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3章 アストラ学園にて
94話 ハンナ・ウルリカ・グリーンの決意
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わたくしめは、騎士を輩出する家系に生まれました。グリーン家の長女として、当然のように騎士を目指す生き方を進んだのです。
ただ、グリーン家には、長く続く傷がありました。騎士の家系ではあるものの、近衛騎士を輩出したことはない。家族達は皆、どこかに劣等感を抱えていたのでしょう。
そんな中に、わたくしめの魔法の素養が明らかになりました。雷、風、水、土の四属性。グリーン家では初めてと言って良い、とてつもなく大きな才能だったのです。
当然の帰結として、わたくしめは家の期待を一身に背負うことになりました。お前なら近衛騎士になれる。なるべきだ。そのようなことを何度言われたか、もう分からないほどに。
ただ、わたくしめは嫌とは考えていませんでした。強くなることは楽しかったですし、物語の騎士に憧れもありましたから。
努力を繰り返す中で、切り札も生まれました。閃剣という技。わたくしめの魔力を形にした剣を、大量に降らせるもの。その技が生まれてからは、ほとんどの人には負ける気がしなかったものです。
ただ、どうしても勝てない相手も居ました。それでも、その方たちが戦うこと自体が間違っている。そう考えることで、目標に向かって進んでいたのです。
「わたくしめは、必ず近衛騎士になれるはずです。ミーア様やリーナ様には敵わないまでも、確かな実力があるはずですから」
その希望を胸に、努力を重ねる日々。苦しさもありましたが、自分が前進しているという実感を得られていました。
何よりも、現役の騎士を打ち破る機会も増え、わたくしめ自身の力を実感できたのです。間違いなく、才能はある。それを胸に進んでいけば、きっと大丈夫。そう信じることができたのです。
ただ、王女殿下方と仲良くなることは、できていたとは言いがたかったですね。無論、ただの貴族が簡単に出会える存在ではなかったのですが。とはいえ、出会う機会に仲を深められているとも言えませんでした。どこか、心の壁があるような。そんな気がしていたのです。
ミーナ様やリーナ様は、ある日突然、穏やかになりました。それからは、向こうから近づいてくださって、共に笑い合う時間も増えたと思います。
そんな日々を過ごす中で、この人達の笑顔がもっと見たいという思いも、芽生えました。その心が一番大事だとは、当時は気づかないままに。
「王女殿下方とも、距離を縮められたはず。なら、もう目の前にあるはずなんです」
そうなのです。わたくしめは、目的を見誤っておりました。近衛騎士になるのは、ただの名誉ではない。そんな事実を、理解できていなかったのです。命をかけて、王女殿下をお守りする。それこそが役目。だからこそ、わたくしめの心が最も大切だったのです。
つまるところ、自分から近衛騎士への道から遠ざかっていた。ミーア様やリーナ様のために全てをかけられない人間が、どうして近衛としての役割を果たせましょうか。いま思えば、当時のわたくしめは愚かでしたね。
そんな日々の中で、王女殿下方によって、レックス殿を紹介されました。第一印象は、正直に言って良くなかったですね。ブラック家の人間ということもありますし、口も悪い。お二方の言葉でも、信頼するのは難しいと考える程度には。
ただ、間違いなく優れた能力を持っていた。闇魔法使いの中でも上位であることは疑いようのない、圧倒的な力。それを羨む心、憧れる心、反発する心、様々な感情が絡み合っていましたね。
良くも悪くも、人の目を引き付けることは明らかでした。どう考えても、飛び抜けていましたから。
「レックス殿。彼は、強い。王女殿下方の敵になったのであれば、お守りできないかもしれないほどに」
その事実があるからこそ、わたくしめは迷った。味方につけるように立ち回るべきか、敵に回った時の対策をすべきかを。
同時に、彼と戦うことを考えても、勝ち筋が思い浮かばないことに気づいたのです。
「だからといって、負けるものですか! わたくしめは、絶対に近衛騎士になるのです!」
それから、何度も何度もレックス殿と戦った。その中で、一度折れそうになったこともありました。ただ、結果としては、手に入れたものの方が大きかった、そう言えるでしょう。
レックス殿を見る目も、明らかに変わりましたね。ミーア様やリーナ様が信頼する理由が、よく分かったと言えるでしょう。わたくしめも、気に入ってしまいました。
「彼は、わざわざ格下でしかない、わたくしめに付き合ってくださった。それは、彼の優しさのはずです」
だって、どう考えても、わたくしめと何度も戦うのは面倒だったはずですから。それを理解できないくらい視野が狭くなっていたと思えば、恥ずかしい限りですが。
ですが、だからこそ彼の心に触れられたと思います。結果としては、良かったはずです。わたくしめとしては、反省も必要ではありましょうが。
「思えば、わたくしめは、つまらない感情をぶつけてしまった。それでも、わたくしめに期待してくださったのです」
嫉妬して、反発して、甘えて。言葉にすれば、そのような感覚でしょうか。わたくしめが近衛騎士になれるかどうかなど、本来は彼にとって関係のないことなのです。にもかかわらず、彼に答えを求める。追い詰められていたとはいえ、愚かなことをしたものです。
ただ、彼はわたくしめに発破をかけてくださった。言葉だけを聞けば、バカにしたと捉えてもおかしくはないもの。ですが、わたくしめが立ち上がると信じてくれていた。期待してくれていた。そのはずなのです。
だって、邪魔だと思っているのなら、どうでもいいと思っているのなら、放っておけばよかったのですから。それなのに、わたくしめの背中を押してくださった。
「そのおかげで、わたくしめは確かに強くなれた。これまでのわたくしめより、ずっと」
閃剣の剣を束ねる技。もはや別の技ですから、いずれ名前を考えたいですね。できれば、レックス殿を感じさせるものが良いですが。ただ、難しい。名付けは、得意ではありませんから。
でも、彼のおかげなのです。それだけは、刻み込んでおきたい。頭に、心に。
「口では悪いことを言って、それでも、お優しさを隠しきれない。素直になれないと思えば、可愛らしいものです」
レックス殿は、ブラック家に生まれて、圧倒的な才能を持っている。それでも、善性を失わない。素晴らしいことです。同じ環境に居て、わたくしめは力におぼれなかったでしょうか。正直に言えば、自信はありません。期待を背負っていたとはいえ、間違いなく愛されて育ったわたくしめですから。
「レックス殿、わたくしめは貴殿に勝ってみせる。それが、わたくしめの恩返しの形です」
きっと、彼だって似たようなことを望んでいる。わたくしめが強くなって、ミーア様やリーナ様をお守りできることを。彼より強くなる理由は、他にもありますけれど。
「だって、レックス殿も、守られても良いはずなのですから。ミーア様やリーナ様ほどではなくとも、大切な友人なのです」
なんて、彼がどう思っているかは、知らないのですけれどね。ただ、こちらから寄り添う大切さは、もう知っていますから。王女殿下方を大切に思うから守る。その心と、同じところにあるのです。わたくしめだけの為じゃない、相手を思うという気持ちは。
「レックス殿が驚く顔は、きっと可愛らしいはずです。その姿を見る瞬間が、楽しみですね」
強くて、ひねくれもので、可愛らしい方。だから、もっといろんな一面を見たいのです。表情を目に焼き付けたいのです。心を知りたいのです。
ずっと、付き合っていただきますからね。王女殿下方が居る以上、わたくしめ達は離れることなど無いのでしょうから。
ただ、グリーン家には、長く続く傷がありました。騎士の家系ではあるものの、近衛騎士を輩出したことはない。家族達は皆、どこかに劣等感を抱えていたのでしょう。
そんな中に、わたくしめの魔法の素養が明らかになりました。雷、風、水、土の四属性。グリーン家では初めてと言って良い、とてつもなく大きな才能だったのです。
当然の帰結として、わたくしめは家の期待を一身に背負うことになりました。お前なら近衛騎士になれる。なるべきだ。そのようなことを何度言われたか、もう分からないほどに。
ただ、わたくしめは嫌とは考えていませんでした。強くなることは楽しかったですし、物語の騎士に憧れもありましたから。
努力を繰り返す中で、切り札も生まれました。閃剣という技。わたくしめの魔力を形にした剣を、大量に降らせるもの。その技が生まれてからは、ほとんどの人には負ける気がしなかったものです。
ただ、どうしても勝てない相手も居ました。それでも、その方たちが戦うこと自体が間違っている。そう考えることで、目標に向かって進んでいたのです。
「わたくしめは、必ず近衛騎士になれるはずです。ミーア様やリーナ様には敵わないまでも、確かな実力があるはずですから」
その希望を胸に、努力を重ねる日々。苦しさもありましたが、自分が前進しているという実感を得られていました。
何よりも、現役の騎士を打ち破る機会も増え、わたくしめ自身の力を実感できたのです。間違いなく、才能はある。それを胸に進んでいけば、きっと大丈夫。そう信じることができたのです。
ただ、王女殿下方と仲良くなることは、できていたとは言いがたかったですね。無論、ただの貴族が簡単に出会える存在ではなかったのですが。とはいえ、出会う機会に仲を深められているとも言えませんでした。どこか、心の壁があるような。そんな気がしていたのです。
ミーナ様やリーナ様は、ある日突然、穏やかになりました。それからは、向こうから近づいてくださって、共に笑い合う時間も増えたと思います。
そんな日々を過ごす中で、この人達の笑顔がもっと見たいという思いも、芽生えました。その心が一番大事だとは、当時は気づかないままに。
「王女殿下方とも、距離を縮められたはず。なら、もう目の前にあるはずなんです」
そうなのです。わたくしめは、目的を見誤っておりました。近衛騎士になるのは、ただの名誉ではない。そんな事実を、理解できていなかったのです。命をかけて、王女殿下をお守りする。それこそが役目。だからこそ、わたくしめの心が最も大切だったのです。
つまるところ、自分から近衛騎士への道から遠ざかっていた。ミーア様やリーナ様のために全てをかけられない人間が、どうして近衛としての役割を果たせましょうか。いま思えば、当時のわたくしめは愚かでしたね。
そんな日々の中で、王女殿下方によって、レックス殿を紹介されました。第一印象は、正直に言って良くなかったですね。ブラック家の人間ということもありますし、口も悪い。お二方の言葉でも、信頼するのは難しいと考える程度には。
ただ、間違いなく優れた能力を持っていた。闇魔法使いの中でも上位であることは疑いようのない、圧倒的な力。それを羨む心、憧れる心、反発する心、様々な感情が絡み合っていましたね。
良くも悪くも、人の目を引き付けることは明らかでした。どう考えても、飛び抜けていましたから。
「レックス殿。彼は、強い。王女殿下方の敵になったのであれば、お守りできないかもしれないほどに」
その事実があるからこそ、わたくしめは迷った。味方につけるように立ち回るべきか、敵に回った時の対策をすべきかを。
同時に、彼と戦うことを考えても、勝ち筋が思い浮かばないことに気づいたのです。
「だからといって、負けるものですか! わたくしめは、絶対に近衛騎士になるのです!」
それから、何度も何度もレックス殿と戦った。その中で、一度折れそうになったこともありました。ただ、結果としては、手に入れたものの方が大きかった、そう言えるでしょう。
レックス殿を見る目も、明らかに変わりましたね。ミーア様やリーナ様が信頼する理由が、よく分かったと言えるでしょう。わたくしめも、気に入ってしまいました。
「彼は、わざわざ格下でしかない、わたくしめに付き合ってくださった。それは、彼の優しさのはずです」
だって、どう考えても、わたくしめと何度も戦うのは面倒だったはずですから。それを理解できないくらい視野が狭くなっていたと思えば、恥ずかしい限りですが。
ですが、だからこそ彼の心に触れられたと思います。結果としては、良かったはずです。わたくしめとしては、反省も必要ではありましょうが。
「思えば、わたくしめは、つまらない感情をぶつけてしまった。それでも、わたくしめに期待してくださったのです」
嫉妬して、反発して、甘えて。言葉にすれば、そのような感覚でしょうか。わたくしめが近衛騎士になれるかどうかなど、本来は彼にとって関係のないことなのです。にもかかわらず、彼に答えを求める。追い詰められていたとはいえ、愚かなことをしたものです。
ただ、彼はわたくしめに発破をかけてくださった。言葉だけを聞けば、バカにしたと捉えてもおかしくはないもの。ですが、わたくしめが立ち上がると信じてくれていた。期待してくれていた。そのはずなのです。
だって、邪魔だと思っているのなら、どうでもいいと思っているのなら、放っておけばよかったのですから。それなのに、わたくしめの背中を押してくださった。
「そのおかげで、わたくしめは確かに強くなれた。これまでのわたくしめより、ずっと」
閃剣の剣を束ねる技。もはや別の技ですから、いずれ名前を考えたいですね。できれば、レックス殿を感じさせるものが良いですが。ただ、難しい。名付けは、得意ではありませんから。
でも、彼のおかげなのです。それだけは、刻み込んでおきたい。頭に、心に。
「口では悪いことを言って、それでも、お優しさを隠しきれない。素直になれないと思えば、可愛らしいものです」
レックス殿は、ブラック家に生まれて、圧倒的な才能を持っている。それでも、善性を失わない。素晴らしいことです。同じ環境に居て、わたくしめは力におぼれなかったでしょうか。正直に言えば、自信はありません。期待を背負っていたとはいえ、間違いなく愛されて育ったわたくしめですから。
「レックス殿、わたくしめは貴殿に勝ってみせる。それが、わたくしめの恩返しの形です」
きっと、彼だって似たようなことを望んでいる。わたくしめが強くなって、ミーア様やリーナ様をお守りできることを。彼より強くなる理由は、他にもありますけれど。
「だって、レックス殿も、守られても良いはずなのですから。ミーア様やリーナ様ほどではなくとも、大切な友人なのです」
なんて、彼がどう思っているかは、知らないのですけれどね。ただ、こちらから寄り添う大切さは、もう知っていますから。王女殿下方を大切に思うから守る。その心と、同じところにあるのです。わたくしめだけの為じゃない、相手を思うという気持ちは。
「レックス殿が驚く顔は、きっと可愛らしいはずです。その姿を見る瞬間が、楽しみですね」
強くて、ひねくれもので、可愛らしい方。だから、もっといろんな一面を見たいのです。表情を目に焼き付けたいのです。心を知りたいのです。
ずっと、付き合っていただきますからね。王女殿下方が居る以上、わたくしめ達は離れることなど無いのでしょうから。
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