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2章 捨てるべき迷い

59話 新しい力

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 とりあえず、シュテルに魔法を目覚めさせるための手段ができた。これで、無理をやめてくれると良いのだが。念のため、フィリスに細かい条件を聞いておく。すると、手順を説明された。

 まず、俺の魔力に単一属性の魔力を注ぎ込ませる。闇魔法の侵食を利用して取り込んだ後、全部まとめて対象に魔力を送る。その流れで、魔力を持たない人でも魔法が使えるようになるのだとか。

 つまり、シュテルでも魔法が使える。もっと詳しい話を聞くと、属性を増やすことも不可能ではないらしい。まあ、今はシュテルの話だ。

 強力な単一属性の魔力を持っている知り合いは、フェリシアとカミラ。カミラはアストラ学園に通っている都合上、すぐには会えない。つまり、事実上は1人しかいない。

「フェリシアに頼むとなると、何か手土産くらいは用意した方が良いよな」

 というか、頼み事をするのなら、対価は必要な気はする。フィリスやエリナにも、相談してくれている分の報酬を渡すべきだろうか。まあ、フィリスの場合は、欲しいものはこっちに言ってくる方だが。

 ただ、何を対価にするのかは問題だ。金なら、フェリシアは困っていないだろうからな。

「そうなると、俺に用意できるものは……。魔法を込めた道具くらいか?」

 他に思いつくものも無いので、すぐに用意のために行動する。俺の魔力を込めた杖は、前に贈った。今度は、もっと優秀なものの方が良いだろう。そこで思いついたのは、俺の魔法を使える道具。

 とっかかりは、ウェスに贈った黒曜ブラックバレット。あれは、俺の魔力を利用して攻撃できる道具だった。それを応用すれば、実現は難しくないはずだ。

 以前、フェリシアに贈った杖は、彼女の魔力に合わせて調整している。それを、セキュリティにも利用する。万が一にも奪われてしまったら、大変だからな。俺の魔法が強力だというのは、俺が一番知っている。

 ということで、ネックレスの形をした魔導具を作る。フェリシアの魔力を送れば、俺の魔法を発動できるもの。

「よし、これでいい。身につけているだけで闇の衣グラトニーウェアを使えるのなら、悪くないだろう」

 性能で考えたら、相当なものだ。というか、これを応用すれば、他の人が人質になる事態を抑制できるかもしれない。良いものを作れたな。

 準備ができたので、さっそくフェリシアの元へと向かう。

「フェリシア、俺に全力で魔力を注いでみてくれないか? 対価は、これだ」
「あら、ネックレスですか。わたくしを、あなたの色で染めたいと?」

 フェリシアは、相変わらず楽しそうな顔でからかってくる。とはいえ、あまり付き合うのもな。キャラが壊れてしまうし、動揺すると思われたら面倒だ。

「いや、これを使えば、お前なら俺の込めた魔法を使える」
「悪くないですわね。なら、全力を注いで差し上げましょう」

 その言葉通り、フェリシアは俺に魔力を送り込んでくる。集中していないと制御を失ってしまいそうな、凄まじい密度の魔力を。感じている魔力量からすれば、これを全て魔法に込めれば、そこらの家くらい、跡形も残らないだろうな。

 下手をしたら、小さな学校くらいを更地にできるかもしれない。やはり、とてつもない才能だ。まだ原作にも入っていないのにな。

「大した力だよ、フェリシア。これなら、俺もうかうかしていられないな」
「ところで、わたくしに他の女を口説く手伝いをさせる気分は、どんなものなんですの? 気づいていないと思いまして?」

 他の女のために動いているのは事実であるだけに、返答が難しい。俺にできることは、動じないことだけだ。平常心をつらぬけ。

「何の話だ?」
「このネックレスも、他の誰かにも贈るんでしょう? 知っていますのよ。あなたを想う相手は、ここに居ますのに……」

 そう言いながら、うつむいていく。悲しそうな顔に見えて、とても焦ってしまう。フェリシアを傷つけるのは、望みではないのに。

 だが、優しい言葉を言うのも難しい。キャラの問題もあるし、単純に良い言葉が思いつかない。こんな状況で、何を言えばいいというのか。とはいえ、黙っているのもまずい。なんとか、言葉をひねり出していく。

「つまらない顔をするな。お前は、いつも笑っているくらいがお似合いだ」

 俺の言葉に、フェリシアは吹き出した。そのまま笑い続けていたので、からかわれたと理解できた。本気で焦った気持ちを、返してほしい。

「ふふっ、焦るあなたの顔は、面白かったですわよ。下手な慰めまでして。笑えますわ」
「フェリシア……お前……」
「では、また。シュテルさんに、よろしく伝えてくださいまし」

 そう言って、優雅に立ち去っていく。シュテルのことまで気づかれていたとなると、全部分かった上でやっていたのだろう。

「完全に、手のひらの上か。笑えるな。だが、俺に協力してくれる証でもある。早速、シュテルのところに向かうか」

 ということで、シュテルを探す。すると、学校もどきで訓練をしていた。他の人も居たので、とりあえず目的の人間だけを呼び出したい。

「レックス様、私に何か用ですか?」
「シュテル、それと……ミルラ。お前も着いてこい」

 ミルラも居た方が、今後の話もスムーズに進むだろうからな。シュテルが魔法に目覚めたら、その異常性に気づきかねない相手だから。仮にも、最高峰の学術機関で上位の成績を残していた人間なのだから。

「かしこまりました、レックス様。お側に参ります」
「はい。お任せください」

 ということで、人の居ない場所へと向かう。用意した魔力を、シュテルに移植するために。その前に、シュテルが本当に魔力を持っていないのか、調べるか。

「シュテル、まずは、俺の魔力を受け入れてみろ」
「もちろんです、レックス様」

 そのまま闇の魔力でシュテルを調べると、魔力は感じられなかった。つまり、今のままでは魔法に目覚める可能性はない。

「なるほどな。もう一度だ、シュテル」
「はい。あなたの望むままに」

 今回が本命だ。フェリシアに渡された魔力を、俺の魔力を通してシュテルに植え付けていく。すぐに作業は終わったので、一応検査をすると、シュテルの体には妙な異常は無かった。

「試しに瞑想してみろ。何か感じるか?」
「分かる、分かります……! これが、魔力……! ありがとうございます、レックス様!」

 明らかに興奮している。まあ、当然だよな。これまで、魔法が使えなかった。それは、おそらくコンプレックスになっていただろうから。

「ところで、ミルラ。お前はどうする? 今すぐとは行かないが、準備すれば、お前も魔法が使えるかもしれないぞ?」
「いえ、遠慮いたします。私は魔法が使えないと、各所に知られております。ですから、急に魔法に目覚めたら、面倒事が起こるでしょう」

 俺も考えていたことだ。俺が居れば魔法に目覚めると知られれば、大挙して魔法を使えない人間が押し寄せることは想像に難くない。

 そのあたりに配慮してくれるミルラは、やはり信頼に値する人だ。これなら、学校もどきが落ち着いたら、もっと大事な仕事を任せていきたい。きっと、信頼できる右腕になってくれるはずだ。

「よく言った。お前は、今後も俺に良く仕えろ」
「もちろんでございます。全ては、レックス様の意のままに」
「私も、レックス様のために頑張ります! あなたがくれた、この力で!」

 シュテルは、とても晴れやかな顔をしていた。それだけで、俺まで笑顔になれそうだった。まあ、キャラを保つために我慢していたのだが。

 これからもよろしく頼むぞ、シュテル。必ず、お前達は幸せにしてやるからな。
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