25 / 25
最終話「ずっと会いたかった」
しおりを挟む
3年経って、大学4年生になった。
バイトはやめた。
人混みの中、ゆきやんが走ってくる。
「大ちゃーん! ごめん、遅くなって。教授に卒論についてあれこれ言われて時間かかった」
駅前で待たされて30分。普通ならとっくに帰ってるところだ。スマホをズボンのポケットに押し込んで、
「いいよ、オレもさっき来たところ」
「本当に~。そんなこと言って、俺に気ぃつかってる?」
なぜか嬉しそうにニヤニヤするゆきやんにオレは呆れた目で「すぐそこの本屋にいた」と返したら、これまたがっくりしてオレの肩にもたれかかってきた。
「大ちゃーん、そこはさー・・・って、ビリッときた!」
ぴょんっと飛び跳ねてオレから離れた。
「? 静電気?」
「そう! 冬でもないのに大ちゃんに触ると静電気が起きるんだよねー。不思議だよねー。ていうか、見て! ふざけて大ちゃんに抱きついた時にできたやつ! 火傷の跡みたいになってない? これってマジで静電気?」
そう言って右腕の内側を見せられる。
「本当だ。わりとデカい跡がある」
「うーん、ビリッときたところまだなんか熱い」
「はいはい」
どうでもいいとばかりに駅から出て家へと歩き出す。
「あ、大ちゃん待って! 帰りコンビニかスーパー寄りたい!」
いつからか不思議な現象がオレに起こるようになった。
ひとつめは今さっきゆきやんが言ってた『オレに触れると静電気?』が起こるらしい。(オレはなんともない)
ふたつめは誰かに見られてるような・・・気配を感じる時がある。でも、別に怖いとか気持ち悪いとか思わないのがまた不思議だ。むしろ見守られてるようなそんな気になる。
ゆきやんに話したら「霊に憑かれてるんじゃん?」と言われた。
帰り道にあるスーパーに寄って夕飯用のお弁当とお菓子やら飲み物などを買ってふたりしてオレの家に帰った。
「大ちゃん、俺先にシャワー浴びていい? 大学から走ったから汗だくでさー。電車ん中きっと汗臭かったと思う」
「最悪。きれいに使ってよ。母さんにまた怒られる」
「りょーかい! 大ちゃん匂いに敏感だもんねー。特に臭い系」
「誰だって無理でしょ」
「いやいや、大ちゃんの場合なんかトラウマっぽいのを感じる」
探るような目でオレを見るゆきやんに「さっさと行け」と促すと、風呂場まで啓礼しながら行った。(アホゆきやん)
オレは大量のお菓子と飲み物を一度自分の部屋に持って行き、そのあとキッチンへ行って買ってきたお弁当をレンジにかける。
ゆきやんとゲームを作ることにしたあの日。
話が思ったより盛り上がって勢いのまま実行し作った。最初の完成度はいろいろ荒かったけどそれなりに友人の評価が良くて、調子にのってプレイした動画をネットに流したら一気にバズった。
そこからはもうあれよあれよという間にアプリゲーとして売り出したり、ゲーム会社に声をかけてもらったりと・・・。大学生にして契約までこぎつけてしまった。(ゆきやん天才)
毎日のようにオレかゆきやんの部屋に入り浸ってゲームの製作に励んだり、自作のゲームの動画を配信している。
平凡な大学生活、適当な就職・・・のつもりだったのにこれはこれで刺激があって楽しんでいる。
ゆきやんとも仲直りしたあとは前よりももっと一緒にいることが増えた。というか、大学以外はほとんど毎日一緒。特にゆきやんがやたらべったりしてくる。
オレも「うざい」とか言いながらもゆきやんと一緒にいるのは楽で居心地がいい。
充実しててこれはこれでいい。だけど、何か忘れてるような・・・。間違い探しの絵をいくら見ても間違いを見つけられない時みたいな。見てるのに見えてない。そんなモヤモヤがずっと心に残っている。
「大ちゃーん。あ、ここにいた」
風呂上がりのゆきやんが首にフェイスタオルをかけながらリビングに入って来た。(下着以外オレが貸した服)
「ゆきやんもお弁当温めるだろ」
カウンター越しに話しかける。
「サンキュー。大ちゃんはまだ風呂入らないよね? 換気付けちゃったけど」
「うん、オレはあとでにする」
ピッとレンジのスイッチを押す。
「大ちゃん、今日泊ってっていい? ついでにこっちで配信したい」
カウンターの椅子に座りながら話しかけるゆきやん。
「・・・いいけど、多分、父さんと徹夜でドラ〇ンボールのアニメ観ると思う」
「え! なんで」
「新シリーズが始まるから1話から見直したいんだって。なぜかオレまで付き合うはめになった」
「さすがおじさん! 明日も平日なのに。仕事大丈夫なの?」
さぁ。と肩をすくめるオレ。アニオタの両親を持つとこんなの日常茶飯事だ。
「兄弟がいれば分散されるんだけど、付き合えるのオレしかいないし」
「おばさんは?」
「母さんはセー〇ームーン派だから」
「なるほど・・・。ていうか、俺も一緒に観ようかな!」
「そうしてくれると助かる」
やれやれとため息をつきながら温まったお弁当をオレのお弁当の上に重ね、棚から二人分のコップを出してゆきやんに持たせ、2階の部屋へと向かった。
オレの部屋で少し早めの夕飯を取りながら自作ゲームの話をしたり気になる同類さんの動画配信やゲームを観て談義したり。
いつもの時間を過ごしているとゆきやんが唐突に、
「大学卒業したら一緒に住まない?」
「・・・なんで? 家近いじゃん」
ちょっとびっくりした。
「そーだけど、一緒に住んだ方がもっと楽じゃん。配信もしやすいし、お互いの親のこと気にしなくていいし。ね、どう?」
「うーん・・・べつにいいけど、オレ、男好きっぽいけどそれでもいいなら」
「え! 大ちゃん男好きなの?!」
「・・・多分。つーか引くところなのになんで嬉しそうなの?」
突然の幼なじみのカミングアウトにゆきやんが意外にも動じなかった。
「全然引かないよ! 嬉しいっていうか・・・嬉しいんだけど」
後半は照れながら言うゆきやんのせいで良く聞こえなかった。
「いつから?」
「わからん。3年前かも」
「だいぶ前じゃん! なんで言ってくれなかったんだよ」
「んーなんか男だからってわけでもなくて、範囲狭いっていうか」
「どーゆうこと?」
「こーゆう系の男にドキッとする」
スマホで保存してある画像をゆきやんに見せると、
「えぐっ! めちゃくちゃイケメンじゃん! え?! 大ちゃん面食いだっけ???」
「違う。むしろ顔いい奴ムカつくんだけど、なぜかドキッとするんだよな」
「目がアーモンドみたいじゃん。つーかこれ、外国人? ハーフ?」
「ちなみに男同士のH動画観たけど吐いた」
「観たんだ」
「うん、反応するか確認しないと」
だよね、とゆきやんが同情しつつ、よしよしと頭を撫でてくれた。が、静電気が起きてすぐ終わった。
「俺は大ちゃんが男好きでも全然気にしないから。むしろウエルカムだから! 一緒に住もう!」
立ち上がってバッとゆきやんが両手を広げてハグ待ちする。
なんかプロポーズみたいで、ぷっと吹いて笑った。
「ウエルカムってなんだよ!」
はははと豪快に笑う。
「えーいいじゃん、ここはオレと大ちゃんの熱いハグしようよー」
「嫌だ。つーか、強めの静電気で跡が残るんだろ? やめたほうがいい」
平気平気と言いつつ、ちょっとビビるゆきやん。
「一緒に住んでもいいって思う人、ハグしてください」
めげずにゆきやんが手を広げる。
くすっと笑みがこぼれる。
こうやってオレのことなんでも受け止めてくれるんだよな。そう思ったらこの先もゆきやんと一緒にいたいと思った。
「しょーがないな。一緒に住んでやってもいいよ」
「マジで!」
「うん」
立ち上がって両手を広げながらゆきやんに一歩近づいた、その時。
急に床が青白く光り魔法陣のような円が浮かび上がった。
「なんだこれ?!」
ゆきやんが驚く。
「・・・これ」
オレも初めて見るはずなのに、初めての気が、しない?
魔法陣からぬっと手首が出てきて迷いなくオレの右足を掴んだ。
「?!!」
抵抗する暇もなく魔法陣の中に勢いよく引きずり込まれる。
「大ちゃん!!」
助けようと手を伸ばすゆきやんの手をつかめないまま、視界がぼやけ意識が消えた。
目を覚ますと、必死な顔でオレを見下ろすイケメンすぎる男がいた。(エグッ)
「ダイヤッ」
勢いよく片手で抱き寄せられ、見覚えのある匂いに包まれる。
「・・・ロウッ」
両腕を伸ばしてロウの首にしがみつく。
ずっと会いたかった。
いくら目を凝らしても見えなかった目の前が、一気に視界がクリアになり何もかも思い出した。
ずっとずっと会いたかった第一王子・・・ロウが目の前にいる。
オレ、異世界にまた来たんだ。
ロウが治める国、アリッシュにまたこれたんだ。
嬉しすぎて感動で胸がいっぱいになる。
ロウも両手でオレをギュッと強く抱きしめ、
「おまえがいないとつまらない」
懐かしいイケボが耳元でそう言った。
「ロウ・・・」
それってどういう意味だ?
首に回した手を放し、ロウを見上げる。
3年ぶりに再会したロウはあの頃とまったく変わってない。エグいくらいのイケメンだ。(ムカつく)
髪の色が赤い。魔法を使ったのか?
ロウもオレの背中に回している手の力を緩め、見つめ返す。
アーモンドの形をした二重の赤い瞳がオレを映す。
見つめ合っているとロウの瞳が少しずつ近づいている・・・ような。
「コホンッ」と咳払いが少し離れたところから聞こえ、ハッと我に返る。
辺りを見回すと薄暗いどこかの地下室みたいだ。以前召喚された城の地下室よりも狭く壁がレンガだ。
わざとらしく咳払いした人が長い木の杖を持って少し離れたところで立っていた。
ロウソクの灯りと、自身が淡く光ってる。
白髪なのに背はロウと同じく180くらいありそうだ。顔は少しだけしわがあって60代くらいに見える。手にもしわが。
ん?
どこかで見たことあるような・・・。
と、思っていたら顔だけ急に若返って20代くらいになった。(どういうこと?!)
そしたら魔物研究所でフォ・ドさんが紹介してくれた天文研究所のコトリさんだと気づく。(あれ?黒髪じゃなかった?)
オレが口をあんぐり開けていると、
「ロウ、約束どおり召喚を手伝いましたよ。例のものを」(例のもの?)
「わかってる」
そう言ってロウはズボンのポケットから小さい小瓶を取り出しコトリさんに投げた。
それを受け取るとコトリさんは少しよろけながら、
「用が済んだのでわたしはこれで」
チラッとオレに視線を向け、
「召喚と若返りを同時にしたので副作用があるかもしれません。今日のところは安静に」
「?」
ぺこりとお辞儀するコトリさんに同調してオレもぺこりと頭を下げた。
どういうことだ?
頭にはてなを浮かべている間にコトリさんは部屋から出て行った。
「コトリがあーいうんだ。とりあえずベッドでひと眠りするといい」
「召喚はわかるんだけど、若返りって?」
そういえば、コトリさんは時間を操る魔法が使えるとフォ・ドさんが言ってた。その魔法で肉体を若返らせることができると・・・。
ハッとしてまだオレにひっついてるロウを突き飛ばし、自分の身体を見回すと変化がないようで・・・あった!
この3年間体がなまるからってプールに通ったり筋トレをかかさずやっていたおかげで筋肉がついたり体がひきしまっていたのに、それがない。
「え?! 3年前に戻ってる?!」
「コトリに頼んで3年前のダイヤに戻してもらった」
「なんで?! え、そしたら顔も3年前ってこと?」
「たいして変わってないけどな。あ、髪があの頃の長さだ」
ツンッとロウが耳にかかる髪を引っ張った。触ると確かに急に伸びている。先週切ったのに。
「ダイヤは自分の世界に帰ってから3年経ってるけど、こっちの世界は3ヶ月しか経ってない」
「え?! マジで?! だからロウ、全然変わってないんだ!」
「同じ日を2回以上召喚することができない。時空になんらかの影響がでるらしい。だから、3ヶ月待った」
じっと強い目でオレを見つめるロウ。オレも、
「オレなんか3年だ」
忘れてたとはいえ、ずっと引っかかってた。
ずっとロウのこと。
ちらっと召喚される時のことを思い出す。
消された記憶を全部思い出したけど、消されていた3年間の記憶もちゃんとある。
ゆきやん・・・。
「おい、一緒にいたゆきやんに魔法陣見られてるぞ!」
「記憶は消した。今頃忘れてる」
なるほど。とホッとする。
ついでにもうひとつ思い出した。
「また手首が現れた! 初めての召喚の時と同じかはわかんないけど、今回は完全にオレを狙ってた。あれは・・・いったい誰なんだ?」
眉間にしわをよせるオレにロウが、
「俺の手首だ」
ん?!
「え。ロウの?」
困惑するオレにロウはケロッとした顔で、
「魔法陣の中に手を突っ込んでおまえを引き寄せた。そのほうが確実だからな」
「な。じゃねーよ。え?」
「ダイヤは聖女を助けてこっちに来たって言ってるけど、あれも俺がやった」
んん?!!!
「え。なんで?」
「国王候補の王子は女神から聖女候補を報告され、異世界を映す特殊な魔石で召喚するまで監視しなきゃならない」
「か、監視・・・」
「ルノーは聖女に対して崇拝信が強いからオレがやることになったんだが・・・面倒だった」
「おい」
「やっててあることに気づいたんだ。聖女と一緒にときどき映る人間がいることに」
「それって、まさかオレ?」
「あぁ。状況で兄弟だということは把握したが、それ以外はさっぱり。そんで、魔がさした。聖女の召喚の日、このまま召喚するのはつまらんと思って興味本位でおまえを召喚をした」
「・・・マジか」
オレ、全然悪くなかったーーーーーーーーーーーーー。
つーか、召喚する前から桃花のこと知ってんじゃん!! オレのことも顔だけは知ってんじゃん!
「興味本位で召喚するなよ!」
「なんでだ? 魔がさしたとはいえ、俺はおまえに会ってみたかった。聖女の監視はつまらないものだったが、ダイヤの観察は楽しかった」
「・・・観察って、おい」
あれ。ロウってまさかオレのこと好きじゃん?
無自覚ってやつですか?
気づいたらぶわっと顔が熱くなってきた。
スッとロウの手が伸びてきて迷いなくパシッとはたいた。不満顔のロウ。
「なんだよその顔。つーか国の王がなにしてんだよ。も、桃花と結婚したんだろ。その、うまくやれてんの?」
気になるのに視線をそらしてしまった。
「・・・なんのことだ?」
「はぁ? 伝承なんだろ。国の王と聖女が結ばれるとか結婚しないと国が平和にならないとか」
思い出したくもないことまで思い出してイライラする。
突然、ガツッと両手で顔をつかまれ無理やり視線をロウに合わされた。
「な、なにすんだよ!」
振りほどこうとするけど力が強くてびくともしない。
「オレが遠征に行ってる間に何を吹き込まれたか知らんが、オレが言うことだけ信じろ」
「・・・それって・・・桃花とは結婚して、ない?」
「してない。興味がないと言ってるだろ。聖女はこの国にいるだけで役目を十分果たしてる」
「でも、ルノーが王と聖女が結婚するのは習わしだって」
「王は聖女の守護と世話をするから結婚した方が手っ取り早いってだけだ。べつにしなきゃいけないわけじゃない。初代の聖女は一生独身だった」
「マジで?!」
「マジだ」
「・・・。じゃ、じゃぁ、桃花のために作った別邸にロウのコレクションのはく製が置いてあったけど・・・」
上目づかいで恐る恐る聞いてみる。
「・・・あぁ、ジジイが魔物の死骸の置き場所が欲しいからって城の奴らに引き取らせたらしい。探すのに苦労した」
「引っ越しは?」
「引っ越しはしてない。ダイヤが魔物のはく製が怖いというから部屋の模様替えと、ついでに大幅に改築した」
「・・・ルノーが別邸の話をしたらロウがノリノリだったって」
「? 改築の参考に聞いた時か?」
「聖女に興味がないとか言いながらオレに妹のことを聞いたのは? 似てるか聞いてきたよな! つーか、顔はもう知ってるから性格が似てるか聞いてきたのか?!」
「・・・聞いたか?」
はてな顔をするロウに、思いつきで聞かれたんだとガクッと肩が落ちる。
「聖女とダイヤ、全然似てないな」
「そぉ?」
「わがまますぎて手に負えん」
「・・・マジか」
やっぱりと思い、2度がっくりする。
他に気になることがあるかと質問してくるロウに、オレはもう心底疲れた。
3年前とはいえ、誤解が解けてよかったような、もうどうでもいいような。
「冒険はもういいのか?」
「それ聞く? だってオレ、魔物苦手だし。結局、魔物克服できなかったし」
「魔物に会わずに冒険すればいいだろ? というか、錯覚魔法で倒せるんだからそれで問題ないだろ」
「・・・ロウ、魔物好きじゃん」
「魔物よりダイヤと一緒に冒険したい。おまえは?」
「・・・オレも。つーか、その返しはずるいんだが」
フッと鼻で笑うロウ。
「俺は冒険なんて本当はどうでもいい」
「今更?!」
「言っただろ。おまえがいないとつまらないって。ダイヤがこの世界に残るなら理由なんてなんでもいい」
「だーかーらー、それがずるいんだって」
「なにがだ?」
本気ではてな顔をするロウにイラつきながらも照れる気持ちを隠すのに必死だ。
つーか、もう両想いだ、絶対。
ただ、魔物しか頭にないロウには「好き」という感情に気づいてないのかもしれない。
自分から言うのは負けだとか思ってたけど、ロウから言わせるのは無理そうだ。
これ以上こじらせるのはアホらしいからもう言った方が勝ちということにしてやる。というか、もう限界だ、オレが。
「もういい、オレが言いたいのは・・・」
「ダイヤが好きだ」
オレが言うまえにロウに言われた。まっすぐな瞳で。そのあと肩をすくめながら、
「おまえの世界ではこれを言うのが基本なんだろ?」
誰に聞いたのか。(桃花? まさか)どうやらアリッシュでは「好き」を伝えるのはマイナーらしい。
「そうだよ!」
ぐぃっと胸ぐらをつかんで引き寄せ、ロウの口に触れる程度のキスをしてやった。
「オレも、好き、だ」
て、照れる。
思わずうつむくと、ドサッと柔らかいものの上に倒された。顔を上げると目の前にロウの顔が。
ん?!
視界だけ周りを見渡すといつの間にかどこかの部屋に移動していた。ちなみに、ベッドの上にいるっぽい。(移動魔法か)見覚えのある天窓が。
オレに乗っかってるロウがフッと鼻で笑った。
「もう魔物のはく製は飾ってないから安心しろ」
ということは、ロウの部屋か。
「それって、どういう意味だよ」
ロウの首に腕を回しながら聞くオレに、こつん、とひたいをくっつけてくるロウ。
すっかり焦げ茶色に戻った髪がくすぐったい。
また鼻で笑いながら、
「聖女に興味はないが、聖女の兄には興味がある」
そう言って、口にキス。
「国王が言うセリフじゃない」
甘いキスに照れながら、聖女の兄で良かったなんて思ってみたり。
おわり。
*あとがき*
読んでくださりありがとうございました。完結しました。
ここまでおつきあいくださり本当に感謝です。たくさんのいいねをありがとうございました!とってもはげみになりました(喜)
ファンタジーものは今まで1作品しか完結したことがなく、今回も挫折するかもと思いながら書きました。
難しかったですが、楽しかったです!また挑戦したいです。
第一王子のロウは、初期設定ではツンデレだったのですがクーデレにハマりまして、急遽クーデレに変えたのですが・・・ただの天然キャラ?になってしまいました。(汗)クーデレにもまた挑戦したいです。
またご縁がありましたら読んでくださるとありがたいです。
たっぷりチョコ
バイトはやめた。
人混みの中、ゆきやんが走ってくる。
「大ちゃーん! ごめん、遅くなって。教授に卒論についてあれこれ言われて時間かかった」
駅前で待たされて30分。普通ならとっくに帰ってるところだ。スマホをズボンのポケットに押し込んで、
「いいよ、オレもさっき来たところ」
「本当に~。そんなこと言って、俺に気ぃつかってる?」
なぜか嬉しそうにニヤニヤするゆきやんにオレは呆れた目で「すぐそこの本屋にいた」と返したら、これまたがっくりしてオレの肩にもたれかかってきた。
「大ちゃーん、そこはさー・・・って、ビリッときた!」
ぴょんっと飛び跳ねてオレから離れた。
「? 静電気?」
「そう! 冬でもないのに大ちゃんに触ると静電気が起きるんだよねー。不思議だよねー。ていうか、見て! ふざけて大ちゃんに抱きついた時にできたやつ! 火傷の跡みたいになってない? これってマジで静電気?」
そう言って右腕の内側を見せられる。
「本当だ。わりとデカい跡がある」
「うーん、ビリッときたところまだなんか熱い」
「はいはい」
どうでもいいとばかりに駅から出て家へと歩き出す。
「あ、大ちゃん待って! 帰りコンビニかスーパー寄りたい!」
いつからか不思議な現象がオレに起こるようになった。
ひとつめは今さっきゆきやんが言ってた『オレに触れると静電気?』が起こるらしい。(オレはなんともない)
ふたつめは誰かに見られてるような・・・気配を感じる時がある。でも、別に怖いとか気持ち悪いとか思わないのがまた不思議だ。むしろ見守られてるようなそんな気になる。
ゆきやんに話したら「霊に憑かれてるんじゃん?」と言われた。
帰り道にあるスーパーに寄って夕飯用のお弁当とお菓子やら飲み物などを買ってふたりしてオレの家に帰った。
「大ちゃん、俺先にシャワー浴びていい? 大学から走ったから汗だくでさー。電車ん中きっと汗臭かったと思う」
「最悪。きれいに使ってよ。母さんにまた怒られる」
「りょーかい! 大ちゃん匂いに敏感だもんねー。特に臭い系」
「誰だって無理でしょ」
「いやいや、大ちゃんの場合なんかトラウマっぽいのを感じる」
探るような目でオレを見るゆきやんに「さっさと行け」と促すと、風呂場まで啓礼しながら行った。(アホゆきやん)
オレは大量のお菓子と飲み物を一度自分の部屋に持って行き、そのあとキッチンへ行って買ってきたお弁当をレンジにかける。
ゆきやんとゲームを作ることにしたあの日。
話が思ったより盛り上がって勢いのまま実行し作った。最初の完成度はいろいろ荒かったけどそれなりに友人の評価が良くて、調子にのってプレイした動画をネットに流したら一気にバズった。
そこからはもうあれよあれよという間にアプリゲーとして売り出したり、ゲーム会社に声をかけてもらったりと・・・。大学生にして契約までこぎつけてしまった。(ゆきやん天才)
毎日のようにオレかゆきやんの部屋に入り浸ってゲームの製作に励んだり、自作のゲームの動画を配信している。
平凡な大学生活、適当な就職・・・のつもりだったのにこれはこれで刺激があって楽しんでいる。
ゆきやんとも仲直りしたあとは前よりももっと一緒にいることが増えた。というか、大学以外はほとんど毎日一緒。特にゆきやんがやたらべったりしてくる。
オレも「うざい」とか言いながらもゆきやんと一緒にいるのは楽で居心地がいい。
充実しててこれはこれでいい。だけど、何か忘れてるような・・・。間違い探しの絵をいくら見ても間違いを見つけられない時みたいな。見てるのに見えてない。そんなモヤモヤがずっと心に残っている。
「大ちゃーん。あ、ここにいた」
風呂上がりのゆきやんが首にフェイスタオルをかけながらリビングに入って来た。(下着以外オレが貸した服)
「ゆきやんもお弁当温めるだろ」
カウンター越しに話しかける。
「サンキュー。大ちゃんはまだ風呂入らないよね? 換気付けちゃったけど」
「うん、オレはあとでにする」
ピッとレンジのスイッチを押す。
「大ちゃん、今日泊ってっていい? ついでにこっちで配信したい」
カウンターの椅子に座りながら話しかけるゆきやん。
「・・・いいけど、多分、父さんと徹夜でドラ〇ンボールのアニメ観ると思う」
「え! なんで」
「新シリーズが始まるから1話から見直したいんだって。なぜかオレまで付き合うはめになった」
「さすがおじさん! 明日も平日なのに。仕事大丈夫なの?」
さぁ。と肩をすくめるオレ。アニオタの両親を持つとこんなの日常茶飯事だ。
「兄弟がいれば分散されるんだけど、付き合えるのオレしかいないし」
「おばさんは?」
「母さんはセー〇ームーン派だから」
「なるほど・・・。ていうか、俺も一緒に観ようかな!」
「そうしてくれると助かる」
やれやれとため息をつきながら温まったお弁当をオレのお弁当の上に重ね、棚から二人分のコップを出してゆきやんに持たせ、2階の部屋へと向かった。
オレの部屋で少し早めの夕飯を取りながら自作ゲームの話をしたり気になる同類さんの動画配信やゲームを観て談義したり。
いつもの時間を過ごしているとゆきやんが唐突に、
「大学卒業したら一緒に住まない?」
「・・・なんで? 家近いじゃん」
ちょっとびっくりした。
「そーだけど、一緒に住んだ方がもっと楽じゃん。配信もしやすいし、お互いの親のこと気にしなくていいし。ね、どう?」
「うーん・・・べつにいいけど、オレ、男好きっぽいけどそれでもいいなら」
「え! 大ちゃん男好きなの?!」
「・・・多分。つーか引くところなのになんで嬉しそうなの?」
突然の幼なじみのカミングアウトにゆきやんが意外にも動じなかった。
「全然引かないよ! 嬉しいっていうか・・・嬉しいんだけど」
後半は照れながら言うゆきやんのせいで良く聞こえなかった。
「いつから?」
「わからん。3年前かも」
「だいぶ前じゃん! なんで言ってくれなかったんだよ」
「んーなんか男だからってわけでもなくて、範囲狭いっていうか」
「どーゆうこと?」
「こーゆう系の男にドキッとする」
スマホで保存してある画像をゆきやんに見せると、
「えぐっ! めちゃくちゃイケメンじゃん! え?! 大ちゃん面食いだっけ???」
「違う。むしろ顔いい奴ムカつくんだけど、なぜかドキッとするんだよな」
「目がアーモンドみたいじゃん。つーかこれ、外国人? ハーフ?」
「ちなみに男同士のH動画観たけど吐いた」
「観たんだ」
「うん、反応するか確認しないと」
だよね、とゆきやんが同情しつつ、よしよしと頭を撫でてくれた。が、静電気が起きてすぐ終わった。
「俺は大ちゃんが男好きでも全然気にしないから。むしろウエルカムだから! 一緒に住もう!」
立ち上がってバッとゆきやんが両手を広げてハグ待ちする。
なんかプロポーズみたいで、ぷっと吹いて笑った。
「ウエルカムってなんだよ!」
はははと豪快に笑う。
「えーいいじゃん、ここはオレと大ちゃんの熱いハグしようよー」
「嫌だ。つーか、強めの静電気で跡が残るんだろ? やめたほうがいい」
平気平気と言いつつ、ちょっとビビるゆきやん。
「一緒に住んでもいいって思う人、ハグしてください」
めげずにゆきやんが手を広げる。
くすっと笑みがこぼれる。
こうやってオレのことなんでも受け止めてくれるんだよな。そう思ったらこの先もゆきやんと一緒にいたいと思った。
「しょーがないな。一緒に住んでやってもいいよ」
「マジで!」
「うん」
立ち上がって両手を広げながらゆきやんに一歩近づいた、その時。
急に床が青白く光り魔法陣のような円が浮かび上がった。
「なんだこれ?!」
ゆきやんが驚く。
「・・・これ」
オレも初めて見るはずなのに、初めての気が、しない?
魔法陣からぬっと手首が出てきて迷いなくオレの右足を掴んだ。
「?!!」
抵抗する暇もなく魔法陣の中に勢いよく引きずり込まれる。
「大ちゃん!!」
助けようと手を伸ばすゆきやんの手をつかめないまま、視界がぼやけ意識が消えた。
目を覚ますと、必死な顔でオレを見下ろすイケメンすぎる男がいた。(エグッ)
「ダイヤッ」
勢いよく片手で抱き寄せられ、見覚えのある匂いに包まれる。
「・・・ロウッ」
両腕を伸ばしてロウの首にしがみつく。
ずっと会いたかった。
いくら目を凝らしても見えなかった目の前が、一気に視界がクリアになり何もかも思い出した。
ずっとずっと会いたかった第一王子・・・ロウが目の前にいる。
オレ、異世界にまた来たんだ。
ロウが治める国、アリッシュにまたこれたんだ。
嬉しすぎて感動で胸がいっぱいになる。
ロウも両手でオレをギュッと強く抱きしめ、
「おまえがいないとつまらない」
懐かしいイケボが耳元でそう言った。
「ロウ・・・」
それってどういう意味だ?
首に回した手を放し、ロウを見上げる。
3年ぶりに再会したロウはあの頃とまったく変わってない。エグいくらいのイケメンだ。(ムカつく)
髪の色が赤い。魔法を使ったのか?
ロウもオレの背中に回している手の力を緩め、見つめ返す。
アーモンドの形をした二重の赤い瞳がオレを映す。
見つめ合っているとロウの瞳が少しずつ近づいている・・・ような。
「コホンッ」と咳払いが少し離れたところから聞こえ、ハッと我に返る。
辺りを見回すと薄暗いどこかの地下室みたいだ。以前召喚された城の地下室よりも狭く壁がレンガだ。
わざとらしく咳払いした人が長い木の杖を持って少し離れたところで立っていた。
ロウソクの灯りと、自身が淡く光ってる。
白髪なのに背はロウと同じく180くらいありそうだ。顔は少しだけしわがあって60代くらいに見える。手にもしわが。
ん?
どこかで見たことあるような・・・。
と、思っていたら顔だけ急に若返って20代くらいになった。(どういうこと?!)
そしたら魔物研究所でフォ・ドさんが紹介してくれた天文研究所のコトリさんだと気づく。(あれ?黒髪じゃなかった?)
オレが口をあんぐり開けていると、
「ロウ、約束どおり召喚を手伝いましたよ。例のものを」(例のもの?)
「わかってる」
そう言ってロウはズボンのポケットから小さい小瓶を取り出しコトリさんに投げた。
それを受け取るとコトリさんは少しよろけながら、
「用が済んだのでわたしはこれで」
チラッとオレに視線を向け、
「召喚と若返りを同時にしたので副作用があるかもしれません。今日のところは安静に」
「?」
ぺこりとお辞儀するコトリさんに同調してオレもぺこりと頭を下げた。
どういうことだ?
頭にはてなを浮かべている間にコトリさんは部屋から出て行った。
「コトリがあーいうんだ。とりあえずベッドでひと眠りするといい」
「召喚はわかるんだけど、若返りって?」
そういえば、コトリさんは時間を操る魔法が使えるとフォ・ドさんが言ってた。その魔法で肉体を若返らせることができると・・・。
ハッとしてまだオレにひっついてるロウを突き飛ばし、自分の身体を見回すと変化がないようで・・・あった!
この3年間体がなまるからってプールに通ったり筋トレをかかさずやっていたおかげで筋肉がついたり体がひきしまっていたのに、それがない。
「え?! 3年前に戻ってる?!」
「コトリに頼んで3年前のダイヤに戻してもらった」
「なんで?! え、そしたら顔も3年前ってこと?」
「たいして変わってないけどな。あ、髪があの頃の長さだ」
ツンッとロウが耳にかかる髪を引っ張った。触ると確かに急に伸びている。先週切ったのに。
「ダイヤは自分の世界に帰ってから3年経ってるけど、こっちの世界は3ヶ月しか経ってない」
「え?! マジで?! だからロウ、全然変わってないんだ!」
「同じ日を2回以上召喚することができない。時空になんらかの影響がでるらしい。だから、3ヶ月待った」
じっと強い目でオレを見つめるロウ。オレも、
「オレなんか3年だ」
忘れてたとはいえ、ずっと引っかかってた。
ずっとロウのこと。
ちらっと召喚される時のことを思い出す。
消された記憶を全部思い出したけど、消されていた3年間の記憶もちゃんとある。
ゆきやん・・・。
「おい、一緒にいたゆきやんに魔法陣見られてるぞ!」
「記憶は消した。今頃忘れてる」
なるほど。とホッとする。
ついでにもうひとつ思い出した。
「また手首が現れた! 初めての召喚の時と同じかはわかんないけど、今回は完全にオレを狙ってた。あれは・・・いったい誰なんだ?」
眉間にしわをよせるオレにロウが、
「俺の手首だ」
ん?!
「え。ロウの?」
困惑するオレにロウはケロッとした顔で、
「魔法陣の中に手を突っ込んでおまえを引き寄せた。そのほうが確実だからな」
「な。じゃねーよ。え?」
「ダイヤは聖女を助けてこっちに来たって言ってるけど、あれも俺がやった」
んん?!!!
「え。なんで?」
「国王候補の王子は女神から聖女候補を報告され、異世界を映す特殊な魔石で召喚するまで監視しなきゃならない」
「か、監視・・・」
「ルノーは聖女に対して崇拝信が強いからオレがやることになったんだが・・・面倒だった」
「おい」
「やっててあることに気づいたんだ。聖女と一緒にときどき映る人間がいることに」
「それって、まさかオレ?」
「あぁ。状況で兄弟だということは把握したが、それ以外はさっぱり。そんで、魔がさした。聖女の召喚の日、このまま召喚するのはつまらんと思って興味本位でおまえを召喚をした」
「・・・マジか」
オレ、全然悪くなかったーーーーーーーーーーーーー。
つーか、召喚する前から桃花のこと知ってんじゃん!! オレのことも顔だけは知ってんじゃん!
「興味本位で召喚するなよ!」
「なんでだ? 魔がさしたとはいえ、俺はおまえに会ってみたかった。聖女の監視はつまらないものだったが、ダイヤの観察は楽しかった」
「・・・観察って、おい」
あれ。ロウってまさかオレのこと好きじゃん?
無自覚ってやつですか?
気づいたらぶわっと顔が熱くなってきた。
スッとロウの手が伸びてきて迷いなくパシッとはたいた。不満顔のロウ。
「なんだよその顔。つーか国の王がなにしてんだよ。も、桃花と結婚したんだろ。その、うまくやれてんの?」
気になるのに視線をそらしてしまった。
「・・・なんのことだ?」
「はぁ? 伝承なんだろ。国の王と聖女が結ばれるとか結婚しないと国が平和にならないとか」
思い出したくもないことまで思い出してイライラする。
突然、ガツッと両手で顔をつかまれ無理やり視線をロウに合わされた。
「な、なにすんだよ!」
振りほどこうとするけど力が強くてびくともしない。
「オレが遠征に行ってる間に何を吹き込まれたか知らんが、オレが言うことだけ信じろ」
「・・・それって・・・桃花とは結婚して、ない?」
「してない。興味がないと言ってるだろ。聖女はこの国にいるだけで役目を十分果たしてる」
「でも、ルノーが王と聖女が結婚するのは習わしだって」
「王は聖女の守護と世話をするから結婚した方が手っ取り早いってだけだ。べつにしなきゃいけないわけじゃない。初代の聖女は一生独身だった」
「マジで?!」
「マジだ」
「・・・。じゃ、じゃぁ、桃花のために作った別邸にロウのコレクションのはく製が置いてあったけど・・・」
上目づかいで恐る恐る聞いてみる。
「・・・あぁ、ジジイが魔物の死骸の置き場所が欲しいからって城の奴らに引き取らせたらしい。探すのに苦労した」
「引っ越しは?」
「引っ越しはしてない。ダイヤが魔物のはく製が怖いというから部屋の模様替えと、ついでに大幅に改築した」
「・・・ルノーが別邸の話をしたらロウがノリノリだったって」
「? 改築の参考に聞いた時か?」
「聖女に興味がないとか言いながらオレに妹のことを聞いたのは? 似てるか聞いてきたよな! つーか、顔はもう知ってるから性格が似てるか聞いてきたのか?!」
「・・・聞いたか?」
はてな顔をするロウに、思いつきで聞かれたんだとガクッと肩が落ちる。
「聖女とダイヤ、全然似てないな」
「そぉ?」
「わがまますぎて手に負えん」
「・・・マジか」
やっぱりと思い、2度がっくりする。
他に気になることがあるかと質問してくるロウに、オレはもう心底疲れた。
3年前とはいえ、誤解が解けてよかったような、もうどうでもいいような。
「冒険はもういいのか?」
「それ聞く? だってオレ、魔物苦手だし。結局、魔物克服できなかったし」
「魔物に会わずに冒険すればいいだろ? というか、錯覚魔法で倒せるんだからそれで問題ないだろ」
「・・・ロウ、魔物好きじゃん」
「魔物よりダイヤと一緒に冒険したい。おまえは?」
「・・・オレも。つーか、その返しはずるいんだが」
フッと鼻で笑うロウ。
「俺は冒険なんて本当はどうでもいい」
「今更?!」
「言っただろ。おまえがいないとつまらないって。ダイヤがこの世界に残るなら理由なんてなんでもいい」
「だーかーらー、それがずるいんだって」
「なにがだ?」
本気ではてな顔をするロウにイラつきながらも照れる気持ちを隠すのに必死だ。
つーか、もう両想いだ、絶対。
ただ、魔物しか頭にないロウには「好き」という感情に気づいてないのかもしれない。
自分から言うのは負けだとか思ってたけど、ロウから言わせるのは無理そうだ。
これ以上こじらせるのはアホらしいからもう言った方が勝ちということにしてやる。というか、もう限界だ、オレが。
「もういい、オレが言いたいのは・・・」
「ダイヤが好きだ」
オレが言うまえにロウに言われた。まっすぐな瞳で。そのあと肩をすくめながら、
「おまえの世界ではこれを言うのが基本なんだろ?」
誰に聞いたのか。(桃花? まさか)どうやらアリッシュでは「好き」を伝えるのはマイナーらしい。
「そうだよ!」
ぐぃっと胸ぐらをつかんで引き寄せ、ロウの口に触れる程度のキスをしてやった。
「オレも、好き、だ」
て、照れる。
思わずうつむくと、ドサッと柔らかいものの上に倒された。顔を上げると目の前にロウの顔が。
ん?!
視界だけ周りを見渡すといつの間にかどこかの部屋に移動していた。ちなみに、ベッドの上にいるっぽい。(移動魔法か)見覚えのある天窓が。
オレに乗っかってるロウがフッと鼻で笑った。
「もう魔物のはく製は飾ってないから安心しろ」
ということは、ロウの部屋か。
「それって、どういう意味だよ」
ロウの首に腕を回しながら聞くオレに、こつん、とひたいをくっつけてくるロウ。
すっかり焦げ茶色に戻った髪がくすぐったい。
また鼻で笑いながら、
「聖女に興味はないが、聖女の兄には興味がある」
そう言って、口にキス。
「国王が言うセリフじゃない」
甘いキスに照れながら、聖女の兄で良かったなんて思ってみたり。
おわり。
*あとがき*
読んでくださりありがとうございました。完結しました。
ここまでおつきあいくださり本当に感謝です。たくさんのいいねをありがとうございました!とってもはげみになりました(喜)
ファンタジーものは今まで1作品しか完結したことがなく、今回も挫折するかもと思いながら書きました。
難しかったですが、楽しかったです!また挑戦したいです。
第一王子のロウは、初期設定ではツンデレだったのですがクーデレにハマりまして、急遽クーデレに変えたのですが・・・ただの天然キャラ?になってしまいました。(汗)クーデレにもまた挑戦したいです。
またご縁がありましたら読んでくださるとありがたいです。
たっぷりチョコ
272
お気に入りに追加
299
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
続・聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。
あらすじ
異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる