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「あれ?」
「どうした?」
「いや、なんか見覚えのないダンボールがあるなと思って」
「ふへ、ヘビでも入ってるんじゃないか?」
「そんなバカな・・・・・・」
馬鹿とは言いつつも、ちょっとした期待を胸に蛇がいるかもしれない段ボールを持ち上げると、中は軽く、ゆすると一応何かが入っているのかゴソゴソと音を立てた。
これがゴキブリの死骸かなにかではないことを祈りつつ、ゆっくりと段ボール箱を開くと、そこには一冊の本が入っていた。
まるで鈍器にでも使えそうな豪華な装飾を施されたの本には「GARDEN」という文字が刻まれていた。そんな本を眺めていると、霧ヶ峰先輩が俺の背後から覗き込んできた。
「遠州、なんだこの本は?」
「いや、なんか段ボールに一冊だけ入ってて」
「ダンボールといえばヘビなんだがなぁ」
「残念ながら本ですね、あとそれだけとは限りませんよ」
「しかし本か・・・・・・ん、そうかなるほどっ、ついに私もカード集めの使命が与えられたのかっ、ふひひ」
「すみませんが先輩の年では誰もなびきませんよ、あれは少女じゃなければいけないんです」
「男はみなロリコン」
「みんながみんなそうとは限りませんよ」
「そ、そうなのか?」
「まぁ、とにかく本の中身がきになるんで見ますね」
「お、おぉ」
本をめくってみると、そこには『この部屋で過ごした同志とのかけがえのない時間と、節操のない者たちによる混沌とした空間こそがこのサークルの一番の魅力であり、我々の宝である』と書かれているだけの、壮大に思えてなんともそっけないものだった。
誰かが、小説でも書こうとしてあきらめたのだろうかと思える内容の本を見て、俺はなんだか切なくなった。
そして、冒頭のそんな言葉の後は一文字も書かれることなく空白のページをぺらぺらとめくること数秒、あっという間に最後のページにたどり着くと、ようやく二度目の字を見つける事が出来た。
そして、そこには『できることならばこの箱庭が未来永劫存続し続けられることを願う』という言葉を最後に、本は終わっていて、最後にはまるでエンドロールのように数人の名前が記されていた。どれも見覚えのない名前ばかりであり、とても奇妙な文章と名前の登場に俺と霧ヶ峰先輩は思わず顔を見合わせた。
「遠州、本当になんなんだこれは?」
「このサークルの先輩たちの本、日記ですかね」
「うーん、未来永劫この箱庭サークルが存続し続けられますようにか」
「「・・・・・・」」
意味深な言葉に、俺の肌はわけもなく鳥肌がたち、鼓動が早くなっていくのが分かった。そしてそんな俺の気持ちに同調するかのように霧ヶ峰先輩もまた胸元を握りしめながらじっと俺の持つ本を見ていた。
「遠州」
「はい?」
「こりゃ、本格的に立てこもりコースか?」
「本気っすか?」
「当たり前だ、私はこういうこと言われるとムラムラと湧き上がってくるものがあるんだ」
「メラメラでは・・・・・・」
「と、とにかくだ、こんなものを発見しちゃったらやることは一つしかないだろ遠州」
「そ、そうっすね」
突如発見した『箱庭』という本。この発見により俺はもちろんの事、霧ヶ峰先輩までもが立ち退きに関しての対抗心が芽生えた様子だった。
そして俺の心にはこのサークル存続に対するやる気がふつふつと沸き上がってきており、それはもうちょっとした、漫画の主人公にでもなった気分になっていた。
しかし、立ち退きに関する明確な対抗策を見いだせることができないヘタレと、霧ヶ峰先輩は結局頭を悩ませ「うーん」とただ唸り声をあげては漫画を読み、唸り声をあげては漫画を読むというくそみたいな行為で時間をつぶしてしまった。
そして、そんな高揚しつつもやるせない状況のまま日をまたぎ、俺はもやもやとした気分の中いつも昼食にとるのに使っている、大学付近にある公園へと向かった。
こんな所にわざわざやってきて食事をするやつなどいない、だから公園では静かな昼食を楽しむことができた。
だが、今日ばかりはそんな静かな昼食を騒ぎ立てる出来事が起こった。それは、ちょうど弁当のから揚げに手をつけようとおもっていたときのことだ。どこからともなく一枚の紙が俺の足元に飛んできた。それは、まるで漫画の原稿のような、いや、間違いなく漫画の原稿そのものであり、俺はすかさずそれを取り上げた。
原稿に書かれていたのはとても美形な男性二人が今にも唇と唇をくっつけそうになっている様子が描かれており、それが原稿の半分以上を占めていた。所謂BLというやつだろうか、こういうものを読んだことはないがどうにも過激だな。
いや、しかし、どうしてこんな原稿が突然飛んできたのだろう、そう思いながらあたりを見渡していると、どうあがいても目を止めてしまう光景が目に入ってきた。
それは数多の紙が舞い踊り、風に流され散っている。それらはおそらく俺が拾った原稿だと思われるがそれよりももっと衝撃的なものが俺の目をくぎ付けにした。
そう俺の目には間違いなく金髪、それも美少女、さらにいうなれば巨乳というまさにパーフェクトな存在が映っていた。日本ではあまり見られない金色の紙をたなびかせる少女の姿、しかも、原稿はその少女から放たれていた。しかし、金髪少女はそんな飛び散る原稿を追いかけるそぶりも見せずただただそれらを見つめていた。
なんともおかしな様子に俺は代わりといっては何だが、散らばった原稿を集めることにした。ただし、その数はあまりにも多く、公園内を走り回りながらそれら原稿を拾い集めていると、ふと誰かが近づいてくるのが分かった。
もしかすると、さっきの金髪巨乳美少女が俺のもとにやってきてくれたのかと、何かのフラグを期待して近づいてきた誰かに顔を向けた。
だが、そこにいたのは金髪は金髪だが、先ほどの美少女ではなく見知らぬ金髪イケメンだった。明らかに日本人、いや、アジア人離れした顔立ちに、モデルのようなスタイルと身長。おまけにスーツなんてものを着ていた。
第一印象としては何ともいけ好かない男の登場に俺はすかさず身構えた。
「申し訳ありません、わざわざ拾っていただいたようで」
小鳥遊会長にも似たええ声をした金髪イケメンは、俺に手を差し伸べてきた。
「え、あぁ、拾ったってこれのことですか?」
「はい、原稿を返していただけますか、実はこれ彼女のものでして」
そうして原稿様子をばらまいた張本人である金髪巨乳美少女の方を見た。
「あ、あぁ、なるほどね」
「えぇ」
「はい、どうぞ」
「本当に助かりました、では私はこれで」
「え、でもまだいっぱい」
「あぁ、残りはすべて私が拾っておきましたから」
そんな言葉を聞いて、すぐに公園を見渡すと、先ほどまであれほど散らばっていた原稿用紙が一枚残らず回収されており、公園はいつもの光景を取り戻していた。
あまりにも早い仕事にさすがはイケメンと思い、もう一度顔でも拝んでおこうと振り返ると、もうそこには金髪イケメンの姿はなく、先ほど原稿用紙をばらまいていた金髪美少女のもとにいた。そして金髪二人は何やら仲良さげに公園を後にしていく姿を俺は呆然と見つめた。
なんとも運命的な出会いだと思えたイベントであったが、それらはもうすでにお似合いな金髪カップルとして成立していたようで、俺に入る余地はなく、ただただむなしく後味の悪い空間を作り上げた。
金髪美少女とフラグが立たないっていうなら、せめて金髪イケメンと友達になれるフラグでも立ってくれればよかったのにと後悔しつつ、再び弁当を食べに戻ろうとすると、俺の弁当の周りにはいつのまにかカラスが寄ってたかって俺の弁当を食い荒らしていた。
「どわぁっ、くそったれどもがぁっ」
まるで、このオチを見せるためだけに奇妙な出会いがあったような気がしてきた俺は、すかさずカラスどもを追っ払って食い散らかされた空の弁当をゴミ箱にぶち込んだ。
そんな、まるでいいことがない昼休みを過ごした俺は、もやもやした気持ちを必死に抑えながら、適当に講義を受け終えそそくさと箱庭サークルへと向かうと、中では霧ヶ峰先輩がすでに居座っていた。
「先輩、ちわっす」
「おぉなんだ遠州、ずいぶんと不景気そうな顔をしているな」
「えぇ、実はさっきの昼休みにちょっとしたイベントがあったんですけど、フラグは立ちませんでした。むしろばっきり折れました」
「詳しく言ってみろ」
「実は、漫画の原稿をばらまく金髪美少女がいたんですよ」
「金髪美少女は鉄板だが、まじで金髪美少女がいたのか?作り話じゃないのか?」
「はい」
「本当に妄想の話じゃないな?」
「間違いありません」
「よし、続けろ」
「それで、俺がそのばらまかれた面がの原稿を拾って渡そうとすると、今度は金髪美男子が俺の前に立ちはだかって、すごい顔でにらみつけてきたんですよ」
「な、なんだその展開は、お前には主人公補正でもかかってるのか?」
「いや、たまたまですよ、それに今時金髪なんて珍しくないでしょ」
「まぁ、そうだが、それにしても金髪美男美女と出会う確率なんて私たちオタクにとってかなり低いものだぞ」
「まぁ、そうなんですけど、とにかくイケメン金髪美男子は俺が拾った漫画の原稿を要求してきたかと思うと、自分がまき散らした原稿を一枚も拾わなかった金髪美少女と共に去っていったんですよ」
「なんなんだその話は」
「いや、こっちが聞きたいくらいびっくりな話ですよ、まるで夢でも見ていたのかと疑いました」
「なるほど、よくあるやつでいくと金髪美男子は執事で、漫画の原稿をまき散らしたのはどこかのお嬢様ってところか、それで金髪美少女お嬢様は日本のサブカルである漫画やアニメに興味を惹かれて留学してきたといったところだろうか?」
「よくもまぁ、それだけのことが言えますね」
「まぁな、それにしても金髪美人がそろって登場とは、たぎるな遠州」
「そうですね、「いぶし銀日和」なんかは銀髪留学生二人がやってきて男同士でイチャコラするアニメなんかもやってましたしね」
「あぁ、あれはよかったぞ、実は留学生の二人は双子のオオカミだったってところが一番の衝撃だったけどな」
「そうなんすかっ」
「あれは、かなりはかどる」
「はかどるとか、あるんすか?」
「あるにきまってる、オオカミさんだぞ、夜になったら大変なんだぞ、しかも何度かお泊りシーンがあったから、その時に確実に銀髪留学生二人はオオカミになっていて、ヒツジさんは食べられてしまっているんだ、間違いない、ふへへ、ふへへへへ」
どうやら霧ヶ峰先輩はBL好きのようだ。いつもより饒舌でに減ら笑いが止まらないといった様子だ。
「っていうか、なんだかんだそういうのも見るんですね先輩」
「あ、あー、まぁな、一応みれるものは見ときたいだろう?それに遠州だって女の子同士がイチャコラするアニメ好きだろう?」
「まぁ、好きですけど」
「そういう感じだよ、男同士イチャコラしてるやつだって面白いっちゃ面白いんだよ、ただ性別が違うだけだ」
「そういうもんですかね」
「そういうもんだ、性別を捨てて見れば面白くなる」
「そうすか、まぁそれは置いといて、どうします先輩?」
「なんの話だ?」
「いや、そろそろ立ち退きの件について本気で考えないと、のんびりしてる間にもう5月も終わりです」
「あぁ、そんな話もあったな、つい現実逃避してたよ」
「悪い癖ですね」
「すぐ逃げちゃう、隠れちゃう、言い訳がうまくなっちゃう、逆転の発想しか思い浮かばなくなる、それで優越感に浸っちゃう、ふへ」
「で、どうします?」
「どうしますって言ってもな、私はこのまま、この状況が続いてくれれば最高なんだが・・・・・・」
「そりゃ俺だってそうですよ、サークルごともらい受けたのはいいですけど、廃部付きとか最悪じゃないすか」
「うーん、でもどうするかな?」
「なんか、強みでもあればいいんですけど?」
「強み?」
「はい、例えばすげー実績のある人が入会してくれるとか」
「どういう意味だ?」
「いや、漫画家とか、作家とか、ゲーマーとか、そういう類が入会してくれれば、ここはつぶすわけにはいかないと思いませんか?」
「なるほど、有名人でもいれば来年からの生徒は集まりそうだし、大学にとっては利益になるか」
「そうです、ちなみにもちろん、俺はなんもできないですよ、ただの田舎の芋野郎ですから」
そう、俺が特殊能力でも持っていれば今頃こんなところにいない、だが目の前にいる霧ヶ峰先輩なら、そのミステリアスな風貌からして、ただものではないことは間違いないはず。そう思い熱視線を送っていると、先輩は視線に気づいておどおどし始めた。
「な、なんだその目は」
「先輩は、なんか特技とかないんですか?」
「あったら、こんなに暇してないっ」
「そうですか・・・・・・なんだか文豪みたいな感じしたんすけどね」
「残念そうな声を出すな、にわかだもの仕方ないだろう、にわかだもの」
「そうなったらこのサークルを存続させるにはそういった超高校、いや超大学級の人がきてくれないと」
「球児か人狼ゲームのキャラクターでも連れて来いってのか?」
「いや、そこまで入ってませんけど無理ですかね?」
「無理だ」
しょうもなくも重要なことを考えていると、突如として扉が開かれる音が聞こえてきた。それはゆっくりと開き、そこから現れたのは必死に扉を開ける宮本先輩だった。
「どうした?」
「いや、なんか見覚えのないダンボールがあるなと思って」
「ふへ、ヘビでも入ってるんじゃないか?」
「そんなバカな・・・・・・」
馬鹿とは言いつつも、ちょっとした期待を胸に蛇がいるかもしれない段ボールを持ち上げると、中は軽く、ゆすると一応何かが入っているのかゴソゴソと音を立てた。
これがゴキブリの死骸かなにかではないことを祈りつつ、ゆっくりと段ボール箱を開くと、そこには一冊の本が入っていた。
まるで鈍器にでも使えそうな豪華な装飾を施されたの本には「GARDEN」という文字が刻まれていた。そんな本を眺めていると、霧ヶ峰先輩が俺の背後から覗き込んできた。
「遠州、なんだこの本は?」
「いや、なんか段ボールに一冊だけ入ってて」
「ダンボールといえばヘビなんだがなぁ」
「残念ながら本ですね、あとそれだけとは限りませんよ」
「しかし本か・・・・・・ん、そうかなるほどっ、ついに私もカード集めの使命が与えられたのかっ、ふひひ」
「すみませんが先輩の年では誰もなびきませんよ、あれは少女じゃなければいけないんです」
「男はみなロリコン」
「みんながみんなそうとは限りませんよ」
「そ、そうなのか?」
「まぁ、とにかく本の中身がきになるんで見ますね」
「お、おぉ」
本をめくってみると、そこには『この部屋で過ごした同志とのかけがえのない時間と、節操のない者たちによる混沌とした空間こそがこのサークルの一番の魅力であり、我々の宝である』と書かれているだけの、壮大に思えてなんともそっけないものだった。
誰かが、小説でも書こうとしてあきらめたのだろうかと思える内容の本を見て、俺はなんだか切なくなった。
そして、冒頭のそんな言葉の後は一文字も書かれることなく空白のページをぺらぺらとめくること数秒、あっという間に最後のページにたどり着くと、ようやく二度目の字を見つける事が出来た。
そして、そこには『できることならばこの箱庭が未来永劫存続し続けられることを願う』という言葉を最後に、本は終わっていて、最後にはまるでエンドロールのように数人の名前が記されていた。どれも見覚えのない名前ばかりであり、とても奇妙な文章と名前の登場に俺と霧ヶ峰先輩は思わず顔を見合わせた。
「遠州、本当になんなんだこれは?」
「このサークルの先輩たちの本、日記ですかね」
「うーん、未来永劫この箱庭サークルが存続し続けられますようにか」
「「・・・・・・」」
意味深な言葉に、俺の肌はわけもなく鳥肌がたち、鼓動が早くなっていくのが分かった。そしてそんな俺の気持ちに同調するかのように霧ヶ峰先輩もまた胸元を握りしめながらじっと俺の持つ本を見ていた。
「遠州」
「はい?」
「こりゃ、本格的に立てこもりコースか?」
「本気っすか?」
「当たり前だ、私はこういうこと言われるとムラムラと湧き上がってくるものがあるんだ」
「メラメラでは・・・・・・」
「と、とにかくだ、こんなものを発見しちゃったらやることは一つしかないだろ遠州」
「そ、そうっすね」
突如発見した『箱庭』という本。この発見により俺はもちろんの事、霧ヶ峰先輩までもが立ち退きに関しての対抗心が芽生えた様子だった。
そして俺の心にはこのサークル存続に対するやる気がふつふつと沸き上がってきており、それはもうちょっとした、漫画の主人公にでもなった気分になっていた。
しかし、立ち退きに関する明確な対抗策を見いだせることができないヘタレと、霧ヶ峰先輩は結局頭を悩ませ「うーん」とただ唸り声をあげては漫画を読み、唸り声をあげては漫画を読むというくそみたいな行為で時間をつぶしてしまった。
そして、そんな高揚しつつもやるせない状況のまま日をまたぎ、俺はもやもやとした気分の中いつも昼食にとるのに使っている、大学付近にある公園へと向かった。
こんな所にわざわざやってきて食事をするやつなどいない、だから公園では静かな昼食を楽しむことができた。
だが、今日ばかりはそんな静かな昼食を騒ぎ立てる出来事が起こった。それは、ちょうど弁当のから揚げに手をつけようとおもっていたときのことだ。どこからともなく一枚の紙が俺の足元に飛んできた。それは、まるで漫画の原稿のような、いや、間違いなく漫画の原稿そのものであり、俺はすかさずそれを取り上げた。
原稿に書かれていたのはとても美形な男性二人が今にも唇と唇をくっつけそうになっている様子が描かれており、それが原稿の半分以上を占めていた。所謂BLというやつだろうか、こういうものを読んだことはないがどうにも過激だな。
いや、しかし、どうしてこんな原稿が突然飛んできたのだろう、そう思いながらあたりを見渡していると、どうあがいても目を止めてしまう光景が目に入ってきた。
それは数多の紙が舞い踊り、風に流され散っている。それらはおそらく俺が拾った原稿だと思われるがそれよりももっと衝撃的なものが俺の目をくぎ付けにした。
そう俺の目には間違いなく金髪、それも美少女、さらにいうなれば巨乳というまさにパーフェクトな存在が映っていた。日本ではあまり見られない金色の紙をたなびかせる少女の姿、しかも、原稿はその少女から放たれていた。しかし、金髪少女はそんな飛び散る原稿を追いかけるそぶりも見せずただただそれらを見つめていた。
なんともおかしな様子に俺は代わりといっては何だが、散らばった原稿を集めることにした。ただし、その数はあまりにも多く、公園内を走り回りながらそれら原稿を拾い集めていると、ふと誰かが近づいてくるのが分かった。
もしかすると、さっきの金髪巨乳美少女が俺のもとにやってきてくれたのかと、何かのフラグを期待して近づいてきた誰かに顔を向けた。
だが、そこにいたのは金髪は金髪だが、先ほどの美少女ではなく見知らぬ金髪イケメンだった。明らかに日本人、いや、アジア人離れした顔立ちに、モデルのようなスタイルと身長。おまけにスーツなんてものを着ていた。
第一印象としては何ともいけ好かない男の登場に俺はすかさず身構えた。
「申し訳ありません、わざわざ拾っていただいたようで」
小鳥遊会長にも似たええ声をした金髪イケメンは、俺に手を差し伸べてきた。
「え、あぁ、拾ったってこれのことですか?」
「はい、原稿を返していただけますか、実はこれ彼女のものでして」
そうして原稿様子をばらまいた張本人である金髪巨乳美少女の方を見た。
「あ、あぁ、なるほどね」
「えぇ」
「はい、どうぞ」
「本当に助かりました、では私はこれで」
「え、でもまだいっぱい」
「あぁ、残りはすべて私が拾っておきましたから」
そんな言葉を聞いて、すぐに公園を見渡すと、先ほどまであれほど散らばっていた原稿用紙が一枚残らず回収されており、公園はいつもの光景を取り戻していた。
あまりにも早い仕事にさすがはイケメンと思い、もう一度顔でも拝んでおこうと振り返ると、もうそこには金髪イケメンの姿はなく、先ほど原稿用紙をばらまいていた金髪美少女のもとにいた。そして金髪二人は何やら仲良さげに公園を後にしていく姿を俺は呆然と見つめた。
なんとも運命的な出会いだと思えたイベントであったが、それらはもうすでにお似合いな金髪カップルとして成立していたようで、俺に入る余地はなく、ただただむなしく後味の悪い空間を作り上げた。
金髪美少女とフラグが立たないっていうなら、せめて金髪イケメンと友達になれるフラグでも立ってくれればよかったのにと後悔しつつ、再び弁当を食べに戻ろうとすると、俺の弁当の周りにはいつのまにかカラスが寄ってたかって俺の弁当を食い荒らしていた。
「どわぁっ、くそったれどもがぁっ」
まるで、このオチを見せるためだけに奇妙な出会いがあったような気がしてきた俺は、すかさずカラスどもを追っ払って食い散らかされた空の弁当をゴミ箱にぶち込んだ。
そんな、まるでいいことがない昼休みを過ごした俺は、もやもやした気持ちを必死に抑えながら、適当に講義を受け終えそそくさと箱庭サークルへと向かうと、中では霧ヶ峰先輩がすでに居座っていた。
「先輩、ちわっす」
「おぉなんだ遠州、ずいぶんと不景気そうな顔をしているな」
「えぇ、実はさっきの昼休みにちょっとしたイベントがあったんですけど、フラグは立ちませんでした。むしろばっきり折れました」
「詳しく言ってみろ」
「実は、漫画の原稿をばらまく金髪美少女がいたんですよ」
「金髪美少女は鉄板だが、まじで金髪美少女がいたのか?作り話じゃないのか?」
「はい」
「本当に妄想の話じゃないな?」
「間違いありません」
「よし、続けろ」
「それで、俺がそのばらまかれた面がの原稿を拾って渡そうとすると、今度は金髪美男子が俺の前に立ちはだかって、すごい顔でにらみつけてきたんですよ」
「な、なんだその展開は、お前には主人公補正でもかかってるのか?」
「いや、たまたまですよ、それに今時金髪なんて珍しくないでしょ」
「まぁ、そうだが、それにしても金髪美男美女と出会う確率なんて私たちオタクにとってかなり低いものだぞ」
「まぁ、そうなんですけど、とにかくイケメン金髪美男子は俺が拾った漫画の原稿を要求してきたかと思うと、自分がまき散らした原稿を一枚も拾わなかった金髪美少女と共に去っていったんですよ」
「なんなんだその話は」
「いや、こっちが聞きたいくらいびっくりな話ですよ、まるで夢でも見ていたのかと疑いました」
「なるほど、よくあるやつでいくと金髪美男子は執事で、漫画の原稿をまき散らしたのはどこかのお嬢様ってところか、それで金髪美少女お嬢様は日本のサブカルである漫画やアニメに興味を惹かれて留学してきたといったところだろうか?」
「よくもまぁ、それだけのことが言えますね」
「まぁな、それにしても金髪美人がそろって登場とは、たぎるな遠州」
「そうですね、「いぶし銀日和」なんかは銀髪留学生二人がやってきて男同士でイチャコラするアニメなんかもやってましたしね」
「あぁ、あれはよかったぞ、実は留学生の二人は双子のオオカミだったってところが一番の衝撃だったけどな」
「そうなんすかっ」
「あれは、かなりはかどる」
「はかどるとか、あるんすか?」
「あるにきまってる、オオカミさんだぞ、夜になったら大変なんだぞ、しかも何度かお泊りシーンがあったから、その時に確実に銀髪留学生二人はオオカミになっていて、ヒツジさんは食べられてしまっているんだ、間違いない、ふへへ、ふへへへへ」
どうやら霧ヶ峰先輩はBL好きのようだ。いつもより饒舌でに減ら笑いが止まらないといった様子だ。
「っていうか、なんだかんだそういうのも見るんですね先輩」
「あ、あー、まぁな、一応みれるものは見ときたいだろう?それに遠州だって女の子同士がイチャコラするアニメ好きだろう?」
「まぁ、好きですけど」
「そういう感じだよ、男同士イチャコラしてるやつだって面白いっちゃ面白いんだよ、ただ性別が違うだけだ」
「そういうもんですかね」
「そういうもんだ、性別を捨てて見れば面白くなる」
「そうすか、まぁそれは置いといて、どうします先輩?」
「なんの話だ?」
「いや、そろそろ立ち退きの件について本気で考えないと、のんびりしてる間にもう5月も終わりです」
「あぁ、そんな話もあったな、つい現実逃避してたよ」
「悪い癖ですね」
「すぐ逃げちゃう、隠れちゃう、言い訳がうまくなっちゃう、逆転の発想しか思い浮かばなくなる、それで優越感に浸っちゃう、ふへ」
「で、どうします?」
「どうしますって言ってもな、私はこのまま、この状況が続いてくれれば最高なんだが・・・・・・」
「そりゃ俺だってそうですよ、サークルごともらい受けたのはいいですけど、廃部付きとか最悪じゃないすか」
「うーん、でもどうするかな?」
「なんか、強みでもあればいいんですけど?」
「強み?」
「はい、例えばすげー実績のある人が入会してくれるとか」
「どういう意味だ?」
「いや、漫画家とか、作家とか、ゲーマーとか、そういう類が入会してくれれば、ここはつぶすわけにはいかないと思いませんか?」
「なるほど、有名人でもいれば来年からの生徒は集まりそうだし、大学にとっては利益になるか」
「そうです、ちなみにもちろん、俺はなんもできないですよ、ただの田舎の芋野郎ですから」
そう、俺が特殊能力でも持っていれば今頃こんなところにいない、だが目の前にいる霧ヶ峰先輩なら、そのミステリアスな風貌からして、ただものではないことは間違いないはず。そう思い熱視線を送っていると、先輩は視線に気づいておどおどし始めた。
「な、なんだその目は」
「先輩は、なんか特技とかないんですか?」
「あったら、こんなに暇してないっ」
「そうですか・・・・・・なんだか文豪みたいな感じしたんすけどね」
「残念そうな声を出すな、にわかだもの仕方ないだろう、にわかだもの」
「そうなったらこのサークルを存続させるにはそういった超高校、いや超大学級の人がきてくれないと」
「球児か人狼ゲームのキャラクターでも連れて来いってのか?」
「いや、そこまで入ってませんけど無理ですかね?」
「無理だ」
しょうもなくも重要なことを考えていると、突如として扉が開かれる音が聞こえてきた。それはゆっくりと開き、そこから現れたのは必死に扉を開ける宮本先輩だった。
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