上 下
6 / 330
1章 レックスの道

6話 魔法を覚えて

しおりを挟む
 ウェスをメイドにしてから、しばらく経った。魔法の研究をしながら、アリアやウェスと仲を深める日々は楽しい。だが、刺激が不足していたのも事実だった。ほんの少し、退屈だったんだよな。

「レックス様、お父上がお呼びです」
「ご、ご主人さま、今日はわたしが連れていきますねっ」

 何か、良いことがあれば嬉しい。ブラック家だから期待薄だが。そう考えながら、ウェスについて行った。

 父は外で待っており、隣にエルフを連れてきていた。青髪金目で、肩のあたりでまっすぐ切られた髪を持つ女。目立っている長い耳もある。もしかしたら。外見の特徴で、俺は期待を抑えられなくなっていた。

「よく来たな、レックス。お前が闇魔法に目覚めた事実は、とてもめでたいことだ。お前の才能を伸ばすために、最高の教師を連れてきたぞ。あのフィリス・アクエリアスだ」

 フィリス・アクエリアス。『デスティニーブラッド』で最強クラスの魔法使いだ。主人公であるジュリオが無属性であることに興味を持って、師として色々と教えていた存在でもある。特に印象深いのが、魔物の軍勢を一度の魔法で皆殺しにしていたことだな。五曜超魔ワイズマンと呼ばれていて、その名にふさわしい存在感があった。

 ありがたい。本当にありがたい。父が貴族であることに、心から感謝したい気分だ。まさか、こんなに早く最高の師匠を手に入れられるなんてな。まあ、ブラック家のことを考えれば、感謝ばかりとはいかないだろうが。

「本当に有名人ですね。ありがとうございます、父上」
「……質問。あなたは闇属性に目覚めたと聞いた。本当?」

 とても平坦な声だ。原作のイメージ通りで、少し興奮する。完全に原作キャラなんだよな。前世ではファンだった。今でも、好感度は高い。まあ、ブラック家にも原作キャラは居るんだけどな。ちょっと、悪役と味方キャラでは違うよな。

「なら、見せますよ。これが、闇の魔力です」

 黒い魔力を、手のひらに集めていく。これが、闇魔法であることの最も簡単な証明だ。

「……本物。確かに闇属性。なら、あなたの教師になることに、異存はない」

 闇魔法使いだから、俺に興味を持ったのだろうか。まあ、何でも良い。魔法をもっと使いこなせるようになるのなら、それで十分だ。

 父は去っていき、俺とフィリスの2人が残された。何から会話を始めたものか、少し悩むな。

「どうして、エルフからすればつまらない人間に教えようと思ったんだ?」
「……単純。闇属性は、ほとんど見たことがない。エルフの長い人生の中でも」
「なら、存分に見せてやるよ。俺が最強だってところをな」
「……楽しみ。魔法を見ることは、知ることは、どれだけ経験しても良い」

 なるほどな。原作では、エルフは闇属性を使えなかった。光と無も。だから、興味深いのだろう。ちょうどいいな。闇魔法を使えるだけで、最高峰の魔法使いに教われるのだから。

「俺は特別なんだ。お前だって、簡単に超えてみせるさ」
「……期待。私は五属性ペンタギガ。それを超える魔法なら、どれだけでも見たい」

 五属性ペンタギガ。火、水、風、土、雷の五属性を同時に扱える、最高峰の魔法使いの証。原作では、数えるほどしかいなかった存在だ。

 それにしても、フィリスは興味津々といった様子だな。無表情にしか見えないのに、声も棒読みなのに、よく伝わってくる。分かりやすいことだ。

「闇魔法が複数属性を重ねられないと、軽んじているのか?」
「……否定。闇属性は、特別。重ねられないから特別なのか、特別だから重ねられないのか。興味は尽きない」

 原作では、光、闇、無の属性は他の属性と同時には目覚めなかった。だから、その三属性は特別扱いされていた。光は主に王族が、闇は主に悪役が、無は主人公の特権だったんだ。どれも、作中で重要な働きを見せていた。

 フィリスが闇属性に興味を持ってくれたのも、特別性のおかげ。そう思うと、俺が闇属性に目覚めたことが、より幸運だと思えるな。ウェスの右腕を治せたのは、闇魔法のおかげ。それだけでも、十分だったんだが。

「まずは、俺の魔法を見せてやる。これが、闇の衣グラトニーウェアだ」

 以前開発した、俺の体を闇の魔力で包む防御技を見せていく。フィリスは感心した様子だ。少し、気分が良くなるな。

「……なるほど。闇の魔力で体を守る。単純だけど、強力」
「どれだけ耐久性があるのか、試したかったところだ。最終的には、お前の全力に耐えてみせる」

 フィリスは俺の言葉を受けて、闇の衣グラトニーウェアに向けて魔法を放ってくる。最初は弱く、だんだん強く。それでも、俺の防御はびくともしない。最強格の魔法使いの攻撃を受けても耐えられる。最高の気分だ。

「……驚嘆。これほど強力な防御なら、それは強いと言われる。なら、受けてみて。私の、五曜剣チェインブレイドを」

 五曜剣チェインブレイド。原作での、フィリスの必殺技だ。五属性を収束した、魔力の刃。切れ味も最高だが、意図的に制御を失わせることで、大爆発を起こせる魔法でもある。だが、今までの手応えからすると、受けられるという自信がある。

 まずは、フィリスは刃をそのまま俺の防御に向けて放つ。これは楽に受けられた。もう一度放たれる。今度は、俺に直撃する直前に、制御を手放したようだ。だが、俺の考えていた爆発と違い、指向性を持っている。俺にだけ向けられた、強力な爆発。

 それでも、気合を入れて防御をすれば、なんとか耐えることができた。まあ、俺が死なない程度には手加減されていたのだろうが。

 正直に言えば、結構ギリギリだった。だが、余裕なふりをする。普段から演技をしていないと、崩れてしまいそうな気がするからな。

「どうだ、受けきったぞ。お前の切り札より、俺の方が強い」
「……同意。攻撃は、まだ分からない。それでも、あなたは天才」
「じゃあ、俺の攻撃を見せてやるよ!」

 さっき闇の衣グラトニーウェア五曜剣チェインブレイドを受けたことで、どういう構成の魔法か分かった。それを参考に、魔力で刃を生み出していく。相手の防御に使われる魔力を侵食するイメージと、収束した魔力を解放させるイメージとで。

 一度放てば、キレイな刃として飛んでいった。フィリスが魔法で的を作ると、そこに向けてもう一度撃つ。魔力を突き抜ける感覚があって、これなら魔法による防御を防げるだろうという感覚があった。

 そして、もう一度放っていく。今度は、爆発を真似した形で。狙った方向に爆発させることができて、フィリスの作った的は跡形も残っていなかった。

 おそらく、今の俺にできる最高の攻撃だ。そして、フィリスを超える可能性が十分にあるものだ。名付けて、闇の刃フェイタルブレイドだな。

「……感激。私の五曜剣チェインブレイドを参考にした?」
「そうだな。この技で、俺はお前を完全に超えてやる」
「……楽しみ。レックス。あなたがどれほど強くなるのか、この目で確かめる」

 表情も声も変わらないのに、目には力がこもっているのが一目で分かった。やはり、闇魔法に興味が尽きないのだろう。つまり、これからもフィリスに教えを受けることができる。最高だな。

 それからもしばらく訓練を続けていると、メイドであるアリアたちが近づいてくる感覚があった。食事の用意だろうな。

「お食事ですよ、レックス様」
「ご、ご主人さまの師匠も食べてください」
「……レックスの魔力は、もう少し細かく制御できる」

 フィリスは、アリアとウェスの言葉に全く反応していなかった。いくら闇魔法が面白いとは言っても、極端すぎる。周りが目に入っていないのか?

「おい、食事だぞ、フィリス」

 言葉だけでは反応が帰ってこず、仕方なく肩を揺する。そうすることで、ようやくアリアとウェスを認識したみたいだ。俺は呆れたが、フィリスが本気である証でもある。感情としては、嬉しさもあった。

「……仕方ない。まずはご飯」

 それから、フィリスたちと食事を進めていった。夕飯の時間まで、再び訓練をして、家族との食事に移る。

「流石は我が息子。フィリスですら驚嘆するほどの魔法が使えるらしいじゃないか」
「レックスちゃんの成長は素晴らしいですね。母として、誇りに思います」
「だからって、調子に乗らないことね」
「まあまあ、カミラ。弟の活躍を、喜んでやろうじゃないか」
「お兄様、私も魔法が使えるようになりたいな」
「兄さん、流石です。僕も、負けてはいられませんね」

 家族での団欒だんらんの時間なのだろうが、俺としては心が休まらなかった。アリアやウェスと食べる時間が恋しくなってしまったほどだ。

 まあ、それはいい。魔法はある程度形になった。これからも訓練を続けるが、どうせなら剣も覚えたいな。せっかく剣と魔法の世界に生まれたのだから。そんな思いが、俺の中で浮かび上がってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る

犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」  父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。  そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。  ヘレナは17歳。  底辺まで没落した子爵令嬢。  諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。  しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。 「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」    今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。 ***************************************** ** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』     で長い間お届けし愛着もありますが、    2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 ** *****************************************  ※ ゆるゆるなファンタジーです。    ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。  ※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。  なろう他各サイトにも掲載中。 『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓ http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定 2024.6月下旬コミックス1巻刊行 2024.1月下旬4巻刊行 2023.12.19 コミカライズ連載スタート 2023.9月下旬三巻刊行 2023.3月30日二巻刊行 2022.11月30日一巻刊行 寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。 しかも誰も通らないところに。 あー詰んだ と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。 コメント欄を解放しました。 誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。 書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。 出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。 よろしくお願いいたします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。 ※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...