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第4章 婚約の行方

34.救いの手

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 僕は冷たい空気で目を覚ました。ノースジブル領の薬学研究所の気候は慣れたが体は寒さを感じて震えていた。気付けばもう朝だ。いつの間にか眠っていたらしい。しかし、なにもかけずに眠っていた割にはほんのりと体が温かい。

 いつの間にか自分にかけられていた毛布を見て、また彼女が来たのだと思った。

ーいつも子ども扱いだ

 正確にいえば彼女の養子なのだから『子ども』という表現は合っている。しかし、僕はその表現に釈然としない。彼女は養母になるが僕はそれ以上の感情を抱いている。

ーあの日、ティズ族というだけで奴隷として扱われていた僕を助けてくれた人

 それ以来、彼女のことを養母としてでなく一人の女性として見ている。僕の光で、僕のたった一人の女神だ。

 そんなことを思っていると僕の研究室に彼女がやってきた。朝の日差しに照らされた彼女は年齢を感じさせないほどに美しい。

「カイン、出かけますよ」
「え?ですが」
「いいから早く支度をなさい」
「どこに出かけるのですか?」
「…そうね。行き先は言わなくてはね」

 彼女の口から出たのは思いがけない場所だった。

「ですが!」
「もういいのよ。向き合わなくてはならないから」

 彼女はそう言うと静かに研究室を後にした。慌てて僕も最小限の支度をして彼女に追い付く。既に研究所前に馬車が用意されていた。
 
 僕は彼女に続いて馬車に乗り込むと話を続けた。

「本当に良いのですか?先日の視察も公爵様に逆らってあんなにもアリス様に会うのを嫌がっていたではないですか?」
「ええ…だけど、もうこれは隠してはいけないことだと思ったの。それにアリスがノースジブル領に来た時点で運命は決まっていたの」
「しかし…」

 僕の言葉を遮るように窓を眺めながら僕の愛しい人は笑った。良く見ると笑った横顔が先日会ったアリス様によく似ていた。

「僕は出会う前の貴女のことは知らないですが何か決意したのですね。」
「ええ、あの娘からすれば私は幽霊のようでしょうね。だけど、これはいずれ誰かが告げなければいけなかったのよ。…それに、それが出来ていればこんなことになっていなかった」
「…僕には詳しいことは分かりませんが、貴女様が言うのならそれに従います。」

 僕は目の前の人物の瞳を見つめた。

「貴女様の仰せのままに。マグノリア様」

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