93 / 125
第八十六話
しおりを挟む
「なんだか最近、みんなの様子がおかしいんだ」
俺の質問に答えるように、優希はゆっくりと喋り始める。
「今までは普通に遊んでくれたのに、和也くんが急に『お前とはもう一緒に遊ばない』って言いだして……」
「その和也君ってのは、いじめっ子なのか?」
「ううん。みんなのリーダーみたいな子で、優しくていい子だよ。でも、なんだか最近ちょっと冷たいんだ」
どうやらその和也君とやらの鶴の一声で、優希はみんなから仲間外れにされてしまったらしい。
「みんな、ボクのことを嫌いになっちゃったのかな? だから、もうボクと遊んでくれないのかな?」
「そんなことないって。きっと、なにか理由があるんだよ」
今にも泣き出しそうな優希の頭を撫でて励ますと、まるで捨てられた子犬のような目で俺の顔を見つめてくる。
「ホント?」
「うん、たぶんね」
力強く頷くと、優希の表情もいくらか明るいものになっていった。
それでも、やっぱり少し悲しそうな雰囲気は残っているけれど。
「よしっ。それじゃあ、今日は俺と遊ぼう!」
「えっ!? 良いの?」
「あぁ。どうせ暇だったし、もし優希が嫌じゃなかったらだけど」
どうかな、と尋ねるように笑いかけると、優希の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「嫌なわけないよっ。じゃあ、なにして遊ぶっ?」
さっきまでの悲しそうな雰囲気は何処へやら、すっかり元気を取り戻した優希はスックと立ち上がると俺に詰め寄ってくる。
「えっと、優希のやりたい遊びで良いよ」
その勢いに思わずのけぞりながら、俺はそれだけ答えた。
小学生と遊ぶなんて久しぶりだから、今どきの子になにが流行ってるか分からないし。
「なら、サッカーしよっ!」
言うが早いか、優希は足元に置いていたサッカーボールを手に取って広場へと駆けていく。
「おにいさんっ、早く早くっ!」
「いま行くよ」
その変わり身の早さに少しだけ苦笑を浮かべながら、俺も優希に続くように広場へと向かう。
「それっ!」
「うわっ!? やったなっ」
俺が広場に辿り着く前にフライング気味に蹴り出されたサッカーボールを受け止めると、俺はそれを優希へと蹴り返す。
そうやってしばらくボールを蹴り合いながら、徐々に元の活発さを取り戻していく優希を見ながらホッと安心する。
こうやって今だけでも寂しさを忘れてくれるなら、俺の役割もたいしたもんだ。
なんて一人納得していると、なんだか段々と雲行きが怪しくなってきた。
「なんだか雨が降りそうだな」
そう思って空を見上げた瞬間、俺の顔に雨粒が当たる。
それは一気に勢いを増していき、俺たちは雨宿りをする暇もなく大粒の雨に晒されてしまった。
「わわっ、降ってきた。どうしよう、お兄さん」
「とりあえず雨宿りしよう」
俺の元まで駆け寄ってきた優希の手を引いて、俺たちは屋根のある場所まで走る。
「ほらっ、急いで」
「お兄さん、走るの早いよ!」
そんなことを言い合いながら屋根の下に辿り着いた頃には、二人とも全身びしょ濡れになっていた。
俺の質問に答えるように、優希はゆっくりと喋り始める。
「今までは普通に遊んでくれたのに、和也くんが急に『お前とはもう一緒に遊ばない』って言いだして……」
「その和也君ってのは、いじめっ子なのか?」
「ううん。みんなのリーダーみたいな子で、優しくていい子だよ。でも、なんだか最近ちょっと冷たいんだ」
どうやらその和也君とやらの鶴の一声で、優希はみんなから仲間外れにされてしまったらしい。
「みんな、ボクのことを嫌いになっちゃったのかな? だから、もうボクと遊んでくれないのかな?」
「そんなことないって。きっと、なにか理由があるんだよ」
今にも泣き出しそうな優希の頭を撫でて励ますと、まるで捨てられた子犬のような目で俺の顔を見つめてくる。
「ホント?」
「うん、たぶんね」
力強く頷くと、優希の表情もいくらか明るいものになっていった。
それでも、やっぱり少し悲しそうな雰囲気は残っているけれど。
「よしっ。それじゃあ、今日は俺と遊ぼう!」
「えっ!? 良いの?」
「あぁ。どうせ暇だったし、もし優希が嫌じゃなかったらだけど」
どうかな、と尋ねるように笑いかけると、優希の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「嫌なわけないよっ。じゃあ、なにして遊ぶっ?」
さっきまでの悲しそうな雰囲気は何処へやら、すっかり元気を取り戻した優希はスックと立ち上がると俺に詰め寄ってくる。
「えっと、優希のやりたい遊びで良いよ」
その勢いに思わずのけぞりながら、俺はそれだけ答えた。
小学生と遊ぶなんて久しぶりだから、今どきの子になにが流行ってるか分からないし。
「なら、サッカーしよっ!」
言うが早いか、優希は足元に置いていたサッカーボールを手に取って広場へと駆けていく。
「おにいさんっ、早く早くっ!」
「いま行くよ」
その変わり身の早さに少しだけ苦笑を浮かべながら、俺も優希に続くように広場へと向かう。
「それっ!」
「うわっ!? やったなっ」
俺が広場に辿り着く前にフライング気味に蹴り出されたサッカーボールを受け止めると、俺はそれを優希へと蹴り返す。
そうやってしばらくボールを蹴り合いながら、徐々に元の活発さを取り戻していく優希を見ながらホッと安心する。
こうやって今だけでも寂しさを忘れてくれるなら、俺の役割もたいしたもんだ。
なんて一人納得していると、なんだか段々と雲行きが怪しくなってきた。
「なんだか雨が降りそうだな」
そう思って空を見上げた瞬間、俺の顔に雨粒が当たる。
それは一気に勢いを増していき、俺たちは雨宿りをする暇もなく大粒の雨に晒されてしまった。
「わわっ、降ってきた。どうしよう、お兄さん」
「とりあえず雨宿りしよう」
俺の元まで駆け寄ってきた優希の手を引いて、俺たちは屋根のある場所まで走る。
「ほらっ、急いで」
「お兄さん、走るの早いよ!」
そんなことを言い合いながら屋根の下に辿り着いた頃には、二人とも全身びしょ濡れになっていた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる