上 下
145 / 374
4章 信じ続ける誓い

144話 ミュスカ・ステラ・アッシュの野望

しおりを挟む
 私は、レックス君に信じてもらうために、いろんな努力をしたよ。最近のものだと、彼の部屋での会話だと思う。

 あれには、私の本心も多く混ざっていたよ。だから、きっと効果があったんだと思う。

 とにかく、私を信じてもらえないことには、何も始まらない。だから、必死だったんだよね。

 レックス君を好きなのは、きっと本当のこと。そうじゃなきゃダメなんだよ。だって、ウソをついたままじゃ、信じてもらえないんだから。

 どこかで、私のことを疑っている。そんな彼に、単純なウソが通じるはずもないんだから。

 だから、頑張ったよ。レックス君の良いところを、何度も頭で繰り返した。助けてくれた瞬間のカッコよさを、頭に刻みつけた。

 その感情を叩きつけたことで、うまくいったはずなんだよ。

「レックス君は、きっと私を本気で信じてくれたよね」

 私の涙は、本物だって。私の好きって気持ちは、心からのものなんだって。正解だよ。感情があふれるくらいの想いを、私は持っているんだから。

 それに、私を泣かせたくないって考えてくれた。やっぱり、優しい人だよね。そこは絶対、レックス君の良いところだよ。

 特に、本当に誰にでも優しい訳じゃないところが。私を特別に想ってくれているのを、理解できるからね。

「うん、嬉しいよ。レックス君の気持ちは、とっても」

 私をもっと好きになってほしい。それは間違いのない本心だから。もっと素敵だって思ってほしいし、可愛いって思ってほしいよ。

 だからこそ、レックス君に伝わらないのは、苦しかった。その想いが、あの涙なんだよ。

「泣いていたのがどうしてかって、故意なんだけどね」

 恋でもあるけれど。私は、レックス君に嫌われる未来を想像し続けた。私の本心に気づかれて。悪人だって思われて。下位互換の闇魔法なんていらないって思われて。

 思いつく限りの、様々な別れを考えたよ。レックス君と過ごす、楽しい時間の最中にね。だから、悲しさがあふれたんだ。

 狙い通りに涙を流して、それでレックス君は私を心配してくれた。何よりも、私を信じるって約束してくれた。

 とっても嬉しくて、幸せだったよ。だって、レックス君が私を大好きで居てくれるって証なんだもん。

「本当に、隙だらけだよ。そんなところも、好きなんだけどね」

 きっと彼は、私を疑うことに罪悪感を覚えてくれる。私を、もっと好きになってくれる。心の底から、私を大事にしてくれる。

 なんて可愛いんだろう。私を悪人だって疑っていた人の行動じゃないよね。

「これから、何をしようかな? またデートも良いよね。今度は本当にキスしちゃおうかな」

 抱きついちゃっても良い。以前より、ずっと激しく。心と心がつながるくらいに。その上で、体までつながっちゃったら。きっと良い思い出になるよね。

 私にとっても、レックス君にとっても、最高の瞬間のはずだよ。運命のふたりが結ばれるんだから。

「あー、楽しみでいっぱいだよ。レックス君は、素敵だね」

 何をするか考えているだけで、ドキドキできるんだ。いろいろな未来が、想像できるから。

「一緒に居ても楽しいし、これから先に裏切っても良い。最高だよね」

 レックス君は、間違いなく私を大切にしてくれる人だもん。きっと、私の本性を知ってもね。というか、もう知っているのかもしれない。

 そんな人、今までには居なかったよ。私の外面に騙されて、振り回されるだけの人しかね。

 だから、私にとってもレックス君は特別なんだ。いろんな意味でね。だから、もっとずっと好きになってほしいよ。それは、心からの気持ちなんだよ。

「もっと役に立って、信じてもらって、楽しい時間も過ごす。うん、良い感じだよ」

 レックス君の心の中で、私が大きくなっていくように。私を、誰よりも好きになってもらえるように。

 そうなれば、お互いに幸せだよね。レックス君は、私に尽くされて嬉しい。私は、レックス君に想われて嬉しい。

「私が居なくちゃ生きていけないレックス君とか、絶対可愛いよね」

 私に依存しつくして、私を失ったら死んじゃうくらいの。そんな未来を想像するだけで、胸が暖かくなるんだ。

 だって、レックス君ほど強くて素敵な人を、私のものにできるんだから。

「うん、裏切ることだけがすべてじゃない。道が開けた気分だよ」

 そうだよね。ひとつの手段にこだわらなくて良い。大切なことだよ。今後、どんな風に未来が変わるのかなんて分からない。だからこそ、選択肢は多い方が良いんだ。

 裏切ってもいい。依存させてもいい。体におぼれさせてもいい。執着させてもいい。いろんな道があるんだよね。

「とにかく、私をレックス君の人生にできれば、それで勝ちなんだから」

 レックス君に勝つ。そのために、裏切るつもりだったんだからね。私より強くて、慕われていて、恵まれている人に勝つために。

 でも、どの手段でも同じことだってあるよ。それは、レックス君には、もっと私を好きになってもらうべきだってこと。

「どんな道を選ぶにしても、もっと仲良くして、いっぱい思い出を作る。そこからだよ」

 レックス君の日常には私が居て、私の日常にはレックス君が居る。そうすることが、大事なんだ。とにかく、お互いに楽しい時間を過ごして、幸せになって。その先に、思い描いた未来があるんだから。

「うん、頑張っていこう。いろんなこと、したいよね」

 授業で協力したり、一緒に敵を倒したり。ふたりだけの魔法を作ったり、ふたりだけの時間を過ごしたり。

「まずはレックス君に、私を好きになってもらうんだ。そのために、一歩ずつ」

 好きになってもらうには、努力しないとね。可愛いって思ってもらえるように。優しいって感じてもらえるように。魅力的な女の子だって、認識してもらえるように。

 何よりも、ふたりの時間を楽しんでくれるように。

「もっと料理の勉強をしようかな。それとも、手を繋ぐ練習でもしようかな」

 やりたいことが多くて、ワクワクしちゃう。今の私は、きっと誰よりも人生を楽しんでいる。

「レックス君のおかげで、とっても幸せだよ。ありがとう」

 私の、本当の感謝の気持ち。どんな未来を選んでも、きっと変わらないこと。裏切るとしても、依存させるとしても。他の道だとしても。

「だから、レックス君を奪う人間は、絶対に許さないよ」

 それだけは、決まりきっているんだ。レックス君と私は、いつまでも一緒に居るべきなんだから。

 だから、これから先もずっと、よろしくね、レックス君。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...