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第5章 ノースジブル領の危機
51.変わらない日常
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公爵様と私は庭園からそれぞれの部屋へと戻った。公爵様は部屋まで私のことを送り届けてくれたが何故か以前よりもぎこちない雰囲気が私達の中に流れていた。
その内に私の部屋の前へと着くと公爵様は「すぐ休むように」とだけ私に伝え、その場を後にした。部屋に入って私は静かに寝台へと寝そべる。
思えばクリスとは許嫁だったが、想いを伝えあった恋人ではなく、王国の将来を共に担うと決意した友達のような存在だった。そこに恋愛感情というものはなく、あるのは親愛のみでこんな風に男性に想いを募らせることは初めてだった。
ー想いを伝えあった後ってみんなどうしてるのかしら
「公爵様…リヒト様」
何気なく公爵様の名前を呼んでみた。今までは縁談の話しが出ているだけで、まだ婚約もしてないのだから馴れ馴れしく名前を呼ぶべきではないと思い避けてきた。
でも今はお互いに婚約を了承した許嫁で想いも伝えあっている。そう思うと頬が熱を持ち、思わず恥ずかしくて飛び起きてしまった。
「リヒト様はどう思ってるのかしら」
そんなことを呟きながら私は眠りへと誘われていた。
***
「アリス様!おはようございます!」
エマの元気な声に固い身体を動かすとカーテンを開けると共に眩しい日差しが目を襲った。
「昨夜お休みになられた際は毛布もかけていらっしゃったのに…このノースジブルで毛布をかけずに寝るなんてお体に触りますよ!」
エマは私に軽くお説教を飛ばしながら黙々と朝の仕度を急いでいた。エマの機敏な動きに反応しながら他の侍女達も合わせて動いていた。そんな姿が懐かしくて思わず笑ってしまう。
「お嬢様?」
「ごめんなさい、何だか懐かしい気がして。不思議ね。私の感覚だと昨日までこんな日常だったのに、身体は懐かしいと感じるみたい。…エマ、いつもありがとう」
私はエマに感謝を伝えるとエマや周りの侍女達も泣きそうな顔でこちらに近寄ってきた。
「私達への感謝なんていいんですよ!…もうお嬢様のせいで調子が崩れてしまうじゃないですか!皆でいつも通りにお勤めをしようと約束してたのに…」
エマの瞳には涙が溜まるとそれは頬を伝った。そんな姿を見て周りの侍女達も同じように泣き出してしまった。
「えっ!皆大丈夫よ。私は意識はなかったけど、もう元気だもの。あまり気にしないで!」
「こちらが大丈夫ではありません!みんなしんぱいでしんぱいで大変だったんですからあ!」
「ああ、お願いだから泣き止んで頂戴。エマも皆も笑顔が一番素敵なんだから。ね?」
私は侍女達を見ながら微笑むと、次第に侍女達の涙は引いたようで暫くするといつもの様子へと戻っていった。朝食も済ませ、散歩にでも出かけようかとエマに言うと案の定に「駄目です。暫くは安静に!」と返されてしまった。
私は部屋の中を見渡すと公爵様と感想を言い合ったあの本が目に入った。そういえば一度読んでからは目を通していなかったなと思い、もう一度読むことにした。本に読み耽っているといつの間にか1日が過ぎており、部屋の窓から見える景色は既に暗くなっていた。そんな時、部屋の扉を叩く音がした。
「アリス様、宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
扉が開かれるとそこにはノーマンが立っていた。
「ノーマン!」
「アリス様…」
ノーマンは私を見なり深々とお辞儀をした。その仰々しい姿に驚いたが、彼はそんな私にも動揺せずにそのまま話し始めた。
「貴方様の近くに居りましたのに、不届き者を阻止出来ず誠に申し訳ございませんでした。」
「ノーマン、顔を上げて下さい」
私の声にノーマンは渋々と顔を上げた。
「本来ならば執事として辞さなければならない事ですがリヒト様の温情により未だに仕えさせて頂いております。…アリス様が望むのであれば私は今一度自身の処遇を考えるつもりです」
ノーマンは覚悟を決めたように私の目を見つめた。そんな彼の様子を見て、私は先程の侍女を思い出して笑ってしまった。
「アリス様?」
「ノーマンまで…私は今こうして無事にいます。それだけでもう望むことなどないです。それにノーマンがいなくなればヴェンガルデン公爵邸が困ってしまいます。それにまた美味しい紅茶を飲みたいですしね」
私はノーマンを見つめて微笑むとノーマンは「ありがとうございます」と言うとまた深々とお辞儀をした。そして、本題の要件を伝えてきた。
「アリス様、旦那様が夕食をご一緒にしたいとの伝言を預かっております。病み上がりですので、無理はなさらないようにとも伺っておりますが…如何されますか?」
私はノーマンの問いに二つ返事で答えた。昨夜に会ったというのに私は公爵様に会えることを心の底で嬉しく思っていた。
その内に私の部屋の前へと着くと公爵様は「すぐ休むように」とだけ私に伝え、その場を後にした。部屋に入って私は静かに寝台へと寝そべる。
思えばクリスとは許嫁だったが、想いを伝えあった恋人ではなく、王国の将来を共に担うと決意した友達のような存在だった。そこに恋愛感情というものはなく、あるのは親愛のみでこんな風に男性に想いを募らせることは初めてだった。
ー想いを伝えあった後ってみんなどうしてるのかしら
「公爵様…リヒト様」
何気なく公爵様の名前を呼んでみた。今までは縁談の話しが出ているだけで、まだ婚約もしてないのだから馴れ馴れしく名前を呼ぶべきではないと思い避けてきた。
でも今はお互いに婚約を了承した許嫁で想いも伝えあっている。そう思うと頬が熱を持ち、思わず恥ずかしくて飛び起きてしまった。
「リヒト様はどう思ってるのかしら」
そんなことを呟きながら私は眠りへと誘われていた。
***
「アリス様!おはようございます!」
エマの元気な声に固い身体を動かすとカーテンを開けると共に眩しい日差しが目を襲った。
「昨夜お休みになられた際は毛布もかけていらっしゃったのに…このノースジブルで毛布をかけずに寝るなんてお体に触りますよ!」
エマは私に軽くお説教を飛ばしながら黙々と朝の仕度を急いでいた。エマの機敏な動きに反応しながら他の侍女達も合わせて動いていた。そんな姿が懐かしくて思わず笑ってしまう。
「お嬢様?」
「ごめんなさい、何だか懐かしい気がして。不思議ね。私の感覚だと昨日までこんな日常だったのに、身体は懐かしいと感じるみたい。…エマ、いつもありがとう」
私はエマに感謝を伝えるとエマや周りの侍女達も泣きそうな顔でこちらに近寄ってきた。
「私達への感謝なんていいんですよ!…もうお嬢様のせいで調子が崩れてしまうじゃないですか!皆でいつも通りにお勤めをしようと約束してたのに…」
エマの瞳には涙が溜まるとそれは頬を伝った。そんな姿を見て周りの侍女達も同じように泣き出してしまった。
「えっ!皆大丈夫よ。私は意識はなかったけど、もう元気だもの。あまり気にしないで!」
「こちらが大丈夫ではありません!みんなしんぱいでしんぱいで大変だったんですからあ!」
「ああ、お願いだから泣き止んで頂戴。エマも皆も笑顔が一番素敵なんだから。ね?」
私は侍女達を見ながら微笑むと、次第に侍女達の涙は引いたようで暫くするといつもの様子へと戻っていった。朝食も済ませ、散歩にでも出かけようかとエマに言うと案の定に「駄目です。暫くは安静に!」と返されてしまった。
私は部屋の中を見渡すと公爵様と感想を言い合ったあの本が目に入った。そういえば一度読んでからは目を通していなかったなと思い、もう一度読むことにした。本に読み耽っているといつの間にか1日が過ぎており、部屋の窓から見える景色は既に暗くなっていた。そんな時、部屋の扉を叩く音がした。
「アリス様、宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
扉が開かれるとそこにはノーマンが立っていた。
「ノーマン!」
「アリス様…」
ノーマンは私を見なり深々とお辞儀をした。その仰々しい姿に驚いたが、彼はそんな私にも動揺せずにそのまま話し始めた。
「貴方様の近くに居りましたのに、不届き者を阻止出来ず誠に申し訳ございませんでした。」
「ノーマン、顔を上げて下さい」
私の声にノーマンは渋々と顔を上げた。
「本来ならば執事として辞さなければならない事ですがリヒト様の温情により未だに仕えさせて頂いております。…アリス様が望むのであれば私は今一度自身の処遇を考えるつもりです」
ノーマンは覚悟を決めたように私の目を見つめた。そんな彼の様子を見て、私は先程の侍女を思い出して笑ってしまった。
「アリス様?」
「ノーマンまで…私は今こうして無事にいます。それだけでもう望むことなどないです。それにノーマンがいなくなればヴェンガルデン公爵邸が困ってしまいます。それにまた美味しい紅茶を飲みたいですしね」
私はノーマンを見つめて微笑むとノーマンは「ありがとうございます」と言うとまた深々とお辞儀をした。そして、本題の要件を伝えてきた。
「アリス様、旦那様が夕食をご一緒にしたいとの伝言を預かっております。病み上がりですので、無理はなさらないようにとも伺っておりますが…如何されますか?」
私はノーマンの問いに二つ返事で答えた。昨夜に会ったというのに私は公爵様に会えることを心の底で嬉しく思っていた。
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