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第六十九話

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 噴水に落ちた事で人目を集めてしまったので、杏里ちゃんを抱えてさっさとその場を去る。

 運良く人の気配のない場所を見つけた俺は、近くにあったベンチに杏里ちゃんを寝かせた。

 その横に座って杏里ちゃんの頭を膝の上に乗せると、やっと俺は一息つくことができた。

「ふぅ、危なかったな」

 あと少しあの場に留まっていたら、もしかしたら不審者扱いをされていたかもしれない。

 そうなると、かなり困るからな。

 辺りを警戒しながらもリラックスをしていると、やがて杏里ちゃんがゆっくりと目を開けた。

「ん……、ふぁ…」

 寝ぼけたような瞳は少し焦点が定まっていなかったけど、すぐに俺と目があった。

「あ、お兄さん……」

「起きた? ごめんね、やり過ぎちゃった」

 そんなことを言いながら杏里ちゃんの頭を撫でていると、やがて意識がはっきりとし始めたのかその頬が赤く染まっていく。



「あの、その……。くしゅんっ」

 なにかを言おうとしている様子の杏里ちゃんだったけど、その前にくしゃみをしてしまった。

 そう言えば、杏里ちゃんの服は濡れたままだ。

「そのままじゃ風邪を引いちゃうし、とりあえず車に戻ろうか」

「うぅ、はい……」

 杏里ちゃんを促して俺たちは車に向かって歩き始める。

 その途中も、杏里ちゃんは服が冷たいのか時々歩きにくそうにしている。

 まぁ、仕方ないよな。

 ともかく車までたどり着いた俺たちは、とりあえず後部座席に乗り込んだ。

「えっと、着替えなんてあったかな?」

 色々と乗せっ放しにしているとはいえ、女の子用の服なんて流石にないだろうし……。

「あの、お兄さん……」

「え? ああ、ごめん。服を探してみるから、とりあえず脱いでおいて」

 放置していた杏里ちゃんに話しかけられて、とりあえずそう言っておく。



 そのままにしておいたら、たぶん風邪を引いてしまうだろうし。

「ここで、ですか? ……はい。分かりました」

 戸惑っているような感じの杏里ちゃんだったけど、すぐに頷いてゆっくりと服を脱ぎ始める。

 そう言えば、車の中で服を脱ぐのは女の子的には恥ずかしいだろうな。

 まぁ、もう脱ぎ始めてるし大丈夫だろう。

 そんなことよりも、まずは着替えを探さないと。

 背後に衣擦れの音を聞きながら、俺は色々な荷物をひっくり返していく。



 もう使わないような物、ゴミ、そして何なのか分からないような物。

 その中に、サイズの大きい一枚のTシャツを見つけた。

 そう言えば、デザインが気に入って買ったけどサイズが合わなかったんだっけ。

 そのシャツを広げて見ていると、俺の頭にとある閃きが訪れた。

 ……これは、使えるかもしれない。

 そっと杏里ちゃんの身体に合わせて見ても、ちょうど良いサイズだ。

 ニヤリと一度妖しく笑うと、俺は杏里ちゃんの方を振り向いた。



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