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第2章 北の領土ノースジブル
7.クロードの提案
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「アリスが?そのようなことを申したのですか?」
「ええ、アリス様も我が領土にも興味があるようです。そこで、縁談の返事は一度保留にして向学のための遊学ということでノースジブル領にお越しいただこうと考えております。その間はアリス様をヴェンガルデン公爵家で迎えいれたいのです。」
「はあ」
お父様は不思議そうに私を見つめながらクロード様へと視線をずらした。
「しかし、ヴェンガルデン公爵様も婚約も決まっていない娘を預かるのは世間的にもあまりよろしくないのでは?」
「そのようなことはございませんよ。ヴェンガルデン公爵家には自身の屋敷で花嫁修業が難しい子女などを受け入れることもしておりますから。それにアリス様は魔法学院を卒業なさっていますから向学のために様々な土地を見て学ぶことも卒業生なら珍しくありません。」
クロード様は優しくお父様に微笑むとお父様もなぜか照れたのか咳払いを一つして落ち着くと言葉を紡いだ。
「こんなことを言うのは恐れ多いですが…私としてはアリスの気持ちを尊重し、決断して欲しいのです。なにぶん、聖女としての力に目覚めてからは自分のことなど気にもせず一途に民の為に尽くしてきた子です。聖女の力を失っても慈善活動をやめたことはありませんでしたから。」
「…お父様」
私はお父様の気持ちに改めて聞くと自然と胸がいっぱいになった。お父様はこんなにも私のことを考えていてくれたこと目頭が不意に熱くなった。
「アリスはどうなんだ?」
「お父様、私は自分の目で色んな所を聖女としてではなくアリスとして見てみたいのです。ですから今回のお話しを受けようと思います。」
お父様は驚いたようにこちらの様子を伺うと私の目をじっと見つめた。暫くすると折れたように「分かった」とだけ返事をした。
「クロード様、ただこちらとしても条件を加えることを許して頂いてもよろしいですか
?」
「ええ、どのようなものでしょう?」
「アリスの18歳の誕生日までにアンリゼット家に傷一つなく帰すこと」
「それはもちろん。ヴェンガルデン公爵家の名にかけてお守りします。」
お父様は私をまた見つめると決心したようにクロード様に言葉を続けた。
「そして、アリスが今回の縁談の返事を決める決定権を持ち、アンリゼット家に帰るその日までに返事を決めることをお許しいただきたいのです。」
「お父様!そのようなこと!」
慌てる私を横目にクロード様は立ち上がりそうになった私を手で制し、お父様に話しを続けた。
「そちらの条件でしたら我が主も受け入れるでしょう。むしろ主としてもアリス様の意見を尊重されるでしょうから」
クロード様は思い出したように少し笑ったがまたいつもの落ち着いた綺麗な顔に戻るとお父様と握手をし、部屋を後にした。私もお父様に「後でまた参ります」とだけ伝えるとクロード様の後を追った。
「クロード様!」
「おや、アリス様。お父様とも話し合いが成立したようで良かったです。すぐにでもノースジブル領に向かう準備を…」
「いえ、そのようなことではなく!先ほどは父が失礼なことを申しました。」
私は深くクロード様に謝罪をした。本来なら縁談の話しを取り仕切るのは家長であり、縁談を結ぶのも破棄するのも家長の仕事だ。そうでなければ双方の家に失礼にあたる。子女は特に縁談話を自分で選ぶことはないし、決断権を持つなど持っての他である。
「アンリゼット家からの条件のことですか?心配なさらずともヴェンガルデン公爵様から事前に「どんなことを提示されても受け容れろ」と言われていますし、ご心配なく」
「ですが、失礼にあたるのではと」
「そちらは気しなくて結構です。主はそのようなことで気を損ねませんよ」
クロード様のあまりの落ち着きにこちらが驚いてしまう。ノースジブル領ではこのようなことがよくあるのだろうか。私は頭の中が混乱しながらもクロード様の声に耳を傾けた。
「出発は早い内に致しましょう。…そちらのほうが安全ですから」
「クロード様、今なんと仰いました?」
「いえ、こちらの話しです。」
クロード様が最後に何と言ってたのか聞き逃してしまった。変わらずクロード様は飄々とした様子で私に話しかけた。
「アリス様、共に参りましょう。ノースジブル領へ」
私はクロード様の差し伸べられた手を思わす掴んだ。
「ええ、アリス様も我が領土にも興味があるようです。そこで、縁談の返事は一度保留にして向学のための遊学ということでノースジブル領にお越しいただこうと考えております。その間はアリス様をヴェンガルデン公爵家で迎えいれたいのです。」
「はあ」
お父様は不思議そうに私を見つめながらクロード様へと視線をずらした。
「しかし、ヴェンガルデン公爵様も婚約も決まっていない娘を預かるのは世間的にもあまりよろしくないのでは?」
「そのようなことはございませんよ。ヴェンガルデン公爵家には自身の屋敷で花嫁修業が難しい子女などを受け入れることもしておりますから。それにアリス様は魔法学院を卒業なさっていますから向学のために様々な土地を見て学ぶことも卒業生なら珍しくありません。」
クロード様は優しくお父様に微笑むとお父様もなぜか照れたのか咳払いを一つして落ち着くと言葉を紡いだ。
「こんなことを言うのは恐れ多いですが…私としてはアリスの気持ちを尊重し、決断して欲しいのです。なにぶん、聖女としての力に目覚めてからは自分のことなど気にもせず一途に民の為に尽くしてきた子です。聖女の力を失っても慈善活動をやめたことはありませんでしたから。」
「…お父様」
私はお父様の気持ちに改めて聞くと自然と胸がいっぱいになった。お父様はこんなにも私のことを考えていてくれたこと目頭が不意に熱くなった。
「アリスはどうなんだ?」
「お父様、私は自分の目で色んな所を聖女としてではなくアリスとして見てみたいのです。ですから今回のお話しを受けようと思います。」
お父様は驚いたようにこちらの様子を伺うと私の目をじっと見つめた。暫くすると折れたように「分かった」とだけ返事をした。
「クロード様、ただこちらとしても条件を加えることを許して頂いてもよろしいですか
?」
「ええ、どのようなものでしょう?」
「アリスの18歳の誕生日までにアンリゼット家に傷一つなく帰すこと」
「それはもちろん。ヴェンガルデン公爵家の名にかけてお守りします。」
お父様は私をまた見つめると決心したようにクロード様に言葉を続けた。
「そして、アリスが今回の縁談の返事を決める決定権を持ち、アンリゼット家に帰るその日までに返事を決めることをお許しいただきたいのです。」
「お父様!そのようなこと!」
慌てる私を横目にクロード様は立ち上がりそうになった私を手で制し、お父様に話しを続けた。
「そちらの条件でしたら我が主も受け入れるでしょう。むしろ主としてもアリス様の意見を尊重されるでしょうから」
クロード様は思い出したように少し笑ったがまたいつもの落ち着いた綺麗な顔に戻るとお父様と握手をし、部屋を後にした。私もお父様に「後でまた参ります」とだけ伝えるとクロード様の後を追った。
「クロード様!」
「おや、アリス様。お父様とも話し合いが成立したようで良かったです。すぐにでもノースジブル領に向かう準備を…」
「いえ、そのようなことではなく!先ほどは父が失礼なことを申しました。」
私は深くクロード様に謝罪をした。本来なら縁談の話しを取り仕切るのは家長であり、縁談を結ぶのも破棄するのも家長の仕事だ。そうでなければ双方の家に失礼にあたる。子女は特に縁談話を自分で選ぶことはないし、決断権を持つなど持っての他である。
「アンリゼット家からの条件のことですか?心配なさらずともヴェンガルデン公爵様から事前に「どんなことを提示されても受け容れろ」と言われていますし、ご心配なく」
「ですが、失礼にあたるのではと」
「そちらは気しなくて結構です。主はそのようなことで気を損ねませんよ」
クロード様のあまりの落ち着きにこちらが驚いてしまう。ノースジブル領ではこのようなことがよくあるのだろうか。私は頭の中が混乱しながらもクロード様の声に耳を傾けた。
「出発は早い内に致しましょう。…そちらのほうが安全ですから」
「クロード様、今なんと仰いました?」
「いえ、こちらの話しです。」
クロード様が最後に何と言ってたのか聞き逃してしまった。変わらずクロード様は飄々とした様子で私に話しかけた。
「アリス様、共に参りましょう。ノースジブル領へ」
私はクロード様の差し伸べられた手を思わす掴んだ。
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