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第三章 追体験

ありがた迷惑

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 ようやく現れた男根の気配に、後孔のひくつきは、激しさを増した。
「おっと、気が早いな。もう、俺を銜えこもうとしてるぜ」
 男は、男根を片手で支え、蕾へとあてがった。
 鮮やかに立ち上がったそれを、沙蘭の秘孔は、襞をめくらせて飲み込もうとする。
「じわじわ淹れてやるのもいいが、一気に刺してやるのも、よさそうだな。ああ、うまそうな身体だぜ」
 男は、入り口で何度も角度を変え、攻め方を模索しているようだった。
 夕べは、初めての経験で、味わう余裕もなかった熱い塊を、今日は、思うさま堪能出来るはずだ。あんなに恐れていたセックスなのに゛今では全然怖くなかった。
 木製の男根に貫かれ、アクメの悦びにふるえている少年が、心の底から妬ましく思える。でも、もう大丈夫だ。
 狭間には、男の物が、しっかりと添えられている。木造りの物ほどの硬さはないかもしれないが、その分、緩急に飛んだ動きで、カバーしてくれるはずだった。
「行くぜ」
 狙いが定まったらしく、男は沙蘭の腰を後ろから掴み、囁いた。
「……優しく……して……」
 沙蘭は言った。
「ああ、うんと優しくしてやるぜ」
 先端が、ぐいと中へ押しこまれる。指で広げられ、じっとりとした愛撫で高められた柔肌は、難なくそれを受け入れ始めた。
 それなのに。
「……え?」
 突然、身を引かれ、沙蘭は不満の声を上げる。
「だ、誰だ。てめえ」
 男は、沙蘭を前方へと突き放し、狼狽の声をあげた。
「そりゃ、こっちの台詞だぜ。お前ら、誰だよ」
 聞き慣れた声。沙蘭は後ろを振り返る。
 カーキ色の制服を着た長身が、二人組の男の襟首を掴み、呆れたような表情で、男達の顔を覗き込んでいた。
「京さん……」
 あからさまな落胆の色をこめて、沙蘭は呟いた。
「見たところ、まだやられてはないみたいだけど、大丈夫か?」
 男はちらりと沙蘭を見た。
 頷きながら、沙蘭の心は急激に冷めていく。後少しで、淹れてもらえるところだったのに。
 ありがた迷惑ということわざが頭に浮かぶ。
 助けにきてくれるなら、もう少し行為が進んでからにして欲しかった。
「くそっ」
 後ろの男は、沙蘭を膝から放り出して、逃げようとした。しかし、今度はしっかりと後部から片手を捻り上げられ、苦痛の声を上げる。
「あんた達この子が誰だか知ってて、いたずらしたのか?」
 緊迫した場面には似つかわしくない、飄々とした口ぶり。男達は、逃れようと暴れるが、意外と強い力に、ままならない。
「知るか。離せよ」
「おい、騒ぐな。この子は赤夜叉の花嫁だぜ。ちょっかい出した事が奴にばれたら、あんたら二人とも、龍の餌だ。それでもかまわねぇのか?」
 赤夜叉の名前に、二人の身体が強張る。
「……わかったら、さっさとこっから出ていけよ。よかったな。見つかったのが、俺みたいな優しい奴で」 
 手を離せば、男達は、すさまじい反射力でドアに向かってダッシュした。京は無言で、それを見送る。ドアの向こう側に二つの影が消えていき、差し込んだ光の帯びが、細長い線になった。
 そして、京は沙蘭に向き直った。

「……早速襲われてたのか。綺麗に生まれるのも大変なもんだな。それにしても、キムはどこへ行ったんだ……ったく、ちゃんと仕事しねえと、一星に言いつけるぜ」
 ぶつぶつとぼやきながら、京は椅子をまたいで隣にやってきた。
「ほらよ」
 アームに投げかけられていた衣服をとり、少年に手渡す。
「いらない」
 裸の背中を、背もたれに押しつけたまま、沙蘭は横を向いた。
「そのまんまじゃいられねえだろ? ほら、着せてやるから、ちょっとは協力しろよ」
 肩にかけられた手を、そっと身体を捩ってスルーする。
 裸に剥かれ、さっきまで男に弄ばれていた性器からは、まだ愛液の漏出が止まらないのだ。心臓はまだ大きく脈打っている。そして呼応するように、蕾まで、収縮をしているのだ。
 あのまま男達に任せていたら、きっと浚われて、どんな悲惨な運命が待ち受けていたかわからないし、職務を全うした京に罪はない。
 だけど、中途半端に盛り上げられた肉体を、どう鎮めたらいいのかわからない。だから、不条理とはわかっていても、拗ねた態度をやめられなかった。
「ふうん。なるほどね」
 京はわけしり顔に頷くと、
「来いよ」
 突然、沙蘭の手首を握り立ち上がった。
「な……?」
 さすがに、大人二人を片手ずつで拘束してしまう男である。難なく沙蘭の腰は椅子から浮き上がり、引きずられるようにして、劇場のスロープを進んでいった。
 京が沙蘭を連れ込んだのは、薄暗い無人の、機械だらけの小部屋だった。壁の上部にある横長のガラス窓からは、劇場が見下ろせ、天井から吊られた数台のモニターには、様々な角度からの舞台の様が映し出されている。どうやら、スタッフブースらしい。京は、手にした縞模様のツインセットを、広げるようにして椅子の座面にかけ、よいしょと、その上に沙蘭を座らせる。
「何する気?」
自分でも、寒々しいほどに冷めた声で、沙蘭は尋ねた。お楽しみを奪った京の強引さが腹ただしかった。
裸のまま、劇場の中を歩かされたのも気に入らない。すれ違う者は一人もいなかったとはいえ、先端からまだ染みだす蜜で、まだ下腹の周辺や太股は渇く兆しもないのだ。恥ずかしくてたまらない。わざわざ尻の下に布を敷いてくれた、京の気づかいが、逆にうっとうしく感じられ、やつあたりだと自覚はしていても笑顔を見せることはできなかった。
「達きたいんだろ? 手伝ってやるよ」
 京は、自分も椅子に腰掛け、ローラーを滑らせて沙蘭と向かい合わせになった。
「いらない」
 ぷいと沙蘭は椅子ごと横を向いた。
「そのまんまじゃあ、つらいだろ? ほら、こっち向けよ」
 京は背もたれを掴んで椅子をもう一度こちらに向かせた。大きく開かれた京の足の間に、閉じた沙蘭の白い両足がすっぽりと入り込む。
「やだ」
 しかし、京は長い手を伸ばし、閉じた膝の間に、こっそりと脈打つ、小振りなものを、探り当てた。
「やだっ……たら……」
 まるで蜜をまぶしたように濡れそぼった性器を知られたくなくて、沙蘭は嫌々と体を揺すった。
 しかし、京の長い両足は、椅子のサイドをしっかりとホールドしていて、逃れる事が出来ない。隠していたものを取り出されてしまえば、それは、待ちかねたように上を向いて立ち上がり、ねだるように、新たな汁を滲ませる。
「さっきの事は、一星には内緒にしておいてくれよな。知れたら、キムの立場がやばくなる。それにしても、あいつが職場放棄するなんて、一体どうしたんだろうな。お前は、ドラゴンシティの宝だから、大切に守れと、耳が痛くなるほど聞かされてるはずなのに」
 皮をめくりあげるように擦りながら、京は言った。
 温かくて優しい指の的確な動き。
 始まってしまえば、もう抵抗する事は出来ない。沙蘭は無言で、男の丁寧な愛撫を受ける。
「いきなり襲われて、怖かったろ? もう明日からはあんな事はないから安心しろ。オークションの時だけだ。施設に外部の人間が入りこめるのは」
 じゅっ、じゅっと音を立て、愛液が搾り取られていく。こんなに親密な行為を施しているくせに、椅子の向かい側にある京の体は遠く、態度にも余裕がありすぎる。
 ちらりと上を見れば、京は、ん? と首を傾げた。沙蘭はまた下を向く。京の手のひらが、沙蘭の分泌したもので、きらきらと光っている。
「京さん……」
 沙蘭の膝が、震えながら開いていく。
「気持いいんだな。もう少し、このまま我慢しろよ」
 まるで、緻密な作業を行っているかのような、色気のない熱心さで、京はそこを扱き続ける。少年の腰が浮き上がり、背中にじっとりとした汗が滲む。
「ああ……」
「よしよし、もうすぐだ」
 励ましの声には、何の動揺も感じられず、沙蘭は自分ばかりが熱くなっている現状をくっきりと自覚した。
「そこ……ああ……や……だめ……」
「……さすが赤夜叉の花嫁だ。いい声だぜ」
 京の手技が激しさを増す。
 うっとりと目を閉じて受けながら、沙蘭はさっきから感じる違和感の元を頭の中で探ろうとしていた。
 今までに、何度も京の愛撫を受けた事があるけれど、なんだか今日はいつもと違う。
 自分の知る彼は、もっと性急で、余裕がなかった。
 息が出来ないほど抱きすくめられ、何度も何度も口づけられる。事が始まれば、当然のように脱がされてしまうけど、自分もたとえ勤務中であってもボタンを外して前をくつろげ、素肌を合わせて全身で少年を味わおうとしていた。
 こんな風に、手のひら以外、どこも触れ合わないセックスなんて初めてである。そう。これは、完璧に沙蘭への奉仕なのだ。
「……京さん……僕……もう、おかしくなっちゃう……」
 沙蘭は訴えた。
「出せよ。我慢しなくていい」
「そうじゃなくて……」
 言葉を交わしながらも、京の指は、リズミカルに性器を扱く。じん、と鈍い快感が走る。そしてそれは断続的に続き、次第に感覚が短くなる。
 沙蘭は京に握らせたまま、立ち上がった。
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