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参曲 重すぎる愛
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神社に入り込んできたのは、秋が良く知る人物であった。
「……葉由奈?どうしてこんなとこにきてんだよ……」
「あ、秋!探したんだよ~?私は御守り買いに来たの」
にこにこと可愛らしい笑顔で彼女は喋る。
秋の幼馴染・目黒 葉由奈(めぐろ はゆな)であった。
灯とは違うタイプの美人で、どちらかというと綺麗より可愛いと言われるタイプ。
灯がさりげなく横を通った拍子に秋へ囁く。
「彼女が入った瞬間、気配が消えた」
秋はその言葉を聞いた時に葉由奈を見た。
灯を強く睨む、憎悪の顔を。
「お、おい葉由奈………」
「うん?なあにっ?」
さっきとうってかわって、葉由奈は笑顔で返事を返す。
那由多は考え事をしているのか、ぼうっとしている。
葉由奈は秋の体に抱きつき、腕を組むと言った。
「帰ろっ、秋」
「ん、ああそうだな」
今朝、学校に着いて自分の机に座ろうとした灯は、形の良い眉をひそめた。
なんとも古典的な嫌がらせ。
椅子の座る部分にチョークで作ったのだろうか、白い石灰の粉が散らされていた。
「ふむ、………私に警告か」
まあ、何の警告か身に覚えなど一切無いのだが。
粉を叩き落としてから座る。
と、丁度そこに秋と葉由奈の二人が登校してくる。
そこで、灯は強い怨みの視線を感じ取った。
間違いない。
犯人は彼女・葉由奈である。
「はよ、灯」
「んむ?和宮 秋、朝早いのだな」
また、葉由奈は睨むような険しい顔つきをする。
そして、秋から離れた葉由奈は灯をちらりと見て去っていく。
灯はこそりと秋に言った。
「和宮 秋よ。私の目が確かなら、昨日の強い力の主は目黒 葉由奈だ。」
「は?アイツは俺の幼馴染だぜ?んな訳ねーだろ」
「彼女は君が『見える』ことを知っているのだろう?それを知っていたのなら、引きずり込もうとしていた可能性もある。それに………君の過去を隠すようなタイミングで彼女は入ってきた」
灯は、夜の時とは全く違う闇のように暗い瞳だった。
その目が、怒るように細くなる。
去っていった葉由奈が帰ってこないことを確認した秋が、不本意とでも言うかのように灯に言った。
「…………じゃあ、アイツが人じゃないとでも言うのか?」
「それは…………」
灯が言いよどむ。
どうする?それを言うと同時に秋にとって重要な真実も、そこに現れてしまうのだ。
秋は灯から聞き出す事が無理だと思ったのか、静かに席へ座った。
そして、言った。
「学校が終わったら、俺はもう一回神社に行こうと思ってる」
「………そうか」
知ってしまうのだな。
君が知らない、真実全てを。
灯は戸惑いの溜息を深くはいた。
秋は放課後、あの神社に向かった。
那由多は来ると思ったと言うような顔で秋を迎える。
しかし。
話は出来やしなかった。
そこにはまた、乱入者が現れたのだ。
「っ、葉由奈?」
「ねえねえ秋、なんで知ろうとするの?おかげで台無しだよ、全部。秋がせっかく忘れたと思ったのに、なんでわざわざ思い出そうとするの?」
葉由奈だ。
いつもの葉由奈とはうってかわった様子の葉由奈が、真っ白の巫女服を着て現れた。
しかし、何を言ってるかよく分からない。
『台無し』だとか『忘れてる』とか。
殺気が葉由奈から滲み出ている。
そこへ狐姿(他の妖怪達はこの灯を狐火と呼んでいる)灯が、息を切らせ走ってきた。
「秋っ、離れろっ!」
その次の瞬間に、灯の後ろのドアが吹き飛んだ。
瞬きする暇もなく。
「貴女でしょ、秋をたぶらかしたのは。秋は忘れていた、なのに貴女のせいで思い出そうとしているの。ふざけないでよっ!私から秋を取ろうなんてっ!」
怒りに我を忘れて、葉由奈は灯に叫ぶ。
だが灯は暗い冷酷な目で葉由奈を見つめた。
そして、突っ立っていた秋に静かに言う。
「和宮 秋、君は人間ではない。そして君の幼馴染の彼女もな。」
「は…………?」
「うるさいうるさいうるさいっ!そんなことないっ!」
信じらないとばかりに首をかしげた秋に、葉由奈は声をかき消す様に叫ぶ。
それよりももっと大きな声で灯は言った。普段の様子からは予想もつかない大声で。
「なあ秋よ、最初から幼馴染なんていたのかっ!?君の持っている記憶の中で、葉由奈がいる一番古い記憶はいつのものだ!?」
「そ、れは…………中学校、の辺りか?」
「秋っ、私ずっと秋の傍にいたよ?もっと前だよ?」
「…………わりぃ、俺思い出せねぇ」
だから、言っただろう。
小さな声で灯は言い放った。
それでも、その場の全員に聞こえた。
そして、再び灯は重たそうな口を開いた。
「『ずっと昔から傍にいた』というその記憶は、造られた記憶他ならない。そうでなければ、そこまでして秋の過去を隠そうとする理由が見当たらない」
「葉由奈、お前…………」
「だって秋は、人じゃないんだもん」
葉由奈は、ぽつりと溢した。
ゆっくりと雫を落としていく様に、喋った。
「私ね、秋と一緒にいたかった。秋の事が好きだった。だから、傍にいたくて記憶も作った。なのに、…………貴女が邪魔するから」
「君と秋が離れる、これは在るべき姿だろう?」
「そっか、それなら私…………」
ーーーー死ぬね。秋といられないくらいなら。
葉由奈は自分の胸に短いナイフを突き立てた。
白い巫女服に血の赤い染みが広がっていく。
秋は、慌てて葉由奈を抱き止めた。
「……葉由奈?どうしてこんなとこにきてんだよ……」
「あ、秋!探したんだよ~?私は御守り買いに来たの」
にこにこと可愛らしい笑顔で彼女は喋る。
秋の幼馴染・目黒 葉由奈(めぐろ はゆな)であった。
灯とは違うタイプの美人で、どちらかというと綺麗より可愛いと言われるタイプ。
灯がさりげなく横を通った拍子に秋へ囁く。
「彼女が入った瞬間、気配が消えた」
秋はその言葉を聞いた時に葉由奈を見た。
灯を強く睨む、憎悪の顔を。
「お、おい葉由奈………」
「うん?なあにっ?」
さっきとうってかわって、葉由奈は笑顔で返事を返す。
那由多は考え事をしているのか、ぼうっとしている。
葉由奈は秋の体に抱きつき、腕を組むと言った。
「帰ろっ、秋」
「ん、ああそうだな」
今朝、学校に着いて自分の机に座ろうとした灯は、形の良い眉をひそめた。
なんとも古典的な嫌がらせ。
椅子の座る部分にチョークで作ったのだろうか、白い石灰の粉が散らされていた。
「ふむ、………私に警告か」
まあ、何の警告か身に覚えなど一切無いのだが。
粉を叩き落としてから座る。
と、丁度そこに秋と葉由奈の二人が登校してくる。
そこで、灯は強い怨みの視線を感じ取った。
間違いない。
犯人は彼女・葉由奈である。
「はよ、灯」
「んむ?和宮 秋、朝早いのだな」
また、葉由奈は睨むような険しい顔つきをする。
そして、秋から離れた葉由奈は灯をちらりと見て去っていく。
灯はこそりと秋に言った。
「和宮 秋よ。私の目が確かなら、昨日の強い力の主は目黒 葉由奈だ。」
「は?アイツは俺の幼馴染だぜ?んな訳ねーだろ」
「彼女は君が『見える』ことを知っているのだろう?それを知っていたのなら、引きずり込もうとしていた可能性もある。それに………君の過去を隠すようなタイミングで彼女は入ってきた」
灯は、夜の時とは全く違う闇のように暗い瞳だった。
その目が、怒るように細くなる。
去っていった葉由奈が帰ってこないことを確認した秋が、不本意とでも言うかのように灯に言った。
「…………じゃあ、アイツが人じゃないとでも言うのか?」
「それは…………」
灯が言いよどむ。
どうする?それを言うと同時に秋にとって重要な真実も、そこに現れてしまうのだ。
秋は灯から聞き出す事が無理だと思ったのか、静かに席へ座った。
そして、言った。
「学校が終わったら、俺はもう一回神社に行こうと思ってる」
「………そうか」
知ってしまうのだな。
君が知らない、真実全てを。
灯は戸惑いの溜息を深くはいた。
秋は放課後、あの神社に向かった。
那由多は来ると思ったと言うような顔で秋を迎える。
しかし。
話は出来やしなかった。
そこにはまた、乱入者が現れたのだ。
「っ、葉由奈?」
「ねえねえ秋、なんで知ろうとするの?おかげで台無しだよ、全部。秋がせっかく忘れたと思ったのに、なんでわざわざ思い出そうとするの?」
葉由奈だ。
いつもの葉由奈とはうってかわった様子の葉由奈が、真っ白の巫女服を着て現れた。
しかし、何を言ってるかよく分からない。
『台無し』だとか『忘れてる』とか。
殺気が葉由奈から滲み出ている。
そこへ狐姿(他の妖怪達はこの灯を狐火と呼んでいる)灯が、息を切らせ走ってきた。
「秋っ、離れろっ!」
その次の瞬間に、灯の後ろのドアが吹き飛んだ。
瞬きする暇もなく。
「貴女でしょ、秋をたぶらかしたのは。秋は忘れていた、なのに貴女のせいで思い出そうとしているの。ふざけないでよっ!私から秋を取ろうなんてっ!」
怒りに我を忘れて、葉由奈は灯に叫ぶ。
だが灯は暗い冷酷な目で葉由奈を見つめた。
そして、突っ立っていた秋に静かに言う。
「和宮 秋、君は人間ではない。そして君の幼馴染の彼女もな。」
「は…………?」
「うるさいうるさいうるさいっ!そんなことないっ!」
信じらないとばかりに首をかしげた秋に、葉由奈は声をかき消す様に叫ぶ。
それよりももっと大きな声で灯は言った。普段の様子からは予想もつかない大声で。
「なあ秋よ、最初から幼馴染なんていたのかっ!?君の持っている記憶の中で、葉由奈がいる一番古い記憶はいつのものだ!?」
「そ、れは…………中学校、の辺りか?」
「秋っ、私ずっと秋の傍にいたよ?もっと前だよ?」
「…………わりぃ、俺思い出せねぇ」
だから、言っただろう。
小さな声で灯は言い放った。
それでも、その場の全員に聞こえた。
そして、再び灯は重たそうな口を開いた。
「『ずっと昔から傍にいた』というその記憶は、造られた記憶他ならない。そうでなければ、そこまでして秋の過去を隠そうとする理由が見当たらない」
「葉由奈、お前…………」
「だって秋は、人じゃないんだもん」
葉由奈は、ぽつりと溢した。
ゆっくりと雫を落としていく様に、喋った。
「私ね、秋と一緒にいたかった。秋の事が好きだった。だから、傍にいたくて記憶も作った。なのに、…………貴女が邪魔するから」
「君と秋が離れる、これは在るべき姿だろう?」
「そっか、それなら私…………」
ーーーー死ぬね。秋といられないくらいなら。
葉由奈は自分の胸に短いナイフを突き立てた。
白い巫女服に血の赤い染みが広がっていく。
秋は、慌てて葉由奈を抱き止めた。
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