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「ジジイ」
しおりを挟む「どうぞ、ポーションでございます。以前お渡ししたポーションより少々強めのものでございます」
「・・・どうも」
まだ覚醒しきれない脳みそで、渡された小瓶がポーションだと理解する。
熱が出た時に飲んだポーションと同じ小瓶だけど、色が少し水色っぽく見えるのは気のせいか。
いちいち動きがゆっくりなのは勘弁してほしい。
起きてるのに全然体に力が入らないし、頭がぼーとする。
コルクに似た蓋を開けるのにモタモタしていると、メイドさんが代わりに開けてくれた。
ポーションを飲み終わると、足のつま先から頭のてっぺんまで何か強いものが駆け巡っていき、思わず「うっ」とうめき声を漏らしながらベッドに倒れる。
すぐさまベッドから起き上がり、
「ふっかーつ! 今回のポーション、マジやべぇ」
今さっきまでの身体のだるさやぼーとする頭の感覚がすっきり取れ、全身の力がみなぎっている感じ。頭もすっきり。
「中級ポーションでございます。魔力の回復だけでなく、体力の回復に効果的です」
「なるほど」
ところで、と周りを見渡す。
目が覚めたら自分の部屋じゃない場所で寝ていた。
ベッドや家具は部屋にあったものとまったく変わらないのに、窓ひとつない圧迫感のある部屋だ。
「ダイヤ様がロウ様に連れられてまたお戻りになられたのは三日前のことになります」
「・・・三日前?! オレそんなに寝てたの!」
「はい。なんと申しますか・・・さすがの温和のルノー様でも大変ご立腹なされて」
メイドさんが頬に手を当てながら、その時のルノーを思い出しているのか、困惑顔をする。
「ロウ様にまた場所移動をされないよう、この特殊部屋へと」
「特殊部屋?」
「この部屋は地下にありまして、ある程度の魔法であれば効かないようになっております」
「そんなことできるんだ?」
「はい、天井や壁に魔石を使用し、この部屋に結界を張ります。そうすることにより強力な魔法でなければ弾くことができます」
「結界」
バリア? みたいなものか。
「ですから、この部屋にいればひとまず安心でございます。しっかりとお休み下さい」
食事の用意をしてきますと言い残し、メイドさんは重そうな分厚いドアから出て行った。
え。これ大丈夫?
第一王子から身を守るという名の監禁とかじゃない?
一瞬、ゾッとしたけど、また第一王子にどっかに飛ばされて魔物と戦わされるよりはマシだと気持ちを切り替えることにした。
それから5日間、第一王子に邪魔されることなくのんびり過ごした。
会いに来てくれたルノーには泣きながら謝られてちょっと困った。
「うん、だいぶ調子戻った」
パジャマ姿にも飽きて、襟無しのシャツに袖を通す。
この部屋の唯一の出入り口であるドアをじっと見つめる。
外で散歩したい時は魔法使いをひとり付けられていたし、部屋にいる時もメイドさんが交代制で必ずひとりはいた。
オレひとりの時間がまったくなかったけど、今、この部屋にいるのはオレだけだ。
ルノーに『兄上と話をつけるまで絶対にここからひとりで出ないでくださいね』と念を押されていたけど、そのルノーも第一王子にはだいぶ手こずってるみたいだ。
というか、第一王子が逃げ回って話すらできていないみたいだけど。
うーん、どうしょうか。と、腕を組んでドアを睨む。
もうそろそろこの部屋にも飽きてきた。
会話も弾まない魔法使いのおっさんと散歩に行くにも飽きた。
体調が良くなってくると、海での出来事を思い出しては自分が第一王子に言ったことが恥ずかしくて地面に穴でも掘って叫びたいくらいだ。泣き顔も見られたし。
「大学の単位なんて、第一王子にキレてもしょうがないって」
また思い出して、自分のしょうもない悩みに恥ずかしさであぁぁぁってなる。
「とにかく体を動かしたい!」
第一王子に勝手に転送されるのはムカつくけど、だからってここで閉じこもってても気がおかしくなる。
出た途端、移動されるわけでもないんだし。
平穏は保ちたいけど、束縛は嫌だ。
ドアノブに手をかけ気合入れて分厚いドアを開けようとしたら、あっさり開いて部屋の外へ出れた。
ドアに軽量の魔法がかかっているらしい。
散歩で何度か通っている廊下を見つめ、誰もいないことを確認する。
「とりあえず、オレがいないことでメイドさんが困ったら可哀そうだから1時間くらいで戻ってこよう」
と、自分に言い聞かせ、一歩踏み出したところで背景が変わった。
マジか!!
急に足元が柔らかいものになり、バランスを崩して背中から落ちる。
「うわぁぁ」
ゴンッと後頭部を打ってしまい、起き上がるなり痛みでしばらくじっとこらえる。
「マジで痛い。つーか、ここどこ?」
立ち上がると、そこは石壁の部屋だった。
やたら観葉植物がいたるところに置いてあって、天井や木の柱などにもぶら下がっている。
他にも本がやたら多くて、足の踏み場がないほど積み上げられて置いてある。埃っぽいし。
オレが転送された場所はどうやら目の前にあるボロボロのソファのひじ掛けの上だったみたいだ。
ソファの前にあるテーブルには食べ終わって片付けていない皿やコップがいくつも置いてある。
「汚っ」
他も見渡すと、棚に変なものが入った瓶がいくつも飾ってある。学校の理科室みたいだ。
「今の物音はなんだ! 誰かいるのか!」
奥からしゃがれた声で叫ぶ男の声が。
やば。誰か来る。第一王子っぽくないし、隠れたほうがいい?!
どこに隠れようか右往左往してる間に、声の主がやってきた。
「誰じゃ、おまえさんは」
「あ、えっと」
声からして体格のいい男かと思ったら、オレより背の低い小柄な老人だった。
白髪頭は爆発していて、片目は革でできた眼帯を付けている。(海賊?)オレと同じ襟無しの茶色っぽいシャツを着ているけど、ヨレヨレだ。
コツコツと音が聞こえると思ったら、杖を持っていた。そして、右脚の膝から下がない。
思わず息を飲むオレに、おじいさんはまったく気にしていないみたいで、
「お前さんはどうやってここに来た。ここは誰かれ構わず入ってこれる場所ではないんだかがな」
「あ、えーと・・・来たというか、呼ばれたというか」
脚がないことにびっくりしたけど、それを本人の前であからさまに出すのは失礼だよな。なんとか平静を保って会話をしなきゃ。と思うけど、うまく言葉が出てこない。
「おぉ、わかったわかった! おまえさん、ロウ坊っちゃんが話してた人間じゃろ」
「え」
『ロウ坊っちゃん』という呼び名に目が点になる。
また新たな衝撃が。
おじいさんは楽しそうにひゃっひゃっと品なく笑った。
「ロウ坊っちゃんに呼ばれたか」
「・・・オレ、魔法の効かない部屋にいたんですけど、そこから出た途端、ここに転送されたみたいで」
「なるほどなるほど。魔石と結界でできた部屋か。そうしたら、その魔石が原因じゃな」
「魔石?」
おじいさんはしわしわの指でオレの右耳をさした。
それを見て、自分でも耳たぶについている石のような固いピアスを恐る恐る触る。
そういえば、すっかり忘れてたけど、第一王子に「魔石だ」とか言って付けられたんだっけ。
強い痛みと焦げ臭い匂いを思い出し、ゾッとする。
「第一王子が無理やり付けたんです。火の魔法で穴開けたんですよ!」
会ったばかりの知らないおじいさんについつい感情的になってしまい、すぐにテンションを下げる。それを見ていたおじいさんが目を真ん丸くしたかと思うと、また品のない笑いを部屋に響かせた。
「いかにもロウ坊っちゃんがやりそうなことじゃな。おまえさんにとっては手荒れなことだったんじゃが、許せ。魔物と対峙するならばまず魔石は必要不可欠じゃ」
「・・・・」
納得できないオレに、おじいさんは言葉を続ける。
「魔石はこの世界に2種類ある。魔力を持つ石と人間が持つ魔力を石に注いだ物。魔力を注ぐには魔力の持たない石に注ぐのが基本だが、高度な技術や魔力の高い者が魔力の持つ石に魔力を注ぐことができる。しかし、それができる人間は少ないから数が少ない。が」
チラッとオレのピアスに視線を移すおじいさん。
「おまえさんのその魔石は魔力を持つ石に人の魔力が注がれておる。とても貴重なものだ」
「・・・え」
実感が沸かないけど、おじいさんが低い声で言うからちょっとびびる。
「魔石自体の能力は防御じゃな。いかにも固そうなツヤをしておる。そして、その鮮やかな赤はまぎれもなくロウ坊っちゃんの魔力じゃ。魔物100体に襲われてもまず死ぬことはないじゃろ。ドラゴンの炎でさえおまえさんの身を守ってくれる」
「魔物100?! ドラゴン?!」
「現にほれ、こいつと戦った時でさえ、おまえさんは怪我ひとつしなかったじゃろ?」
コツコツと杖をつきながらおじいさんが歩いていく方へついて行くと、木でできた台の上にオレが倒した(実感がない)巨大なタコが寝かせてあった。
「!!」
脚は全部取ったのか、陥没した頭と胴体だけだ。3日も経っているのに変色も腐敗も進んでいない。今さっき釣ってきたタコみたいに新鮮だ。
ちょっと考えてから、
「これって腐らせないように魔法とかかってます?」
「状態維持の魔法がかかっておる。腐ったら研究の材料にならんからのう」
「研究?」
おもいっきりはてな顔をしているオレにおじいさんが呆れ顔と一緒に軽くため息をつき、
「なんじゃ、ロウ坊っちゃんから何も聞いていないようじゃな。やれやれ。珍しく落ち込んでおるとは思っておったが」
「落ち込む? 第一王子が?!」
びっくりして声が大きく出た。慌てて口を塞ぐと、おじいさんがひゃっひゃと笑った。
「紹介がまだじゃったな。わしはフォ・ドじゃ。ロウ坊っちゃんにはジジイと呼ばれておる」
『ジジイ』と聞いてハッとする。
第一王子と最初に会った時に第一王子の会話に出ていたのを思い出す。確か、ジジイのところに行くとかなんとかルノーに言ってたな。
「ロウ坊っちゃんとは古いつきあいでな。王様直々に世話役兼指導を任されておる」
「えーと、執事てことですか?」
「ひゃっひゃっひゃ、師匠みたいなものじゃ。わしはここに来る前、魔物研究者として世界を飛び回っておった」
魔物研究者!
魔物がいるファンタジー世界だからこそある職種に思わずワクワクする。
「しかし、ある魔物に手こずってな、その時に脚を持っていかれた」
右脚の太ももをさすりながら苦々しそうに言うジジイさん。
「わしはやる気をなくし、研究者をやめようかとまで思っていたところにこの国の今の王様から声がかかってな。うちの息子が魔物に興味があるようだからいろいろと教えて欲しいと。最初は乗り気じゃなかったんじゃが・・・まだ幼かったロウ坊っちゃんは会うなり目を輝かせながら魔物のことを教えてほしいと、それはしつこいくらいにせがってきてな」
懐かしいと言いながらひゃっひゃと笑う、ジジイさん。
さぞかしクソ生意気なガキだったんだろうなと思いつつ、微笑ましい笑顔を貼り付けてジジイさんに合わせた。
「ロウ坊っちゃんにいろいろ教えてるうちにわしもまた、研究にかける情熱が戻って・・・今はロウ坊っちゃんが魔物をしとめ、わしはここ、城の敷地内にある研究所で日々魔物の研究をしとる」
「じゃぁ、第一王子はジジイさんの」と言いかけたところで「フォ・ドと呼んでほしい」と訂正され、
「じゃぁ、第一王子はフォ・デさんの研究の手伝いをしてるってことですか?」
「そうゆうことになるがそうでもない」
ん?
意味がわからんと、はてな顔するオレに「魔物のことはロウ坊っちゃんに聞いておるか?」と聞かれて首を横に振る。
「そもそも魔物とはこの世界のバランスを保つために生まれてくるものじゃ」
「バランス? ですか」
ゲームに出てくる魔物は倒されるためにいるわけで、そうゆうゲームだから。と思ってたし、理由なんて考えるだけ無駄だ。
この世界は異世界だし、ファンタジーだから魔物がいてもおかしくないとしか思ってなかった。
「女神様もおまえさんと同じで他の世界から来たと言われておる。そして、女神様の創造でこの世界を創り、女神様が望む世界へと発展させていった。しかし、生き物が増え、知能のある人間が増えればだんだん思い通りにいかなくなってくる。女神様に刃向かう者も出てくる。手に負えなくなってきた女神様は、心に悪を宿すようになり、それが我々の地に降りて魔物となって巣を作り、襲うようになったんじゃ」
「それって・・・魔物は女神様のストレスからできた。ってことですか?」
「ストレス! 面白いことを言うな、おまえさんは。さすが他の世界から来た者じゃ。そして、ストレスとは何かな?」
「えーと、思い通りにならなくてイライラすることです」
「まさしくそのとおりじゃ」
ひゃっひゃと笑うフォ・ドさんは否定しないでなんでも前向きに受け止めてくれる人みたいだ。
「つまりじゃな、何が言いたいかというと、わしは好きで魔物を追って調べて研究しておるが、ロウ坊っちゃんは宿命のようなものじゃ」
「宿命・・・」
下っ端たちが話していたのと違うと、急に重いものを胸に感じる。
ダンジョンを荒らしてるんじゃ・・・。
「そもそも王族の始まりは女神様のために身を尽くす人間が、女神様から加護を授かり、人間の中でも高い能力と魔力を手にしたわけじゃ。それは今も変わらない。その力で国を守り、聖女を守り、そして・・・魔物を退治する。けっして、自分を誇示するための力ではない。が、人間とは欲深き者でな、国の王となり、面倒な魔物退治を冒険者などに任せ放置するありさまじゃ。特にこの国、アリッシュは他の国よりひどい。おかげでダンジョンが増えるばかりじゃ。魔物に襲われて全滅する村も出ておる」
な、なんか話が暗くなってきた。
「えーと、つまり、魔物退治は本当なら王族の仕事ってことですか?」
「そうじゃ。まぎれもなくそのとおりじゃ。しかし、女神様の加護を受け強い魔力を持っているというのに城から出ず、加護の無い人間にさせるばかりじゃ。だがしかし、ロウ坊っちゃんは違う。次期国王という名に目もくれずあぐらをかくこともなく、自分の足でダンジョンに行っては魔物を狩る。新しいダンジョンができれば誰よりも先に行く」
「遊びじゃなかったんですね」
「なんじゃ、遊びとは?」
気まずくて、きょとんするフォ・ドさんから思わず目をそらしてしまった。
「うわさなんですけど、好き勝手に遊んで暮らしてるっていうか、ダンジョン荒らしをしてお城にもなかなか帰ってこないって」
「なんじゃそれは」
「あと、小言を言った者を燃やしたとか」
しーんと石壁の部屋が静まり、ますます居づらくなる。
フォ・ドさんがコツ、と杖で床を突き、
「うわさとはそういうものじゃ。真実は語られず、デマばかりが広がる。ロウ坊っちゃんをよく思っていない奴の仕業じゃろ。言っとくがな、小言を言ったものを燃やしたというのはちょっと違ってな」
「本当にあったことなんですか!」
「そうじゃ、だが、真実はこうじゃ。幼きルノー坊っちゃんがかんしゃくをおこしてな、世話をしていたメイドを凍らせたんじゃ」
ん?!
「ルノー坊っちゃんは四大属性の内の水属性にあたる氷属性じゃ。まだ自分の力を操れなかったゆえの過ちじゃ。凍らされたメイドを救うためにロウ坊っちゃんの火属性の魔法で溶かしたんじゃがー・・・幼き頃の出来事とはいえ、燃やすなどと悪く伝わっていたとは」
はぁとため息を吐きながら「嘆かわしい」とフォ・ドさんが呟いた。
「じゃぁ、そのメイドさんは」
「生きとるぞ。今もルノー坊っちゃんの世話をしとるはずじゃ」
「ですよね!」
うわー、なんかめちゃくちゃ気まずい。ていうか、オレ、なに簡単に信じちゃってんだよ!
自分が情けなくて、穴があったら入って埋まりたい気分だ。
「あぁーどうしよう! オレ、第一王子にマジひどいこと言っちゃいました! あと、妹の代わりにオレが来たから怒って燃やされるんじゃないかってずっと思ってました!」
頭を抱えるオレを、フォ・ドさんがひゃっひゃと笑った。
「気にせんでよい! ロウ坊っちゃんも悪いんじゃ。あやつの頭の中は魔物ことばかりじゃ。わしの知っとるかぎり友達すらおらん」
「え?」
「誤解されるような行動ばかりとっておったんじゃろ」
「えーと」
そう言われると、湖に放り投げられたりとかいろいろ思い出してオレばかりが悪いわけじゃないよなーと思ったり。
「安心せい。ロウ坊っちゃんが出す火はけっして命までは奪わん。ちゃーんと加減を知っとるからのう」
「そう、なんですか」
そうじゃとフォ・ドさんが自信たっぷりに強く頷いた。
「ロウ坊っちゃんが火魔法を使うところを見たことがあるか?」
いえ。と首を横に振る。
ゴブリンが火だるまになって吹っ飛んできたのは見たことあるけど、そういえば第一王子が魔法を使っているところはまだない。
オレの耳に穴を空けたときは魔法を使った・・・ことになるのか?
「なら見るといい。ロウ坊っちゃんが魔法を使うさまはそれはそれはキレイなものじゃ」
「キレイ?」
魔法を使うのにキレイってどういうことだ?
「そんじょそこらの魔力とは違う。火属性の中でもあれほどの鮮やかさはそう見れまい。どれ、今から向かうとするか」
「え?」
「ここから南に数キロ離れたところにゴブリンが巣を作ったと報告があってな、今日はそこを潰すために出かけとる」
ゴブリン・・・。
まる焼けになったゴブリンを思い出し、うっと吐き気がする。
「ちょっとゴブリンは・・・」
「なんじゃ、苦手か」
「第一王子に初めてダンジョンに連れていかれた時にオレ、失神しちゃって」
「おまえさんの世界には魔物はいないのか」
いませんと答えると、フォ・ドさんがちょっと同情するような笑顔を浮かべ、
「なーに気の持ちようじゃ。苦手なら魔法を使って錯覚すればよい」
「錯覚?」
「簡単じゃ。魔法とはイメージ、思い込みじゃ。魔石が力になってくれるじゃろ」
「できるかなー」
「なんじゃ、あの巨大なタコスを倒したというのに。見てすぐわかったが、一撃でしとめるとは魔力の高さだけじゃなく、知識にもたけとると推測したんじゃがな」
せっかく褒めてくれたのに・・・。
タコス?!!!
「この世界ではこの魔物のことをタコスて呼ぶんですか?」
「そうじゃ。サイズはいろいろおるがな。こいつは特に巨大じゃ」
タコスかーーーーーーーーー。なんか、めちゃくちゃ惜しい! まさか料理名で呼ばれてるなんて。名前を付けた人に会って理由を聞いてみたい。
知識かぁ。
正直、タコを倒した時のことははっきり覚えてない。ただ、ゆきやんと一緒にゲームしてた頃を思い出した。
ゆきやんはオレの幼馴染だ。
幼稚園の頃からゲーム大好きで、のめりこみすぎてゲームの大会で賞をとったこともあった。
プロのゲーマーになりたいのかと思ったけど、ゆきやんは作る側のエンジニアになりたいと言って大学受験したっけ。
オレが文学科に合格したら『一緒にゲーム作ろうよ! 大ちゃんがストーリーを考える! よくない?』とか誘われたけど、あっさり断ったな。
タコの頭の陥没を見ながら、幼馴染のゲーマーうんちくさまさまだなーと思った。
「どうしたんじゃ、ぼーっとしおって」
フォ・ドさんの声にハッと我に返る。
「あ、いえ。なんでもないです」
「もし、おまえさんにその気があるのならわしからも改めてお願いしたい」
「え、何を」
急に真剣な表情でフォ・ドさんがオレを見つめる。
「ロウ坊っちゃんの魔物退治に協力してほしい。弟のルノー坊っちゃんは不向きでな。魔物より城で王様の手伝いをするのが向いておる。騎士団がおるにはおるが・・・いかんせん、ロウ坊っちゃんとは馬が合わん」
「え」
それは性格の相性的なものか。
「でも、オレ、今回はたまたまで! 魔法の使い方なんて全然。足手まといになるだけだと思うんですけど」
「それは安心するがよい。わしでよければいくらでも教えてやろう! ロウ坊っちゃんだってわしが教えたようなものじゃ」
「そうなんですか」
「まぁ、この国の王族の中で一番ロウ坊っちゃんが魔力が高いゆえに、独学が強いがな」
出たー! イケメンのお決まり天才肌体質!!
ケッと心の中で悪態つくオレに、
「魔物と対峙する魔法の使い方はわし直伝じゃ!」
ニッと自信たっぷりに歯を見せて笑うフォ・ドさん。
ん? それってつまり、フォ・ドさんに教わると、攻撃魔法に特化するってことか。
複雑ーーーー。
でもちょっと、興味あるーーーー。
まだ平穏なファンタジー異世界生活を捨ててないオレにとっては心が揺らぐ。
「とにもかくにも、まずは百聞は一見に如かずじゃ。ロウ坊っちゃんのところに行くとしよう。そして、願わくば、協力してくれると助かる」
ぐっと唇を閉めて、フォ・ドさんはちょっと濁った瞳でオレに訴えてくる。
そこまでされるとオレの気持ちも揺らぐ。
杖をつきながらフォ・ドさんは「ついてきなさい」と言って部屋の奥へ進み、窓から外へ出た。
草花の庭に城の塔が見える。敷地内とはいえ、城からわりと離れたところにある研究所だ。
フォ・ドさんはズボンのポケットから小瓶を取り出し、コルクに似た蓋をはずすとキュポッと音とともになにか縮んでいたものが大きくなりながら出てきた。
「こいつに乗って行くとよい。おまえさんは水属性だからきっと乗りこなせるはずじゃ」
「・・・え?!」
現れたのは・・・図鑑でしか見たことがない竜の落とし子だ!!!
ラッパみたいな口をして、ひょろっとした細長い胴体、内側にくるっと丸まったしっぽ。色はちょっと黄味がかっているけど透明じゃない。
海の生物で小さい魚のはずだけど、目の前にいる竜の落とし子はオレより背が高く、地面に数センチ浮いている。
「本来は海に住んでる魔物じゃ。魔物でも大人しく世話すれば懐くのもおる」
「これに乗るんですか?!」
「そうじゃ。安心せい。見た目より速くてすぐ着く。じゃが、ちょっと乗るのにコツがいる。海で乗る生き物じゃが、わしが魔石で地上でも乗れるようにしとる」
ほれ、と言って、細長い首に付けてある魔石が埋め込まれたペンダントをオレに見せてくれた。
「さぁ、さっさと出発じゃ! 乗ればこいつがロウ坊っちゃんまで連れて行ってくれる」
戸惑うオレを無視して、無理やり竜の落とし子に乗せ、(乗るというか、ほとんど竜の落とし子の背中にしがみつく)ゲシッと竜の落とし子のしっぽを蹴った。
すると、びっくりするくらいの速さで空を上り、南の方角へ飛んだ。
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