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2章 捨てるべき迷い

42話 幼馴染の提案

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 自室でくつろいでいると、ノックされてからメイド達が入ってきた。このタイミングだということは、何か要件があるんだろうな。そろそろ分かるようになってきた。基本的には、食事や起床なんかの世話で、同じ時間にやってくる。そうじゃない時は、いつも通りではない用事がある。

「レックス様、フェリシア様がいらっしゃいました」
「ご主人さま、お着替えを手伝いますね」

 ウェスに着替えを任せて、アリアに案内されて、外へと向かっていく。その先には、馬車があった。縦ロールの銀髪が見えて、状況が分かる。彼女はこちらを見ると、柔らかく微笑む。若干、飢えた獣のような気配も感じたが、穏やかそうな表情を見る限りでは、気のせいじゃなかろうか。

「フェリシア、いったい何の用だ?」
「レックスさんは、大好きなお姉様が居なくなって、寂しいでしょうから?」

 まあ、少しは寂しい。カミラはバカ弟と呼んできたり、戦いを挑んできたり、かなり面倒くさい。それでも、俺のあげた剣を大切にしていたり、なんとなく優しさを感じたりして、嫌いになれないんだよな。

 とはいえ、同意するのもキャラが壊れる。一応、生意気で調子に乗っている感じを出すのが大事だろう。レックスは、そういう人間だ。

「どうだかな。まあ、姉さんなら、うまくやるだろ」
「そうですわね。カミラさんは、強い方ですもの」

 同感だな。カミラなら、多少の問題くらいなら乗り越えられるだろうと思える。とても努力家で、芯のある人だというのは感じるからな。そうじゃなきゃ、一属性モノデカでありながら、俺の目を引く強さにはなれない。

 結局のところ、『デスティニーブラッド』での悪役にも、それぞれの事情があるんだよな。だから、悪に染まる前にどうにかできる相手がいたら、どうにかしたい。とはいえ、ブラック家から遠ざかるのは、今の段階では難しいからな。できることは、どうしても限られてくる。悩ましい問題だ。

「で? まさか、顔だけを見に来たわけじゃないだろう?」
「せっかちなことですわね、レックスさん。もっと会話を楽しみませんこと?」

 フェリシアはジト目でこちらを見ている。彼女の顔でジト目をされると、圧力がすごいんだよな。思わず、一歩下がってしまいそうなくらいだ。表に出す訳にはいかないが。

「お前との会話は、まあ嫌いじゃないが。要件があったら、気になるものだろう」
「本当に、素直じゃありませんこと。仕方ないですわね。あなたの計画に、ヴァイオレット家も一枚噛ませていただけませんか?」
「俺の計画というのは? 学校もどきのことか?」

 仮に俺の考えが当たっているのだとすると、どこで知ったのだろうか。いや、親同士の付き合い経由か。大きなことをするのなら、隠し通すのは不可能だろうからな。

「それですわね。わたくし達の手で、何か流れを作れたら、強いですもの」
「確かにな。だが、そこまでうまくいくものか?」

 原作開始までには、1年しか無い。それだけの期間でできることなんて、限られてくるだろう。同級生が数人増えれば御の字じゃないか? それでも実行するのは、俺の手が伸ばせる範囲は小さいからだ。

「わたくし達が当主になった時に、大きな成果が出ていれば良いのですわ」

 なるほど。俺の視点では、原作までに味方を増やしたい。だが、俺以外から見れば、長期的な計画に見えてもおかしくはない。そこまでは考慮できていなかったな。いま確認できたのは、幸運だった。今の段階なら、修正もできるだろうからな。

「ああ、そうかもな。俺達の家が大きくなれば、便利だものな」
「さては、別の目的でもありましたの? どんな目的でしょうか?」

 完全に図星なんだよな。本当に恐ろしいことだ。敵に回ったら、厄介では済まないだろうな。それを考えても、できるだけ仲良くしておきたい相手だ。とはいえ、素直に仲良くしたいとも言えないのだが。そうすると、キャラがぶれてしまう。割と好意を伝えているメアリは、あくまで妹だからな。ブラック家でも、俺は甘やかされている。その態度を意識しているだけだ。

「お前が知る必要はないことだ」
「ふふっ、否定はしないんですのね。分かりやすいことですわ」
「まあ、お前達の参加は構わない。そちらの方が、都合が良いからな」
「話を逸らすんですの? まあ、ここらで引いておきますわね」

 どう返せば良いものか。完全に手のひらの上のような感覚がある。俺の味方であると、信じてはいるのだが。ちょっと、対応に困ってしまう。

「フェリシア……」
「それに、あなたが他の女を作らないかを、監視しないといけませんもの」

 他の女って、彼女みたいなことを。フェリシアとは、あくまで幼馴染だ。原作でも、婚約者みたいな情報はなかったはず。大事な相手ではあるが、付き合っているつもりはないぞ。というか、簡単に女を作ると思われているのか?

「俺が女好きかのような物言いはよせ」
「あら。王女姉妹に、わたくし、他の方も口説いていますのに?」

 口説いた記憶はないんだが。いや、仲良くなろうとはしているがな。

「からかうのはやめろ。それで? 話は終わりか?」
「いえ。せっかくですから、あなたに提案したいことがありますのよ」
「お前のことだから、有益な情報なのだろうな。頼む」

 そのあたりは、信じられる。俺の領地のあたりに現れた盗賊団の情報といい、俺をハメようとしたオリバーの件だったり、色々と助けられているからな。

「随分とわたくしを信頼してくれますのね。心地いいですわ」
「それで良いから、話を続けろ」
「全く、照れ隠しが下手ですわよ。それで本題ですが。インディゴ家が資金難に陥っていることは、ご存知ですか?」

 インディゴ家。原作の主人公、ジュリオの故郷を収める貴族だ。実際、原作でも首が回らなくなっていた。その結果として、様々な事件が起こっていた記憶がある。

「ああ、なるほど。支援をする代わりに、こちらの計画に人を集めるんだな」

 ただ、支援してしまえば、原作がまた崩壊してしまう気がする。俺の情報が当てになるラインは、かなり縮まっているだろうな。だが、フェリシアがわざわざ提案してくれたんだ。受けたい気持ちはある。

「話が早くて、助かりますわ。どうです? わたくしは、良妻の素質があると思いませんか?」

 俺にアピールしているのだろうか。これが、好意からのものなら嬉しいのだが。とはいえ、からかいである可能性も否定できない。なかなか、何と返せばいいのかが難しいな。

 とはいえ、フェリシアの好意を素直に喜ぶのは、レックスっぽくない。申し訳なくはあるが、雑に返させてもらうか。

「さて、どうだかな。貴族の女らしいのは、否定しないが」
「褒め言葉と受け取っておきますわね。それでは、レックスさん。今日も、わたくしと楽しみましょう?」

 とても楽しそうな笑顔で、こちらに提案するフェリシア。それからは、お茶をしながら世間話に興じていた。

 学校もどきの話は、俺が想像していたものより大きくなりそうだ。なら、より慎重に行動する必要がある。インディゴ家を利用するのなら、原作主人公とも関わる可能性があるからな。

 より良い未来をつかむためにも、頑張っていかないとな。
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