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第3章 アリスと公爵家
22.本の終わりに
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「お嬢様、お茶の準備が出来ましたよ」
私はエマの言葉にはっとして時計を見た。もうすでに時刻は15時すぎを指していた。
「面白いのは分かりますがあまり根を詰めて読む物ではありませんよ」
「分かっているけど…続きが気になってしまってつい」
私はエマの小言を聞きながらまた本のページを捲っていた。
この小説は惹かれてはいけない男女が恋に落ちてしまうというのが主な題材になっている。北の国の王子と南の国の王女が幼い頃に出会いひと目で恋に落ちるが両国の仲はとても仲が悪く、2人が成長してからは次第に戦へと発展してしまう。
北の国の王子は戦に参加することになってしまうが、最後まで愛する南の国の王女のいる地へ向かうことを拒み続けた。しかし、王の命令で戦へと参加し、攻め入った城で王女と再開してしまう…というのが今まで読んだ物語だ。
―ロマンス小説がこんなに面白いだなんて
私は面白さに夢中になり、今日は1日中物語の世界に入り浸っていた。思えば学院でもこういった小説は流行っていたが聖女としての公務と学業、おまけに王妃教育で読む暇などなかった。
―今は思う存分読めるなんてとても贅沢ね
私はそう思いながらエマの用意してくれたお茶を飲みながら読書を再開した。夢中でさらに読み続け辺りが少し暗くなった頃、思わず手が止まった。
「あら?この本」
「どうなされましたか?」
エマの問いかけに私は悲しくなりながらも答えた。
「エマ…この本、ここで終わっているわ!」
「そうなんです」
「そんな今が一番面白いところなのに」
「お嬢様、こちらの本は人気なのですが未完の作品なのです。ですが、未完だからこそ人気もあるんですよ。」
「未完だから?」
「そうです。この先の2人の行方を想像して友達と話したり、自分で考えたりするのが面白いんです。」
「…そうなの?でも私は読んでもエマしか喋れる相手がいないし」
「…お嬢様、最後のページの後ろに何かありますよ」
エマにそう言われ後ろを見ると手紙が入っていた。
「誰のかしら?」
「さあ?開けてみてよろしいのでは?」
エマに促され手紙を開けてみると非常に簡素な文章が書いてあった。
― 突然の手紙で申し訳ありません。本は気に入りましたか?私もこの本を読みましたが、男女の恋というのは非常に複雑だと感じました。
リヒト・ヴェンガルデン ―
「ん?」
「お嬢様?」
「これは公爵様の感想なのかしら?」
「私も読んでも?」
私は頷くとエマに公爵様の手紙を見せた。エマも初めてこの手紙を読んだ私と恐らく同じ顔になっていた。
「…何でしょうか?感想にしては何とも淡白な文章ですね」
「そうよね。でも手紙をもらったのだからお返事したほうが良いのかしら?」
エマは考え込むようにして腕を組むと暫くの間考え込んでいた。時間が経つとエマはようやく口を開いた。
「本の選出、簡素な感想…これは公爵様なりのお嬢様との関わり方なのかもしれません!」
「ええ!そうなの?」
「ええ、ロマンス小説を多く読んできた私には分かります!」
エマは自信満々に答えると私にレターセットを用意してきた。
「お嬢様と交流なさりたいのにきっと躊躇っているのです!ここはお嬢様からお返事しなくては!」
エマは私に返事を催促しながら何だか楽しそうだった。エマに言われるまま私は手紙の返事を考えていた。
私はエマの言葉にはっとして時計を見た。もうすでに時刻は15時すぎを指していた。
「面白いのは分かりますがあまり根を詰めて読む物ではありませんよ」
「分かっているけど…続きが気になってしまってつい」
私はエマの小言を聞きながらまた本のページを捲っていた。
この小説は惹かれてはいけない男女が恋に落ちてしまうというのが主な題材になっている。北の国の王子と南の国の王女が幼い頃に出会いひと目で恋に落ちるが両国の仲はとても仲が悪く、2人が成長してからは次第に戦へと発展してしまう。
北の国の王子は戦に参加することになってしまうが、最後まで愛する南の国の王女のいる地へ向かうことを拒み続けた。しかし、王の命令で戦へと参加し、攻め入った城で王女と再開してしまう…というのが今まで読んだ物語だ。
―ロマンス小説がこんなに面白いだなんて
私は面白さに夢中になり、今日は1日中物語の世界に入り浸っていた。思えば学院でもこういった小説は流行っていたが聖女としての公務と学業、おまけに王妃教育で読む暇などなかった。
―今は思う存分読めるなんてとても贅沢ね
私はそう思いながらエマの用意してくれたお茶を飲みながら読書を再開した。夢中でさらに読み続け辺りが少し暗くなった頃、思わず手が止まった。
「あら?この本」
「どうなされましたか?」
エマの問いかけに私は悲しくなりながらも答えた。
「エマ…この本、ここで終わっているわ!」
「そうなんです」
「そんな今が一番面白いところなのに」
「お嬢様、こちらの本は人気なのですが未完の作品なのです。ですが、未完だからこそ人気もあるんですよ。」
「未完だから?」
「そうです。この先の2人の行方を想像して友達と話したり、自分で考えたりするのが面白いんです。」
「…そうなの?でも私は読んでもエマしか喋れる相手がいないし」
「…お嬢様、最後のページの後ろに何かありますよ」
エマにそう言われ後ろを見ると手紙が入っていた。
「誰のかしら?」
「さあ?開けてみてよろしいのでは?」
エマに促され手紙を開けてみると非常に簡素な文章が書いてあった。
― 突然の手紙で申し訳ありません。本は気に入りましたか?私もこの本を読みましたが、男女の恋というのは非常に複雑だと感じました。
リヒト・ヴェンガルデン ―
「ん?」
「お嬢様?」
「これは公爵様の感想なのかしら?」
「私も読んでも?」
私は頷くとエマに公爵様の手紙を見せた。エマも初めてこの手紙を読んだ私と恐らく同じ顔になっていた。
「…何でしょうか?感想にしては何とも淡白な文章ですね」
「そうよね。でも手紙をもらったのだからお返事したほうが良いのかしら?」
エマは考え込むようにして腕を組むと暫くの間考え込んでいた。時間が経つとエマはようやく口を開いた。
「本の選出、簡素な感想…これは公爵様なりのお嬢様との関わり方なのかもしれません!」
「ええ!そうなの?」
「ええ、ロマンス小説を多く読んできた私には分かります!」
エマは自信満々に答えると私にレターセットを用意してきた。
「お嬢様と交流なさりたいのにきっと躊躇っているのです!ここはお嬢様からお返事しなくては!」
エマは私に返事を催促しながら何だか楽しそうだった。エマに言われるまま私は手紙の返事を考えていた。
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