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4章 信じ続ける誓い

139話 試行錯誤を繰り返して

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 ウェスの今まで知らなかった一面を見たことで、俺も少し成長できた気がする。

 というのも、俺の居ないところでも人が成長できているという当たり前の事実を、ちゃんと理解できたからだ。

 まったくもって、情けない限りではある。気づいて当然のことに、気づけていなかったのだから。ただ、今は分かっている。それだけでも、確かな進歩だ。

 そうだよな。俺ひとりだけで全てを解決する必要がないのは、みんなだって強いからだ。そして、みんなが強くなるのは、俺に関係のないところでも努力しているからだ。

 気づくための材料は、いくらでもあった。カミラが原作よりも強くなったこと、学校もどきの生徒達がアストラ学園に合格した事実。ハンナやルースが、俺に挑む中で強くなっていたこと。そして何よりも、みんなが原作終盤の敵を倒せていたこと。

 そこまであって、自分を中心に世界が回っているという考えを変えられなかったのは、恥ずかしいものだ。

 だが、今日からは違う。そう思いたいな。ちゃんと、目の前の相手を見るだけで良い。それだけで、自分以外の世界を知れるはずなんだから。

 そう思うと、授業にも力が入る気がするな。みんなの成長を知る。それだけでも、とても楽しくなるだろう。

「今日は僕達と一緒だね、レックス様!」
「ご一緒できて、嬉しいです。最近は、機会が少なかったですから」
「あたし達も、もっとレックス様のお役に立ちたいですからね」
「今日こそ、ご褒美。撫で撫で。だっこ」

 学校もどきの生徒達と授業を受けるのも、何度目になるだろうか。そのたびに、みんな成長を見せてくれていたのだろう。俺はこれまで、うまく気付けなかったが。

 そうだな。サラの提案してくれたことだって、彼女の成長の証だったはずだ。ちょうど良いタイミングだし、他の人ともやってみたい。

 いま思えば、人の魔力を俺が操作するというアイデアには、無限の可能性がある。なにせ、フィリスにすら通用する手段だったのだから。

 そんなアイデアを出してくれたサラには、感謝するばかりだ。望むご褒美も、しっかりと渡したい。まあ、撫でることや抱きしめることで満足してくれるので、楽ではあるのだが。

 もっと喜ばせるために、何か考えても良いかもしれないな。とはいえ、いま大事なのは、目の前の授業だ。終わってから考えれば十分だろう。頭の片隅には、置いておく必要があるだろうが。

「試したいことが、ひとつあってな。サラ、構わないよな?」
「もちろん。良い結果が出たら、ご褒美。それでいい」

 直接答えを言わなくても、何をするか察してくれる。やはり、得難い存在だ。これから先も、大事にするべき相手だよな。

 もちろん、利益だけ考えている訳ではないが。サラは大切な友達で、仲間だと思っているのだから。

「ああ。お前のアイデアには、その価値があるだろう」
「どんなものなの、レックス様?」
「単純だ。俺がお前達の魔力に、闇の魔力を侵食させて、俺が自分のものとして扱う」

 サラとならうまく行ったが、他の人となら、どうだろうな。間違いなく、実験する価値はあると思う。単純に、複数人の魔力を同時に敵にぶつける。それだけでも、2人でバラバラに魔法を撃つよりも強いだろうからな。

 なにせ、お互いの魔法がぶつかりあって減衰する可能性を考えなくて良い。2人の魔力を百パーセント叩きつけられる。とても重要なことだ。

「なるほど。それなら、レックス様の技量で、私達の魔力を使えますからね」
「あたし達でも、というか誰でもお役に立てそうですね」

 やはり、俺以外の意見を聞くのは大事だな。新しい発見がある。そうか。技量の劣る相手の魔力を使えば、その人が魔法を使うよりも強力になる。単純だが、有用かもしれない。

 まあ、俺の知り合いで、魔力の扱いが下手な人間は居ない。仮にも、このレプラコーン王国で最高峰の学園の、その一番上のクラスの人間なのだから。

「そうでもない。俺が魔力を操作すると、体の内側を触られているような感覚になるそうだからな」
「むふふ。私は我慢できる。というか、むしろ好き。ご褒美は確実」
「なら、私も負けていられませんね。レックス様に、すべてを捧げるだけです」
「あたしたち複数人の魔力を使えば、もっと効果的かもしれませんね」
「僕も頑張るよ! いろいろな技があった方が、絶対に良いからね!」

 ふむ。誰と協力するかでも、得意な状況は変わってくるだろうからな。多くの技が生み出せれば、それだけ対応できる場面は多くなる。

 やはり、仲間の価値は大きいな。俺ひとりでは絶対にたどり着けない場所でも、みんなとなら届くかもしれない。そう思える。

 ということで、訓練場に向かう。結構な高火力を叩きつけても壊れないのは、俺とフィリスが証明しているからな。それこそ、何をやっても大丈夫だろう。

「さて、まずは順番に試してみるか。それが早いだろう」
「なら、僕からお願い!」

 まずは、ジュリアの魔力を預かって、動かしてみる。複数の魔法を放ってみるが、基本的には魔力量が増えたようなもの。

 ただ、無属性の特徴は出ている。俺が同じ量の魔力を使うよりも、威力が大きい。純粋に叩きつけるだけで強い魔法の真価って感じだな。

「ふむ、悪くないな。単純に威力が増すだけでも、便利なものだ」
「ちょっと、くすぐったかったけど。それくらいなら、軽いものだよ!」
「では、次はあたしですね」

 ラナとの協力では、逆に威力を出すことの難しさが課題になっていた。水をただ叩きつけても、あまり強くならない。

 無論、俺の魔力で補助してやれば大抵のものは壊せるのだが。ただ、それならジュリアと協力した方が効率がいい。

 ということで、別の方向性がないかを検証していた。水の優位性としては、好きな形で固定しやすいことがあった。つまり、設置する形の魔法が使いやすいということだ。

 そこまで分かったら、後の方向性は単純だった。

「水を使えば、壁を作りやすいな。これは、防御で役立つだろう」
「レックス様をお守りする力になるのなら、嬉しいです」
「それでは、私もよろしくお願いします」

 続いて、シュテルの魔力を扱おうとすると、問題が発生した。なんと、俺の思い通りに操れないのだ。

 すぐにシュテルも気づいたようで、絶望したような表情をしていた。

「どうして……? 私は、レックス様のお役に立てないの……?」
「気が早いぞ、シュテル。おそらくは、お前に植え付けた俺の魔力が、悪さをしている」
「つまり、最初からダメだったと……?」
「だから、結論を焦るな。もとは俺の魔力だ。俺に操作できないはずがないだろう。もう一度だ」
「かしこまりました、レックス様」

 少しは、落ち着いた顔に戻ってくれた。だが、結果を出せなければ意味がない。シュテルは、本気で俺の役に立ちたいと考えてくれているようだから。

 ということで、シュテルの魔力の奥底にまで侵食していく。すると、闇の魔力からも反応があった。そこで、闇の魔力ごと操ることにすると、うまく行った。

 シュテルは、俺が魔力を操作できている様子を見て、とても嬉しそうに笑う。その顔を見ると、成功できてよかったと思えた。

「なるほどな。単一属性だと思うから、失敗したのか。単純な話だったな」
「流石はレックス様です。お役に立てそうで、嬉しいです」
「ああ。お前達を役立てるのは、俺の役割だからな。当然だろう」
「では、あたしも、もう少し検証したいです」
「そうだな。魔力に余裕のあるうちは、付き合ってもらうぞ」

 残りの時間も、みんなと魔法を使ってみた。そこで分かったことがある。俺が侵食した魔力でも、本人でも操作できるという事実だ。

 正確には、俺が操作しようとすれば、上書きされるというのが正しいか。ただ、魔力どうしが混ざり合っているので、ぶつかり合うことでの減衰は避けられる。

 つまり、とても大きな可能性があるということだ。まだまだ先は長そうだが、楽しみでもある。どこまで成長できるのか。つい期待してしまうな。

「完全に俺が操作しないのも、ひとつの手段か。面白いものだ」
「かなり訓練しないと、足を引っ張るだけになりそうですね。あたしも、頑張らないと」
「私の案のおかげ。だから絶対ご褒美。これは譲れない」
「そうだな。限度はあるが、お前達も褒美を考えておけ。確かに、役立ってくれたのだからな」

 俺にあげられるものなら、どんなものでも構わない。それくらいには考えていたのだが。まあ、みんな良い子たちだからな。あまり無茶な要求はされないと思う。

 ただ、みんなが喜ぶ顔が見られるのなら、もっとワガママを言ってくれてもいいのにな。そんな思いがあった。
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