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第5章 ノースジブル領の危機
54.不穏な知らせ
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お父様にも正式な婚約を結ぶことを知らせ、数日が経った頃だった。私は公爵邸内の庭園をリヒト様と散歩していた。婚約を結んだ私達はぎこちなくも付き合いたての恋人のよう日々、心を通わせ合っていた。
「アリス見てごらん」
リヒト様の見ている視線の先を辿ると赤い花が目についた。
「これは?」
「これはノースジブル領の花なんだ。花を摘んで口にすると甘い密が飲めて…」
「よくご存知ですね」
「あ、ああ」
リヒト様は少し照れたように顔を横に向けた。
「どうかなさいましたか?」
「いや我ながら子どもっぽいなと」
最近になって気付いたことは意外にもリヒト様は子ども心があることだった。以前は知らなかったが、リヒト様はやたらと野草や生活に関わる知恵が豊富だ。最近は庭園を散歩する際に色々なことを私に教えてくれる。
「私はそういったことに疎いですから…とても勉強になります」
そういうとリヒト様は穏やかに笑った。そうはいったものの、私は野草や様々な知識を持つリヒト様に疑問を持っていた。
ーなぜ公爵様の家系に産まれた人がこんなことを知っているのか
もちろん、リヒト様は民の心に寄り添う人物であること、民の生活を良くしていこうとする人物であることも知った上での疑問だった。くよくよ考えても仕方がないと意を決してリヒト様に投げかけようとした時だった。
「あの、リヒ…」
「リヒト様!」
遠くからいつも涼しい顔をしているクロード様が血相を変えてこちらに駆けて来ていた。
「クロード、どうした?」
「リヒト様、アリス様とご一緒のところ申し訳ございません。早急に対処して頂きたいことがあります。」
「…そうか。悪い、アリス。」
リヒト様の申し訳なさそうな顔が心に刺さった。私も内容は知らないが恐らく公爵領に良くない知らせがあったのだと気付くのは容易だった。
「いいえ、すぐに行ってください」
「何か言いかけていたが大丈夫か?」
「…そんな大したことはありません。あまり気にせず。」
「そうか。また埋め合わせはするから。少し待っていてほしい」
「はい」
私はクロード様とリヒト様が足早に公爵邸に戻っていくのを見つめていた。ふと、足元には先程リヒト様が教えてくれた赤い花が美しく咲き誇っていた。
「アリス見てごらん」
リヒト様の見ている視線の先を辿ると赤い花が目についた。
「これは?」
「これはノースジブル領の花なんだ。花を摘んで口にすると甘い密が飲めて…」
「よくご存知ですね」
「あ、ああ」
リヒト様は少し照れたように顔を横に向けた。
「どうかなさいましたか?」
「いや我ながら子どもっぽいなと」
最近になって気付いたことは意外にもリヒト様は子ども心があることだった。以前は知らなかったが、リヒト様はやたらと野草や生活に関わる知恵が豊富だ。最近は庭園を散歩する際に色々なことを私に教えてくれる。
「私はそういったことに疎いですから…とても勉強になります」
そういうとリヒト様は穏やかに笑った。そうはいったものの、私は野草や様々な知識を持つリヒト様に疑問を持っていた。
ーなぜ公爵様の家系に産まれた人がこんなことを知っているのか
もちろん、リヒト様は民の心に寄り添う人物であること、民の生活を良くしていこうとする人物であることも知った上での疑問だった。くよくよ考えても仕方がないと意を決してリヒト様に投げかけようとした時だった。
「あの、リヒ…」
「リヒト様!」
遠くからいつも涼しい顔をしているクロード様が血相を変えてこちらに駆けて来ていた。
「クロード、どうした?」
「リヒト様、アリス様とご一緒のところ申し訳ございません。早急に対処して頂きたいことがあります。」
「…そうか。悪い、アリス。」
リヒト様の申し訳なさそうな顔が心に刺さった。私も内容は知らないが恐らく公爵領に良くない知らせがあったのだと気付くのは容易だった。
「いいえ、すぐに行ってください」
「何か言いかけていたが大丈夫か?」
「…そんな大したことはありません。あまり気にせず。」
「そうか。また埋め合わせはするから。少し待っていてほしい」
「はい」
私はクロード様とリヒト様が足早に公爵邸に戻っていくのを見つめていた。ふと、足元には先程リヒト様が教えてくれた赤い花が美しく咲き誇っていた。
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