おやすみ†メリー

サクラ

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◆第弐章 メリーさんは怖がり

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メリーがいるであろう孤児院に来ると、少女の叫び声が聴こえた。
後には、メリーが名前を叫ぶ声も聞こえてきた。


「ノンナ!」
「メリーちゃん!危ないよ……!?」


メリーよりも少し幼さが残る少女は、襲われている自分よりも、近づいてくるメリーを心配して叫ぶ。
しかし、メリーは少女を守りたいのか更に叫んだ。


「ノンナじゃ……なくてっ…!私の方へ、来なさいっ!」


何をするかと見ていたら、メリーは昨日僕が巻いてあげた、血の滲んだ包帯を取り払った。
まだ傷が塞がってないからか、血がまだ乾いていなくてグロテスクだ。

昨日も思ったが、メリーは血を見ることに抵抗は無いんだと思う。
きっと彼女の事だから、色のついた水くらいにしか思ってないのだろう。


「狙いは……血の匂い…?」


どうやらメリーはその辺の頭がキレるらしい。
血の匂いを嗅ぎ付けた獣が寄ってくる、とこの状況で考え付く辺りは人並外れた思考が必要だ。


「だめだよ、メリーちゃんっ!」


少女は血が出たままの腕を見せびらかす様に立っているメリーへ、涙を浮かべ叫んだ。

私を助ける為に、自分を犠牲になんかしないで。

そう、少女が言っているのが聴こえるようだ。
あの少女が妙に卑屈で弱気なのが気になるけど、今はそんなことを気にしてる暇も無い。


「ほらメリー、無理しすぎだよ」
「……え?ノイ、ズ……?」


目をつぶった彼女を御姫様抱っこにして、声をかけた。

ため息を吐いて、呆れた様にメリーは僕に言う。


「……重いでしょ?」
「むしろ年頃の娘にしては軽すぎるくらいだよ」


嫌がりながらも落ちないためにしがみついてくるメリーが可愛くて、少し笑いそうになる。

笑うのを我慢すると、ナイフを数本取り出して術を使って獣へ飛ばした。

恐らくこの闇の固まりみたいな獣は、メリーを狙ってる。
ならメリーを守りながら逃げてもいつまでも追いかけてくるのだろう。

僕の腕を掴んでいた、小さな手に力が入った。


「わぁ、ナイフ、飛んでる」
「…えぇ、感想はそれだけ?メリーは冷静だね」
「私としては、ナイフが飛んでいる原理よりも早く本題が聞きたい」


無表情無感情といった感じで、冷静にそう呟く。
とはいえもう少し僕が遅くきていたら危なかった。


「全く、危なかったよ?」


そんな僕を見て、メリーは再び何か言いたそうに俯いた。
小さな声を紡いで言葉を呟く。


「私、助けてほしいなんて…言ってないもの」
「あのままじゃ死んでたんだよ?」


きっと、メリーは人に頼る事が分からないんだ。
人に頼る事や甘える事、それは当たり前であって決まった形なんて存在してない。

今まで独りで生きてきたメリーにとって、方法が分からない故に助けを求めるなんて選択肢は何一つとして存在しないのだろう。

メリーはばっと顔をあげる。


「死んだって構わない…、痛くないから、こんな化け物は早く死んだ方が良いわ」


先程とは打って変わって、ありったけの感情が無造作にそこへ詰め込まれた様な言葉だった。

死んだ方が良い。
自分なんか居ない方が良い。

心からそう信じて疑わず、消えたいと切に願うメリーの心の声が聴こえる。

僕はメリーに言った。


「君は少し、自分の命を雑に扱いすぎだよ」
「感じないんだから、辛くも怖くもない」


僕の言葉にメリーは肩をびくりと震わせた。
目の端に涙が浮かんでいる。
拗ねているみたいに頬が少し膨らんだ。

怒られている事に恐怖を感じているのだろうか?
それとも、先程の光景が怖かったとか?

僕は実験の為にメリーへ近付き、右手を振り上げる。
実験って言ったら何か変に聞こえるかな?

右手をメリーの顔目掛けて降り下ろす。
ぶつかる直前でその手を止めると、メリーは殴られる事を受け入れてるのか拒否しているのか、ぐっと目を閉じていた。


「………ほら、本当はこんなに怖がりなのに」


そんなメリーがますます可愛らしく感じて、そっと頬に流れてくる小さな雫をぬぐった。


「まだ教えてくれないの?」
「そうだねぇ、まだ教えられない。今日の所は帰るよ、メリーは怖がりだってことも知れたしね」


新しいメリーの一面を知れたからね。


、メリー」


きっとまた会えるから。

だからまたね、メリー。
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