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2章 捨てるべき迷い

40話 姉と弟

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 姉であるカミラから、決闘を挑まれることになった。とりあえずは、命を懸けあう雰囲気ではない。それは幸いと言えるな。とはいえ、目は本気だ。油断していたら、突き刺されそうなくらいに。

 俺としては、そこまで戦いたい訳ではない。とはいえ、カミラは真剣な雰囲気だからな。軽く流すのも問題だろう。大切な相手だからこそ、本人の感情は大事にしたい。

 戦っておくだけで、相手が悪に堕ちる可能性を減らせるのなら。そう考えたら、安いものだよな。

 カミラは剣を俺に突き立てている。俺と同じ真っ黒な瞳に、強い意志を秘めて。もともと勝ち気な印象だが、今はより強く感じる。

「レックス、構えなさい。弟は姉には勝てないものだって、その身に刻みつけてあげるわ」

 この感じなら、大惨事にはならないだろうな。少なくとも、殺し合いには。負けても、笑われるくらいで済みそうだ。酷くても、使いっ走りにされる程度に思える。なら、普通に戦えばいい。

「分かったよ、姉さん。でも、勝つのは俺だ。俺は、最強になる男なんだからな」
「あんた程度じゃ、最強になんてなれないわ。あたしの下にいるのが、お似合いなのよ。負けを認めるなら、目一杯かわいがってあげるわよ」

 かわいがりって、暴力の意味じゃないだろうな。そこだけが不安だ。とはいえ、カミラは俺の贈った剣を今でも大事にしている。まあ、俺に突きつけられているのだが。それでも、家族としての情は感じるからな。あまり心配はいらないか。

 とはいえ、負けを簡単に認めるのは嫌だ。俺は才能があると思っているし、相応の努力もしてきたつもりだ。だからこそ、自分の強さは軽く扱いたくない。

「お断りだ。それにしても、なぜ急に? 機会なら、いくらでもあっただろうに」
「あたしは、これからアストラ学園に行くわ。その前に、白黒ハッキリ付けておこうと思っただけよ」

 なるほどな。そんな時期か。なら、原作開始までは、あと1年しか無い。今のうちに、できることはやっておこう。1年で、俺の計画がどこまで進むかは分からない。それでも、後悔はしないように。

 とはいえ、今は目の前のカミラだ。できるだけ痛くないように、軽く遊んでやろう。力の差を思い知れば、もう挑んでこなくなるかもしれないし。

「そうか。じゃあ、かかってこい!」
「言われなくても! 迅雷剣ボルトスパーク!」

 早速、カミラはこちらに突っ込んでくる。目で追うのも難しい速度だ。だが、そんな技にも対応できるようにしているんだ。最悪の場合、狙撃されても大丈夫なように。闇の衣グラトニーウェアは、常に薄く張っている。単なる剣技くらいなら、寝ていても防げる。

 とはいえ、カミラの技はただの剣技ではない。万が一を考えて、本気で防御しておくか。

闇の衣グラトニーウェア!」

 カミラの初撃を闇の衣グラトニーウェアで防いで、後は剣でも防御していこうとする。だが、思うように行かない。あまりにも、相手が速すぎる。魔力で目を強化して、ようやく見える程度には。

 ただの剣士には、簡単に勝てると、師匠であるエリナに太鼓判を押されている。にもかかわらず、俺の剣をすり抜けて、カミラの剣が俺の防御へと当たっていく。闇の衣グラトニーウェアが無ければ、すでに負けていたな。

 とても、とても参考になる。俺が剣と魔法を重ね合わせた技を使う上で、これ以上無い手本だ。雷で自身を加速しているのだろう。それを、剣技に組み合わせている。

 俺がただの剣士だったのなら、カミラに負けていたのかもしれない。その事実に悔しさはあるが、魔法なしの剣技では限界があるのも、『デスティニーブラッド』の設定で分かっていたからな。納得できる範囲ではある。

 とはいえ、悔しいのはお互い様のようだ。カミラは、見るからに顔を歪めている。苦しそうに。悔しそうに。俺の防御に、何も通じない様子だからな。

「くっ、当たっているのに! あんたは、あたしの速さに追いつけてないのに!」

 やはり、魔法を覚える時に防御を優先した、俺の判断は正解だったようだ。カミラの技を見て、攻撃を受けることはないなんて油断はできない。俺が求めたのは、不意を突かれても対応ができる技。それを生み出せた実感がある。

「そんな時のための技だからな。発動するのには、一瞬あれば良い」
「なら、もっと! あたしの魔力を、燃やし尽くしてでも! 行くわよ! これが、本気の迅雷剣ボルトスパークよ!」

 カミラは、魔力だけで発光して見える。つまり、かなりの量の魔力を収束しているのだろう。これは、初めて見た現象だな。原作でも、見たことがない。正確に言えば、主人公が無の魔力で同じことをしていた。だが、属性持ちの魔力で見たのは、初めてだ。

 そのまま、魔力で目を強化していても見えないだけの速度で突っ込んできた。闇の衣グラトニーウェアに、強い負担がかかる。下手をしたら、フィリスの五曜剣チェインブレイドを防いだときよりも。

 だが、俺は耐えきることができた。俺だって、以前より防御の精度を上げているからな。十分に、対応できる範囲だった。

「……ふっ、俺の防御は、抜けなかったみたいだな。姉さん、これで終わりだ。音無しサイレントキル!」

 エリナに教わった技で、剣を首元に当てる。そうすると、カミラは両手を挙げていった。

「くっ、寸止めなんかして! あたしをバカにしているの!?」

 怒りの表情を見せるカミラ。そんな姿に、少し慌てるが、俺は演技を崩す訳にはいかない。

「そんなつもりはない。姉さんを、傷つけたくないだけだ」
「バカ弟! それが、バカにしているっていうのよ! 突然挑みかかられて、それでも手加減するですって!?」
「分かってくれ。俺の攻撃なら、人間なんて跡形も残らないんだ」
「なら、見せてみなさいよ! あたしが納得するくらいの力を!」

 そう言われて、俺の生み出した技を見せようという考えに至った。未完成ではあるが、威力だけは高いからな。

 ちょうど良く、ミスリルで作られた鎧が目に入った。ただの鉄ではどうやっても切り裂けず、そこらの魔法使いでも、防御を貫けないと言われる鎧が。難点は、高いことくらい。もしかしたら、後で父に怒られるかもな。そう思いつつも、カミラのほうが優先順位が高いと結論づける。

「行くぞ。無音の闇刃サイレントブレイド

 エリナの剣技、音無しサイレントキルと、俺がフィリスから盗んだ技、闇の刃フェイタルブレイドを組み合わせたもの。闇の魔力を剣にまとい、素早く切り裂いて、魔力であらゆる防御を無力化するというもの。

 今も、ミスリルの鎧なんて、たやすく切り裂くことができた。とはいえ、今のままでは、音無しサイレントキル闇の刃フェイタルブレイドを同時に放った方が、少なくとも集団戦では役に立つ。

 だが、希望は見えた。カミラのように魔力で加速できれば、広範囲を切り裂くこともできるだろう。

「な、なによこれ……ミスリルの鎧が、紙切れみたいに……?」

 カミラは呆然としている。それはそうだろうな。人間に当たれば、必殺と言っていいレベルの技ではあるのだから。

「分かっただろう、姉さん。こんなもの、姉さんには撃ちたくないんだ」

 一瞬だけ、化け物を見るような目で見られて、少し傷ついた。だが、カミラはすぐに首をブンブンと横にふる。そして、吠えた。

「それなら……それなら! あたしはもっと強くなるわ! あんたの技だって、真正面から打ち破れるくらい! だから、その時まで負けるんじゃないわよ!」

 カミラが本気で俺に対抗しようとしてくれていることが、とても嬉しかった。カミラの目は、今では強い意志を秘めている。だから、これからも仲良くできると、そう信じられた。

「当たり前だ。俺は最強になってみせる。姉さんにだって、フィリスにだって、ミーアにだって、リーナにだって、フェリシアにだって、誰にも負けたりしない」
「あたしが、あんたに敗北を教えてあげる。他でもない、あんたの姉がね。その時を、楽しみにしていなさいよ」

 カミラはとても穏やかな笑顔だった。その姿を見て、すごく落ち着いた気分になった。そのまま、彼女は去っていく。それからは、俺はひとりで考え事をしていた。

「カミラ、相当強くなっていたな。俺も、負けないくらいに努力しないと。闇魔法使いに生まれたことに、溺れないように。他にも、闇属性持ちは居るんだから」

 俺には最高の姉が居るな。油断しそうになると、気を入れ直させてくれるんだから。今日だって、思っていたよりも苦戦した。だから、俺はもっと強くなれるはずだ。

「絶対に、みんなを守りきれる力を。カミラだって、メイド達だって、師匠達だって、他の知り合いだって。カミラは、どう見ても原作より強かった。だったら、俺だって!」
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