家に帰りたい狩りゲー転移

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3章

(18)屍の夢

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 ハインキーたちの魂を取り戻すタイムリミットはあと二日間。ヤツカバネの捜索にあまり時間をかけていられない。

 だが、俺の見立てではすぐにヤツカバネを見つけられる自信があった。

「シャル。糸はまだ見えるか?」

 走りながら問い掛ければ、シャルは大きく頷いてみせた。

 シャルが見えている糸は、ヤツカバネが食い残したハインキーの魂の残骸だ。糸の先には必ず奴がいる。

 方角さえ分かってしまえば俺だけでヤツカバネに追いつけるだろうが、一人で竜王に遭遇して生き残れるわけがない。それに建築部隊の塔の完成も待たねばならないため、早く見つけすぎてもダメなのだ。

 予定ではヤツカバネの捜索時間を一日程度と決めている。できれば今日中に姿を見つけて、付近で野営するのが理想だった。

「リョーホよ」

 ふと、最後尾を走っていたはずのゼンが、何やら神妙な面持ちで話しかけてきた。

「どうしました?」
「貴君の『紅炎』の使い方は何度か目にしたが『雷光』はどう使うのだろうか」
 
 互いの戦術については、メンバー同士で総当たり戦をして共有済みのはずだ。連携の相談の時も、三対三に別れて戦ってみたり、実際の救助訓練もしてみたりと、できることは全てやった。この上何を話せばいいか皆目検討がつかず、俺はただ混乱した。

 ゼンは俺の迷いを悟ったか、申し訳なさそうに目を伏せながら付け加えた。

「許せ、遠回しだった。……吾輩が知りたいのは、貴君の太刀のことだ」
「太刀って、これのことか」

 俺は右手を前に突き出し、手のひらからクラトネールの太刀を取り出した。

 『雷光』を手に入れてから自然と使えるようになったこれは、俺が念じればどこからでも出し入れできる。普通に考えたら異常な光景なので、ゼンが興味を持つのも無理からぬことだった。

「これがどうしたんですか?」
「その能力を使っても、肉体に負荷はないか」
「体感的には、何もないっすけど。どうしてそんなことを?」

 ゼンは一拍息を詰めると、ほんの少しだけ走る速度を落として俺に言った。

「貴君はヤツカバネにトドメを刺してはならぬ」

 一瞬言われた意味を理解できなかった。

「えっと……どういう意味ですかそれは」

 眉間に皺を寄せながら問うと、横で話を聞いていたエトロが代わりに答えてくれた。
 
「ゼンはこう言いたいんだろう。リョーホがドラゴンの核から菌糸能力を得るたびに、ドラゴン化が進行しているかもしれないとな」
「は? いやいや、待ってくれよ。ドラゴン化って一瞬で進行するもんだろ。もし俺がそうだったら、今頃ドラゴンになってないとおかしいって」

 咄嗟に反駁すると、シャルの後ろを走っていたドミラスが俺を一瞥した。
 
「本気でそう思うか?」

 強い目力に気圧され、俺はひとまず思考を巡らせた。そういえばつい最近、中途半端にドラゴン化していた人間を見たばかりである。

 俺の雰囲気が変わったのを感じ取ってか、シャルの走る速度が落ちた。俺は平気だとシャルに合図を送ってから、ドミラスの横顔へ疑問をぶつけた。
 
「ニヴィと戦ってる時、あいつは半分ドラゴンになりかけてた。でも、少なくとも数分は人間の形を保ってたんだ。そんなことあり得るのか?」

 ドラゴン化の原理は、ドラゴンが吐き出す毒素が体内に根を張り、細胞が作り替えられることで起こる。増殖スピードはウイルスの十倍であり、五秒もあれば完全なドラゴンに転じてしまう。

 異世界の住人は毒素を分解できる菌糸を持っているが、ドラゴン化のリスクはゼロではない。もし極端に毒素濃度が高い場所で長期間生活したら、毒素の分解が間に合わずにドラゴン化してしまうだろう。その場合もやはり、五秒あれば終わってしまう。

 そのため、ニヴィのようにゆっくりと変貌する例は、本来ならあり得ない事だ。

 菌糸の研究をしているドミラスなら、と思って問うてみれば、さほど間をおかずに返答があった。

「ニヴィやミカルラの一族は、生まれつきドラゴン毒素に耐性がある。お前と同じように細胞自体が菌糸みたいなものだからな。特にリョーホの菌糸密度はハウラの上だ。今の段階であれば、ドラゴン化について神経質にならなくてもいい」

 と、専門家からお墨付きをもらったが、ゼンはまだ煮え切らないのか、マフラーに手を乗せて剣呑な目つきになった。

「だとしても可能性はゼロではない」
「それは否定しない。竜王の菌糸は上位ドラゴンと違って莫大な力がある。リスクを知った上でヤツカバネの菌糸能力を手に入れるかは、リョーホが決めるといい」

 俺の意思を尊重するような台詞だったが、なぜかゼンの方からひりつくような怒りが解き放たれた。
 
「ドミラス……!」

 ただならぬ気配に、思わず全員の足が止まった。高い梢からは小鳥が飛び立ち、ゼンの周辺だけが蜃気楼のように揺らめいて見える。

 ゼンの怒りの原因は分からない。が、なんとなく俺のために怒っているのは分かる。それともう一つ、エトロがベアルドルフへの恨みつらみを吐いた時と同じ雰囲気を感じた。

 物々しい空気の中、ドミラスは平然と口を開いた。

「誤解するな。好奇心で言っているのではない。あの時と同じにならない確信がある」
「しかし万が一のことがあったら──」
「その時はまたレオハニーが止めにくる。お前が一番知っているだろう」

 ゼンは双眸を大きく震わせると、呼吸一つで怒気を鎮めた。すると、俺とエトロ、シャルの方からハッと息を吐く音がした。知らず知らずのうちに、緊張で汗まで流れていた。

 緩やかな風が合間を吹き抜けた後、ゼンはきつく握った拳をドミラスの胸に置いた。

「今回だけは見逃す」
「ああ。その方が利口だ」

 それっきり、二人は何事もなかったように移動を再開した。俺たち三人は置いてけぼりをくらい、慌てて後を追いかける。

 数分ほど無言の時間が続き、居た堪れなくなった俺はこそっと二人へ問いかけた。

「二人って、その、仲悪いのか?」
「吾輩は好かん」
「性格はどうせもいいが研究させろ」
「大体ドクターのせいじゃん!」

 誰彼構わず研究対象にするドミラスに非難めいた声を上げると、彼は心底意味が分からないと言わんばかりに眉を顰めた。

「出会う人間全員に好かれる必要があるか?」
「あーそうだった! あんたはそういう人間だったな! 今思い出した!」

 頭を抱えて俺はさっさと後続に戻った。

 すると、代わりにエトロが少し前に出てささやかな疑問を口にした。

「それにしても、細胞自体が菌糸という話は、まるで菌糸は人間に寄生しなくても独立できるみたいな言い方だな」
「事実その通り、あの太刀が良い証拠だ」

 ドミラスは一旦言葉を区切り、出しっぱなしだった青白い太刀へ目を向けた。

「菌糸というのは、もともと人類には備わっていない機能だった。ならば、人類と共生する前の菌糸も、我々と同じく独立した生物だった可能性もある」
「つまり、菌糸だけで物体を構築するのもあり得ない話じゃない、と?」
「そういうことだ」

 ドミラスの言う通り、ドラゴンが誕生するまで人類は菌糸を持たなかった。逆にいえば、ドラゴン毒素に対抗するために人類は菌糸と共生を始めたのだ。

 それはある意味で人工的な進化だった。急ピッチで勧められた菌糸と人類の融合実験は、無数の死体の上で積み上げられたと聞く。その際にあまりにも多くの命が失われたせいでシンビオワールドの文明が後退したのだと、ゲーム内の科学者が言っていたのを思い出す。

 ──俺がベートに閉じ込められた謎の施設。

 思えば、あれは旧人類の菌糸融合実験に使われた場所だったのかもしれない。

 どうしてあの時、その可能性に思い至らなかったのだろう。

「うっ……?」

 つきり、と米神の奥から鋭い痛みを感じた。閉じられていた蓋に穴が空いたように、懐かしい地球の景色が次々と脳裏に流れ込んでくる。

 膨大な情報から辛うじて掬えたのは、とある研究所の風景だった。

 真っ先に目に入るのは、巨大な試験管の中で眠る白髪の少女の姿。少しだけハウラに似ている。

 試験管の前で、俺はカルテを持っていた。隣には女性研究員がいる。立っている場所は、明らかに日本と同じ現代的な建物の中だ。

「どうした!? 聞こえるか!?」

 エトロに声を掛けられて、ようやく脳内の洪水が収まった。俺はいつの間にか地面に跪いており、部隊の進行も止まっていた。

「わ、悪い。大丈夫だ」
「顔色が悪いぞ。少し休むか」
「……いや。行ける」

 俺はエトロの手を借りながら立ち上がり、歩きながら手足の感触を確かめた。頭は耳から液体を流し込まれたように重かったが、驚くほど身体の動きに支障がない。肉体と意識が切り離されたような感覚だ。

 だが相変わらず顔色は悪かったようで、ゼンが俺の肩を抑えながらシャルへ聞いた。

「シャル。ヤツカバネとの距離は分かるか」

 シャルは肯定し、ノートにざっくりと距離を示してくれた。ヤツカバネとの距離は三十キロ。狩人の足ならば三十分で追いつける。

 ゼンはシャルにお礼を言うと、くるりと部隊を振り返った。

「案外すぐ近くまで来ているな。ドミラスよ」
「ああ。休憩しよう。言っておくが建築部隊の時間稼ぎのついでだ。拒否権はない」

 と、俺が異を唱える暇もなく、適当な木の幹に座らされた。他のメンバーも各々自由な場所で寛ぎ始め、強行軍ができる空気でなくなってしまった。

 居心地悪く俺が縮こまっていると、隣にシャルがぽすっと腰掛けた。

「シャル。心配かけてごめんな」

 頭を撫でながら言うと、シャルは気持ちよさそうに目を細めながら首を横に振った。

 こうして誰かと触れ合っていると、ささくれた脳内がじわじわと治っていくのを感じる。先ほどの記憶の奔流は、俺が思っていた以上に負担が大きかったらしい。

 しばらく二人でのんびりしていると、シャルの反対側に徐にドミラスが座ってきた。

「さっき、頭の中で何が見えた」
「え……分かるのか?」

 何が起きたか全く説明もしていないのに状況を言い当てられ、俺は心底驚いた。対して、ドミラスは懐かしそうに目尻を和らげながら遠い梢を見上げた。

「お前のように特殊な体質の友人がいただけだ」
「その人も、もしかして異世界人か?」
「……恐らくな。聞き出す前にどこかに行ってしまったが。……それで、何が見えた?」

 俺は数秒黙した後、半ば確信を持って告げた。

「多分、博士の記憶だ」

 覚えている限りの研究所の景色を、しどろもどろになりながら語る。研究所の構造はベートに連れ去られた場所とよく似ていたので、たった一瞬思い出しただけなのに鮮明に覚えていた。

 ドミラスは渋面で俺に話を聞き終えると、しばし悩んでからこう聞いてきた。

「ベートに攫われた時、何をされた」
「さっき見た景色と同じ、でかい試験管に入れられて、頭に何かを流し込まれた」

 鳥肌を立てながら当時を語ると、シャルが猫のように飛び跳ねながら俺を強く抱きしめてきた。幼い子には刺激が強すぎる話題だったらしい。

 安心させるようにシャルの背中を撫でていると、ドミラスが神妙な顔つきで口を開いた。

「なら、流し込まれたのは恐らく、鏡湖に満ちた液体と同じものだろうな」
「鏡湖の液体? なんだそれ?」

 おうむ返しに尋ねると、明らかに面倒臭そうな顔がこう続けた。

「鏡湖は前に話しただろう。機械仕掛けの世界が沈んでいる湖のことだ。あそこを潜ると記憶がなくなるとも言った」
「ああ、そういやそんな話してたな。でも、あれは中にいた時の記憶がなくなるんだろ? 俺の場合はむしろ記憶が増えてる気がするんだが」

 俺が首を傾げると、ドミラスは心なしか嬉々とした声色で語り出した。

「それは一つの効果に過ぎない。あの液体は配合によっては脳の記憶領域に様々な作用を齎せるんだ。例えば、特定の記憶を吸い出したり、写し取ったり、塗り替えたりとな。液体の効果を一つの作用に特化させるには、二つの薬草と鉱物の四十五通りの中から選び出し、さらに抽出方法も百二十五通りの……」
「薬の作り方はいいから」
「む……ともかく、記憶に作用するその液体を、俺は『ロス液』と命名した。正式名称は知らん」

 急転直下の機嫌の変化を見せつけた後、ドミラスは咳払いをして調子を戻した。

「確証はないが、ベートは何らかの方法で博士の記憶をロス液にコピーして、お前の頭に流し込んだんだろう。博士の記憶が見えたのもそのせいだ」

 なるほど、それならすんなり納得できる。

 それにしてもベートはなぜ、縁もゆかりもない俺に博士の記憶を与えたのだろうか。ポクポクと考え込んでいるうちに、ふと恐ろしい発想が浮かんできた。

「あ、まさかベートは俺を博士の代わりにしようとしたのか!?」

 俺の発言にシャルが無音の悲鳴を上げるも、すぐにドミラスに否定された。

「最初から博士にする気なら、いちいちお前を息子扱いしない。どうせ家族の知識を共有しておきたいとか、その辺の女々しい理由だろう」
「はぁ? それはそれで狂ってるぞ!」

 記憶喪失の我が子を思い出させてやるためならともかく、赤の他人に全く別の人間の記憶を流し込むのは悪魔の所業である。

 俺が色々な意味で戦慄していると、ドミラスは何の前触れもなく指先から糸を出し、その辺の木の枝を拾いながらこう言い出した。

「あながち、お前と博士は無関係ではないぞ」
「……というと?」
「俺の遺跡研究から導き出した勝手な憶測だが、博士は予言書の制作に関与しているはずだ」
「う……んん? どういうことだ? 全く意味が分からないぞ」

 シャルと顔を見合わせながら揃って首を傾げると、ドミラスが大雑把に答えた。

「博士が予言書を作り出し、予言書の中には鍵者リョーホの記述がある。つまり、お前に自覚がなくとも、博士とお前には何らかの協力関係があるってことだ」

 最後にため息を付け加えて、ドミラスは木の枝で地面に数直線の図を描き始めた。左から順にX年、二百年、現在とポイントが書き加えられていく。

「まず先に、博士が予言書を作ったと思われる根拠を言おう。世界各地に点在する古代遺跡は、ほとんどが二百年以上前に作られたものばかりだ。そこに残っている古代文書曰く、博士は人類に菌糸融合実験を行った代表者らしい」

 語りながら、二百年より前の過去、X年に菌糸融合実験の項目が書き加えられる。

「そして、予言書が作られたのも二百年以上前だ」

 と、X年から二百年前までの数直線がぐるりと二重丸で囲まれた。俺は強調された部分を見下ろしながら顎に手を当てがった。

「……うーん、確かに時期は一致してる。それに、予言書みたいなオーパーツを作れるのも、一番科学が進歩していた二百年前だよな。でも、これだけで博士が予言書を作ったとは思えないぞ」

 今のところ、俺の中での博士像は融合実験で新人類を生み出した人というだけで、予言書は別の人間が作ったという可能性が否めない。

「なら次は予言書の歴史だ。この年代表を見てどう思う」

 と、教師のような物言いで、糸に吊された木の枝が数直線を示す。

 俺が注目したのは、二百年前の出来事だ。そこはリデルゴア国が建国され、正式に人類史が始まったとされる年だ。

「こうしてみると、この世界の人間の歴史って、まだ始まったばっかりだな」
「ああ。菌糸を持って生まれたばかりの新人類は、ただドラゴンに食われるだけのか弱い生物だった。それが建国まで漕ぎつけられたのは、機械仕掛けの世界と予言書のおかげだ」
「いやいや、予言書がどうやって建国させるんだよ」

 咄嗟にツッコむと、ドミラスは至極真面目な顔で答えた。

「予言書は大災害も予測できるだろう? ならば予言書の解読さえできてしまえば、未曾有の大災害でも生き残れる。そうして生き残った奴らはダアト教という組織を生み出し、人間が団結してドラゴンと立ち向かう基盤を作り上げた。それが後のリデルゴア建国に繋がったんだ」

 一つ一つ説明されてみれば、確かに予言書が建国の手助けをしたようにも見える。

「ってことは、予言書が、人類を救ったのか? でも機械仕掛けの世界は、俺たちの世界を滅ぼそうとしてるんだろう?」
「よく考えてみろ。本気で滅ぼすつもりなら、わざわざ予言書に書いて俺たちに伝える必要がないだろう」
「あ……確かに」

 鍵者が世界を滅ぼすと書いたら、それを阻止するためにベアルドルフのような連続殺人鬼が誕生する。明らかに機械仕掛けの世界にデメリットしかない。

 それでも現在に渡って世界の破滅を書く理由は──。

「──予言書は新人類に対する警告、か?」
「だろうな。そこで話を戻すが、予言書を用意してまで、新人類の面倒を見ようとするお人好しは、誰だと思う?」
「……博士か?」

 新人類の生みの親であれば、この世界に多少の思い入れはあるかもしれない。

 迷いながら答えると、ドミラスは満足そうに頷いた。

「そうだ。博士が予言書と関わりがあるのなら、鍵者であるお前も、ある意味で博士の関係者だ。だからベートがお前に対して何かしらの勘違いをしてもおかしくはない」

 とんだ言いがかりである。だが、ベートの行動原理を微量ながら理解できたおかげで、拉致されたトラウマが軽くなった気がした。

 それでもベートには、何としてでも言っておきたいことがあった。

「多分だけど、俺の両親は研究者じゃないぞ」

 拗ねたように呟くと、ドミラスは意外そうに目を見開いた。それから興味深そうに問いかけてくる。

「ほう。お前の両親はどんな人だったんだ?」
「それが……思い出せないんだよな。でも普通の人だった気がする」
「いつから思い出せない?」
「ベートに会ってから、な気がする」
「ふむ……なら、ロス液の副作用かもしれんな。後でお前の脳液を採取していいか」
「こわ、え、怖い怖い怖い! いきなり猟奇的なこと言うなよ!」

 シャルを抱き上げながら飛び退ると、ドミラスは残念そうに膝に頬杖をついた。

「鼓膜を破ったところで『雷光』で戻るだろう。減るものじゃあるまいに」
「減るわぁ! メンタルが死ぬわぁ!」

 全力で否定すると、ドミラスは思いっきり舌打ちをした。すると、木の裏からぬっとゼンが顔を出した。

「ドミラス……」
「言っておくが俺は本人の了承がない限り手を出さないぞ」

 まともそうな台詞だったが、すぐにエトロから指摘が飛んだ。

「私の菌糸は無断で取られたぞ。忘れたとは言わせない」
「しかも幼少期だっけ?」

 悪気なく俺が付け加えると、ゼンの方から殺気が吹き荒れた。

「待て。ゼン。エトロに関しては初犯だ。あれからはやっていない。聞け」
「問答無用……!」

 ゼンとドミラスの姿があっという間に掻き消えたかと思うと、高冠樹海の高い枝の合間に火花が散った。こんなところでバルド村三竦みと討滅者候補の実力を見たくなかった。

「作戦開始はまだ遅れそうだな」
「そうだなぁ……」

 頭上の攻防をエトロと観戦しながら、俺は気の抜けた返事をした。

 このチームでヤツカバネを無事に誘導できるのか、本気で心配になってきた。
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