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1章 レックスの道
19話 影姫の涙
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王女の姉妹、ミーアとリーナが殺し合う未来を避けるために、まずは妹のリーナに会うと決めた。色々と課題はあるが、ひとつずつ進めていこう。
「さて、そうと決めれば動き始めよう。まずは、フェリシアに協力してもらうか」
思いついたプランがある。それには、フェリシアが最適だろうと思えた。他に知り合いが居なかったのもあるが。
人に聞けばすぐに案内してもらえて、簡単に会うことができた。
「フェリシア、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが。リーナに自信をもたせたくてな」
「わたくしに、他の女を口説く手伝いをしろと? ふふっ、冗談ですわ。どうせ、余計なおせっかいなのでしょう」
冗談でも、結構焦るんだが。というか、おせっかい焼きな人間なのだと思われているのか。何がきっかけだ? 特に、思い当たるフシはないのだが。
「まあ、否定はできないが。王女たちの仲が悪いと、俺たちも困るんだからな」
「素直じゃありませんわね。まあ、嫌いではありませんが」
素直じゃないと思われているのは、結構まずい気がする。だからといって、否定するのは肯定しているのと同じだろう。図星だと言っているようなものだ。そうなると、何も触れないのが正解だろうな。
「ところで、リーナには会えると思うか?」
「簡単ですわよ。ミーナ姫であれば、難しかったでしょうが」
やはり、リーナは軽んじられているのだろうな。今のセリフからも分かって、苦しい。他人に感情移入し過ぎな気もするが、『デスティニーブラッド』で過去を知っているからかな。あまり、他人に知ったような口を利くのは問題だろうから、自制は必要だろうが。
「なら、早速行こうか」
「ええ。付き合いますわ」
何も聞かずに付き合ってくれる。やはり、フェリシアも優しい人だ。周囲の環境のせいで歪んだのは、同じなんだろうな。実際、原作では、一属性だからと軽視されていた人だからな。そう思うと、フェリシアの力にもなりたいものだ。一度出会った以上、見て見ぬふりは嫌だ。
「ところで、フェリシアに魔法を使ってもらいたいんだが、良いか?」
「それは……ふふっ、わたくしの力で、複数属性の魔法を打ち破るということですわね。楽しそうですわ」
何も説明していないのに理解される。心地よくもあり、恐ろしくもある。万が一フェリシアが敵に回ったら、厄介な相手になるだろうな。まあ、俺にできる努力は、敵に回った時の対策ではなく、フェリシアと仲良くなるために進むことだ。
フェリシアを連れ立って、リーナのところに会いに行く。言われた通りに、簡単に会うことができた。やはり、警備も薄い。だから、暗殺未遂が原作で行われたのだろうな。
「リーナ姫。俺と話をしてくれませんか?」
「なんですか? 私は暇じゃないんです。つまらない話なら、他の方にどうぞ」
完全に、相手にされていないな。だったら、せめて敵意でいいからこちらに向けたい。まずは視界に入らないことには、どうにもならないからな。とはいえ、言葉は慎重に選ばないと。傷つけたい訳ではないのだから。
「あなたの才能は本物だから、味方にしておけば役立ってくれそうだと思ってな」
「おためごかしなんて、どうでもいいです。闇属性の持つ人間の言葉なんて、聞きませんよ」
それでも、少し眉が動いた。完全な無関心ではないはずだ。俺の闇属性がきっかけかもしれないが、ちょうどいい。少なくとも、言葉を聞いてくれるのだから。
「属性の才能なんて、乗り越えられる。ここに居るフェリシアが、その証明です」
「ええ。わたくしは一属性ですが、あなたの三属性魔法くらい、打ち破ってみせますわ」
完全に俺の意図に合わせてくれた。フェリシアが隣にいると、頼もしいな。今の俺としては出会ったばかりなのに、凄まじいことだ。人の意図を理解するのが得意なのだろうか。それなら、バカにする他人の考えも、強く伝わっていたことになる。やはり、フェリシアとも、もっと仲良くしたいな。
とはいえ、まずは目の前のリーナだ。そこを乗り越えてから、全てが始まるんだ。
「面白いことを言いますね。なら、外に行きましょうか」
ということで、リーナについて行って、訓練場のような見た目のところにたどり着いた。外だから、多少は暴れても大丈夫なのだろう。
「準備はいいですか、フェリシアさん?」
「当然ですわ。わたくしは、そう簡単には負けませんわよ」
フェリシアは自信満々だが、一応、備えは用意しておこう。闇の衣を他者に付与する技術も、すでに身につけているからな。これで、そばに居る親しい人は守ることができる。大事な力だ。
リーナは完全にやる気で、少し俺に対する敵意も感じる気がする。挑発みたいなことをしたからな。当たり前のことか。でも、必要なことだと信じよう。
フェリシアもリーナも構えて、今にも始まりそうな雰囲気だ。実際に、リーナの方から動き始める。
「なら、行きますよ。三重反発陣!」
見た感じ、火、水、風の三属性だな。この技は、あえて魔力どうしを反発させて爆発を起こすという、複数属性持ちの基本といえる技だ。それでも、人ひとりくらいは消し炭にできそうだが。
「獄炎!」
対してフェリシアは、火柱を放つ。リーナの爆発を巻き込んで、そのまま飲み込んでいった。魔法というのは不思議だよな。物理法則からの直感ではイメージできない現象も起こる。とはいえ、炎魔法は空気のあるなしで効果が変わるらしいし、ややこしい。
まあ、大事なのは目の前の結果だ。三属性を使った魔法を、単一属性の魔法で打ち破った。生まれ持った属性の才能だけでは全てが決まらないという、立派な証拠になるはずだ。
「どうですか? 単一属性で、三属性の魔法を打ち破ってみせましたわよ」
「俺の姉のカミラだって、複数属性使いを打ち破れる一属性なんだ」
リーナは俺たちの言葉を受けて、軽く微笑む。それから、俺に鋭い視線を向けてきた。
「でしたら、私は闇魔法に挑みたい。受けてくれますよね、レックスさん? もちろん、手加減はなしですよ。そんな事をしたら、許しません」
言われなければ、こっそりと手加減していたかもしれない。だが、釘を差された上で手を抜くのは、流石に失礼だろう。なら、結果は決まったようなものだ。俺は、最強クラスの魔法使いであるフィリスの魔法すらも防げるのだから。
「ああ、いつでも来い」
「では、行きますよ。失墜する星!」
隕石を降らせる、五属性を重ね合わせた魔法だ。だが、俺の防御を貫けると思うな。
「闇の衣!」
俺自身へ当たった隕石は防げたのだが、破片がリーナの方へ飛んでいく。慌てて、リーナを体でかばった。動いた後に思ったのだが、魔法を飛ばしたほうが効率的だったな。
「ちっ、危ないぞ、リーナ姫!」
「私を、かばった……? いくら魔法で防御していても、私を……?」
リーナは困惑している様子。言葉からするに、かばわれた経験すら無いのだろう。また悲しくなるな。でも、俺はそんなリーナを助けたいんだ。それは、間違いなく本心だ。
「当たり前だろ。リーナ姫の才能は、失われて良いものじゃないんだ」
「そう、なんですね……まさか、誰かに助けられることが、こんなに嬉しいなんて……」
リーナは、一筋の涙をこぼす。それは、とても美しいものかのように思えた。
「やはり、リーナ姫を口説くつもりでしたのね」
フェリシアの言葉は、からかいだと思いたい。そうじゃないと、色々と困る。まあ、空気を軽くしたいという気遣いかもしれないが。
「私を口説くのは、まだ百年早いです。でも、ありがとうございます、レックスさん」
リーナは涙をぬぐわないまま、それでも笑顔を見せてくれた。まずは一歩、進むことができた。これからも、リーナの未来のために、計画を達成してみせる。後ふたつ、後ふたつだ。かならず、未来をつかみ取ってやる。
「さて、そうと決めれば動き始めよう。まずは、フェリシアに協力してもらうか」
思いついたプランがある。それには、フェリシアが最適だろうと思えた。他に知り合いが居なかったのもあるが。
人に聞けばすぐに案内してもらえて、簡単に会うことができた。
「フェリシア、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが。リーナに自信をもたせたくてな」
「わたくしに、他の女を口説く手伝いをしろと? ふふっ、冗談ですわ。どうせ、余計なおせっかいなのでしょう」
冗談でも、結構焦るんだが。というか、おせっかい焼きな人間なのだと思われているのか。何がきっかけだ? 特に、思い当たるフシはないのだが。
「まあ、否定はできないが。王女たちの仲が悪いと、俺たちも困るんだからな」
「素直じゃありませんわね。まあ、嫌いではありませんが」
素直じゃないと思われているのは、結構まずい気がする。だからといって、否定するのは肯定しているのと同じだろう。図星だと言っているようなものだ。そうなると、何も触れないのが正解だろうな。
「ところで、リーナには会えると思うか?」
「簡単ですわよ。ミーナ姫であれば、難しかったでしょうが」
やはり、リーナは軽んじられているのだろうな。今のセリフからも分かって、苦しい。他人に感情移入し過ぎな気もするが、『デスティニーブラッド』で過去を知っているからかな。あまり、他人に知ったような口を利くのは問題だろうから、自制は必要だろうが。
「なら、早速行こうか」
「ええ。付き合いますわ」
何も聞かずに付き合ってくれる。やはり、フェリシアも優しい人だ。周囲の環境のせいで歪んだのは、同じなんだろうな。実際、原作では、一属性だからと軽視されていた人だからな。そう思うと、フェリシアの力にもなりたいものだ。一度出会った以上、見て見ぬふりは嫌だ。
「ところで、フェリシアに魔法を使ってもらいたいんだが、良いか?」
「それは……ふふっ、わたくしの力で、複数属性の魔法を打ち破るということですわね。楽しそうですわ」
何も説明していないのに理解される。心地よくもあり、恐ろしくもある。万が一フェリシアが敵に回ったら、厄介な相手になるだろうな。まあ、俺にできる努力は、敵に回った時の対策ではなく、フェリシアと仲良くなるために進むことだ。
フェリシアを連れ立って、リーナのところに会いに行く。言われた通りに、簡単に会うことができた。やはり、警備も薄い。だから、暗殺未遂が原作で行われたのだろうな。
「リーナ姫。俺と話をしてくれませんか?」
「なんですか? 私は暇じゃないんです。つまらない話なら、他の方にどうぞ」
完全に、相手にされていないな。だったら、せめて敵意でいいからこちらに向けたい。まずは視界に入らないことには、どうにもならないからな。とはいえ、言葉は慎重に選ばないと。傷つけたい訳ではないのだから。
「あなたの才能は本物だから、味方にしておけば役立ってくれそうだと思ってな」
「おためごかしなんて、どうでもいいです。闇属性の持つ人間の言葉なんて、聞きませんよ」
それでも、少し眉が動いた。完全な無関心ではないはずだ。俺の闇属性がきっかけかもしれないが、ちょうどいい。少なくとも、言葉を聞いてくれるのだから。
「属性の才能なんて、乗り越えられる。ここに居るフェリシアが、その証明です」
「ええ。わたくしは一属性ですが、あなたの三属性魔法くらい、打ち破ってみせますわ」
完全に俺の意図に合わせてくれた。フェリシアが隣にいると、頼もしいな。今の俺としては出会ったばかりなのに、凄まじいことだ。人の意図を理解するのが得意なのだろうか。それなら、バカにする他人の考えも、強く伝わっていたことになる。やはり、フェリシアとも、もっと仲良くしたいな。
とはいえ、まずは目の前のリーナだ。そこを乗り越えてから、全てが始まるんだ。
「面白いことを言いますね。なら、外に行きましょうか」
ということで、リーナについて行って、訓練場のような見た目のところにたどり着いた。外だから、多少は暴れても大丈夫なのだろう。
「準備はいいですか、フェリシアさん?」
「当然ですわ。わたくしは、そう簡単には負けませんわよ」
フェリシアは自信満々だが、一応、備えは用意しておこう。闇の衣を他者に付与する技術も、すでに身につけているからな。これで、そばに居る親しい人は守ることができる。大事な力だ。
リーナは完全にやる気で、少し俺に対する敵意も感じる気がする。挑発みたいなことをしたからな。当たり前のことか。でも、必要なことだと信じよう。
フェリシアもリーナも構えて、今にも始まりそうな雰囲気だ。実際に、リーナの方から動き始める。
「なら、行きますよ。三重反発陣!」
見た感じ、火、水、風の三属性だな。この技は、あえて魔力どうしを反発させて爆発を起こすという、複数属性持ちの基本といえる技だ。それでも、人ひとりくらいは消し炭にできそうだが。
「獄炎!」
対してフェリシアは、火柱を放つ。リーナの爆発を巻き込んで、そのまま飲み込んでいった。魔法というのは不思議だよな。物理法則からの直感ではイメージできない現象も起こる。とはいえ、炎魔法は空気のあるなしで効果が変わるらしいし、ややこしい。
まあ、大事なのは目の前の結果だ。三属性を使った魔法を、単一属性の魔法で打ち破った。生まれ持った属性の才能だけでは全てが決まらないという、立派な証拠になるはずだ。
「どうですか? 単一属性で、三属性の魔法を打ち破ってみせましたわよ」
「俺の姉のカミラだって、複数属性使いを打ち破れる一属性なんだ」
リーナは俺たちの言葉を受けて、軽く微笑む。それから、俺に鋭い視線を向けてきた。
「でしたら、私は闇魔法に挑みたい。受けてくれますよね、レックスさん? もちろん、手加減はなしですよ。そんな事をしたら、許しません」
言われなければ、こっそりと手加減していたかもしれない。だが、釘を差された上で手を抜くのは、流石に失礼だろう。なら、結果は決まったようなものだ。俺は、最強クラスの魔法使いであるフィリスの魔法すらも防げるのだから。
「ああ、いつでも来い」
「では、行きますよ。失墜する星!」
隕石を降らせる、五属性を重ね合わせた魔法だ。だが、俺の防御を貫けると思うな。
「闇の衣!」
俺自身へ当たった隕石は防げたのだが、破片がリーナの方へ飛んでいく。慌てて、リーナを体でかばった。動いた後に思ったのだが、魔法を飛ばしたほうが効率的だったな。
「ちっ、危ないぞ、リーナ姫!」
「私を、かばった……? いくら魔法で防御していても、私を……?」
リーナは困惑している様子。言葉からするに、かばわれた経験すら無いのだろう。また悲しくなるな。でも、俺はそんなリーナを助けたいんだ。それは、間違いなく本心だ。
「当たり前だろ。リーナ姫の才能は、失われて良いものじゃないんだ」
「そう、なんですね……まさか、誰かに助けられることが、こんなに嬉しいなんて……」
リーナは、一筋の涙をこぼす。それは、とても美しいものかのように思えた。
「やはり、リーナ姫を口説くつもりでしたのね」
フェリシアの言葉は、からかいだと思いたい。そうじゃないと、色々と困る。まあ、空気を軽くしたいという気遣いかもしれないが。
「私を口説くのは、まだ百年早いです。でも、ありがとうございます、レックスさん」
リーナは涙をぬぐわないまま、それでも笑顔を見せてくれた。まずは一歩、進むことができた。これからも、リーナの未来のために、計画を達成してみせる。後ふたつ、後ふたつだ。かならず、未来をつかみ取ってやる。
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