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3章 アストラ学園にて

75話 最後の準備

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 アストラ学園に合格したので、本格的に入学のための準備を進めている。とりあえずは、フィリスとエリナを教師として送り込む計画を、本格的に実行することになる。

 というか、元々フィリスは学園で教えていて、俺の黒魔法を見たいがために、俺のところにやってきたのだが。最高峰の魔法使いだから、ある程度は好き勝手できるみたいだ。

「フィリス、エリナ、アストラ学園でも、お前達には色々と手伝ってもらうぞ」
「……当然。レックスほどの闇魔法使いと接する機会は、逃さない」
「ああ。レックスの才能を近くで見守るためには、都合が良いからな」

 実際、俺はどの程度の才能なのだろうな。フィリスは、闇魔法を初めて見ると言っていた記憶があるが。剣に関しても、魔法剣士としては、カミラに一歩劣る感じがあるし。まあ、手段を選ばなければ、絶対に勝てる相手だとも思うが。

 なかなか、評価が難しいところなんだよな。総合的には、俺はかなり強いとは思う。とはいえ、空前絶後ってほどじゃないとも感じるし。まあ、フィリスとエリナが教師である事実は、もっと活かしていいよな。俺の才能がどうであれ、最高の先生であることには間違いないのだから。

 せっかくだから、どこまでも強くなりたい。剣も魔法も、どんどん成長できて楽しいし、みんなを守る役にも立つ。良いことづくめだ。アストラ学園でも努力を続けるのは、大前提となるだろうな。

「それで、アストラ学園で、フィリスはどんな動きをするつもりなんだ?」
「……回答。エリナを連れて行くことには成功しそう。カミラの存在が、良い方向に影響を与えてくれた」
「ああ、姉さんの剣術に対応するのは、ただの魔法使いでは難しいだろうからな」
「……同感。私なら、力技でも対応できる。ただ、そこらの魔法使いでは、カミラに対する勝ち筋はない」
「私でも、なかなかに苦戦しそうではあるな。勝つことなら、十分に可能だろうが」

 いや、とんでもないことを言っていないか? 魔法を使わずに、どうカミラに勝つのかなんて、俺は思いつかないぞ。ハッキリ言って、カミラに勝てるだけで、化け物としか表現できない。

 目で追うだけでも大変な相手に、どうやって対抗するのだろうか。できれば、見てみたいものだ。確かめられれば、俺の役に立つことは間違いないからな。

 まあ、お互い命がけになるだろうし、なかなか頼めるものではないが。仮に木刀でも、普通に死ぬレベルの攻防になることは想像に難くない。エリナの本気がどの程度のものなのか、知る機会があればいいが。今のところは、俺の教師として徹してくれている。だからこそ、本気になれないのだろう。俺が死んでしまえば、意味がないからな。

「あれに対して勝てるとは、悪くないな。俺の教師になるだけのことはある」
「……感心。エリナも強くなったのは確か。私も、レックスのおかげで強くなれた」
「俺がいるんだから、当たり前だよな。世界で一番の才能なんだから」
「……同意。レックスの才能は、疑う理由がない。私も、生まれて初めて見た」
「剣士としては最強に近い私を上回る才能だからな。驚いたよ」

 2人とも、本気に見える。だから、喜んで良いのだろう。とはいえ、才能だけで満足するなんて、論外だ。強くなって、原作の事件を乗り越える。そこまでできて、初めて自分を認めて良い。まだまだ、俺は未熟なんだから。

 剣だけではエリナに勝てていないし、魔法でもフィリスほどの技術は持っていない。そこに追いつき追い越すことこそが、2人への恩返しだ。俺の才能の行き着く先が見たいのは、2人に共通する感覚のようだから。

「学園でも、もっと強くなるつもりだ。お前達も、俺に置いていかれないようにしろよ?」
「そうだな。私だって、まだまだ強くなれるはずだ」
「……当然。私の道は、まだ続いている。どこまでも、研鑽を続けるから」

 本当に、俺も負けていられないな。圧倒的な才能と強さを持っていて、満足しない姿勢。素晴らしいと言う他ない。そんな2人にふさわしくなれるように。

 とはいえ、今は学園に入る準備をしないとな。そこをおろそかにしては、先は見えない。今できることを、確実に。大事なことだ。

 とりあえず、貴族は自分の世話役を連れて行くことができる。正確には、上位の貴族は、だが。まあ、理由は分かる。学園で、学園側が用意した人材のせいで問題が起きても、責任が取れないのだろう。それくらいなら、貴族の側に任せた方が、都合が良い。そんなところだろうな。

 良くも悪くも、アストラ学園に通うような人間は、とても強いからな。影響は大きいのだろう。そして、大きな貴族ほど、強い魔法使いが生まれるものだ。というか、一家全員が弱いなら、貴族になれない。

 そんなわけで、俺が連れて行くのは、ウェスとアリア、ミルラになる。わざわざ連れて行く相手なんだから、近しい存在なのは当然だよな。

「ウェス、アリア、ミルラ。お前達には、学園についてきてもらう。ウェスとアリアは俺の世話、ミルラは俺の補助だな。いずれ、俺の秘書になるんだろう?」
「お任せいただけるのであれば、必ずや。レックス様の望むがままにいたします」
「ご主人さまと一緒なら、わたしはいつでも幸せですよっ」
「メイドとしての当然の務めですね。お任せください」

 良くも悪くも、このメンバーは俺の言葉に忠実だよな。もうちょっと、自分の意志を出してくれても良いのだが。まあ、環境的には仕方のないことだ。アリアの雇い主はブラック家だし、ウェスはずっと、雑な扱いを受けてきた。この国では軽く扱われる、獣人だからという理由で。

 ミルラだって、魔法が使えないだけで認められないという日々を送っていた様子。それを考えたら、あまり自分の感情は表にできないか。

 まあ、おいおいだな。俺も本音を話していない。その状態のまま、信頼関係を築くのは、相当難しいだろう。とにかく、打ち解けるのが課題になる。特に、俺の側の。

「期待している。お前達なら、変なことはしないだろうさ」
「お言葉、感謝いたします。全身全霊をかけて、達成してみせます」
「ご主人さまが快適に過ごせるように、頑張りますねっ」
「アストラ学園でも、レックス様のお世話をさせていただきますね」

 信頼できる相手が身の回りに居てくれる。ありがたいことだ。だから、しっかりと大切にしないとな。一方的な信頼にならないように。相手にだって、信じてもらえるように。

 学園に通う上で、俺の側の問題は片付いたと言って良い。だから、ブラック家側の動きも、確認しておかないとな。学校もどきが正常に運営されるかも、大事なことだ。ミルラとラナの後任は、もう雇っている。だが、俺達の目は届かないからな。そうなると、誰かに様子を見て欲しい。任せられる人は、そう居ない。

 結局、弟に頼むことに決めた。妹のメアリは、ちょっと運営の類には向いていないだろうからな。人格は信じられるのだが。

「ジャン、学校もどきの様子は、時々見ておいてくれ。一応後任は仕事をこなせている様子だが、念のためにな」
「分かりました、兄さん。今回だけでも、3人が学園に合格したんですからね。その流れを、引き継ぎたいものです」
「そうだな。良い結果は出ているから、後は継続できれば良し。それが、一番難しいんだろうが」
「ですね。でも、兄さんに負けないように、ちゃんとやってみせますよ」
「なら、任せた。とはいえ、あまり気負いすぎるなよ。焦っても、良い結果は出ないからな」
「そうですね。他の人の動きを見ていても、そんな感じです。僕自身が活かせないなら、意味がないですからね」

 この感じなら、無理はしないだろう。とりあえず、安定を目指してくれるだけでもありがたい。どうせなら、もっと良い環境にできれば、それが理想ではあるが。

 とはいえ、学園に通う準備は、できたはずだ。後は、流れに身を任せるしかない。大変なことは多いだろうが、必ず乗り切ってみせる。
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