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「ダンジョン」

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 今さっきまで食事部屋で朝食をとっていたのに、どうやら第一王子に瞬間移動で・・・ここどこ?!

 青々と茂る草原を囲う木々。見上げると空が眩しいほどの青空だ。
 城の中じゃないのはわかる。街の中でもない。
 郊外のどこかだ。森の中?だろうか。

 キョロキョロと辺りを伺うオレの前に、第一王子が引きずってきた何かをドサッと適当に置いた。
 白目をむいてるそれはゲームの中でよく登場していた、ゴブリンにそっくりだ。
「ひぃ!」
 なぜか丸焦げで異臭と一緒に焦げた匂いまでする。
 
「ブスくらいで怖いのか? ビビりだな」
 オレを見下ろしながら第一王子が言った。
「ブス?」
「ブスも知らないのか? こいつ、最初に発見した奴が見た目が不細工だからってそう名前を付けた」
 なるほど。
 だけどオレにはゲームに出てくる小鬼のゴブリンにしか見えないから、ゴブリンと呼ぼう。

「あの、なんで焦げてるん、ですか? まさか食べたり?」
「食べる奴もいるけど、まずいぞ。どう調理しても匂いがキツい」
「へ、へー」
 ゴブリン、食べる人いるんだ。
 自分で聞いておきながらドン引きした。

「よし、行くぞ」
 早く立て、と促される。
「えーと、どこへ?」
「ダンジョンに決まってるだろ。この先に今、攻略中のダンジョンがある。ブスのいるダンジョンはひとりだとめんどうだからもうひとりいると助かる」
「え? え? それってオレのこと言ってます?」
「他に誰がいる?」
 そう言われ、周りをキョロキョロするけど、オレと第一王子しかいない。あと、丸焦げのゴブリンが一匹。(死んでるし)
「・・・オレ、ですね。ていうか! オレ、戦闘能力ゼロです! 地球でも戦ったことないし。ゲームとかならあるけど、リアルなんて無理無理! 無理です!」
 ブンブンと首を強く振ってめちゃくちゃ拒否る。
「魔力があるだろ」
「ないです」
「・・・。この世界に来て一週間経つんだろ?」
「は、はい」
「その間、この世界の物食べただろ?」
「はい」
「魔力のない他の世界から来た人間でも、この世界の物を食べていれば少なからず魔力が備わる。だから安心しろ」
 ニッと不敵な笑みを向けられた。

 マジですか、それ。

 魔法が使えるのはちょっと嬉しいけど、ダンジョン攻略? ゴブリンと戦う? 嘘でしょ?
 オレはのんびり旅行気分で城の中で暇してるので十分! 平穏が1番! 平和が1番!
 だいたいなんでオレが?! あ、まさか、昨日オレを燃やさなかったのはルノーがいたからだ。さすがに弟の前で聖女の兄を燃やすのは気が引けるから、あえてダンジョンでゴブリンを倒すどさくさにオレを殺(や)るつもりじゃっっっ!!!!

 サーッと一気に全身の血が引く。
 これはヤバいと慌てて逃げようとしたら首根っこを第一王子に捕まれる。
「おい、どこ行くんだ。ダンジョンはあっちだって言ってるだろ」
「桃花じゃなくてオレが来ちゃったのは事故っていうか、マジですみません!! 掃除でも洗濯でもなんでもやりますから、殺すのだけは!!」
「は? 何言ってるんだ。 いいからさっさと行かないと仲間を倒されたことに気づいたブスがダンジョンから追いかけてくる。集落が近くにあるからそっちに行かれると面倒だ」
 行くぞ、と言って第一王子に強引に引きずられながらダンジョンへと連れて行かれた。





 目が覚め、ぼやけて見える天井を眺めているとスッと横からマッシュルームヘアのルノーが覗き込んできた。
「お」
 びっくりして思わず声が出る。
 ルノーはオレの反応にパッと表情を明るくし、
「ダイヤ様! お目覚めになられたのですね。よかったです、三日三晩目を覚まさないのでとても心配しました」
「三日三晩?! えぇ?! ていうか、オレ・・・」
 びっくりして上半身を起こす。
 辺りを見るとここはオレの部屋だ。肌触りの良いパジャマを着てベッドの上にいる。
「・・・あれ? 夢だった? 第一王子に無理やりダンジョンに連れていかれたような・・・」
 まだうまく動かない脳みそでぼんやりする記憶を口にすると、ルノーが、
「夢じゃありません。このたびは兄上が失礼なことを・・・」
 深々と頭を下げる。

「メイドのひとりからダイヤ様が突然消えたと報告をもらい、状況からして兄上だとすぐわかったのですが、ダンジョンは魔物の巣。特定するのに時間がかかってしまい・・・。来た時にはすでにダイヤ様が倒れられて」
 額(ひたい)をおさえながらルノーがため息をつく。

 話を聞いていたらいろいろ思い出してきた。
 第一王子にダンジョンという名の洞窟に連れて行かれて、ゴブリンの群れが襲ってきて、それで・・・目の前でゴブリンが炎に包まれているのを見たんだ。
 衝撃的すぎて・・・。そのあとの記憶がない。
「ご安心ください。ダイヤ様は気絶していただけでお体は無傷です。ですが、さすがに聖女様の兄であるダイヤ様をあんな危険な場所に連れて行くなんて。さすがの僕も見過ごせません。今回の件はしっかり王様に報告しますので」
 拳をにぎりしめて力強く言ってくれた。
「ありがとう。そうしてくれるとありがたい」

 あーあ。燃えてるゴブリンを見て気絶なんて、情けない。でも、しょうがなくない? ゲームとかで見慣れててもリアルは無理だよ。
 歪んでいくゴブリンの表情を思い出し、胃がモヤ~として吐き気を感じる。
 グロい。グロすぎる。異世界、グロすぎる。
 お腹をおさえているとルノーに心配され、再びベッドに横になった。
 部屋を出て行ったルノーを見送ったあと、眠気が襲ってきてまた寝た。


 次の日、ベッドから起き上がったものの、ダンジョンでの記憶が尾を引いてなかなか元気が出ず、部屋にこもって過ごした。
 心配してくれるルノーが甘いお菓子を用意してくれたり、街へ案内してくれたおかげで嫌な記憶が薄まりそれなりに復活できた。

「いやー、もうダンジョンもゴブリンも二度とごめんだね」
 そう呟きながらベッドの上に寝転がり、布団の中に入る。
 今日は暇だった。
 ルノーに「もう大丈夫」と伝えたから心配して忙しい中訪ねてくることもなかった。
 暇すぎて廊下を迷いながら庭へ行き散歩した。
 のんびりした一日にホッとする。
 オレはやっぱり平凡が安心する。
 ダンジョンとかゴブリンはゲームで十分だ。いや、今はゲームでさえこりごりだ。
 
 あれから第一王子は城に戻ってきてないみたいだ。ルノーは今回のことをちゃんと王様に報告したみたいだし、多分、もうオレの前に現れることはないと思う。
 ゴブリンの群れが多すぎてダンジョンの中に入って行った第一王子の姿はすぐに見失ってどこにいるのかさえわからなくなったけど、奥で戦ってるのはわかった。
 次々とゴブリンが燃えながら吹っ飛んできたからだ。
 火のでどころがどこかわからないけど、多分、第一王子の魔法かもしれない。火属性とか?
 だから、うわさで「小言を言っただけで燃やされた」と言ってたんだ。
 魔法で火を出せるなんてかっこいいけど、目の当たりにしたらゾッとする。
 簡単に火を出してなんでも燃やすんだ。正気な奴じゃない。
 そんな奴、いくら次期国王だろうと桃花と結婚なんて、父さんの代わりにオレが断固反対してやる。

「そうだ、次期国王はルノーがいい! オレもルノーに一票だ!」
 独り言が広い部屋に響く。
 いつの間にか部屋の明かりが消え、月明かりが窓から差し込んでいる。
 寝返りをうって天井を見上げる。
「ここに来て、2週間か」

 マジで暇でいいから、もう何も起こらないでくれ。

 薄暗い天井を眺めていたら、眠気が・・・。うとうとと眠りにつく。


「うーん・・・」
 やたら眩しい。ポカポカするから日差しが当たってるのか。
 眠いけどしょうがなく目を開けると、
「・・・は?」
 ベッドはベッドだけどオレのベッドじゃない。布団が水色じゃなくて黒だ。
 眩しいと思ったら天井がガラス窓で日差しがサンサンとベッドを照らしている。
「は?! ここどこ?」
 起き上がって周りを見渡すと、オレの部屋より2倍広い。
 天井窓があるのはここだけで、他は普通の天井だ。
 机やテーブル以外に本棚や見たことない魔物のはく製? レプリカ? が壁や部屋のいたるところに無造作に飾られている。
 よく見るとゴブリンの姿も・・・。
「マジかよ。趣味悪~」
 つーか、誰の部屋だよ、ここ。

 ドン引きしてると、本棚の陰で見えずらくなっているドアがガチャッと開いた。
 湯けむりと一緒に出てきたのは、腰にバスタオルを巻いて上半身裸の第一王子だった。

 また、お前かーーー!!!

 オレの平穏を脅かす、元凶。

 もう一枚のバスタオルで濡れた髪を拭きながら第一王子がベッドにいるオレに気づく。
「よく寝てたな」
「なんで?!」
 第一王子の姿にハッとして、すぐさま自分がパジャマをを着ていることを確認してホッとする。
「・・・」
 なんで確認した、オレ?! 男同士じゃん!
 いやいや、そっちにも興味ある奴いるっていうし、念のためだよ。ていうか、桃花と結婚するのに兄にも手を出すやつってどうなの?!(クズですか)

「ルノーから聞きました。王様にオレをダンジョンに連れて行ったことを報告したと」
 燃やされるのは嫌だけど、オレの平穏生活を守るためにもここは強気でいかないと。
「だから?」
 ワシャワシャと頭を拭き、椅子にかけてある服をすばやく着替える第一王子。
 色が茶色系からくすんだ緑色に変わっただけで、見た目は最初に会った時とまったく変わらない。靴はやっぱりごっつい革ブーツだ。
「もう、オレの前には・・・」
 現れないでください。と言おうとしたら、第一王子がスタスタとオレの目の前に来て、オレの瞳を覗き込んだ。(近っ)
「な、なに?!」
 じっと見られ、困惑しかない。つーか、顔面エグい奴がこんな迫ってきたらビビる!
 からかうわけでもない、真剣な焦げ茶色の瞳がオレの瞳の奥を観察する。
 第一王子の瞳に、動揺してるオレが映ってる。

「・・・水属性か」
「は?」
 今、水属性って言った? オレが? 瞳でそんなのわかんの?

 スッとオレから離れ、ニヤッと口元で不敵に笑った。
「ちょうどいい。海底系のダンジョン行けるな」

 はい?

 目を点にして話がいまいち飲み込めないでいると、第一王子が急にオレの右耳の耳たぶに触れたと思ったら、ビリッと痛みと一緒に焦げ臭い匂いが。
「いっで!!!」
 痛すぎて耳たぶをおさえながらベッドの上でのたうちまう。
「なにしたんだよ!」
 耳たぶをおさえていた指に血が。
「動くなよ」
 まだジンジンと痛い耳たぶに何かを押し込まれる。
「俺の魔力が入った魔石。これで敵に襲われても食われることはない」
「は?!」
 痛すぎて麻痺してる耳たぶに視線を向けても見えるわけがない。(鏡が欲しい)

「よし、さっそく行くか。ずっと気になってたダンジョンがあったんだよ。俺は火属性だから水ん中は断念してたんだけど・・・ダイヤがいれば楽勝だ」
 ニヤッとまた不敵な笑みを浮かべる第一王子に、嫌な予感しかしない。
「いやいや、オレ、魔法の使い方知らないから」
「覚えるより慣れろっていうだろ。簡単だって」
「はぁ?!」
 
 兄弟そろって人の話通じないのか?!

 逃げようとするオレの首根っこをつかみ、
「行くぞ」
 やたら良い声でそう言うなり、景色があっという間に変わった。
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