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その後の話①

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 タイトル「3年ぶりに召喚されました」


 3年ぶりにアリッシュに召喚されたオレ、古河大矢(こがだいや)22歳。
 消えたはずの記憶は全部思い出し、身体も3年前に戻された。
 

 ぱちりと目を覚まし、あたりを見回していると見知った女性がオレの顔を覗き込んだ。
「お目覚めですか、ダイヤ様」
「・・・メリアヌさん?」
 3年前にオレの世話をしてくれていたメイドさんのひとり、メリアヌさんだ。
 オレの世界、地球では3年の月日が経ってるけど、こっちの世界では3ヶ月しか経っていないらしい。
 現に、オレの顔を見るなりホッとした表情を浮かべたメリアヌさんは別れた時から見た目が全然変わってない。(若くてキレイなままだ)
「お久しぶりでございます、ダイヤ様。またお会いできて幸栄でございます。以前の記憶は?」
「大丈夫、ちゃんと思い出しました。えーと・・・ここはオレの部屋であってます?」
 上半身を起して懐かしい部屋をゆっくり見回す。
「はい、以前ダイヤ様がお過ごしになられたお部屋でございます。家具も服もすべて以前のままでございます」
「片付けたりしなかったんですか?」
「聖女様がそうして欲しいと」
「聖女・・・桃花が?」
「はい、時々ですが聖女様がこちらの部屋でお過ごしになられているそうです」

 なんで? と頭にはてなを浮かべるオレにメリアヌさんがスッと例の物を渡してきた。
「どうぞ、ダイヤ様」
「こ、これは・・・!」

 3年ぶりのポーション!!!

 グィッと一気飲み。すると、だるかった身体がシャキッとしてやる気が満ちてきた。
「ポーション最高ー。栄養ドリンクより効く」
 ゆきやんとゲームを作るようになってよく徹夜をした。その時飲んでた栄養ドリンクを思い出したけど・・・ポーションは回復薬で魔法のようなものだ。同じなようで全然違った。

「そういえばロウは?」
 ベッドから下りてストレッチをして身体をほぐす。
「ロウ国王はただ今聖女様の護衛をされております」
「ロウ国王・・・そっか、そうだよな。国王だよな」
 オレがいなくなったあとに国王になったロウにしみじみしてみたり。

 オレが3年ぶりにこっちに召喚され、コトリさんのいうとおり召喚と若返りの副作用で1週間ちかく寝てたとメリアヌさんが教えてくれた。
 そしてその間にロウは聖女である桃花と一緒に遠征で他国に行ってるらしい。
「聖女様のスケジュールは内密のため王族以外は知ることができません。今回はロウ国王からダイヤ様が目を覚ました際にそう伝えて欲しいと頼まれましたので、お伝えさせて頂きました」
「わかりました、なんとなくわかればいいんで」
 聖女のことになると厳重だ。守るというより何かを恐れているように感じるけど・・・なんか首ツッコむと面倒そうだからスルーが一番だ。

 ロウ・・・といえば、睡魔に襲われる直前まで覚えてるけど・・・顔から火が出そうなくらい恥ずいっっ。
 3年ぶりだし記憶を思い出したのもあるけど、めちゃくちゃ恥ずいことした! 言った!
 うおぉぉぉ、好き、好きって。いやいやいやロウもオレのこと好きって言ったし!
 つーか、もっとヤバいこと口走ってなかったか? あいつ。

「ダイヤ様、お顔が赤いようですがお医者様をお呼びいたしましょうか?」
「だ、大丈夫ですっ! それよりお腹すきました!」
 ロウのことを思い出して顔が赤くなったなんて恥ずくて言えん。
「かしこまりました。一週間ぶりのお食事ですのでミルク粥をご用意いたします」
 少々お待ちください。と言って部屋を出て行った。
 なんとかごまかせたとホッとしながらベッドに転がる。
「ミルク粥かー。3年ぶりだー」
 なんでもかんでも3年ぶりで懐かしい。しばらくこの懐かしいという気持ちは続きそうだ。
 メリアヌさんが戻ったらサムデさんのことを聞こう。あとはフォ・ドさんにも会いたい。

 仰向けになって天井を見上げていると、突然パッと部屋が明るくなった。窓を見ると外が夕焼けで染まっている。
「・・・魔法か」
 やっぱり一番は魔法だ。異世界に来たって感じが一番する。
 自分の手のひらを眺めながら、また魔法が使えると思うとワクワクしてきた。



 おわり。




 タイトル「サムデさん」


 次の日、気分良く目が覚めた。体調も問題なし。
 3年ぶりにこっちの服に袖を通す。肌触りは布って感じ。襟無しのシャツにズボン。格好は地球にいる時とあんま変わらない。
 朝食をとって検診を受け、自分の部屋で待っていると、
「ダイヤ様、兄が来ましたのでどうぞ客間にお越しください」
 ドアを開けてメリアヌさんが廊下へ出るよう促す。
「え。べつに自分の部屋でも大丈夫ですよ」
「いえ、そうはいきません。立場上、ダイヤ様の方が兄より地位が高いので」
「・・・わかりました」(知らなかった)
 
 メリアヌさんに案内されて同じ階にある客間の部屋に入ると、鎧を着ていない襟無しシャツ姿のサムデさんがソファに座らず立っていた。
 茶色の髪に七三分け。180の身長に・・・とサムデさんも外見は全然変わってない。
 顔を見るなり嬉しくてつい駆け寄る。
「サムデさん! お久しぶりです! 元気にー・・・て。え、どうしたんですか?」
 スッとサムデさんがその場で片膝をついて胸に手を当て頭を下げた。
「お久しぶりでございます、ダイヤ様」

 んんん??!!

 別人のサムデさんかと思ったけど、そうか、オレが聖女の兄だって知ったんだ。
 オレの魔力を注入した魔石を桃花に渡すようお願いしたからその時に知ったんだ。
 伏したままのサムデさんのつむじを見下ろしながら、まぁ、こうなるよな。と3年前の自分にツッコミを入れる。

 とりあえずこのままは嫌なので、顔を上げて欲しいとお願いしたけど断られた。(なんで?)めげずに何度もお願いしたらようやく顔を上げてくれた。
「なんとお詫びをしたらいいか。ご無礼な振る舞いの数々を・・・。まさか聖女様の兄とは知らず」
「いえいえそこは気にしないでください。以前みたいに普通に接してほしいです」
「そうはいきません! 聖女様の兄上に普通に振舞うなどと!」
「そこをなんとか! お願いしまっす! せっかく久しぶりに会えたのに! 第3部隊の騎士団員の皆さんともまたわちゃわちゃしたいです!」
 両手を合わせて大声でこれでもかというくらい拝み倒すオレに、サムデさんは参ったとばかりにオッケーしてくれた。
 
 スッと立ち上がり、サムデさんは切り替えるようにコホン、と咳をひとつ。
「以前のようにとはさすがにいきませんが、ダイヤ様がこの国で安全に過ごせるよう、このサムデが友人という名の護衛に付かせていただきたいと思います」
「もうそこは友人でお願いします」
「いやいや、ここは騎士団員としても譲れません」
「いやいやそこは譲ってください」
 しばらく言い合った結果、ずっと見ていたメリアヌさんが呆れて仲裁に入り、妹に弱いらしいサムデさんは以前と同じように接してくれることを誓ってくれた。(メリアヌさん、頼れる)

「本っ当にびっくりしたよ、ダイヤくんには! まさか聖女様のお兄さんだったとは」
 気を取り直してテーブルを挟んでお互いソファに座り、メリアヌさんが用意してくれたお茶を飲む。
「オレもびっくりしました。あんなに態度を変えてくるとは思いませんでした。ちょっとショックでした、サムデさんなら変わらず普通にしてくれるかなーって」
「いやいや誰でも無理があるよ。王族ならともかくまさかの聖女様の身内とは予想をはるかに超えてるよ」
「そんなに?」
「魔石を渡す時は本っっっ当に緊張したんだ。騎士団入団儀式の時よりも中級魔物との戦いの時よりもはるかに緊張した。あぁ、今思い出しても手が、手が震えて」
 手に持っているカップがプルプルと小刻みに振動している。(桃花にそこまで・・・なんか申し訳ない)
「・・・なんか軽い気持ちでお願いしちゃってすみません」
「とんでもない! 聖女様に直接会えるなんて・・・しかも声をかけてもらえるなんて一生に一度あるかないかなんだ! ダイヤくんには感謝してもしきれないよ、いや~本当に素晴らしい体験をさせてもらったよ!」
 両手を捕まれてブンブンと激しく感謝された。
「そ、それはどうも?」
 
 前にも思ったけど、サムデさんてときどきネジがはずれたように豹変するっていうか、ロウやフォ・ドさんみたいに変人が隠れている気がする。
 はははと笑ってサムデさんに合わせてみた。

「それで、妹は魔石を受け取ってくれましたか?」
「もちろんだよ、大切にするて言ってくれたしね」
 ニコッと微笑むサムデさんに「よかった」とホッとしつつ、もうひとつ気がかりなことをサムデさんに聞こうか迷った挙句、聞いてみることに。
「あの、桃花・・・妹はちゃんと聖女をやれてますか? すみません、変なこと聞いて」
「そんなことないよ! さすがは聖女さまだ」
「え」
「魔物がひどく増えた時期があったけど、事情があって他国に行っていた聖女様が戻られた途端、街や村を荒らしていた魔物たちはみな灰になって消えたんだ」
「灰に?」
「あぁ。そしてそれ以来、アリッシュには魔物を見たという報告は一切聞いていないよ。さすが聖女様だ」
 目を輝かせて話してくれるサムデさんに、さすがのオレも聖女の力がすごいのが伝わった。
 なによりあの桃花が異世界でちゃんと聖女としてやれてることにホッとした。

「聖女様は今はもうこのアリッシュにかかせないアイドルだよ!」

 ん???

 今、すごくなじみのある言葉が耳に入ったような・・・。翻訳を切ってサムデさんにもう一度同じ言葉を言ってもらったらやっぱり「アイドル」だった。
 ここは異世界で魔法も魔物もいるファンタジー世界だよな? アイドルなんて単語が存在するのか?

 にこにこしているサムデさんに恐る恐る聞いてみる。
「アイドルってどういうことですか?」
「聖女様のことだよ」

 はいぃぃ?!!!!



 おわり。




タイトル「聖女様はアイドル」


 聞くより見る方が早いと言われ、サムデさんと一緒に街へ行くことに。

「え。なにこれ?!」

 街の中はプリンセスフラワーを持ってかわいい顔をしている桃花で溢れていた。(エグッ)
 店や外灯などいたるところに桃花がプリントされた垂れ幕がかけられ風になびいているし、『聖女様ショップ』という店が区域ごとに建っているし、聖女様がデザインしたというブティックや焼き菓子の店まであった。
 街の中心に行くと桃花が銅像になってて・・・もう笑うしかない。(マジか)
 極めつけは・・・、
「ダイヤくん、ここが聖女様博物館だよ」
 とサムデさんに案内された建物を見てびっくり。
「ここ! ルノーが桃花のためにって建てた別邸じゃん!」
 
 馬車から降りるなりすっかりピンクと白で統一されたかわいすぎる建物を凝視する。
 次に庭を見渡すと、以前は手付かずだったのにすっかりいろんな花や草や木が生えて庭園になっていた。噴水に水もある。
 そしてまた桃花の銅像が庭園の中心に・・・。
 
 質素だった建物内はこれまたピンクの絨毯に壁は白、天井はピンク。誰の趣味だと疑いたくなるけど・・・どう考えても桃花だ。
 博物館というだけあってちゃんと先代の聖女様についての資料などもあって勉強になったけど、それ以外は全部桃花が監修、企画、提案、デザインしたというグッズ商品のコーナーで占めていて・・・もうなんも言えん。
 グッズの中に桃花の絵画本や聖女様崇拝グッズまであって固まった。ペンライトとかうちわとか『聖女様LOVE』と書かれたはちまきまで。(推し活?)
 げっそりしてるオレとは違い、サムデさんは楽しそうに聖女様崇拝グッズと団員に配ると言って『聖女様ケーキ』と書いてある焼き菓子(パウンドケーキみたいなもの)を両手に抱えて会計の列に並んでいた。(マジか)

「いや~申し訳ない、買うのに時間がかかってしまって」
 両手に手提げ袋を持って、ベンチに座ってるオレにすまなさそうな顔でやっときた。
「大丈夫です。入る時もそうでしたけどけっこう人来てるんですね」
 周りを見渡すとさっきよりも混んできたのか、隙間がないくらい人でいっぱいだ。見慣れない服装の人もいる。
「聖女様効果でこの王都は今、観光客で賑わっているからね。特にこの博物館を目当てで来る人も多いから」
「・・・なるほど」
 世界は違っても考えることは同じってやつか。
「3階には2週間に一度開く部屋があってね、そこはすでに予約4ヶ月待ちらしいよ。しかも招待券が庶民の給料半年分らしい」
「! 聖女様がお金とっていいんですか?」
「あぁ勘違いしないで。この博物館も街にある聖女様関連ショップもすべて売れたお金は王族が管理してるらしいよ」

 ダメじゃん。

「オレ、あまり知識なくて・・・。聖女様はそもそもお金稼ぎしていいんですか? なんで王族が管理するんですか?」
「そうか、聖女様の兄ということは、ダイヤくんは異世界から来たのか」
 はい。と頷くと、納得したように大きく頷いたサムデさんが、コホンと咳をひとつ。
「聖女様のすべての管理、世話は王族の仕事なんだ。もし、聖女様がなにかやらかしたとしても咎められるのは王族の人間になるんだ。まぁ、聖女様を咎める人間が現れる前に騎士団や王族がなんとかすると思うけどね」(怖っ)
「じゃぁ、例え聖女様が働いたとしてもお金を持つことはできないってことですか? 王族がすべて管理ってことは」
「そうだね。その代わりお金が必要な時は王族がすべて負担するんだ」
「じゃー王族が管理してるだけで、結局は売れたお金は聖女様のふところにってことですか?」
「・・・そうなるね。どうだろう?」
 腕を組んで考え込むサムデさん。これは首をツッコんじゃいけなかった内容だとヒヤッとして・・・話題を変えることに。

「その4ヶ月待ちの部屋はどんな部屋なんですか?」
 なるべく明いテンションで聞いてみる。
「聞いた話だと、部屋の奥に床より数段高い床があってそこに聖女様が立って、来てくれた人たちとお話をしたり、ひとりひとりと握手をしてくれるらしいよ」

 アイドルの握手会だーーーーーーーーーーーーーー。

「それに参列した人は皆、幸せな気持ちになるらしいよ。中には予約待ちなのに通ってる人もいるらしいよ!」
 ちょっと興奮気味で話すサムデさんに引きつつ、それはもう推しに身をささげるファンだと心の中でツッコミを入れる。


 桃花、おまえは異世界に来てなにを広めてるんだよ!!
 会ったら説教してやる!


 おわり。





タイトル「魔石はどうなった」


 街を探索しながらサムデさんと食べ歩きをする。(買ったお土産は馬車に置いてある)
「これ美味しい! 団員の皆にもすすめよう」
 聖女様ショップで買った『聖女様まきまき焼き菓子』を頬張るサムデさん。
 オレも同じの買ったけど、どうみてもなんちゃってクレープだ。巻いてある生地は厚めのスポンジで中身はこの世界にもある果物のジャムだ。
 クレープっていうよりオムレットって感じだな。
「普通にいける」
 はむはむと食べながら歩いていると、魔道具屋を見かけてふと思い出す。
「店主にお願いしたんですけど受け取ってくれましたか?」
「何をだい?」
「魔石です。妹の分を注文した時にサムデさんの分も一緒に注文したんですけど」
「それ本当かい?! 店主からは何も渡されてないけど」
「え?!」
 びっくりして危うくなんちゃってクレープを落としそうになった。
「普段はしっかりした店主なんだけど・・・うっかり忘れちゃったのかもしれない。なんなら今からでも魔道具屋に行ってみるかい?」
「そう、ですね」
 3ヶ月も忘れるかなーと疑いつつ、残りのなんちゃってクレープを食べながら注文した魔道具屋へ向かった。


 店から出るなり盛大に地面を蹴った。
「びっくりしたね、受け取る前に王族が没収していたなんて。それにしても王族専属の店でもないのによく聖女様の兄が注文したってわかったんだろう」
 チッと盛大に舌打ちをするオレにサムデさんは困った笑顔を向けながら、
「まぁしょうがないよ。聖女様の兄の魔力が注入された魔石なんて悪用でもされたら一大事だからね。いや~でもそんなサプライズをしていてくれてたなんて嬉しいなぁ。気持ちだけありがたくいただくよ」
「いえ! なんとしてでもサムデさんに貰ってもらいまっす!」
 鼻息荒くするオレにサムデさんが困惑する。

 絶対、ロウの仕業だっっ!!
 魔石を加工する時にオレの魔力の波動で気づいたんだ。
 魔法はまだ使えないけど、使えるようになったら絶対水魔法で溺れさせてやるっ!



 おわり。



タイトル「フォ・ドさん」


「フォ・ドさーん!! お久しぶりです! また会えてめちゃくちゃ嬉しいです」
 サムデさんと再会した次の日、フォ・ドさんにも会いに行った。
 初めて召喚された3ヶ月間一番お世話になった人だけに、魔物研究所が見えただけでテンションが上がって駆け寄ったらちょうど玄関の前にフォ・ドさんがいた。
 
 両手を広げて駆け寄るオレとは違い、杖をついたままのフォ・ドさんは驚く様子もなくいつも通り。
「ダイヤじゃないか。もう戻ってきたのか。ちと早くないか?」
 ギャップの違いにガクッと肩を落とす。
「フォ・ドさん、ひどい」
 半べそ顔をするオレを見て、ひゃっひゃっと品なく笑った。
「すまんすまん、冗談じゃ。よう戻って来たな。じゃがしかし、ロウ坊っちゃんのことじゃ、すぐどうにかすると思っておったわい」
「・・・。まさかとは思いますけど、オレが自分の世界に帰る日にロウが地下室に来たんですけど。あれ、フォ・ドさんがチクりました?」
「なんのことじゃ。わしを疑うのはお門違いじゃ。わざわざ面倒ごとに首を突っ込むわけがなかろう。ロウ坊っちゃんは勘がいい。自分で気づいたかー・・・ルノー坊っちゃんかもしれん」
「・・・わかりました」
 表情を見る限りとぼけてなさそうだ。

「それより3ヶ月たったわりには変わらんな。おまえさんの世界とは時差はないようじゃな」
 頭のてっぺんからつま先までマジマジと眺めるフォ・ドさん。フォ・ドさんは相変わらず爆発したような白髪頭に片目眼帯に片足の太ももの下がない。そしてヨレヨレの袖なしシャツだ。
「召喚された時にコトリさんに若返りの魔法をかけられました。なんで、オレの世界ではあれから3年経ってます」
「なんと! そうじゃったか。さすがコトリじゃなのぉ。まったく違和感がないわい。消えた記憶は?」
「戻りました!」
「3年間の記憶は?」
「あります」
「・・・同じ日を2度以上召喚できないのはそのせいじゃ」
「え?」
「記憶が被るということじゃ。修正することなくおまえさんの脳に増えるばかりじゃ。いいな? 記憶に混乱したらわしに言うんじゃ。記憶の整理くらい手伝ってやる」
「・・・はい、その時はお願いします」
 うむ、と頷くフォ・ドさん。
 また師匠と弟子に戻ったみたいで、じーんと感動する。親と子かな?

「ダイヤよ、これを運ぶのを手伝っておくれ」
 オレの感動もそこそこにさっそくこき使われるはめに。



 おわり。

 


タイトル「桃花と再会」


 アリッシュに戻ってから2週間が経った。
 1週間は丸っと寝てたから残りの1週間でこっちの食べ物をとにかく食べまくった。その理由は、ただひとつ。

「魔力復活だ!」

 身体は3年前に戻ったけど、さすがに魔力は失っていた。取り戻したい一心で3食とおやつをかかさず食べた。
 手のひらを眺めながら、グーパーと閉じたり開いたりして魔力の感覚を探る。
「んー・・・よくわからん」
 風呂場に行って試そうと思ったその時、ノックの音が。2つ返事するとドアが開いてメリアヌさんが頭を下げながら入って来た。
「おくつろぎのところ失礼致します」
「どうしたんですか?」
「聖女様とロウ国王がお戻りになられました」
「! わかりました」
 ナイトテーブルの上にある時計を見るとすでに夜の10時を回っていた。

 桃花に会いたいけどさすがに今日はもう無理か。疲れてるだろうし。馬車旅って座ってるだけでも尻が痛いんだよなーって思い出した。
「教えてくれてありがとうございます。近いうちに桃花・・・じゃなくて、聖女様に会いたいんですけどできますか?」
「かしこまりました。そのようにお伝え致します。王族を通しますので少々お返事に時間がかかりますがよろしいでしょうか」
「オレは全然暇なんで、急がなくて大丈夫です」
 かしこまりました。とぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。

 妹に会うにも一苦労だな。
「もう妹じゃないのか・・・」
 うっかり漏れた声に勝手に傷つく。
 サムデさんと街へ行ったときはアイドルみたいな垂れ幕や博物館にびっくりしたけど、桃花がちゃんと聖女としてこのアリッシュでやれてるんだったらべつに会わなくてもいいのか。
 兄の出番なし。てね。
「オレは陰で桃花を応援するってことで」
 ふっと鼻で笑いながらひとり勝手に納得していると、廊下からドタバタと走る音が聞こえびっくりする。と、すぐにノックの音が。

 メリアヌさんが走って来た? いやいや、物静かなメリアヌさんに限ってそんなことはないだろ。
 じゃぁ誰だ?
 恐る恐る返事すると、ガチャッとドアが薄く開き、その隙間から覗き込む目と合った。

 ん?

 バタン、とドアが閉まる。

 あーーーーーーーーーーーーーーーーなるほど。

 誰が来たかすぐわかって肩の力が抜ける。
 時間かかるって言ってたけど、めちゃくちゃ速くない?

 ドアがまた開くのを待ってみるけどなかなか開かないから自分からドアを開けに行くことに。
 ガチャッとドアを開けると、目の前に号泣してる桃花が立っていた。(うわっ)
 オレが知ってる制服姿の桃花じゃなく、銀色のティアラを頭に乗せ、肩まである黒髪を垂らし、聖女様らしい身体のラインを隠すゆったりとしたドレス? ワンピースを着ている。袖はルノーみたいに手まで隠れる長い袖だ。
 いかにも外行きの格好で、他国から帰ってきたその足でオレの部屋に来たっぽい。

 オレにとっては3年ぶりの再会だ。気まずくないわけない。つーか、泣いてるし。
「久しぶり、桃花。えーと疲れてるだろ。とりあえず中入れば」
 誘導しようと足一歩踏み出すと、桃花がオレの袖をつかんだ。
「・・・お、お兄、ちゃ・・・ん」
 泣きながら声を振り絞る桃花。ボタボタと涙がこぼれる。
「ごめんなさぁぁぁい! あたしのせいでお兄ちゃ、お兄ちゃんが魔法陣に飲み込まれちゃって! あたしを助けるためにお兄ちゃんがっっ」
 わーーーんっと幼稚園児に戻ったみたいに声をあげて泣き出す。

 泣き方といい謝り方といい、見た目は立派な聖女なのに中身は全然妹の桃花のままだ。
 なんかホッとしつつ、桃花はずっと罪悪感と恐怖を抱えて我慢してたんだって痛いほど伝わった。
 聖女がアイドルも、桃花なりに一生懸命ここに馴染もうと努力した結果なんだろうなー・・・。(あってるような、ズレてるような)

「泣くなって。オレはなんともないから。な?」
 桃花はコクコクと頷きながら、
「お兄ちゃんが召喚されちゃってからずっと心配で怖かった。こっちに来てから入れ違いで元の世界に戻ったって聞いたとき安心した。見て」
 ドレスで隠れていたネックレスを持ち上げ、丸い球のような水色の石を見せてきた。
「あ、それ」
 ピンッとくるオレに、桃花が泣きながら嬉しそうに笑った。
「サムデさんとかいう騎士の人から貰ったの。お兄ちゃんからだって」
「へーちゃんと身に付けて偉いじゃん」
「えへへ、あたしのお守り!」
 すっかり涙が引っ込んでホッとする。

 このあと兄弟仲良くオレのベッドで一緒に寝た。
 桃花の寝相の悪さはご愛敬と、この日だけは我慢した。



 おわり。



*あとがき*
 読んでくださりありがとうございます。
 あと3回更新します。
 よろしくお願いいたします。

 たっぷりチョコ。
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