、私の心情を考えても。
「私だって、レックス様に仕えるメイド。その役目を、忘れるつもりはありません」
レックス様を支えるのが、私の役割です。それは、今も未来も変わらないこと。彼の心を完全に無視するのは、メイドとしてダメでしょう。
とはいえ、レックス様のやりたいことと、彼の幸福がずれているのなら。その時は、話が別ですが。
私は長い時間を生きてきましたから。人が矛盾を抱える生き物だということは、よく知っているつもりです。いえ、人だけではなく。エルフも獣人も同じでしょうね。もちろん、私だって。
それでも、変わらないことはあります。レックス様の命が尽きるまで、メイドとして仕えること。それは、絶対に続けるべきことなんです。
「それに、レックス様個人だって、とても好ましい方ですから。ウェスさんやミルラさんの扱いは、昔を思い出します」
そう。人で主だった初代様と、エルフでメイドだった私が、ただの個人として笑い合っていた過去を。
いま、種族や才能、立場に関係なく、お互いが笑い合える時間がある。レックス様のそばにならば。その事実が、私に力をくれるのです。
だからこそ、レックス様の進むべき道は、ハッキリしているのです。彼の本来の望みは、ブラック家の当主が今のままである限り、叶わないのですから。
そう。ブラック家の現当主は、いずれ死ぬべき存在なのです。レックス様から見ても、私から見ても。
「ただ、時期が早まるだけのこと。ブラック家とレックス様は、相容れないのですから」
レックス様は、お優しい方です。だからこそ、人々を軽く扱うブラック家に居ては、幸せになれない。いずれ、当然の破綻が訪れていたはずです。
ブラック家とレックス様は、どこかで敵対する運命なんですよ。だって、何もかもが違うんですから。
私は知っています。ブラック家の現当主は、自己の利益のためならば、どれほどの人数でも犠牲にできる人だと。そんな相手とレックス様が、本当の意味で仲良くなれるはずがないんです。
「私にとっても、レックス様にとっても、背中を押すのが都合が良いでしょうね」
決断を先延ばしにしても、ブラック家の側についても、レックス様の幸福は遠ざかるだけ。私の望むブラック家も、帰ってこない。
私も、レックス様も、今のブラック家のもとでは幸せになれない存在なんですよ。一瞬だけ幸せだったとしても、すぐに壊れてしまう。そんな未来は、当然のものなんです。
だから、今がチャンスなんです。ブラック家の当主が変わって、あの家自体も変わる。そのきっかけとして。
「当主になったレックス様にお仕えする瞬間は、とても楽しみです」
今よりもずっと、仕事が楽しくなるでしょうから。暖かい時間を過ごせるでしょうから。ですから、レックス様には決断してほしい。それだけなんです。
もちろん、レックス様自身にとっても、必要な選択だと思います。結局のところ、ブラック家とレックス様は、水と油でしかないのですから。
素晴らしい未来のために、一歩一歩進んでいきましょう。
「まずは、ミルラさんと協力するところからですね」
ミルラさんの懸念していたことは、理解できるつもりです。ですから、私の能力も必要になるかもしれません。
「カミラ様やメアリ様を死なせると、レックス様は悲しむでしょうから」
私だって、レックス様とお二人の関係は好きですから。お互いがお互いを大切にする、良い関係だと思います。ですから、守るべきものでしょう。
「こちらで打てる手は、打っておきましょう」
かつてのツテも利用するのが、今の私に必要なことでしょうね。そこは、ミルラさんには無いものですから。
「エルフの長い生は、多くの関係性を生み出すんですよ」
どこかの貴族の弱みを握っていたり、誰かの隠し財産を知っていたり。そういうこともあるんですよ。もちろん、エルフどうしの繋がりだってあります。
まずは、良い未来のために必要な情報を、思い出すところからですね。
「そうですね。フィリス様とも協力して……」
最も高貴なエルフ。当然、私以上のツテもあるでしょう。それから、単純な力も。
レックス様。あなたが当主となった暁には、全身全霊をもって仕えさせていただきますね。これまで以上に、力を入れて。楽しみにしていてくださいね。
今のレックス様は、少し追い詰められているように見えますからね。普段の彼なら、誰かに相談するという考えは、思い浮かばない気がしますから。
もちろん、状況を考えれば当然のことではあります。親を殺すのには覚悟がいる。いくら悪人だとしても。それだけのことでしょう。気持ちは、分かるような気がします。
とはいえ、彼のやるべきことは決まっているようなものです。合理でも、道義でも、情でも。ですから、あまり選択肢は多くありませんね。
それに、私個人としても、望んでいた状況が近づきそうですから。
「今の当主が殺されて、レックス様が主に立ったのなら。かつてのブラック家を取り戻せるかもしれません」
そう。初代様が居た頃のような。異種族にも優しく、領民思いだった、かつての主が居たような家に。
今のレックス様を見ていると、初代様を思い起こすことも多いのです。ずっと昔に、人とエルフが絆を結んだ。その過去を。
結局のところ、人もエルフも変わりません。個人のレベルでは仲良くすることはあっても、種族としてお互いが手を取り合ったことなど、無いのですから。
そんな世界でも、エルフを大事にした人間が居たのです。それは、初代様とレックス様に共通するところですね。
ですが、今のブラック家には、その名残なんてありません。エルフも獣人も、果ては同種の人間でさえも。すべてを下に見て、道具として扱う。そんな家になってしまったのです。
「少なくとも私は、今のブラック家を好きになれそうにはありませんから」
だから、どうにかしてブラック家を変えたかった。それは、私の本心だったのでしょう。諦観が支配していたのも、事実ではありますが。
その中で現れたのが、レックス様なんです。圧倒的な力を持っていても、人を傷つけることを好まない。そんな人。
レックス様なら、きっと何かを変えてくれる。そんな期待に応えてくれた人なんです。カミラ様やメアリ様は、間違いなくレックス様の影響で変化しましたから。私から見て、良い方向に。
ですから、もっと大きな変革を望んでいる私が居ることは、確かな事実なんです。
「そう考えると、今の状況は都合が良いですね。私が何もしなくても、結果は転がり込んでくるかもしれない」
そう。ブラック家の当主は死に、結果的にブラック家は大きく変わる。そんな未来は、目の前にあるのです。つい、頬を緩めそうになってしまいますね。
「どうにかして、レックス様を誘導できないでしょうか」
かつてのブラック家に、少しでも近づけるように。もちろん、昔のすべてが正しかったとは思いません。レックス様だからこその未来もあるでしょう。
それでも、根本的なところでは、私はブラック家に変わってほしいのです。ですから、現当主が死んでくれた方が、ありがたいんです。
「ただ、レックス様の心が折れては、何の意味もありませんから」
それは、実利を考えても、私の心情を考えても。
「私だって、レックス様に仕えるメイド。その役目を、忘れるつもりはありません」
レックス様を支えるのが、私の役割です。それは、今も未来も変わらないこと。彼の心を完全に無視するのは、メイドとしてダメでしょう。
とはいえ、レックス様のやりたいことと、彼の幸福がずれているのなら。その時は、話が別ですが。
私は長い時間を生きてきましたから。人が矛盾を抱える生き物だということは、よく知っているつもりです。いえ、人だけではなく。エルフも獣人も同じでしょうね。もちろん、私だって。
それでも、変わらないことはあります。レックス様の命が尽きるまで、メイドとして仕えること。それは、絶対に続けるべきことなんです。
「それに、レックス様個人だって、とても好ましい方ですから。ウェスさんやミルラさんの扱いは、昔を思い出します」
そう。人で主だった初代様と、エルフでメイドだった私が、ただの個人として笑い合っていた過去を。
いま、種族や才能、立場に関係なく、お互いが笑い合える時間がある。レックス様のそばにならば。その事実が、私に力をくれるのです。
だからこそ、レックス様の進むべき道は、ハッキリしているのです。彼の本来の望みは、ブラック家の当主が今のままである限り、叶わないのですから。
そう。ブラック家の現当主は、いずれ死ぬべき存在なのです。レックス様から見ても、私から見ても。
「ただ、時期が早まるだけのこと。ブラック家とレックス様は、相容れないのですから」
レックス様は、お優しい方です。だからこそ、人々を軽く扱うブラック家に居ては、幸せになれない。いずれ、当然の破綻が訪れていたはずです。
ブラック家とレックス様は、どこかで敵対する運命なんですよ。だって、何もかもが違うんですから。
私は知っています。ブラック家の現当主は、自己の利益のためならば、どれほどの人数でも犠牲にできる人だと。そんな相手とレックス様が、本当の意味で仲良くなれるはずがないんです。
「私にとっても、レックス様にとっても、背中を押すのが都合が良いでしょうね」
決断を先延ばしにしても、ブラック家の側についても、レックス様の幸福は遠ざかるだけ。私の望むブラック家も、帰ってこない。
私も、レックス様も、今のブラック家のもとでは幸せになれない存在なんですよ。一瞬だけ幸せだったとしても、すぐに壊れてしまう。そんな未来は、当然のものなんです。
だから、今がチャンスなんです。ブラック家の当主が変わって、あの家自体も変わる。そのきっかけとして。
「当主になったレックス様にお仕えする瞬間は、とても楽しみです」
今よりもずっと、仕事が楽しくなるでしょうから。暖かい時間を過ごせるでしょうから。ですから、レックス様には決断してほしい。それだけなんです。
もちろん、レックス様自身にとっても、必要な選択だと思います。結局のところ、ブラック家とレックス様は、水と油でしかないのですから。
素晴らしい未来のために、一歩一歩進んでいきましょう。
「まずは、ミルラさんと協力するところからですね」
ミルラさんの懸念していたことは、理解できるつもりです。ですから、私の能力も必要になるかもしれません。
「カミラ様やメアリ様を死なせると、レックス様は悲しむでしょうから」
私だって、レックス様とお二人の関係は好きですから。お互いがお互いを大切にする、良い関係だと思います。ですから、守るべきものでしょう。
「こちらで打てる手は、打っておきましょう」
かつてのツテも利用するのが、今の私に必要なことでしょうね。そこは、ミルラさんには無いものですから。
「エルフの長い生は、多くの関係性を生み出すんですよ」
どこかの貴族の弱みを握っていたり、誰かの隠し財産を知っていたり。そういうこともあるんですよ。もちろん、エルフどうしの繋がりだってあります。
まずは、良い未来のために必要な情報を、思い出すところからですね。
「そうですね。フィリス様とも協力して……」
最も高貴なエルフ。当然、私以上のツテもあるでしょう。それから、単純な力も。
レックス様。あなたが当主となった暁には、全身全霊をもって仕えさせていただきますね。これまで以上に、力を入れて。楽しみにしていてくださいね。
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