上 下
90 / 374
3章 アストラ学園にて

90話 誰かとのつながり

しおりを挟む
 王女姉妹と、新しい技を開発できた。それは素晴らしいことだ。ただ、俺の抱える問題が解決した訳じゃない。希望が見える流れではあるものの、本筋というか、目標というか、そういうものには関係がないからな。

 それでも、確かな進歩ではあるんだ。俺達が強くなったならば、倒せる敵は増えるだろうからな。話が通じない、単なる化け物の敵も、原作には多く居た。それを考えると、どれほど強くなったとしても、無駄にはならないだろう。

 というか、王女姉妹との関係は大事だよな。この国の未来を大きく左右する人間なんだから。どう関わるにしても、軽く扱うのは論外だと言って良い。

 個人的にも、2人は好ましく感じているからな。原作のことを抜きにしても、仲良くしたい相手なのは間違いない。

 ということで、王女姉妹から話しかけられることが増えたのは、俺にとっては都合が良い流れだな。まあ、2人が悪意によって傷つかないように気をつける必要はあるとはいえ。

「ねえ、レックス君。せっかくだから、あなたの友達とも会ってみたいわ! 確か、一緒に連れてきてた子がいるわよね?」

 おそらくは、ジュリア達、学校もどきに通っていた生徒のことだよな。ジュリアとミーアが仲良くなってくれるのなら、今後の役に立つ場面が多いだろう。そういう事を考えなくても、知り合いどうしが親しくなるのは、俺にとっては嬉しいことだ。

 つまりは、俺は賛成だな。まあ、ジュリア達の意見を無視するのは問題だが。前向きに考えていきたくはある。

「姉さんの思いつきに付き合わせちゃいますね。でも、私も気になりますね。レックスさんが注目する人は」
「分かった。本人次第ではあるが、場を作ろうじゃないか」

 ということで、ジュリア達に話を持っていくことにする。受けてくれれば、これから先、良い関係になってくれるはずだ。原作では、主人公とメインヒロインだったからな。ジュリアとミーアは。

 まあ、原作だと、主人公は男だったのだが。ジュリアが女として生きていることで、どんな変化があるのだろうか。あまり心配はしていないが。ジュリアのまっすぐな性格が、ミーアの好みだったみたいだし。

「お前達、王女に興味はあるか?」
「レックス様、興味があるって言ったら、あたし達を会わせてくれるんですか?」

 アストラ学園に入ってからも、ラナ達は一緒に居ることが多い様子だ。つまり、本当に仲が良いのだろう。俺としては、助かる。見えないところでギスギスされると、困るどころではないからな。

 できることならば、親しい相手どうしを天秤にはかけたくない。みんなと仲良くできるのが、一番の理想だ。

「そうだな、ラナ。一応、知り合いではあるからな。お前達次第ではあるが、紹介する予定だ」
「すごいね、レックス様! まさか、王女様とも知り合いだなんて!」
「レックス様が会ってほしいなら会う。違うなら会わない」
「サラの言うように、私達は、レックス様のお役に立ちたいんです。ですから、お任せしますね」

 主体性がないのは、良いことなのか悪いことなのか。俺の意志に従ってくれるのは、都合が良くはあるのだが。親しい相手としては、もっと自分を出しても良いと思う。

 ただ、俺の考え次第で、ジュリア達の運命はいかようにもできるという事実は忘れてはならない。俺が素を出せと言ったとしても、実質的には強制なんだ。それも、俺の機嫌を損ねることを恐れながら綱渡りをさせる形の。

 だって、素を出して俺の不興を買ったら、どんな目に合うか分かったものではないだろう。少なくとも、ジュリア達の視点では。だからこそ、俺は慎重に言葉を選ばなければならない。

「なら、会っておけ。そうしておけば、あとで役に立つだろうさ」

 ジュリア達は頷いていた。実際、王女姉妹と親しくなれば、俺に対する手札を持っている状況を作れるだろう。俺がジュリア達をおとしめようとしても、王女姉妹が防ぐという形で。それなら、ジュリア達にもメリットはあるはずだ。

 ということで、後日に王女姉妹とお茶会をする流れになった。学園の寮の近く、中庭みたいな場所でテーブルにお茶とお菓子が用意されている。いかにもって感じだが、王女姉妹、特にミーアの雰囲気のおかげで、あまり重苦しさはないな。

「こんにちは、よく会いに来てくれたわ! 私はミーア。レックス君の友達よ!」
「リーナです。まあ、レックスさんの友達と言って、問題ないでしょう」
「僕はジュリア。よろしくね、王女様」
「もう、失礼でしょう、ジュリア。私はシュテルと申します。レックス様のもとで、学びを進めていました」

 ミーアは気にしないだろうが、危なっかしくはある。場を間違えれば、不敬だなんだと言う人も出てくるだろう。そういう意味では、シュテルの言葉はありがたい。

 実際、原作でも、主人公の言葉づかいから問題が発生する流れは、あったはずだから。ただ、ミーア本人は、親しい態度を望む人な気はする。場所に応じて態度を変えるのが、理想だよな。

「気にしなくて良いわ! 他の誰かが文句を言うなら、私が止めてあげるもの!」
「それはそれで、面倒な会話が増えそうですけどね……」

 リーナの言うことは、よく分かる気がするな。俺だって、両親が見ている前でジュリアのような態度を取られたら、かなり困ってしまうからな。

 ブラック家の嫡男を軽く見られているとか言って怒る姿が、容易に想像できてしまう。今後を考える上で、大事になってきそうだ。

「私はサラ。よろしく」
「あたしは、ラナ・ペスカ・インディゴと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「みんな、仲良くしてほしいわ! そういえば、ジュリアちゃんは無属性を使えるのよね。見せてもらって良い?」
「もちろんだよ。どう?結構強いんじゃないかな」

 ジュリアは魔力を収束させていく。全くこちらに余波が来ず、かなりの精度で制御されているのが伝わる。それを上に向けて放つと、大きめの衝撃が伝わってきた。ちょっと、お茶が揺れていて困ってしまったが。まあ、ミーアが見せろと言ったのだから、気にしないだろう。

「見事だ、ジュリア。確かな努力を感じるぞ」
「すごいわ! やっぱり、色んな人と仲良くなるのは最高ね!」

 まあ、多くの人と交流すれば、様々な才能に出会える。それは確かだな。そういう意味では、ミーアには共感できる。俺の周りには、俺にできないことをできる人間が多いからな。それは、とても素晴らしいことだ。

「流石です、ミーア様。あたしも見習いたいですね」
「レックスさん、やっぱり見る目がありますね。シュテルさんもサラさんも、高い実力を感じますし」
「私が強くなれたのは、全部レックス様のおかげなんです。素晴らしい方ですよね」
「実際、恩人。私達みんな、レックス様が居なければ、学ぶことすらできなかった」

 正確には、ジュリアは原作の流れだと、放っておいてもアストラ学園には入学していたのだが。それを知らないサラからすれば、恩を感じるのは当然か。だからこそ、あまり無理をさせたくない。恩は、人を縛り付ける鎖でもあるからな。

「やっぱり、レックス君と友達になってよかったわね! こうして、輪が広がっていくんだもの!」
「まあ、協力するのは悪くないですね。敵と戦うことを考えても。信頼できる相手は、どうしても少ないんですよ」
「レックス様の友達なら、僕も信じるよ! 一緒に、頑張ろうね」

 この繋がりが、素晴らしい未来に繋がってくれれば。そう祈っている俺がいた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

処理中です...