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その後の話②

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 タイトル『2週間ぶりのロウ』


 目を覚ましたらオレの部屋じゃなかった。
 天窓があって、掛け布団が黒で、隣には桃花の代わりに眠そうな顔のロウが横になりながら頬杖をついてオレを眺めていた。
「起きたか」
「・・・まさか、ずっと見てた?」
 頷くロウ。
「起こせばいいじゃん。つーかなに人の寝顔見てんだよ」
 恥ずかしさのあまり掛け布団を被る。が、突然掛け布団が燃えだし払いのける。
「あっっぢ!! 火魔法使うなよっ!!」
「被るからだろ」
「人の寝顔勝手に見てるからだろ。悪趣味だなー」
 床に落ちた掛け布団を拾い上げ、火が残ってないか確認してからベッドに戻す。
「なにが悪趣味だ。好きな奴の寝顔見てなにが悪い」
「はいはいそーですか・・・え」
『好きな奴』という言葉に反応して顔が赤くなる。そこをロウに押し倒され上に乗られた。
「2週間ぶりだな。もう体は大丈夫なのか」
「お、おぅ」
 寝起きにはキツすぎる美顔に見つめられ手も足も出ない。

 耐えきれず視線をそらすと、こつんとひたいをくっつけてきた。
「会いたかった」
「・・・会ってるじゃん・・・いや、オレも」
 甘えてくるロウにオレも素直に見つめ返す。
 チュッと軽くキスされ、ロウの首に両手を回すと熱を持った瞳で、
「続きがしたい」
「続き?」
 一瞬頭にはてなが浮かんだけど、すぐにあれの続きだと気づく。オレが睡魔で寝落ちする直前のことだ。
 ちらっと天窓に視線を向けると陽はまだのぼってないみたいで暗い。
「・・・もう寝ろよ。遠征から帰ってきて疲れてるだろ。眠そうな顔してるし」
「眠くない。他国と言っても隣だ」
「いいから寝る」
 不満顔のロウに、首に回した手で背中をポンポンと叩いてあやす。
「明日はするからな」
「はいはい」
 2度寝しようとするオレにロウはひっついて数秒で寝落ちした。が、ロウが余計なことを言ったせいで2度寝するどころか煩悩まみれで目が冴えてしまった。(くっそー)


 おわり。




タイトル『初代聖女の別邸』


「・・・ふざけんな」
 天窓から朝日が差し込む。

 結局、ロウの一言のせいで2度寝はできず睡眠不足だ。
 洗面所で顔を洗おうと、ベッドから降りようとしたら腰に腕を回され勢いよく背中から倒される。
「どこ行くんだ?」
 寝ぼけ顔のロウが人の顔を覗き込む。
「洗面所だよ」
 眠れなかったからイライラする。
 いいから放せ。と強めに言ってロウを払いのけベッドから降りる。

 夜中は暗くて気づかなかったけど、以前あった魔物のはく製がなくなっている。机やテーブル、本棚にベッドと大きい家具があるのに広い部屋のせいかはく製がないだけで殺風景に感じる。
 つーか、模様替えしたって言ってたけど、あんま変わらんのは気のせいか?
 相変わらず本棚で隠れてわかりずらい洗面所のドアを開け、顔を洗った。鏡を見ると目の下にひどいクマが。(最悪)
 
 洗面所から出ると眠そうだったロウが襟なしのシャツに着替えてる最中だった。国王になっても着る服は変わらず、今日はくすんだ緑色のシャツだ。そして、ごっつい革ブーツ。
 オレも着替えたいから城に戻してもらおう。
「ロウ、オレの部屋に送って」
 着替え終わったロウが振り返り、廊下へ出るドアを指さした。
「ダイヤの部屋はこっちだ」
「はい?」
 頭にはてなを浮かべるオレに、ロウが顎(あご)で促して廊下へと誘導する。

 今までロウの部屋は何度も来たことがあるけど(つーか、いつも勝手に移動されてる)この部屋を出るのは初めてだ。ついでにロウの部屋がどの建物にあるのかさえも知らない。(城じゃないのはなんとなくわかる)
 廊下に出ると、明かりもなく薄暗くてただ不気味だ。
 ビクビクしているとロウに「こっちだ」と声をかけられ歩き出す。足元は絨毯が敷いてあって足音すらしない。
「ここがダイヤの部屋だ。ちゃんと使えるように改築したから好きに使っていい」
 ダイヤの隣部屋のドアを開け、中へ入れと勧める。
 恐る恐る部屋の中に入ると、大きな窓から朝日が差して明るい。城にあるオレの部屋と同じくらいの広さだ。家具は机とテーブルのみ。
「あれ? ベッドがない。クローゼットと洗面所とトイレはあるけど風呂がない」
 クローゼットの中はすでにオレの服らしい服がぎっしり用意されていた。
「オレの部屋にあるんだからいらないだろ」
 何を言ってるんだといわんばかりの顔で言われた。一緒に寝るのは強制的らしい。(言い方がムカつくけど嫌じゃない)

「あ、ベランダがある」
 窓へ近寄ってはじめてこの建物から外を見た。窓越しからでもわかる壮大な森林と出たら一生戻ってこれなさそうな怪しげな雰囲気にドン引き。
「今まで聞かなかったけど、この建物ってどこにあんの?」
 王都以外あんまり知らないオレでもわかる。絶対王都郊外付近じゃない。
 ドアに寄りかかっていたロウがいつの間にかオレの横に立って、
「アリッシュ領地のはずれにある迷いの森の中だ」
「迷いの森?! それって中に入ったら出れないとかいう?」
 ゲームとかでよくある場所だ。
「あぁ、文字通りだ」
「なんでそんな森の中に住んでるんだよ」
「この建物は初代聖女の別邸だ。この場所を選んで建てたのも初代聖女だ」
「え!」
「この世界に馴染めなかったわけじゃなかったらしいが自分の時間を大事にする人だったと聞いてる。初代聖女が亡くなったあと、ここはオートキープで保たれていたがオレが発見するまで忘れられていたみたいだ。とはいえ、王族しか見えないよう小細工されていたが」
「そうだったんだ・・・って、そんな貴重な建物を改築していいのかよ。つーかどの辺が改築してるのかオレにはわかんないけど」
「放置されてたんだから別に問題ないだろ。オートキープしてあったとはいってももう何百年も経ってるから老朽が酷くて、柱とか外装とか。この部屋はもともと窓もベランダもなかったんだ」
 改築場所をあれこれと説明してくれるけど、へーと返すだけで元が知らないからそれ以上の感情が出てこなかった。ただ、初代聖女様が怒って化けて出なければいいなと・・・。

 もうひとつ案内したい部屋があると言って廊下を出て、いかにも人目につかないよう作られた狭い階段をのぼって着いた部屋はこれまた狭かった。
 廊下もなく他の部屋もない、階段をのぼった先が円形状のこの部屋だけ。
 部屋の中心に丸いテーブルが置かれ、テーブル自体が淡く光っている。部屋の灯りはこれだけだ。

「この部屋、なに?」
 いかにも占い師がいそうな怪しげな部屋にビクビクする。
 ロウは迷いなくテーブル前に立ち、オレを手招きする。
「召喚した時に話しただろ。これが異世界が見える特殊な魔石だ」
「! オレと桃花を監視してたってやつか」
「ダイヤが自分の世界に戻ったあともこれでおまえを見守ってた。また召喚する前に何かあったら大変だからな」
「なにかってなんだよ」
「命の危険とか、変な虫がつかないかとか」
「変な虫?」
 見るとテーブル自体が魔石で、覗きこむと淡く光ってるだけで特に何も見えない。肩をすくめると、
「観たい奴のことを頭の中で想像するんだ」
「観たい・・・」

 そう言われると真っ先に浮かんだのは両親の顔だった。
 淡く光るだけのテーブルの魔石が急に父さんと母さんの姿を映してびっくりする。
「うわ! マジで見えた!」
 ふたりしてドラ〇ンボールの新作シリーズのアニメを観ている最中だった。(オレも観たかった)
「すげー! マジですごい!」
 嬉しくてついつい興奮をロウに向けると、今まで見たことない優しい瞳で見つめ返され、思わずドキッとする。(は、反則だーっ)
「お、景色が変わったぞ」
「え、どれ?」
 内心動揺しながらテーブルの魔石を覗き込むと、見慣れた部屋が映り、見知った人間がパソコン画面をいじってる姿が。
「ゆきやんだ! あーこれ、ふたりで作ったゲームだ。そっか、オレがいなくなってもゆきやんがひとりで作るんだ」(淋しいような、よかったような)
「こいつ・・・おまえにやたら付きまとうから目が離せなかった」
 不機嫌になるロウ。

 ん?

 ゆきやんがオレの体に触れるたびに静電気が走るのを思い出し、ピーンッときた。
「まさか・・・ゆきやんに火魔法とか使ってないよな。フォ・ドさんは他の世界だとこのピアスは意味を持たないって言ってたけど」
 ロウの魔力が注入された魔石のピアスを触りながらロウに問いただす。
「火魔法はさすがに使えないが、国王候補の王子なら軽い程度の攻撃魔法は使える。ただし、相手に警告程度しか使えない。おまえと仲のいいゆきやんとかいう奴がおまえに抱きついたときに火傷を負わせたが、それくらいしかできないのが残念だった」
「はぁぁ?! ロウの仕業だったのかよ! なんでそんなことするんだよ!」
「あたりまえだろ。おまえに危害を加えるやつに身内だろうと容赦はない」
「危害?! 幼なじみのスキンシップだろ」
「・・・そう思ってるのはダイヤだけだろ。そいつはおまえと一緒に住もうとまで言ってきたんだ」
「ゆきやんはもう家族みたいなもんだよ!」
「おまえ・・・」
 不機嫌だったロウが急に哀れむような目でオレを見つめだした。
「な、なんだよ。あーそうか、誰かに見られてる気がしてたけど、ロウだったんだ。マジか」
 いろいろ思い返すと違和感すぎる出来事があれこれあったなーっと・・・多すぎる。
 つーか、オレの3年間、ロウに観られ続けていたなんて・・・なんかめちゃくちゃ恥ずかしすぎるっっ!!(嬉しいようなムカつくような)

「俺だけじゃない。聖女も見てた」
「ん? なんて?」
「こっちに来た頃は泣いて全然はなしにならないからここに連れてきてダイヤを見せていた。こっちに慣れたあとも見せろと言われていたが断った」
「いいじゃん、断るなよ」
「嫌だ、俺が見る時間が減る」
「わがままか」

 見守られてる気はしてたけど、桃花とロウだったとは・・・嬉しくてついつい顔がニヤける。
 つーか、冬でもないのに静電気が起きてたのは虫よけだったとは。(おいおい)


 おわり。




 タイトル『魔石はどうなった②』


 ロウが用意したオレの部屋で襟なしのシャツに着替え、ロウの部屋に戻った。
「なぁ、ロウ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
 テーブルに朝食の用意をしているロウが振り返る。
 その硬そうなパン(本当にかたい)と水はどこから持ってくるんだろうといつも思ってたけど、オレの部屋を用意できるってことは他にも部屋があって、多分キッチンもあるんだろうな。
 視線をテーブルからロウに移し、オレは単刀直入に言おうと口を開いた。

「ロウ、サムデさんにあげるためにオレが買った魔石、どこにやったんだよ」
 ケンカ覚悟でロウを睨みつける。
「オレが3年前、(こっちでは3ヶ月)お世話になったサムデさんのために自分の魔力を注入した魔石を魔道具屋の店主から渡してもらうようお願いしたのに、サムデさんは受け取ってないっていうし、店主に聞けば王族の人間が回収に来たって。ルノーがそんなことするはずないし、いくらオレが聖女の兄だからって王族専属の魔道具屋でもないのにわざわざ回収しに来るのはおかしいだろ?」
「いい読みだな。サムデとかいう男の入れ知恵か?」
「だからなんだよ。魔石、返せよ」
 特に顔色ひとつ変えないロウに、手を出して催促する。

「粉々に砕いた」
「はぃ?! 砕いた?! マジで言ってんの?!」
 つーか、否定もしないって・・・当たりすぎて引く。
「あれっぽちの魔力は注入したとは言えない。貰った奴も嬉しくないだろ」
 はぁ、とため息をついてコップに水を注ぐ。
 今のはさすがにムカついた。
「魔力を入れるのにどんだけ苦労したと思ってるんだよ!」
「・・・聖女に魔石をあげるならまだわかる。なんで低級騎士団の奴におまえの魔力が入った魔石をあげるんだよ」
 ダンッと音を立ててコップをテーブルに置いた。水がこぼれた。
「低級って・・・。サムデさんを魔物みたいに言うなよ! お世話になった人に魔石をあげるのはアリッシュでは問題ないはずだろ。オレだって一応深い意味がないか調べた。桃花がよくてなんでサムデさんはダメなんだよ」
 ギロリと睨んでくるロウに、負けじと言い返す。
「魔石だけじゃない。ダイヤがあげる物は全部ダメに決まってるだろ」
「はぁ?!」
「他の男にあげるなら俺に渡せ」
 
 ん?

 ムスッとするロウを見て、ぶわっとキュンッの風圧がきた。
 嫉妬だとわかった途端、ケンカモードが吹っ飛び、顔がニヤける。

「これくらいで妬くなよ。つーか、砕いたことは許さないからな。あれマジで苦労したんだから」
「握ったら簡単に壊れるのが悪い」
「おい」
 どんな握力で握ったんだよ、と心の中でツッコミつつ、
「じゃぁ、オレの代わりにロウがサムデさんになんかお礼してよ。マジでお世話になったんだから。魔物退治の時とか」
「わかった、そこまで言うならそうする。勲章でもやるか」
「え。それ大丈夫? あんまり大げさなのはやめろよ」
「・・・大げさか?」
 他に何があるかと悩むロウ。

 まさか嫉妬で魔石を回収されるとは思わなかったと、照れるあまりのため息がどっと出た。しかも嫉妬したこと全然否定しないし。マジか。
 ていうか、今のはけっこうキた。キュンキュンと嬉しい気持ちでキスしたい。今ならあの時の続きをしてもいいと思ってしまう。(浮かれすぎ)
 
 煩悩を抑えていると、ロウが肩に顎(あご)をのせてきた。
「俺にも魔石が欲しい。ダイヤの魔力が入ったやつ」
 イケボのくせにさらに甘く言ってきた。しかも狙ってるのか、上目遣いだし。(キュンがすぎる。え、死?)
「・・・さ、さっきあれっぽちの魔力って言ったじゃん。だいたいロウはいらないだろ、めちゃくちゃ魔力あるし。つーか、女神様の加護だってあるし!」
 心臓がバクバクいって声が裏返った。しかも、照れ隠しのツンが発動しちゃったし。つーか、近すぎっ。
 うつむくオレの顔を無理やり自分の方に向け、チュッと口にキスしてきた。
「!」
「しょうがないからこれで我慢する」
「おい」
 恥ずすぎて殴ろうとしたら避けられた。(くそっ)
 ムカつくくらい人をからかうようなニヤけ顔のロウに一発でも殴ろうと追い回していると、突然テーブルの上に1枚の便箋が。読むと、
「ダイヤ様。至急、お城にお戻りください。だって」
 なんだ? とはてな顔をしていると、同じような紙が1枚、また1枚とテーブルに現れ、あっという間にテーブルから溢れるくらいの量になった。
「うわぁぁ、なんだこれ! 尋常じゃない!」
「・・・聖女の仕業だろ」

 ん?!

「桃花の?!」

 桃花になにかあったのか?!


 おわり。

 



 タイトル『最悪な仲』


 
 動じないロウのむなぐらをつかんで揺すりまくってなんとか城の自分の部屋に戻った。
 ドアに向かって、
「メリアヌさんいますかー? 戻ってきたんですけど桃花・・・なにかあったんですかー?!」
 ロウは聖女の仕業って言ってたけど、紙には戻ってくるようにとしか書いてなかったし、とりあえずメリアヌさんを呼ぶことに。
 数秒でノックする音が聞こえ、返事をすると頭を下げながらメリアヌさんが入って来た。
「お戻りくださり感謝いたします」
「大量の伝言にびっくりしましたけど、何かあったんですか?」
「申し訳ございません。聖女様自らお送りしたものでございます」
「え」
 ロウの言ったとおりでドン引きしていると、肩に何かが当たり横を向くと・・・。
「ほら、合ってただろ」
 オレの隣で肩をすくめるロウにぎょっとする。
「なんでいんの?!」
 自分だけ移動してきたと思ってただけにびっくりする。
 ロウは腕を組みながら呆れ顔だ。
「俺が一緒だとまずいことでもあるのか」
「そこまでは言ってないだろ。興味なさそうだからてっきり・・・」
「お話のところ申し訳ございません。ただ今、聖女様に報告してまいりますのでもうしばらくお待ちください」
 ぺこりと頭を下げ、メリアヌさんが部屋を出て行った。その数分後、またドタバタと激しい足音とともにドアが勢いよくバーンと開いた。

「お兄ちゃんっっ!!!」
 血相かえて桃花が部屋に入ってくるなりオレにしがみついた。(怖っ)
「朝起きたらお兄ちゃんがいないからっ!! また日本に帰っちゃったかと思ったぁぁぁーー!!」
 うわぁぁあんっ!! と鼻水たらしながら大号泣。(自分の妹ながらドン引き)
「ご、ごめん。ていうか、そんな簡単に帰れないから。次の召喚は三ヶ月後だから安心しろ。な?」
「ほ、ほんどうっ?!(本当)」
 腕をつかみながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔の桃花に何度も首を縦に振って頷く。安心させようと笑顔を貼り付けるけど、引きつってしまうのは勘弁してほしい。
「よ、よがったぁぁ~」
 
 ここまで必死になる桃花を見ると・・・心が痛い。兄として妹を支えなきゃという使命感が・・・。
 小さい頃、スーパーで迷子になった桃花を見つけた時もそうだった。オレを見つけるなり桃花はしがみついて離れなかったし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしていた。それを見て、お兄ちゃんなんだからオレが桃花を守らなきゃって・・・思ったことを思い出す。
 
 まだ泣いてる桃花の背中にそっと腕を回してぽんぽんっと優しくあやしてやる。
 高校生になった桃花は人のチョコプリンを食べるムカつく奴だけど、アリッシュに来てやっぱり昔と変わらずオレ(兄)が守らなきゃダメな妹なんだなーって再認識した・・・としみじみしていたら、

「何言ってるんだ、ダイヤはもうこのアリッシュに永住だ」
「え」
 フンッと鼻息を荒くするロウにぎょっとする。
「・・・帰る選択はないってこと?」
「あたりまえだろ。いくらお願いされてもしないからな」
「・・・」
 ロウに言われて嬉しいような・・・自分の世界にもう帰れないのはちょっと複雑というか。
 一時はこの世界に住み続けることを覚悟したけど・・・いや、ロウとはもう両想いなんだし、あり。なのか?

「ちょっと! お兄ちゃんが朝いなかったの、あんたの仕業でしょっ!! この変態っ!」
 今さっきまでぐちょぐちょに泣いてた桃花がもうケロッとした顔でオレにしがみつきながらロウに向かって指さしている。
「おい、桃花。一応ロウは国王なんだし・・・つーか、人に指さすなってよく母さんに言われてるだろ」
 桃花の人差し指を掴んで下におろす。

 聖女の桃花とロウが一緒にいるところはこれが初めてだ。習わしでは結婚することだってあるふたりだ。
 オレ的にはイケメン好きの桃花がエグすぎるロウに一目ぼれしないか心配だったけど・・・。

「お兄ちゃん聞いて! こいつめちゃくちゃ変態なんだから!!」
 またロウに向かって指さす、桃花。
「おい、クソ聖女。ダイヤの妹だからって調子にのんな。ダイヤから離れろ」
 そう言ってロウがオレの腕をぐいっと引っ張り、自分の方へと引き寄せる。すかさず桃花がオレのもう片方の腕をつかんで引っ張った。
「誰がクソ聖女よ! この変態国王!! そっちこそお兄ちゃんを放してよ!」

 オレを挟んでバチバチッと二人の目から火花が散る。

「な、なんだこれ」

 仲、最悪じゃんかーーーーーーっ(つーか、腕もげるっ!)



 おわり。

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