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2章 捨てるべき迷い
58話 魔法の価値
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ジュリアが無属性魔法という力に目覚めたのは良かった。だが、それだけでは終わらなかったようだ。
「私も、もっと強くならないと……レックス様のお役に立つために、ジュリアに負けないために……」
「シュテル、無理しないで。レックス様は僕に言っていたよ。休みだって効率の上では大事だって」
シュテルは立ち上がるのもつらそうなのに、まだ訓練を続けようとする。ハッキリ言って、見ていられない。ただ、俺の役に立つためにと行動しているのに、俺から注意するのもな。余計に意地を張ってしまうかもしれない。
俺としては、シュテルが幸せに生きてくれれば、それだけで良いのだが。馬鹿らしい話だ。協力者を求めて学校もどきを作ったのに、もっと優先すべきことを見つけてしまうなんて。だが、大切な人を苦しめるのは、絶対に嫌だ。
これ以上無理をするようなら、俺の手で強制的にやめさせるのも手のひとつだろう。ただ、シュテルからどう見えるかが問題だ。言い方を間違えれば、見切りをつけたと思われかねない。
今の状況だと、本音を言えないことが邪魔でしかない。本心を伝えれば、きっと立ち止まってくれるだろうに。シュテルの幸福が大切なんだと言ってしまえば。だが、無理だ。誰から父に伝わるのか、分かったものじゃない。
いくらなんでも、平民のために動くことを許す父ではないだろう。今の行動が許されているのは、道具として扱うという建前があるからなはずだ。
だが、それなら。どうやったらシュテルは止まってくれる? 無理を重ねて、今にも潰れそうだ。そして、ずっと泣きそうな顔をしている。そんな表情、見たくなかった。
「でも、でも……!」
「これ以上は、あたしとしても認められません。レックス様を、無理な訓練をさせる教師にしたいんですか?」
「それは……。はい、分かりました……」
ラナはうまいこと言ってくれた。助かる。俺を理由に動いているのなら、俺が困ると言ってしまえば良いのか。とはいえ、まだシュテルは不満そうな顔をしている。厳しい感情があるのだろう。
「私もお手伝いさせていただきますから。魔法が使えない苦しみなら、少しは分かるつもりです」
「ミルラ先生……。そうですよね……」
ミルラは、魔法が使えなくて、ここまで来た人間だからな。そう考えると、今のシュテルの苦しみが、一番分かる人間なのかもしれない。
とりあえず、俺から何かを言うのも難しくて、様子を見るだけで終わってしまった。できることならば、シュテルの苦しみを取り除いてやりたい。だが、俺ほどの才能を持っている人間の言葉なんて、通じるか?
それに、シュテルは俺の役に立とうと頑張っている。その想いだけは、俺が否定してはいけないものだ。だからこそ、良い手段が思いつかない。
前世ならともかく、今の俺は苦労らしい苦労なんて知らない人間だ。少なくとも、周りから見れば。そんな相手の言葉は、シュテルには届かないと思う。
そうなると、苦しんだことのある人間のアドバイスがほしい。良い相手が見つからないが、それでもと頼りたくなったのが、師匠達だった。
「エリナ、フィリス。俺には分からないが、伸び悩むと苦しいものらしいな? そういう時、お前達はどうしていた?」
「私は、基本に立ち返っていたな。そういう時は、どこかがおろそかになっているんだ」
「……疑問。伸び悩むとは、どのような形? それ次第」
フィリスの言葉からするに、俺自身が悩んでいる訳ではないことに気づかれただろうか。それとも、原因を割り出したいだけだろうか。
俺が伸び悩んでいるなんて、状況から考えたら言うべきではないセリフだ。というか、エリナにもフィリスにも才能を認められているのだから。成功なんて、当たり前という言葉でも軽いはずだ。
というか、シュテルの悩みだと、間接的にでも伝えられた方が良いな。俺が行き詰まっている訳ではないのなら。だって、人によって解決策は変わるのだから。
「どうも、強くなれないことらしいな。魔法が使えなくて、焦っているみたいだ」
「……提案。魔力を持たない人でも、魔法に目覚める手段はある。魔力を、移植すれば良い。でも、条件がある」
それなら、シュテルでも魔法が使えるようになるのかもしれない。まずは、本当に魔力を持っていないのか、調査が必要だが。いずれにせよ、聞いておくべき話だろう。シュテルだけでなく、あるいは、ミルラやウェスがもっと力を手に入れられるかもしれないのだし。
「フィリス、本当か? そんな手段があるのなら、世界が変わるぞ。私みたいな獣人でも、魔法を使えるのか?」
「その条件とは何だ? 難しいのか?」
理論上実現可能なのか、現実的に実行可能なのか、その基準がハッキリしないとな。まさか、シュテルに夢だけ見せる訳には行かないのだから。そんなことをすれば、より失意に沈んでしまうだろう。許せることではない。
「……レックス次第。少なくとも、光、闇、無属性は移植できない。そして、闇属性が必要と言われている。その力で侵食して、体に魔力を植え付ける」
「それだけなら、俺なら楽勝じゃないか? フィリスの魔力を利用すれば」
俺の知る限り、最強の魔法使いだ。そんな魔法使いを量産できるのなら、闇魔法使いは、価値あるなんてレベルじゃない。俺が知らないってあたり、相当な秘術なんだろうが。少なくとも、原作では語られていなかった。
そして、闇魔法使いにそこまでの価値があると知られているのなら。何が何でも魔法使いを増やすはずだ。それは国力に直結するのだから。王が命じないのは、どう考えてもおかしい。つまり、何か理由がある。
「……不可。移植するには、純粋な属性が必要。それも、強力な。つまり、とても強い一属性の魔力を闇魔法で受け止めて、それを移植する必要がある」
「フィリスくらいの魔力操作なら、一つの属性の魔力だけを集められないのか?」
「……無理。どうしても、他の属性の魔力が少し混ざる。まだ、私も未熟」
なるほどな。強い一属性なんて、原作でも数えるほどしか居なかった。というか、例外中の例外と言われていた。普通は、属性の数だけ強くなるものなのだと。
俺の周りに上澄みばかりが居るから感覚が麻痺しそうになるが、そもそもただの魔法使いですら、武器を持った人間数十人くらいを倒せる存在なんだ。まあ、手段を選ばなければ、魔法使いを無力化する手段もあるが。簡単なのは、人質だ。
「結局、獣人には魔力を移植できるのか? それなら、私も強くなれるんだが」
「……不明。ただ、獣人は種族的に魔力を操作する器官がない。一般的な魔法は、使えない」
それなら、どんな事故が起きるか分かったものじゃないな。人体実験をする気はないし、実現は難しそうだ。ウェスに自分を守る力が備われば、安心できたのだが。俺の贈った魔力の銃、黒曜では足りなかったみたいだから。
「そうか。魔力を使った剣技にも、興味があったんだがな。なら、やめておこう」
「ふむ。強い一属性か。心当たりは、あるな」
「……同感。フェリシアやカミラなら、条件は満たしているはず」
「そうだよな。なら、動いてみるか。今のところは、フェリシアにしか頼れないだろうな」
カミラは、今はアストラ学園に通っている。会うことは難しい。そうなると、フェリシアしか居ない。どうやって頼むか。今から考えておかないとな。シュテルのためだ。多少の無理難題くらいなら、聞いてやるつもりでいよう。
「私も、もっと強くならないと……レックス様のお役に立つために、ジュリアに負けないために……」
「シュテル、無理しないで。レックス様は僕に言っていたよ。休みだって効率の上では大事だって」
シュテルは立ち上がるのもつらそうなのに、まだ訓練を続けようとする。ハッキリ言って、見ていられない。ただ、俺の役に立つためにと行動しているのに、俺から注意するのもな。余計に意地を張ってしまうかもしれない。
俺としては、シュテルが幸せに生きてくれれば、それだけで良いのだが。馬鹿らしい話だ。協力者を求めて学校もどきを作ったのに、もっと優先すべきことを見つけてしまうなんて。だが、大切な人を苦しめるのは、絶対に嫌だ。
これ以上無理をするようなら、俺の手で強制的にやめさせるのも手のひとつだろう。ただ、シュテルからどう見えるかが問題だ。言い方を間違えれば、見切りをつけたと思われかねない。
今の状況だと、本音を言えないことが邪魔でしかない。本心を伝えれば、きっと立ち止まってくれるだろうに。シュテルの幸福が大切なんだと言ってしまえば。だが、無理だ。誰から父に伝わるのか、分かったものじゃない。
いくらなんでも、平民のために動くことを許す父ではないだろう。今の行動が許されているのは、道具として扱うという建前があるからなはずだ。
だが、それなら。どうやったらシュテルは止まってくれる? 無理を重ねて、今にも潰れそうだ。そして、ずっと泣きそうな顔をしている。そんな表情、見たくなかった。
「でも、でも……!」
「これ以上は、あたしとしても認められません。レックス様を、無理な訓練をさせる教師にしたいんですか?」
「それは……。はい、分かりました……」
ラナはうまいこと言ってくれた。助かる。俺を理由に動いているのなら、俺が困ると言ってしまえば良いのか。とはいえ、まだシュテルは不満そうな顔をしている。厳しい感情があるのだろう。
「私もお手伝いさせていただきますから。魔法が使えない苦しみなら、少しは分かるつもりです」
「ミルラ先生……。そうですよね……」
ミルラは、魔法が使えなくて、ここまで来た人間だからな。そう考えると、今のシュテルの苦しみが、一番分かる人間なのかもしれない。
とりあえず、俺から何かを言うのも難しくて、様子を見るだけで終わってしまった。できることならば、シュテルの苦しみを取り除いてやりたい。だが、俺ほどの才能を持っている人間の言葉なんて、通じるか?
それに、シュテルは俺の役に立とうと頑張っている。その想いだけは、俺が否定してはいけないものだ。だからこそ、良い手段が思いつかない。
前世ならともかく、今の俺は苦労らしい苦労なんて知らない人間だ。少なくとも、周りから見れば。そんな相手の言葉は、シュテルには届かないと思う。
そうなると、苦しんだことのある人間のアドバイスがほしい。良い相手が見つからないが、それでもと頼りたくなったのが、師匠達だった。
「エリナ、フィリス。俺には分からないが、伸び悩むと苦しいものらしいな? そういう時、お前達はどうしていた?」
「私は、基本に立ち返っていたな。そういう時は、どこかがおろそかになっているんだ」
「……疑問。伸び悩むとは、どのような形? それ次第」
フィリスの言葉からするに、俺自身が悩んでいる訳ではないことに気づかれただろうか。それとも、原因を割り出したいだけだろうか。
俺が伸び悩んでいるなんて、状況から考えたら言うべきではないセリフだ。というか、エリナにもフィリスにも才能を認められているのだから。成功なんて、当たり前という言葉でも軽いはずだ。
というか、シュテルの悩みだと、間接的にでも伝えられた方が良いな。俺が行き詰まっている訳ではないのなら。だって、人によって解決策は変わるのだから。
「どうも、強くなれないことらしいな。魔法が使えなくて、焦っているみたいだ」
「……提案。魔力を持たない人でも、魔法に目覚める手段はある。魔力を、移植すれば良い。でも、条件がある」
それなら、シュテルでも魔法が使えるようになるのかもしれない。まずは、本当に魔力を持っていないのか、調査が必要だが。いずれにせよ、聞いておくべき話だろう。シュテルだけでなく、あるいは、ミルラやウェスがもっと力を手に入れられるかもしれないのだし。
「フィリス、本当か? そんな手段があるのなら、世界が変わるぞ。私みたいな獣人でも、魔法を使えるのか?」
「その条件とは何だ? 難しいのか?」
理論上実現可能なのか、現実的に実行可能なのか、その基準がハッキリしないとな。まさか、シュテルに夢だけ見せる訳には行かないのだから。そんなことをすれば、より失意に沈んでしまうだろう。許せることではない。
「……レックス次第。少なくとも、光、闇、無属性は移植できない。そして、闇属性が必要と言われている。その力で侵食して、体に魔力を植え付ける」
「それだけなら、俺なら楽勝じゃないか? フィリスの魔力を利用すれば」
俺の知る限り、最強の魔法使いだ。そんな魔法使いを量産できるのなら、闇魔法使いは、価値あるなんてレベルじゃない。俺が知らないってあたり、相当な秘術なんだろうが。少なくとも、原作では語られていなかった。
そして、闇魔法使いにそこまでの価値があると知られているのなら。何が何でも魔法使いを増やすはずだ。それは国力に直結するのだから。王が命じないのは、どう考えてもおかしい。つまり、何か理由がある。
「……不可。移植するには、純粋な属性が必要。それも、強力な。つまり、とても強い一属性の魔力を闇魔法で受け止めて、それを移植する必要がある」
「フィリスくらいの魔力操作なら、一つの属性の魔力だけを集められないのか?」
「……無理。どうしても、他の属性の魔力が少し混ざる。まだ、私も未熟」
なるほどな。強い一属性なんて、原作でも数えるほどしか居なかった。というか、例外中の例外と言われていた。普通は、属性の数だけ強くなるものなのだと。
俺の周りに上澄みばかりが居るから感覚が麻痺しそうになるが、そもそもただの魔法使いですら、武器を持った人間数十人くらいを倒せる存在なんだ。まあ、手段を選ばなければ、魔法使いを無力化する手段もあるが。簡単なのは、人質だ。
「結局、獣人には魔力を移植できるのか? それなら、私も強くなれるんだが」
「……不明。ただ、獣人は種族的に魔力を操作する器官がない。一般的な魔法は、使えない」
それなら、どんな事故が起きるか分かったものじゃないな。人体実験をする気はないし、実現は難しそうだ。ウェスに自分を守る力が備われば、安心できたのだが。俺の贈った魔力の銃、黒曜では足りなかったみたいだから。
「そうか。魔力を使った剣技にも、興味があったんだがな。なら、やめておこう」
「ふむ。強い一属性か。心当たりは、あるな」
「……同感。フェリシアやカミラなら、条件は満たしているはず」
「そうだよな。なら、動いてみるか。今のところは、フェリシアにしか頼れないだろうな」
カミラは、今はアストラ学園に通っている。会うことは難しい。そうなると、フェリシアしか居ない。どうやって頼むか。今から考えておかないとな。シュテルのためだ。多少の無理難題くらいなら、聞いてやるつもりでいよう。
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